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第六章 【二つの世界】
6-234 悪い気持ち
しおりを挟む「……そうなんですね」
「ご……ごめんなさい」
マーホンの冷たい、感情のこもっていない言葉に、ハルナは思わず誤ってしまっていた。
決して自分は悪くない……はずだが、もう一人の自分がやったこととはいえ、ハルナの教育を熱心に行ってくれていたことは知っている。
今回ステイビルの口から語られたことは、それらの時間を全て無に帰すような内容だった。
当然、ハルナとステイビルは叱られても仕方がないことだと思っていた。
だからこそハルナは、ステイビルの話しを聞き終えて、マーホンが口にした言葉に対し素直に詫びたのだった。
「私からもお詫びをしよう。今まで黙っててすまない……エレーナ、マーホン」
ステイビルはエレーナの顔をみる、エレーナはその事実を知った上でも、不快に思っている様子はない。
マーホンに目線を変えると、眉間に皺を深く刻んでいるのが見える。
ステイビルは、マーホンがかなり怒りの感情と格闘しているのだと感じていた。
「マーホンよ……何か言いたいことがあるならば、遠慮なく頼む。そうでなければ、私も悪い気持ちが消化されない。どうか……頼む」
「そうですか……では遠慮なく。」
ステイビルは突然の反応に驚いた。
そのお願いに対応したのは、マーホンではなく何の表情を見せていないエレーナの方だった。
そこから、声を荒げることもなく淡々とステイビルの対応の批判でかなりの時間が過ぎていった。
その言葉のひとつひとつが、ステイビルの心に次々と深く突き刺さっていく。
今まで自分の行動にここまで批判をされたことがないステイビルの表情はは、近くにいるハルナとマーホンでさえ可哀想になってくるほどだった。
ハルナは一度だけ、エレーナの言葉を止めようとしたが、その行動はマーホンに止められてしまった。
後から聞けば、こんな重要な内容を信頼し合った仲間に相談せず、隠していることに対しての怒りだという。そのことは、ハルナにも理解できた。信頼している仲間に、相談もせずに秘密にしておかれる寂しさについては、きっといまのエレーナと同じ気持ちを抱いていただろう。
エレーナも、自分が抱いていた不快な思いを全て話しスッキリしたのだろう。
徐々に感情が収まって、並べ立てる言葉の数も次第に少なくなり、最後の方には空白の時間も生まれ始め、ステイビルがそのような判断をした理解の言葉も出していたいた。
エレーナは一度目の前に置かれた紅茶を手にして、しゃべり過ぎてカラカラに乾いた喉に潤いを与える。
そして、飲み物を飲み干すために止めていた息をため息のように吐き、ステイビルの顔を改めて見た。
「……それで、これからどうするおつもりなのですか?」
「ど、ど、どうする……とは?」
「そんなに怯えないでください……もう、その話は終わりです。」
ハルナは『それは無理でしょ!?』と心の中で思うが、余計な火種が飛んでこないように黙っておいた。
「もちろん、決まっていますでしょ?……全てですよ、全部です」
エレーナが言う”全部”とは、ハルナのこと、ニーナのこと、キャスメルとのことだった。
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