4 / 10
始まり
しおりを挟む
二人に疑惑の目を向けられて思わず後ずさりをしてしまう。お願い、信じてと祈りながら言葉を待っていると遂に男が口を開いた。
「本当にそうなのか?」
「⋯⋯はい。なにも思い出せません」
そう言うと今度はおじいさんが割って入るかのように口を開いた。
「ご自分のお名前はおわかりになりますか?」
首を横に振る。私の本当の名前は結城莉緒だけれど、そんなことを言うわけにはいかない。そうすると、おじいさんは少しだけ寂しそうな目をした、ように見えた。けれどそれは本当に一瞬で、おじいさんはすぐにこほん、と一つ咳払いをした後、私に向かって頭を下げた。
「まず初めに自己紹介を。私は貴女様の身の回りのお世話をさせていただいております。ザインと申します。そして、貴女様はリオ・グランドール。 この国のすべてを統べる者、王であるレオン・グランドール様のご令嬢でございます」
どうやらこの体の持ち主は本当にお姫様だったらしい。そんな人と私なんかが成り代わってしまって本当にいいのだろうか。この体の本当の持ち主は今、どこにいるんだろう。もし、私の体と入れ替わってしまっていたのなら⋯⋯そんなのは駄目だ。この体はいつか必ず彼女に返さなければならない。
「⋯⋯そしてこのお方はリオ様の婚約者であるユーリ・ベルモント様でございます」
「⋯⋯へ?」
色々なことを考えていたら、ザインさんの聞き捨てならない言葉に返事をするのが遅れてしまった。
この失礼な男が?
音がするんじゃないかってくらい勢いよく男の方を見ると、男はやれやれとでも言いたげに大きなため息をついた。
「不本意だがな」
「ほんとに!?」
最悪だ。よりによってなんでこの男と!
顔はいいかも知れないけど、性格は最悪だ。政略結婚というやつだろうか。じゃなければこんな男と結婚したがるような人は余程のMじゃない限りいないだろう。
どうしよう。
一気に不安なことができてしまい頭を抱えていると、男は心底めんどくさそうな顔をしながらその口を開いた。
「しかし、バレないようにしてくれよ。国の姫であるお前が記憶喪失なんて知れたらどうなるか。いいか、別にお前の心配をしているんじゃないぞ。婚約者である俺の立場も危うくなるからだ」
「わかってるわ」
やってやる。彼女にこの体を返すまで、他の誰にもバレないように過ごしてやる。
その為には、まずこの男が問題だ。いつ戻るかがわからない以上、あまり反感を買うのは良くないだろう。深呼吸をして目の前にいる男を見つめる。そして、にこりと微笑んだ後に手を差し出した。
「さっきは取り乱してしまってごめんなさい。改めてよろしくね、ユーリ」
「⋯⋯ああ、よろしくな。新しいリオ・グランドール」
触れたユーリの手は氷のように冷たかった。それは想像通りで、ずっとこの男のそばにいたら心まで凍りついてしまいそうなほどだった。だけど、私はこの冷たい手を離すつもりはない。この体を本当の持ち主に返すまで、私はこの男の婚約者、リオ・グランドールとして生きるのだ。
「本当にそうなのか?」
「⋯⋯はい。なにも思い出せません」
そう言うと今度はおじいさんが割って入るかのように口を開いた。
「ご自分のお名前はおわかりになりますか?」
首を横に振る。私の本当の名前は結城莉緒だけれど、そんなことを言うわけにはいかない。そうすると、おじいさんは少しだけ寂しそうな目をした、ように見えた。けれどそれは本当に一瞬で、おじいさんはすぐにこほん、と一つ咳払いをした後、私に向かって頭を下げた。
「まず初めに自己紹介を。私は貴女様の身の回りのお世話をさせていただいております。ザインと申します。そして、貴女様はリオ・グランドール。 この国のすべてを統べる者、王であるレオン・グランドール様のご令嬢でございます」
どうやらこの体の持ち主は本当にお姫様だったらしい。そんな人と私なんかが成り代わってしまって本当にいいのだろうか。この体の本当の持ち主は今、どこにいるんだろう。もし、私の体と入れ替わってしまっていたのなら⋯⋯そんなのは駄目だ。この体はいつか必ず彼女に返さなければならない。
「⋯⋯そしてこのお方はリオ様の婚約者であるユーリ・ベルモント様でございます」
「⋯⋯へ?」
色々なことを考えていたら、ザインさんの聞き捨てならない言葉に返事をするのが遅れてしまった。
この失礼な男が?
音がするんじゃないかってくらい勢いよく男の方を見ると、男はやれやれとでも言いたげに大きなため息をついた。
「不本意だがな」
「ほんとに!?」
最悪だ。よりによってなんでこの男と!
顔はいいかも知れないけど、性格は最悪だ。政略結婚というやつだろうか。じゃなければこんな男と結婚したがるような人は余程のMじゃない限りいないだろう。
どうしよう。
一気に不安なことができてしまい頭を抱えていると、男は心底めんどくさそうな顔をしながらその口を開いた。
「しかし、バレないようにしてくれよ。国の姫であるお前が記憶喪失なんて知れたらどうなるか。いいか、別にお前の心配をしているんじゃないぞ。婚約者である俺の立場も危うくなるからだ」
「わかってるわ」
やってやる。彼女にこの体を返すまで、他の誰にもバレないように過ごしてやる。
その為には、まずこの男が問題だ。いつ戻るかがわからない以上、あまり反感を買うのは良くないだろう。深呼吸をして目の前にいる男を見つめる。そして、にこりと微笑んだ後に手を差し出した。
「さっきは取り乱してしまってごめんなさい。改めてよろしくね、ユーリ」
「⋯⋯ああ、よろしくな。新しいリオ・グランドール」
触れたユーリの手は氷のように冷たかった。それは想像通りで、ずっとこの男のそばにいたら心まで凍りついてしまいそうなほどだった。だけど、私はこの冷たい手を離すつもりはない。この体を本当の持ち主に返すまで、私はこの男の婚約者、リオ・グランドールとして生きるのだ。
0
あなたにおすすめの小説
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
強すぎる力を隠し苦悩していた令嬢に転生したので、その力を使ってやり返します
天宮有
恋愛
私は魔法が使える世界に転生して、伯爵令嬢のシンディ・リーイスになっていた。
その際にシンディの記憶が全て入ってきて、彼女が苦悩していたことを知る。
シンディは強すぎる魔力を持っていて、危険過ぎるからとその力を隠して生きてきた。
その結果、婚約者のオリドスに婚約破棄を言い渡されて、友人のヨハンに迷惑がかかると考えたようだ。
それなら――この強すぎる力で、全て解決すればいいだけだ。
私は今まで酷い扱いをシンディにしてきた元婚約者オリドスにやり返し、ヨハンを守ろうと決意していた。
好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が
和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」
エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。
けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。
「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」
「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」
──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる