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Lv.1 爆誕いたしました。
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もし目の前に将来、病むほどの愛を愛情を他人に向け破滅的行動の果てに人生転落する可能性がある少年がいるとするとどうしたらいいのか。
…私は25歳で死んだはずだった。死因は交通事故だった。だけど目をさますと赤ちゃんになっていた。
これが前世の記憶持ちということか…と思っていて赤ん坊ライフを楽しんだ。新しいお母さんもお父さんも善良で愛情深い人で安心した。
「志寿緒ちゃんはいい子でちゅね~」
しかも現代日本のようで嬉しい。子ども時代はちょっとチートできるかもしれない。神童になってしまうかもしれない。
わくわくしたのも束の間、ここが単純に私が前に生きていた世界では決してないと後に思い知る。
一般的に物心つくかつかないかの頃、私は豪奢なお屋敷に連れてこられた。
両親は私を色んな人に見せて回り、最後に私と同じくらいの年齢の男の子の前に抱っこして掲げられた。
「幸紀様、これが垣内の長女・志寿緒でございます」
幼児に恭しい態度を取っている大の大人であるお父さんが奇妙だった。
「ほら志寿緒。古賀寧家の御三男、幸紀ゆきのり様だよ。大きくなったら大切に大切にお世話するんだよ~」
使用人らしき女の人に抱かれている、天使のようにかわいい顔の男児は何も分かっていなくてきょとんと瞬きをしていた。
ん…?古賀寧……?
なにか聞き覚えがある。どこだったか、多分前世だ。いやぁ、前世の記憶って断片的にしか覚えていない部分もあるんだたよなぁ。ふいにノイズが頭の中にかかる。
『愛してる愛してる愛してる…。きみが僕のものにならないなら、この手で殺してずっと側に飾ってあげる』
どう見てもイッちゃってる美男子がうっとり顔で愛を語る【見開き1コマ】が蘇る。コマってなんだ?
私はかなり重大なこの世の真理的なものに気付きかけて、帰宅してから数日の間高熱を出した。入院となった。
そして思い出した。
『極上⭐︎わたしの甘王子』という少女漫画を思い出した。
それは前世の私がよんでいた漫画だった。軽めのタイトルの割になかなか読ませるストーリーで、もう成人していたにも関わらず私はどハマりしていた。
学園モノで、庶民の身分でお金持ち子息子女が通う銘条学園に通う事になったおもしれー女が、学園のキングと名高いスーパーエリートに見染められるというストーリーだった。
そこに登場するのが、古賀寧 幸紀というキャラクターだった。
…いや、自分が好きだった漫画の話しているわけじゃない。私がなんか転生してしまった、この世界がその漫画の世界ではなかろうかと踏んでいるのだ。
確かに別に私の周りの人間はあの漫画の画風のようではない。普通に私が違和感を覚えない程度のリアルな人間だ。髪も染めてなければ日本人は黒いし、目だって黒い。
だけど地名や出てくる単語はあの漫画で出てくるおよそ私の知り得ないようなものだし、常識も微妙に私の知っているものと異なっている。
そんな事ってある…?いやそもそも私自身が前世の記憶があるし、そんなにわかに信じがたい事があってもおかしくないのでは。
そして、古賀寧 幸紀…。それはその極上⭐︎わたしの甘王子(略して極わた)という作品におけるヒーローでも所謂当て馬にもならなかった登場人物だった。学園のさらに上位階級メンバーでヒーローの幼なじみで、序盤から登場していたものの綺麗な外見に暗い人柄で、だんだん不穏な空気を醸し出していき、とんでもなくガチな病みと闇が露呈され、主人公を手に入れたいあまり強硬手段を取り監禁陵辱をしようとしだす。それをヒーローや当て馬達に阻止され、縁を切られていまう。影響力が凄まじいまさに学園のキングに敵認定されれば、学園にはいられない。古賀寧 幸紀は退学し、ヒーローである鳳城家に楯突いたとみなされる事を恐れた当主(兄達、両親)から捨てられ、転落し何もかも失い失意のままにもう絶対無理なのに再度主人公のもとに会いに行き、心中をもちかけ鳳城のボディガードに抑えつけられて当たりどころが悪くて死んでしまった。そういう登場人物だった。
それさぁ、メイン二人の愛を深めるためにこんなにねっとりと哀れなヤンデレを描き切る必要あった??人の心とか無いんか。私はヤンデレとか不憫なキャラが好きだから完全に彼に感情移入してしまっていた。
もう後半はラブイチャする二人に興味持てず、むしろ可哀想な古賀寧 幸紀の名誉挽回復活シーンを待っていたが、まさかこのまま終わらないだろうと思っていたが呆気なく死んでしまったからかなりショックだった。課金するから生き返らせて幸せにしてくれ!!というメッセージを作者のSNSに50件くらい送りつけたが、返信はこなかった。漫画の中でも特にそのあと触れられていなかった。
そのあと、極わたが実写映画化・ドラマ化した。爆発的な人気が出たが、古賀寧 幸紀はさらに製作陣の手で改悪され、彼は異常な暴走キモ迷惑男として悪いところばかりが強調されてしまっていた。ネットでも「害悪ヤンデレ」として評判が悪かった。推しがボロクソに貶されるのが悲しくて悲しくて仕方がなかった。
当時の私は界隈の流れを変えようと、必死に彼の良い部分を布教する2次創作を作って発信しまくった。とは言っても、彼の詳しい話や深い人柄はそこまで原作で明言されていなかったから、勝手に盛った。実は死んでなくてちゃんと幸せになるというifストーリーも考えた。最初は全然見られていなかったが、活動が年単位となると私の熱意が伝わったのか「古賀寧推しの人」として認知されるようになった。同志もいくらか増えたし、全力で布教して育てた。
…ただ、現実では当時付き合っていた彼氏には振られたが。放置していたから無理もない。
そんな最中、まさかの私が不慮の事故で死んでしまった。極わたの作者がSNSで改訂版を書くと発表したところだった。死んでも死にきれない。無念、無念だった…。
そしたら転生して、この世界。生身の古賀寧 幸紀がいるなんて…。
そんな事になる?なってるやろがい!!をまさに体現したような展開だった。
まだまだ自分の未来も人格も定まっていない古賀寧 幸紀の愛くるしい御顔を思い出す。
「ゆの、いさっ」
様子を見に来た両親に向かって手を伸ばす。伝えたいのに喋れない。もどかしい。
「志寿緒が初めて喋った!ママ!志寿緒がっ」
「ほんと!でもなんて言ってるの…?ママパパじゃないわよね?」
早く行かないと。彼のところに。早いうちから手を打っていれば、あんな悲惨な人生を送らせる事が出来るかもしれない。
ヤンデレではあっても、読者や登場人物に愛されるような人間にすることができる。いや、しよう。展開や未来を知ってる私が。
私は一歳半で自分の運命を自覚した。勝手に使命と信じてる。
退院して私は歩く練習を頑張った。まずはそこからだった。来る日も来る日も起き上がり掴み立ち上がり立って、それができるようになるとやっと辿々しく歩けた。
そして、その頃になると言葉ももう少し喋れるようになったので私は延々と「幸紀様」としきりに両親にせがんだ。まだ何をどうして欲しいまで言えなかった。しつこくそうすると根負けした育休中のお母さんが私を屋敷に連れて行ってくれて、幸紀様のご様子を見せてくれる。
「なんかパパママより、幸紀様ばっかり言うんですよ~」
周りに冗談ぽくお母さんが話していて驚かれていた。
体幹トレーニングを意識的にして頑張って少しでも自力で動けるようにしていたら、私の評判が聞こえたのか奥様(幸紀のお母上様)に彼の遊び相手に抜擢された。3歳の時の話だ。
古賀寧 幸紀はたまたま私の3ヶ月前に生まれただけの同い年の子どもだった。私は幼児を装って転げた風に幸紀様に抱きついた。
「~…ッ」
生身だ。生きている。推しが存在している。私は幸福を噛み締めた。良かったーー!私、この世界に転生してきて良かったぁああ!!このポジションに生誕できて良かった、神グッジョブ!
