あの時くれた名前~諏訪あやかし記: 神の柱と狐の器

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第4章 - 舞踏会

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 私はまだ夢から覚めていないような感覚だった。

「だって――でも――」

 必死に口から出まかせの反論をする。でも、そんなのがくだらない言い訳なことくらい自分でもわかっていた。

「私が恵んだところで、彼があそこで助かったからって、世界中の貧困がなくなるわけじゃないじゃない。それに、ああいう物乞いって後ろにやくざ者がいることも多いって聞いたわ。仮にその人に恵んであげても、元締めのやくざに取り上げられちゃうんなら、私が施しをしたところで意味ないじゃない!」

 お銀は白楼の肩の上で、まっすぐ私の目を見て言った。いつもお銀は私に小言を言っていたのだけれど、どこかおどけたような言い方だったからそんなに厳しく感じることはなかった。けれど今日のお銀は違う。私に対して、真摯に向き合い、言葉を伝えようとする意志がはっきり伝わってきたのである。

「たしかにそうでさあ。でもね、問題はそこじゃないでやんす。お嬢はあの人が『努力してないから』って切り捨てたのでさあ。それが問題なんでやんす」

 お銀は言う。私は暖かくて広い家に住んでいるうえに、食べ物も余るほどもらって学費も問題なく出してもらえた。でもそれは貧しい人から吸い上げた華族の特権。それなのに自分が努力しているから今の地位にあるだなんて、あまりにも傲慢じゃないか、と。だったら母上の言うように、せめて華族の地位を利用して貧しい人たちのために資金集めパーティでも全面に立つべきなのに、華族ごっこが嫌だからなんて子供じみた理由で私は断る。

 対して葛城少佐は違った。彼の家は江戸の治世において、一族郎党含めて豊富に財産があった上、広い家に住み、使用人も多くいた。しかも、明治の世で武士の特権を失ったあげく貧乏士族に転落したからと言っても、諏訪家の援助があったおかげで細々とではあったが生きていけた。少なくとも葛城少佐は、自分が恵まれた地位にいる幸運な人間だと自覚していたのだと。だからその幸運に恵まれなかった詩織さんを最後まで助けようとした。それに対して私は――

「自分がいかに恵まれているのかすら自覚しようとせず、今の地位はすべて自分の努力で勝ち取ったものだと勘違いし、挙句の果てには――あの民を『努力していないから』貧しいのだと言って切り捨てた。お嬢はまだまだ未熟でやんすね。あっしとの赤い糸は――まだまだ切れないままでやんす。」

 やっと私は自分の置かれている地位を簡潔に理解した。

 ――私は罪を犯していた。

 そしてお銀は、そんな私の罪を思い出させようとして、今までいろいろやってくれた。仮に思い出さなかったとしても、先日のパーティを含め、運が悪かっただけで社会の下層から這い上がれなかった人々を積極的に救済するための心を呼び起こそうとした。

 けれど私はできなかった。自分のことしか考えていない私の性格は変わることはなかったし、まして私が絶望の淵に追いやった人のことなんて思い出すことすらできなかった。

「――お銀。その辺でやめておいてくれよ」

 白楼が怒れるお銀のおでこを優しくなでる。

「この件、ほとんどは俺が悪いんだよ。だって俺が彼に名を与えて魂を抜かなければこんなことにはならなかった。だからそんなに織葉に責任があるとは思わないけどなあ――」

「親分。だからこそ問題なんでやんす――親分を苦しめてしまったのだから」

 お銀はまた私に向き直った。

「お嬢、親分が生き物の魂を抜くとき、悩まないで、迷わないでやっているとお思いでやんすか?今の親分は魂を抜いて抜け殻を食わなくても、白狐稲荷神社からの力で生きていけるでやんす。それでも親分が人に新たな名をつけるのは、真に彼らの解放を望んでいるからでやんすよ。でもひとたび体から魂を解放してしまえば、少なくとも現世での幸福は望めねえ。だから親分は、いつも一人で悩んで、一人で罪を背負うのでやんす」

