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第六章 【二つの世界】
6-502 冬美
しおりを挟む『ハル姉ちゃん、もう一人紹介したいんだけど……』
「紹介?誰?」
そういうとフウカは、何もない空間へ手を向けた。
掌から光の粒が現れ、その先に元々あった形を作るように集まっていく。
「久しぶりね……陽菜ちゃん」
「え?その声……まさか!?」
光が収まっていくと、そこには懐かしく会いたいと思い続けていた存在が姿を現した。
「……冬美さん」
陽菜がその名を口にしようとした直前に、小夜が嫌そうな顔をしながらその名を口にした。
「そんな顔しなくていいのよ……小夜ちゃん。私は、あの日のこと、なんとも思ってないわよ?」
「……」
「だから、そんな顔しなくていいのよ。」
「冬美さん……あの日のことって?」
「いいんだよ!陽菜は知らなくても!!」
「ふふ……小夜ちゃん。別に構わないんじゃないの?陽菜ちゃんにも、助けてもらったでしょ?」
「それは……」
小夜は、これ以上は無駄だと諦めて目を閉じて黙った。
「あのね、陽菜ちゃん。私、陽菜ちゃんがあっちの世界に来る前に、小夜ちゃんと会ってたのよ。後からわかったんだけどね」
「え?」
「でも、あの時の私は、小夜ちゃんのことよくわかってなかったの。その時は、マギーさんのところでお世話になる前だったけど、あの時は既に記憶喪失になってのよ。」
記憶喪失の話しはマギーから聞いていて知っていたが、その前に小夜と接触があったことは初めて知った。
「小夜ちゃんは、私のことを何とかしようと、あの二人と一緒に手を尽くしてくれたんだけどダメだったんだよね。そして、運よくマギーさんの近くに置いてくれて助かったのよ」
「じゃあ、あのフェルノールさんは……」
「あれは、アタシがいれた意識だよ」
そういうと、小夜は自分が行ったことを陽菜に説明をした。
「冬美さんが亡くなった後、何とか生き返らせることができないかと思ってね……ほら、ヴァスティーユとヴェスティーユみたいに、意志を注ぎ込めば冬美さんが生き返るんじゃないかと思ったんだ。あの時は肉体さえあれば、記憶も引き継がれると思い込んでいたんだよ」
「でも、結局は別人となったわけよね?」
あの時、一緒に行動していたエレーナが、あまりにも状況が追い付いていない陽菜に変わって発言をする。
「そう……だね。言い方が悪いけど、”失敗”に終わったよ……だからせめて、アタシの監視下で面倒を見ようと考えたんだ。だけど、冬美さんがそのことを拒否しているかのように、フェルノールはアタシに逆らってたんだよね」
「あれは、逆らったんじゃないわよ?フェルノールさんは、自分の意思で行動したかっただけなのよ」
「――!」
「私、フェルノールさんの意識が入ってきてから、肉体からは離れていたけど意識は繋がっていたみたいなの。だから、フェルノールさんが悩んでいたことや、カステオさんが大切だったこともよくわかったわ」
「……そうだったんだ」
「フェルノールさんは、決して小夜ちゃんのことを恨んでたりしていたわけじゃないのよ。親離れっていうか、自分一人で生きていけることを試したかったのよ」
そのことを聞き、小夜の顔が少しだけ安心した顔つきに変わっていった。
「だから、小夜ちゃん。私も、小夜ちゃんが私のためを思ってしてくれていたことを知ってる……だから、気にしないでいいのよ」
その言葉を聞き、小夜は陽菜たちに背を向けて泣いた。
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