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しおりを挟む「随分と久しぶりね、二人とも」
王宮のサロンに通された私とメリッサ様を立たせたまま、王妃は私達に話し掛けます。
普通は席に座らせて、お茶を出してから話をするのですが、マウントを取ったつもりなのでしょうか?
悪手ですわね。
自分がお願いをする立場だと解っていないのですね。
私達は無言で顔を見合わせた後、前に向き直りカーテシーをします。
王妃から許可が出る前に顔を上げ、踵を返してサロンの出口へ向かいます。
私だけなら出来ない暴挙ですが、メリッサ様が一緒ですので大丈夫ですわね。
これは本来「礼儀のなっていない人と同じテーブルには着きたくない」と言う、上の者が下の者へ行う行動です。
顔を見せたのだから義理は果たしたでしょう?と言う意味なのです。
もし、王妃が失礼な態度で接してきたら、カーテシーをして帰りましょう、と王宮へ向かう馬車の中で決めた事でした。
あまりにも予想通りで、かえって吃驚いたしましたわ。
「ま、待って!何で帰るの?」
自分の行動を棚に上げて、王妃が声を荒らげます。
「あら、茶器も用意されておりませんし、もてなす気が無いと理解いたしましたのよ」
メリッサ様の言葉にテーブルの上を見ると、確かに王妃の分しかカップがありませんでした。
ティーポットは有るのにカップが無いので、用意させているという言い訳は通用しません。
王妃が悔しそうに口を噤みます。
ここまで馬鹿でしたかしら?
呼び付けておいて、もてなす準備もしないなど言語道断です。
今の王宮はどうなっているのでしょう?
誰も諫めないのでしょうか?
そしてこの王妃に教育されているのが、あのフローラなのですね。
納得です。
「では、失礼しますわね」
扉の方へあるき出そうとする私達に、王妃がまた叫びます。
「アンシェリー!側妃の面倒を見るのは王妃の仕事です!フローラは側妃です!」
思わず顔が緩んでしまいました。
これは、想定以上にこちらに有利な台詞です。
フローラは側妃候補ではありますが、公式には認められておりません。
王族が勝手に言っているだけなのです。
正式な婚約者の私とは、全然立場が違うのです。
「フローラを守りなさい!これは命令です!」
そうですか、命令ですか。
王妃はフローラの肩を持つと、メリッサ様の前で宣言したのです。
「解りました。フローラ様を守るには、王太子妃にするのが1番ですわ。では、私との婚約は破棄という事で宜しいですわね?」
絶句と言うのが相応しい顔で王妃がこちらを見ます。
「そうですわね。あのフローラ様を守るには、それ以外に方法は無いですわね」
メリッサ様も私の提案に同意してくださいます。
「王妃様、選んでくださいませ。私を王太子妃とするのか、フローラ様を王太子妃とするのかを」
ここでフローラを選ばれると計画が変わってしまうのですが、さすがにそこまで馬鹿ではないでしょう。
「私を選んだ場合、今後一切私への干渉はなさらないでくださいね」
私は心からの笑顔を王妃に向けた。
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