 私はさらに崖から突き落とされるように打ちひしがれた。私は、白楼はもちろん優しいあやかしだとは思っていたけれど、少なくとも父に言われたように、もう二度とない人生を魂を抜くことで終わらせてしまうことに対しては――悪だと思っていたかもしれない。だって、彼がいつも飄々として新たな名をつけていたのだと思っていたから。けれど実際は違った。彼は彼なりに悩み、苦しんだうえで、彼らに名をつけることを決断していたのだ。

「親分だけじゃないですぜ。上諏訪に向かいたいというあの民の思いを、奏さんはだって理解していたはずでえ。あの民の魂が抜かれるのを薄々わかってながらも、あらゆる人の救済を真剣に考えていた奏さんは、苦悩の果てに彼を上諏訪に連れていったのでやんす」

 翻って私は。

「そうでやんす。お嬢がみんなを苦しみに追いやったのでさあ。だからお嬢は――」

 その先。言わないでもわかる。

「今までの主人で最低なんでやんすよ」

 白楼の髪、そしてお銀の毛並みが月に輝く。銀色の毛と金色の月が反射しあい、いつもなら私はうっとりとそれを眺めていただろう。けれど今、その輝きはぎらぎらと私の目には眩しく映り、私を非難しているかのような目に刺さる輝きに見る。

 一筋の風が強く吹いた。私は思わず月の強い光とその風に目を閉じた。もう、何も考えたくなかった。そんな私に対し、お銀はきっとまた思うのだろう。「弱いお嬢はまた逃げてやんす」と。

 ドォーン! 

 その時だった。地鳴りのような振動が、社を揺らしたのは。腹の底から響く、低い轟音。花火か、そんな風に一瞬思ったけれど、あたりには何もない。代わりにいたのは――茶褐色の軍服を着た陸軍軍人だった。それも、すごい数。こんなに多い軍隊を私は見たことがない。五百人なんて平気でいる規模ではないだろうか?そしてその先頭に立つ男を見て、私は凍り付いた。

 女工救済パーティで女学生に絡んでいた酔った軍人――村口大尉だった。

「この前はずいぶん世話になったな、九条子爵嬢!」

 今、彼は全く酔ってなんかいない。なのに、彼からにじみ出る狂気は、酔って暴れていたあの時を遥かにしのいでいた。

「あの時のお礼をしてやろうと思ってな。たかが警官、しかも女ごときが、帝国陸軍将校に手を出したこと、後でゆーっくり後悔してもらおうか。このさびれた神社が崩れ落ちた後にな!」

「全員、構え!」

 村口は命令を発すると、一斉に武装した兵士たちが武器を構えた。歩兵、騎兵、大砲、機関銃を携えた工兵。これから大国との戦争でも行うような完全武装で私たちを狙う。

「ちょっと――ちょっと嘘でしょ!?たかがあのくらいのことで重火器持ち出すなんてどう考えてもおかしいわよ。文句があるなら私を連れて行けばいいでしょう。取調べでも何でもしたらいいわ!」

「ほお、それも面白いな――美しいお前を痛め付けて苦しむ姿を眺めるのも絶景かもなあ」

 私がそう言うと、村口は唇をなめながらニタニタと笑う。

「だがな!お前への嫌がらせはあくまでこの作戦の副産物だ!主たる目的は別にある!」

 村口がそう言うと、彼の前に二人の兵が進み出る。彼らの手には、日の丸と日章旗が掲げられ、大きく振られていた。それを見るなり、兵士たちは背筋を正して直立不動に立つ。そこで村口が大きく叫んだ。

