863 / 1,278
第六章 【二つの世界】
6-90 ルーシー・セイラム11
しおりを挟む「どうすんの、ハルナ?」
「”どうすんの”って、私に言われても……」
ハルナは先に聞きたかったことを、サヤに取れられて戸惑いを見せる。
だが、先に投げかけられたことによってこの決定権とその責任はいま、ハルナの方にある。
「ルーシーさん、分かりました。お城の中で、国宝級な品を隠しているような場所はどこかありませんか?剣とか、盾とか」
「そのようなものは、聞いたことがございません……ですが、あるとすれば王の部屋にあるのではないかと思われます」
「あんた、さっき”案内する”って言ったけど、そこまで安全に行ける方法はあんの?」
「この部屋に、メイド用の衣服がございます。それに着替えれば、怪しまれずに城内を歩くことができます」
「かといって、アンタとメイドが一緒に歩いてるのは普通なの?それ自体怪しまれたりしない!?」
ハルナは、サヤの意見ももっともだと感じた。
ハルナが知る城内の状況でも、地位のある人物とメイドが一緒に歩いている姿は見たことがなかった。
あるとすれば直属の部下であり、ルーシーだとすれば部下の精霊使いのほうが一緒に並んで歩いても、怪しまれることはないだろう。
しかし、ハルナたちが精霊使い姿に扮したとしても、この城内ではその特別な役職で知らない者はいない。
そのため、すぐにそのことはバレてしまうに違いない……だからこそ入れ替わりの多いメイド姿の方が怪しまれる確率は少ないと判断した。
「じゃあ、ちょっと離れて追いかけていくけばいいか」
そう考えた上でのハルナの言葉で、これからの二人の行動が決まった。
ハルナとサヤはルーシーが用意したメイドの服に着替え、鏡でその姿を確認する。
「ねぇ……似合う?似合ってない……これ!?」
サヤは初めて着用した衣服の姿に、驚きながらも喜びと戸惑いが混じった声でハルナに確認する。
だがその姿は、ハルナが見ても十分に似合っていた、これほどサヤにメイド服がに合うとは思ってはいなかった。
この姿で給仕する有料サービスの飲食店があれば、きっと上位のランキングに居座り続ける”名物メイド”になっていたに違いない……と。
「すっごい似合ってる……お世辞じゃなくって、割と本気で……可愛いよ、サヤちゃん!」
ハルナの思いがけない言葉に、サヤは耳を真っ赤に染める。
「ばッ!……で、でもさ。何で、こんな服……あんたがもってんのさ?ルーシー」
「……え?」
サヤの似合っている姿に見とれていたが、その本人からの質問で夢の世界から正気を取り戻した。
「あ、あの……そ、それは……ですね……そ、そう!こういう時のために、用意してたんです!?決して趣味などでは……」
サヤの質問に対し焦りを見せるルーシーの姿を見て、”こういう時”がどういう時なんだ?という疑問が二人の頭に浮かんだ。
だが、その焦る姿を見て、これ以上は追及しない方がやさしさだと感じ、さすがのサヤもこれ以上ルーシーがメイドの衣装を持っていることについては追及しないことにした。
――ドンドン!
そして再び、ルーシーの部屋の扉に力強く打ち付ける音が鳴り響く。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
370
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる