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第5章
チルに脳天気な人と思われていたっぽい事件
しおりを挟むアイダオ国へ潜入していた者達から必要な情報を全て集められたアーナンダ国は先日王国騎士団をアイダオ国へ進軍させた。
ヒュー様もヒル侯爵様も王国騎士団隊長、副長として戦地へ行かれている間チルを僕達の家で預かることになり、侯爵夫人ローゼン様はご実家へロザリア様を連れて一時的に戻られている。
万が一に備えての避難である。
そしてヒル家にはヒル家の騎士達とアーバスノイヤー家の警備隊数名が家を守っている。
警備隊の中には今回コルダも混ざっていて、復帰後、本職に戻る前の慣らし運転として参加している。
「ルナイス様…父上と兄上は大丈夫でしょうか」
「大丈夫だよ。ヒル侯爵様のことはあんまり詳しくないけれど、ヒュー様はにぃ様の次に強いし、剣だけで言えばにぃ様よりも凄いお人だもの」
談話室でお茶とお菓子を口にしながら久しぶりのチルとの会話を楽しむ僕。
だけど、チルは最初こそ僕との久しぶりの再会を喜んでくれていたがすぐにしょんぼりした顔になって、戦地に居る父と兄の身が心配という気持ちでいっぱいになってしまったらしい。
お二人が強いことは近くで見て来たチルが一番分かっているだろうが、やはり今回は他国へ行っての戦いで、物理的に距離が遠すぎる上に、念の為とは言え家を離れなければならない事態に不安が隠せないのだろう。
本当は侯爵夫人達と共に行ければチルの不安も少しは和らいだのかもしれないが、次期侯爵を失うわけにはいかないから夫人達とは離れてノヴァの結界が張られたこの家が一番安全と判断されたのだ。
以前刺客に僕に張っている結界を壊されてからノヴァの結界の力が強くなったので、どれ程の手練れの矢が放たれようとも一瞬で破壊されることはない。
余程あの時のことが堪えたらしいノヴァがその後ラプラス様の所に行って時間停止空間で修行を重ねたので、結界に張り巡らせれている魔力の練度はえげつないことになっている。
面白がったパンが一度ノヴァの結界に突っ込んででっかいたんこぶ作ってたくらいにはえげつない。
「…ルナイス様は護られるばかりで辛くありませんか?」
ぐっと奥歯を噛み締めて、何かを決意した顔をしたチルがそんな質問を僕に投げかけてきた。
ぶっと茶を噴き出しそうになったのをぐっと堪えて、僕は瞬時に頭を働かせる。
チルは僕がアーバスノイヤー家のお仕事をしていることを知らないし、僕が魔導具をちまちま弄ったりドラゴンと戯れている姿しか見ていない。
きっと侯爵様も夫人もヒュー様も僕の仕事とかやってることについて詳しくお話はされていないと思う。
だからチルからすると僕は好きなことをしてのほほんと生きていて、周りの人達に護られている超能天気なご令息に見えているのだということに先程の質問で気が付いた。
これはヒュー様に聞かれたら絶対揶揄われる案件だ。
しかしチルにアーバスノイヤー家のお仕事のことを言うわけにはいかない。
僕の周りの親しい人は大方知っているけれどチルはまだ幼く、そういう部分にはなるべく触れさせたくないのが年上心なのだ。
しかしこのままチルに能天気馬鹿に思われているのはいただけない…
きっと先程の質問をした理由はチルはいつも有事の際に1番安全な所へ行き、家族と引き離されてしまうことが悲しいからだろう。
ヒル家の人間にしてはチルは体の線が細く、お世辞にも騎士向きとは言えない。
その代わりと言ってはなんだが…チルはヒル家では珍しく体よりも頭を働かせることに長けている。
ヒュー様なんかはそんなチルのことをヒル家の奇跡と言っているのだけど、チルはこの事を知らないのだろう。
だから代々屈強な騎士を輩出してきた家の子供でありながら護られる立場にいる自分を異質に感じているのだろう。
僕も小さい時は自分がとーさまやにぃ様と違ってよわよわなの実は凄く気にしてたもん。
だけど、後々僕は他者を何の躊躇もなく排除できる質の人間であり、騎士とは違った戦い方ができるということを知り今に至る。
「チル…大切な人を護る方法は剣を握る事だけじゃないんだよ」
「え?違うのですか?」
「例えば、ヒュー様が社交の場で嫌味を言われていたとしよう。その時は言葉がヒュー様を護る武器になる。例えば領地が災害にあった時、そういう時には知識が家族や領民を護る武器になる。分かるかな?」
「なるほど…僕兄上や父上のように剣を握って戦うことだけが大切な人達を護れる手段であると思ってました!そうじゃないのですね。今僕が学んでいることも誰かを護る武器になりえるのですね!」
目をキラキラさせて新しい世界が見えた!と言わんばかりに興奮しているチルにそうそうと頷きながらも、僕が12歳の時ってこんなちゃんとしてたっけ…と何だか切ない気持ちになっている僕。
何やら悟りを開いたらしいチルは僕は僕だけの武器を鍛えます!と宣言し、部屋に篭ってすごく勉強を頑張り始めてしまった。
これ…まぁ…勉強するのは悪いことじゃないしね…いいでしょう。
____________
今年もあと少しですね
ご愛読くださっている皆様には本当に感謝しかありません。
読んでくださる方がいるからここまで物語を紡ぐことができました。
今年中には無理でしたが、来年にはこの物語を完結させたいと思います!
年末年始は更新が不定期となるかと思いますが…今後ともよろしくお願いします!
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