「これより、我が部隊は『大正維新』を始める!悪しき統制派どもに牛耳られるこの大和を、あやかしが集う諏訪より、根底から覆すのだ!」

 そう言うと、兵士たちはいっせいに歓声を上げた。

 村口の顔は、勝ち誇っていた。女学生に絡んでいたあの時よりも、肥大した自尊心と自らの掲げる理想に酔っている。

「そこのお前」

 村口は軍刀を白楼に向ける。

「お前がこの一帯のあやかしどもを抑え込んでいるのはもう調べがついている。つまりだ、お前を消してしまえば、諏訪に集いしあやかしどもはタガが外れ、暴走するということだ。そしてこの地からあやかしどもを放ち、暴れるにまかせ全国を荒廃させる。それをだれが止められる?衆議院?貴族院?華族?統制派?笑わせるな!できるとすりゃあそこの女のような神職だけだろうが、圧倒的に数が足りないのだ!そうして東京の統制派どもを一掃した後――最後は我々皇道派が御するというわけだ。そしてその暁には、陸軍大将の座は俺のものになる!」

 抑え込んでいる――どういうこと?私はてっきり、白楼が持つ強大な妖力が全国各地からあやかしを引き寄せているとばかり思っていたけれど。むしろあやかしを制御しているのは彼だった?とするとこの諏訪にあやかしを引き寄せたのは誰?

 すぐさま白楼にそのことについて問い詰めたかったけれど、そんなことをやっている場合ではない。もしも村口が言っていることが正しいとしたなら、彼は完全に間違った方向へ進んでいるのは明白。いくら自分の属している派閥が主流派じゃないからって、あやかしを甘く見すぎているのだ。あやかし退治の血を引く私でさえも、あやかしを暴走させるに任せるなんて狂気の沙汰だとしか思えない。まして神職でもない彼らがそんなことをしたら、彼ら自身も食われて死ぬだけ。誰も得なんかすることはないの。私は村口にそう諭そうとしたのだけれど――

「織葉。多分彼らはその先も考えているんだよ。俺にはわかる。彼らがあやかしに食されない方法をね」

「え?」

「彼女が出てくるんだろうな――」

 私は白楼の話についていけない。その先って?「彼女」って誰?

 けれどもう遅かった。また腹の底に響く轟音。見れば、大砲から煙が出ている。工兵が発射したのだ。それに加え、歩兵も一斉にライフルで射撃を開始した。耳をつんざくような破裂音は、何分ほど続いただろうか。あたりは硝煙で満たされ、一寸先も見ることができない。

 轟音のせいですべての音の伝達を止めてしまった私の鼓膜の働きがようやく元に戻ってきた。それにつれ、煙も徐々に晴れていき、私の頭も少しは物事を考えられるようになってきた。

 ふと気づく。そう言えば私、撃たれていない。いや、もしかしたら華族を殺すと面倒だから私は外したのかもしれないけれど、隣の白楼ですら全く撃たれていない。すべての弾が私たちをかすってすらいないのだ。

 私は思った。この軍人たちは主流派から外れた者たち。きっとろくに訓練も積んでいないんだ。だから私たちを襲おうとしても全然当てることすらできないんじゃない。そう思うと彼らも大したことないな、そんな風に私は事を軽く考え始め、相変わらず余裕の表情をしているはずの白楼を窺い見た。

 すると――驚くべきことが起きていた。

「君ら――なかなか頭いいね」

 白楼が、あのいつも飄々として冷静な態度を崩さないあの白楼が――額から汗を流して焦っているのだ。

「はっ、当たり前だ!俺は陸軍最高の頭脳集団、陸軍大学校卒だからな!」

 村口は、軍靴のかかとをわざとらしく鳴らし、乾いた砂が舞う。あたかも、俳優がわざとらしい演技をして自らの存在を誇示しているかのように。

「確かに、お前を直接倒すのは困難極まる。何百年、いや、何千年という時を生きてきた強大なあやかしを倒すというのは現実的ではない。だがな――」

 村口は大きく手を振り、白狐稲荷神社全体を指し示す。雨風にさらされて朱色が落ち、苔がむす鳥居。長年の酷使に堪えかねて崩れかけた石段。朽ちかけている狐の像。そのすべてに、この地に住まう人々の信仰が根付いていた。

