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第16話 依頼

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 磨術会が終わって一週間が経とうとしていた。 磨術会は無名のせいでめちゃくちゃになったが、僕の優勝ということになった。 僕は久しぶりに寮の部屋に戻ってきた。


「とりあえず、無名の話はあれから聞かない。 だが必ずあいつはいるはずだ......警戒はしておかないと」


「心配すんな、私がいるだろ」


 麟がアイスを食べながら胸を叩いた。 
  

「そうだね」


 部屋のドアが開いた。


「おお! 神無! 帰ってきたか!」

 
 灰が満面の笑みで入ってきた。


「お前、その背中の深い傷あの戦いでか......」


「いや、これは昔、鬼に襲われて......」


「鬼!? よく生きてたな」


「ああ、なんとかね......」 


「ていうか、麟、ここ男子寮だぞ」


「私は神無に宿ってるから構わないんだ」


 と麟が言った。灰は複雑な顔をしてたが、諦めたらしく、
 

「心配したぞ」


「ごめんごめん、霊力がなかなか戻らなくて、で僕がいない間に何かわかった?」


「いや......無名のことはわからないらしいな、他に変わったことは......」


 その時、部屋のドアが開いた。 そこには金形代 鍊君がいた。


「これぐらいだな......」


「どうしたの?」 


 僕が聞くと、


「俺が偶児を倒したことでな、ペナルティとして、こっちの庶民の寮に移されたのさ」


「誰が庶民だ」


 灰が不満そうに言った。


「ごめん......僕が変なことを言ったばっかりに」


「別にかまわん、どうせ偶児だったら優勝もできず、殺されてたからな、だから罰はこの程度なのさ......それより灰、貴様何度言えば分かる! 部屋を汚すなといっているだろうが!」


「この程度平気だろう」 
 

「だめだ! 神無も聞いておけ、この部屋にゴミひとつ落とすことは俺が許さん! 灰お前もこれに着替えろ!」


 そう言うと金形代君は、三角頭巾とエプロンをつけて、掃除を始めた。


「あっ! 僕、雅に無事なこと伝えないと」    


 そう言って部屋を後にした。 僕が寮を出て歩いていると、


「神無様!」


 向こうから走って雅がやってきた。


「もうお身体は大丈夫なのですか......面会すら許されないので心配でした......もう寮に戻ったときいて」


「ああ、大丈夫だよ、霊力も戻ってきたしね」
  

 雅は安堵の表情を見せる。 


「お前、神無を甘やかせすぎだぞ」


 麟が呆れる。


「あなたにはわからないのです! ......神無様は幼少期から今まで何度も命の危険があったのですから......」


 麟に雅がそう言うと、


「神無! お前ひどいぞ、俺を置いていったろ!」


 三角頭巾にエプロン姿の灰が僕を見つけて走ってきた。 その後ろから金形代君も追ってきていた。


「逃げるな灰!」

 
「俺は掃除してる暇はないんだ! 神無に話があるんだよ......」


 そう言うと灰が何か言いずらそうにしている。


「どうしたの?」


 実は、と切り出した。 磨術祭の後、灰に陰陽師として複数の依頼の声がかかった。 断わろうとしたが、事情を聞いてあまりに可哀想で、つい引き受けてしまったらしい。


「わかった、リハビリがてら、手伝うよ」


「すまない恩に着る! 依頼人は京都にいる」


「神無様は病み上がりなのですよ!」


 まあまあ、と僕は雅を落ち着かせると、


「私も参ります! まだ無名がいるかもしれませんから!」


「俺も行くぞ、少し気になることがある」


 金形代君も話しに入ってきた。


 学校に課外活動の許可を取り僕達は依頼のあった京都へと出掛けた。




 その電車の中、


「それにしても麟が瑞獣ねえ、そんな風には思えねえけどな」


 灰が麟をみてそう言うと、うるさいと言いながら麟は灰を蹴り上げた。


「痛っ! 何しやがる! 麒麟っていうのは虫すら踏まない優しい獣のはずだろ!」


「そんなわけあるか! 獣、鳥、魚好き嫌い無しになんでも食べるわ! お前らの理想を押し付けんな!」


「でも、実は僕もよく知らないんだ、瑞獣って何なの?」 
 
 
 僕が雅に聞くと、


「そうですね、自然界にある生命力や霊力が集まり自我をもった存在を霊獣《れいじゅう》といい、その中でもとりわけ力を持つものが瑞獣と呼ばれます」


 麟は得意そうに胸を張ってどや顔をしている。


 そんな話をしていたら京都につき、依頼人の所に着いた。 普通の一軒家で別に異質な所は感じない。 家の前で依頼人と思われる女性と、その子供とみられる女の子が待っていた。


「陰陽学園から来たんですが、ご依頼の件で......」


 灰が女性に話をすると、


「あ、ありがとうございます、他の方には断られてどうしようかと......」


 目に涙を浮かべながら感謝している。 女の子は女性の後ろに隠れ怯えているようだったので、僕はしゃがみ、霊力で作った小さな球を見せた。 すると女の子は目を輝かせて近づいてきた。


「きれー、これ何?」


「マジックだよ」

 
 それを女の子の周りにいくつも作った。 女の子は喜び、くるくる回っている。 それを見た女性も幾分落ち着いたようだった。


「で、ご依頼の件とは」


「実は......最近小さな子供達が意識不明になるということが起こっているんですが......それは何者かの仕業なんじゃないかと」


 灰の問いに、女性は怯えたように話し、


「私は少し霊力があって、少しだけ、なにかを感じられる程度なんですが、娘の知里《ちさと》は私より強い力を持っていて、何かを見て怯えているんです」


 僕は女の子ーー知里ちゃんに話を聞いた、


「知里ちゃん、何か怖いものを見たの?」

 
 そう聞くと、球をみて微笑んでいた顔が青ざめていき、


「......いっぱいの虫が、みんなの大切なものを持っていくの......きっとわたしも持っていかれちゃう......」


 そう言うと母親に抱きついて泣き出した。


「いっぱいの虫が......大切なものを持っていくか」


 僕が考えていると、


「わかりました。 俺達が解決します!」


 灰がそう言うと、


「あ、ありがとうございます!」

 
 感謝して頭を下げた。


 とりあえず、明日探るために、今日は一度宿に向かうことにした。


「この京都にも、陰陽師の学校、式占学園《しきせんがくえん》がありますよね。 なぜそちらに依頼されなかったのでしょう」


 雅が呟くと、

 
「受けはしないからだ......」   


 金形代君がそう言う。


「どうして?」

 
 僕が聞くと、


「式占学園は、卜占《ぼくせん》、占いの専門校で、政治家や経済界の重鎮しか相手にしない、一般人の依頼など受けることはない」


「金かよ、そう言えば、式占学園の理事長は金形代家の当主、金形代 宗像《かねかたしろ むなかた》だったな」   


 と、灰は皮肉をいった。


「馬鹿か、金だけじゃない。 確かに尊大で我欲で生きている奴らだがな、政界や経済界へ働きかけることで、術士と一般人との摩擦や軋轢あつれきも減らしている、まあ自分達の為にだがな......」


 そうなのか、僕はそう思いながら宿に向かった。
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