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25:疚しい者は聞いてない事も語る

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「聞きました?平民の住む住宅街で、死体が見つかったのですって」
「あら、別に珍しくないでしょう?」
「それが平民街でも、高級住宅地なのですって」

 教室で、護衛の抱いた籠の中で、『リズ』は生徒達の噂話を聞いていた。
 今は選択授業で、シャーロットは他の教科を受けに違う教室へ行っている。
 今居る籠は、あくまでもセザールのお弁当の籠で、彼の護衛が抱えているのである。
 『リズ』はこっそりと籠の蓋を持ち上げ、黒い鼻先を出す。
 護衛はそれに気が付き、そっとセザールに近付いた。

「どうした?」
 セザールが護衛に問うと、護衛は視線を下に落とす。
 籠が少し持ち上がり、黒い鼻先が見えている。
「僕に早弁しろと……」
 セザールは苦笑しながら席を立った。


「どうしたの?リズ」
 王族専用サロンで籠の蓋を開けたセザールは、中の黒猫『リズ』へ話し掛ける。
「平民街で見つかった遺体、ドリーの母親ですよね?そして、犯人はドリーですよね?」
 矢継ぎ早な質問に、苦笑しながらもセザールは頷く。
「母親と言っても実の母では無く犯罪者だし、特に捜査もされないだろうな」


 平民街の高級住宅地で見つかった遺体は、庭に丁寧に埋葬されていたそうだ。
 墓石こそ無いが、大量の花が手向けてあったらしい。
 そこでおかしいと思い、家主……ドリーの母親を囲っていた豪商が調べさせ、死体が見つかったのだ。

「私が伯爵家に呼ばれて行っている間に、母は強盗に襲われて亡くなっていました。このままでは犯罪者として、大穴へ捨てられるだけです。なので庭に埋めて、弔って行こうと……すみません。私が伯爵家へ住む事になるなんて思ってなかったんです」
 事情を聞きに来た街の衛兵に、ハラハラと涙を流しながらドリーは説明した、らしい。


「花は新しい物と古い物が混じっていて、その話の信憑性が高いと、本当だと信じたそうだよ」
 馬鹿だよね、とセザールは続ける。
「庭はそれほどでもないけど、屋敷は結構広いらしい。瑕疵かし物件になって、家主は大変だよね」
 殺人の有った家。しかも犯罪者が住んでいた。
 更に高級住宅地での強盗事件。
 絶対に売れないだろうし、無料タダでも住みたくない。

「ドリーは、本当に伯爵夫妻の子供なのかしら?」
 思わず『リズ』が呟く。
 漫画では、普通に庶子だった。
 母親も生きていたし、愛人ではなく豪商の後妻に入っていたはず。
 それで可愛がられて育ち、天真爛漫なのだった。

「そうは言っても、今更調べようが無いし、伯爵夫妻が実子だと認めているし、メイドは亡くなっているからね」
 セザールが残念そうに、溜め息と共に言葉を吐き出す。
「そうか。ここでは親子鑑定なんて無いもんね」
 『リズ』も残念そうに呟いた。


 そして数日後。
 事件は意外な方向へと転換する。
 家主である豪商が殺人の犯人として拘束されたのだ。
 きっかけは、ドリーの「鍵は閉まっていたし、室内は荒らされていなかった」と言う証言だった。

 態々わざわざ衛兵の詰所まで「そういえば今更ですけど、ちょっとおかしいと思いまして」と言いに来たそうだ。
 伯爵家の馬車で乗り付け、自分を誘拐した犯罪者だったが、今まで育てて貰った恩がある、涙ながらに犯人逮捕を訴えたらしい。

 可哀想な伯爵令嬢。
 平民育ちで常識が無く王子達を怒らせたが、心根は優しい少女じゃないか。
 ドリーの株が少しずつ上がっていた。


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