「??」
幸紀様は突然ふって湧いた私を前に困惑しているようだった。
慌てて幼児の振りをして誤魔化した。
「ゆいのいさま」
まだ完全には発音できない。
私が、私があなたを守りますから、あんな辛い目に合わせませんから、お側にいて暴走しそうになったら止めますから、あなたを幸せにするまで離れませんから。
そう、誓った。幸紀様からしたら余計なお世話かもしれないけれど。
…私は25歳で死んだはずだった。死因は交通事故だった。だけど目をさますと赤ちゃんになっていた。
これが前世の記憶持ちということか…と思っていて赤ん坊ライフを楽しんだ。新しいお母さんもお父さんも善良で愛情深い人で安心した。
「志寿緒ちゃんはいい子でちゅね~」
しかも現代日本のようで嬉しい。子ども時代はちょっとチートできるかもしれない。神童になってしまうかもしれない。
わくわくしたのも束の間、ここが単純に私が前に生きていた世界では決してないと後に思い知る。
一般的に物心つくかつかないかの頃、私は豪奢なお屋敷に連れてこられた。
両親は私を色んな人に見せて回り、最後に私と同じくらいの年齢の男の子の前に抱っこして掲げられた。
「幸紀様、これが垣内の長女・志寿緒でございます」
幼児に恭しい態度を取っている大の大人であるお父さんが奇妙だった。
「ほら志寿緒。古賀寧家の御三男、幸紀ゆきのり様だよ。大きくなったら大切に大切にお世話するんだよ~」
使用人らしき女の人に抱かれている、天使のようにかわいい顔の男児は何も分かっていなくてきょとんと瞬きをしていた。
ん…?古賀寧……?
なにか聞き覚えがある。どこだったか、多分前世だ。いやぁ、前世の記憶って断片的にしか覚えていない部分もあるんだたよなぁ。ふいにノイズが頭の中にかかる。
『愛してる愛してる愛してる…。きみが僕のものにならないなら、この手で殺してずっと側に飾ってあげる』
どう見てもイッちゃってる美男子がうっとり顔で愛を語る【見開き1コマ】が蘇る。コマってなんだ?
私はかなり重大なこの世の真理的なものに気付きかけて、帰宅してから数日の間高熱を出した。入院となった。
そして思い出した。
『極上⭐︎わたしの甘王子』という少女漫画を思い出した。
それは前世の私がよんでいた漫画だった。軽めのタイトルの割になかなか読ませるストーリーで、もう成人していたにも関わらず私はどハマりしていた。
学園モノで、庶民の身分でお金持ち子息子女が通う銘条学園に通う事になったおもしれー女が、学園のキングと名高いスーパーエリートに見染められるというストーリーだった。
そこに登場するのが、古賀寧 幸紀というキャラクターだった。
…いや、自分が好きだった漫画の話しているわけじゃない。私がなんか転生してしまった、この世界がその漫画の世界ではなかろうかと踏んでいるのだ。
確かに別に私の周りの人間はあの漫画の画風のようではない。普通に私が違和感を覚えない程度のリアルな人間だ。髪も染めてなければ日本人は黒いし、目だって黒い。
だけど地名や出てくる単語はあの漫画で出てくるおよそ私の知り得ないようなものだし、常識も微妙に私の知っているものと異なっている。
そんな事ってある…?いやそもそも私自身が前世の記憶があるし、そんなにわかに信じがたい事があってもおかしくないのでは。
そして、古賀寧 幸紀…。それはその極上⭐︎わたしの甘王子(略して極わた)という作品におけるヒーローでも所謂当て馬にもならなかった登場人物だった。学園のさらに上位階級メンバーでヒーローの幼なじみで、序盤から登場していたものの綺麗な外見に暗い人柄で、だんだん不穏な空気を醸し出していき、とんでもなくガチな病みと闇が露呈され、主人公を手に入れたいあまり強硬手段を取り監禁陵辱をしようとしだす。それをヒーローや当て馬達に阻止され、縁を切られていまう。影響力が凄まじいまさに学園のキングに敵認定されれば、学園にはいられない。古賀寧 幸紀は退学し、ヒーローである鳳城家に楯突いたとみなされる事を恐れた当主(兄達、両親)から捨てられ、転落し何もかも失い失意のままにもう絶対無理なのに再度主人公のもとに会いに行き、心中をもちかけ鳳城のボディガードに抑えつけられて当たりどころが悪くて死んでしまった。そういう登場人物だった。
それさぁ、メイン二人の愛を深めるためにこんなにねっとりと哀れなヤンデレを描き切る必要あった??人の心とか無いんか。私はヤンデレとか不憫なキャラが好きだから完全に彼に感情移入してしまっていた。
もう後半はラブイチャする二人に興味持てず、むしろ可哀想な古賀寧 幸紀の名誉挽回復活シーンを待っていたが、まさかこのまま終わらないだろうと思っていたが呆気なく死んでしまったからかなりショックだった。課金するから生き返らせて幸せにしてくれ!!というメッセージを作者のSNSに50件くらい送りつけたが、返信はこなかった。漫画の中でも特にそのあと触れられていなかった。
そのあと、極わたが実写映画化・ドラマ化した。爆発的な人気が出たが、古賀寧 幸紀はさらに製作陣の手で改悪され、彼は異常な暴走キモ迷惑男として悪いところばかりが強調されてしまっていた。ネットでも「害悪ヤンデレ」として評判が悪かった。推しがボロクソに貶されるのが悲しくて悲しくて仕方がなかった。
当時の私は界隈の流れを変えようと、必死に彼の良い部分を布教する2次創作を作って発信しまくった。とは言っても、彼の詳しい話や深い人柄はそこまで原作で明言されていなかったから、勝手に盛った。実は死んでなくてちゃんと幸せになるというifストーリーも考えた。最初は全然見られていなかったが、活動が年単位となると私の熱意が伝わったのか「古賀寧推しの人」として認知されるようになった。同志もいくらか増えたし、全力で布教して育てた。
…ただ、現実では当時付き合っていた彼氏には振られたが。放置していたから無理もない。
そんな最中、まさかの私が不慮の事故で死んでしまった。極わたの作者がSNSで改訂版を書くと発表したところだった。死んでも死にきれない。無念、無念だった…。
そしたら転生して、この世界。生身の古賀寧 幸紀がいるなんて…。
そんな事になる?なってるやろがい!!をまさに体現したような展開だった。
まだまだ自分の未来も人格も定まっていない古賀寧 幸紀の愛くるしい御顔を思い出す。
「ゆの、いさっ」
様子を見に来た両親に向かって手を伸ばす。伝えたいのに喋れない。もどかしい。
「志寿緒が初めて喋った!ママ!志寿緒がっ」
「ほんと!でもなんて言ってるの…?ママパパじゃないわよね?」
早く行かないと。彼のところに。早いうちから手を打っていれば、あんな悲惨な人生を送らせる事が出来るかもしれない。
ヤンデレではあっても、読者や登場人物に愛されるような人間にすることができる。いや、しよう。展開や未来を知ってる私が。
私は一歳半で自分の運命を自覚した。勝手に使命と信じてる。
退院して私は歩く練習を頑張った。まずはそこからだった。来る日も来る日も起き上がり掴み立ち上がり立って、それができるようになるとやっと辿々しく歩けた。
そして、その頃になると言葉ももう少し喋れるようになったので私は延々と「幸紀様」としきりに両親にせがんだ。まだ何をどうして欲しいまで言えなかった。しつこくそうすると根負けした育休中のお母さんが私を屋敷に連れて行ってくれて、幸紀様のご様子を見せてくれる。
「なんかパパママより、幸紀様ばっかり言うんですよ~」
周りに冗談ぽくお母さんが話していて驚かれていた。
体幹トレーニングを意識的にして頑張って少しでも自力で動けるようにしていたら、私の評判が聞こえたのか奥様(幸紀のお母上様)に彼の遊び相手に抜擢された。3歳の時の話だ。
古賀寧 幸紀はたまたま私の3ヶ月前に生まれただけの同い年の子どもだった。私は幼児を装って転げた風に幸紀様に抱きついた。
「~…ッ」
生身だ。生きている。推しが存在している。私は幸福を噛み締めた。良かったーー!私、この世界に転生してきて良かったぁああ!!このポジションに生誕できて良かった、神グッジョブ!
「??」
幸紀様は突然ふって湧いた私を前に困惑しているようだった。
慌てて幼児の振りをして誤魔化した。
「ゆいのいさま」
まだ完全には発音できない。
私が、私があなたを守りますから、あんな辛い目に合わせませんから、お側にいて暴走しそうになったら止めますから、あなたを幸せにするまで離れませんから。
そう、誓った。幸紀様からしたら余計なお世話かもしれないけれど。
応援ありがとうございます!
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