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第六章 【二つの世界】
6-311 ハルナがいなくなった日4
しおりを挟むいまサヤが告げたことの内容が、この場にいる者たちはすぐには理解できていなかった。
エレーナはハルナを送り出す前に、隠し部屋の中で盾の創造者がハルナの手に持たせた小鳥の話を思い出す。
あの事実を考えると、盾の創造者がこの世界の生き物を自由自在にできるということは、疑うことのできない事実だった。しかし、その盾の創造者が一体どのような理由でハルナのことをさらっていったのかも理解ができていない。
それに、神である存在が人の身体を乗っ取ることができてしまうことが、この場にいる者たち全員が理解できない現象だった。
「……ま、まさか。そんなこと」
「わかるよ、エレーナ。アンタの言いたいこともさ……だけど、本当のことなんだよね。いろんな意味で信じられないだろうけどさ」
サヤの情報が嘘である可能性もある。だが、ハルナがいなくなったタイミングで、こんな大袈裟な嘘を言うことになんの意味があるだろうかともエレーナは考える。
こちらを混乱させる意味も考えたが、サヤの態度は真剣なものではなく、ひょうひょうとした態度をとり続けていることがそう思わせている。
そこから更に”ハルナがいなくなったのはサヤのせいだ”という疑いもあるが、もしもあのハルナがなんらかの方法で消されてしまったのであれば、ここにいるメンバーではどうあがいてもサヤを相手に勝ち残れるはずもない。
(……くっ、どうすれば!?)
エレーナは、杖を握る手に力が入り、その内側にはありえない程の汗が滲む。
エレーナは一か八か、目の前のサヤに奇襲を仕掛けようと考える。
もしも失敗すれば、この部屋にいる者たちの命はないだろうが、少しでも傷つけることができれば、自分を追ってアルベルトも攻撃に加わってくれるだろうと信じている。
(みんな……ごめん!)
エレーナはサヤに気付かれないように、静かに身体の中にある元素をある一点に集めて高濃度へと変えていく。
本当ならば、この周囲にある元素も取り込みたいところだが、サヤにも不思議な力があり元素の流れを読まれてしまっては奇襲の意味がなくなってしまう。
そのため、エレーナは自分自身の体内に持つ元素だけを使って行うことを決めた。
背中に流れ落ちる汗を感じながら、エレーナは濃縮する作業とこの気配が感じ取られていないことを探る。
幸いにして、目の前のサヤは先ほどと同じ表情のままで、後ろにいるステイビルやアルベルトも特に自分の異変を感じてはいない様子だった。
エレーナはタイミングを計り、サヤの呼吸と同調する。
準備はできており、これ以上時間は掛けられない。サヤの数回目の呼吸のタイミングで合わせ、次の呼気を待った。
(――やれる!!)
エレーナは尖った槍の氷の塊をイメージし、それを具現化しようとしたその時……
『……この者たちも、随分と落ち着いている様子だな』
「「――っ!?」」
その言葉遣いと雰囲気は、目の前にいた今までの女性とは全く異なる口調で言葉を発した。
『――我は、剣の創造者と呼ばれている。この世界を創りだした存在だ。今はこのサヤという者の身体を借りてお前たちに話しかけている』
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