「この哀れな社は、田舎者どもの迷信の寄せ場。お前の力の源泉だろう?お前そのものを倒す必要なんざない。要は、お前に力を注いでいるこの器たる神社を叩き壊せば、神を装ったあやかしなど消え去る。そうだな?」

 白楼は、村口の問いかけに、一瞬目を細めただけで何も答えなかった。その様子に満足したのか、村口は軍刀を上空に大きく掲げた。そしてその刀は――大きく振り降ろされた。

 また、私の耳は一切役に立たなくなった。一斉射撃。少しの銃弾装填時間を挟んださっきの間を置き、再び鉄と爆音が支配する。ライフル、機関銃、大砲、そのすべてが唸っているのだ。

 視界ですら、硝煙で全く見えない。私はただ耳を抑えてうずくまることしかできなかった。さっきお銀に指摘された私の弱さ。それだけで私は打ちひしがれていたのに、私は彼らの猛攻により、今までの人生で、最も無力感を感じていた。せめて泣かない。私ができたのはそれくらい。

 弾丸が私をすり抜けて神社に降り注ぐ。現代兵器の容赦のない掃射を受けて、白狐稲荷神社は瓦礫となっていき、燃えている建物はもはや炭に近く変わってしまい、これはいずれ灰になるだろう。

 そんな中、身体に妙な感覚が下りた。ふわっと宙に浮くような感じが降りたかと思えば、硝煙だらけの視界が変わり、林、小川、農道、そして田園風景と見える景色が変わっていく。懐にはいつの間にかお銀もいる。ようやく私は理解した。白楼が私を抱きかかえて走り、あそこから逃がしてくれているのだと。崩れ落ちる神社を背景に、煙と火花が彼をかすめながら、白楼は走っていた。

 もはや白楼の力は弱っているのは明らかだった。全力で走っているのは伝わってくるけれど、その動きは弱弱しく、身体は徐々に透けていく。

「俺は――ここの神――だからここと一緒に消えなくてはならない。けれど君は――違う。生き残って――次の時代を作って――次の世代に伝えていくんだ――」

 息も絶え絶えになってくる白楼はついに動きを止める。白楼がもっと走りたい気持ちは痛いほど私もわかるけれど、彼はもう動くのは限界だった。思わず私を抱えてうずくまる白楼に対し、元気よく声を上げたのはお銀だった。

「親分!あとはあっしに任せてくだせえ!ここまでで十分でさあ。この辺であやかしが少ない道は調査済み。親分はゆっくり休んで下せえ」

 元気な声を上げるお銀には私も勇気づけられた。けれど白楼はそんなお銀の態度を無視するかのように、怪訝な顔をする。

「何を言ってるんだお銀。お前の体じゃ――」

 白楼がそう言うと、お銀は微笑んだ。なぜだろう、心なしか彼女の目には涙が浮かんでいるようにも思える。

「やっぱり親分にはお見通しでやんしたね」

 お銀は右足で目をぬぐうような動作をすると白楼を見つめた。

「自分よりもいつも他者を思うその心。あっしは親分の下についてから何度惚れ直したかわかりやせん。だからこそ――あっしの親分は、ずっと白楼親分でやんす。今までも、これからもずっと」

 お銀はそう言うと、今まで白楼に乱暴なことをしたことなんて一度もなかったのに、彼の腕を足で強引に蹴飛ばして、私の腕を引き、走り出した。私は体勢を崩しながらも、何とかお銀に手を引かれて一緒に走り出す。

 私は白楼に振り返る。彼は微笑んでいるようでもあり、悲しんでいるようでもあった。私を逃がせたことできっと喜んでいるのだろう。けれど悲しみの表情でもあるのはなぜだろう。自分がこれから死んでしまうから?いや、そんなはずない。あの肝の座った白楼が、自分の命を気にするようなあやかしに見えなかったから。

 気が付けば白楼との距離は遠くなり、彼の姿は全く見えなくなった。
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