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14:卒業式
しおりを挟む卒業式当日。
学生としていられる最後の日。
フーリーはとうとう一度も、アメリアと一緒に登校しなかった。
最後までミアと登校し、ミアをエスコートした。
アメリアは、これまで通り兄のロバーツにエスコートされ、登校した。
馬車の中で「2年間、アメリアと過ごす時間を持てて、とても嬉しかった」とロバーツは笑顔を向ける。
「はい。私もとても楽しかったです」
少しだけ、本当に少しだけだが、アメリアもロバーツに本当の笑顔を見せていた。
馬車の中という密閉空間で、いつも同じ護衛と侍女しか居ない。
それに兄ロバーツだけは、他の人間と違い何でもない他愛無い事を話してきた。
王妃に必要な知識ではない、聞いても聞かなくても何も変わらない話。
「庭に子猫が居た」「友人が婚約者にべた惚れだ」「雨上がりの虹が綺麗だった」
どれもくだらなかったが、表情豊かに話すロバーツに釣られ、アメリアも楽しい気分になっていた。
もっとも、通学の時間を楽しいと感じていたのだと自覚したのは、明日からはもう兄と馬車を利用する事が無いのだと、悲しいと感じている自分を自覚した時だった。
あぁ、あれが「楽しい」という事で、これが「悲しい」という感情なのか、と。
卒業式の挨拶は、今回は最初から第二王子アルフィーに依頼されていた。
依頼されてもいないのに、王宮の文官に挨拶文を考えさせていた第一王子フーリーは怒り狂った。
しかし「入学式と卒業式は、同じ生徒がするのがしきたりです」と校長に説明され、「それを変えるなら王に許可を」とまで言われてやっと諦めた。
勿論、嘘である。
入学式と同じように完璧な挨拶をしたアルフィーは、式が終わってからアメリアへ挨拶に来た。
「明日は迎えに行きますが、大丈夫ですか?」
「はい。宜しくお願いいたします」
いつもの笑顔でアメリアは返答した。
ロバーツがアメリアを迎えに来た。
最後の通学馬車の為に。
「アルフィー殿下、2年間ありがとうございました」
ロバーツがアルフィーに臣下の礼をする。
「パーソン伯爵、公式の場では無いのだから、楽にしてくれ。それに正確には1年と10ヶ月だけどね。兄妹の交流は出来たかい?」
「はい」
返事をしたのはアメリアだった。
初めて見るアメリアの感情のこもった笑顔に、アルフィーは心底驚いたが、表情には出さなかった。
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