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おまけ

サースティー・ギアンの最後の願いの日(◎ミューラーside)

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◎ミューラーside



 神なんて概念を作ったのはそもそも人だ。
 例え人がそう言う概念に近いものがあったとしても、そのものが存在することはない。

 その概念には、意思があるわけでも、人と話せる訳でもない。
 だから僕らが存在する。人が神と呼ぶ概念と、人とを繋ぐ、言葉通じる者が。

 僕らは初めから、人に近く創られている。
 言語を感情を、その意味を、なんとなくは理解が出来る。

 叶えたのはミュトラスの力ではあったけれど、僕らの存在を創ったのは、人の願いだった。
 そう僕らは、人が生まれる以前には存在はしていなかった。

 人が、神を作り、そうして神の使いを創った。

 ミュトラスの力は、本来望む者に行きわたるはずのもの。
 だが、人の身体は既に、原始の力の源と遠く離れ過ぎていた。
 その為に、繋ぐ者が必要不可欠だったのだ。
 人が願い、そうしてミュトラスの力と響き合う時、同質の力を受け渡しする手段が。


-------

「ミューラーは玉子サンド食べてもらえると思う?」
『僕に聞かれても』

 サリーナ・リタ。本名を成田砂里と言う彼女は、変わった人だった。
 僕が神の使いと聞いても、少しも恐れることもなく、親しみのある言葉をかけて来る。

 鼻歌を歌いながら、作っているのはサースティー・ギアンの夕食なのだろう。

 そう、かつて魔王だった彼に会うために世界を越えることを願った、ただ一人の人。
 二人が出会った時に何が起こるのだろうかと見守っていたけれど、彼女はずっと絵を描いているだけだった。

『願い事ないの?』
「はっ!……サース様の魔王堕ちエンド回避をお願いします!」
『僕でも、運命を変えるまでのことは出来ないよ』

 そうか、一応絵を描くこと以外のことも考えているのか、と思う。

「……じゃあなにもないです」
『……』

 彼女はきっとまだ分かっていないのだろうと思っていた。
 神の使いの僕の存在のことも、願いで叶えられることがどれほど自分の生活と運命を変えていくのかということも。


-------

「俺の手元に残っている願いを譲渡することが出来るか?」

 久しぶりにサースティー・ギアンに呼び出され、そう言われる。
 かつて魔王だった存在は、既に彼の中に溶けている。
 サリーナが彼に出会ってから、もう10年が過ぎているはずだ。

 呼び出されたのは、二人の家の、寝室。
 ベッドの上には小さな子供が二人寝ている。
 サースティー・ギアンは真剣な表情で空を見上げていた。

『出来るよ』
「そうか。なら、子供たちに均等に譲渡して欲しい」
『……』

 僕は、彼もきっと分かっていないのだろうと思っていた。
 願いで叶えられることの範囲も、それがどんなに、自分を苦しめた世界を楽に生きられる手段になりえるのかと言うことも。

「もう数はほとんど残っていない。この子達が、将来、どちらの世界を選んでも生きていけるように。そのための手段として生かして欲しいと思っている」
『じゃあ譲渡されてる旨とその意思を来るべき時が来たら伝えよう』

 サースティー・ギアンは、おやと言うように片眉を上げる。

「珍しいな。そんな融通が効くとは」
『長い付き合いだしね』

 僕は人の願いによってミュトラスの力で創られた、人でも神でもない者。

 だけど、そんな僕をまるで恐れず、普通の人のように話しかける人が二人いた。
 サリーナ・リタ、そしてその願いを譲渡した、かつての魔王サースティー・ギアン。
 今はもう、二人とも違う名前を名乗っているようだけれど。

 二人は最後まで一度も、自らの欲望の為に願いの力を使うことが無かった。

「これが……俺の最後の願いだ」
『お別れだね、サースティー・ギアン』
「ああ。世話になったな……」

 サリーナとの別れの後も、どうしてだか僕は彼女の様子をたまに見に行った。
 もしかしたら、サースティー・ギアンとのこの別れの後にも、二人の暮らしを見守ってしまうのかもしれない。もう二度と話せることはないけれど。

「子供たちを宜しく頼む」
『ああ。了解したよ』

 そうか。
 今は小さなこの「人」が大きくなった時に、また会えるのかもしれない、と思う。
 僕を恐れず遠慮なく話しかける、彼らのような「人」に。

 僕は人が神と言う存在でもないし、人でもないけれど。
 それでも、人に創られた存在である僕は。

 彼らと繋がれることが、とても楽しいと思う。




(そうして小さな子供が成長し、願いの力を初めて使ったのは、その子がかつてのサリーナと同じ……16歳になった時だった)

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