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第40話 魂継の儀④ 霊獣使い

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「ごめん、神無兄ちゃん......」


「ううん、よくやったよ、うずめ、怪我をしている早く治療しないと」


 謝るうずめに僕が言うと、


「そうだ、あれは相手が上手うわてだった。わざとブーメランの青龍とお前を引き離して霊力を感じさせなくさせたんだろう。 そして切られたヒレを囮に使った。 戦闘経験の差だ」


 そう言って僕の横を通り鍊は舞台に上がった。


「では中堅戦、金形代 鍊、対、土光薙 午頭《ごず》」


 細身で長身の男が舞台に上がって来た。 そして鍊に向かって、


「私は午頭という。 金形代家の方とお見受けするが、神無殿に取り入って、家の為に戦われるのか」 


「いいや、俺は家の事などもうどうでもいい、ただ神無に......あいつの為に戦う」


「......そうか、私も我が主の為に戦うご覚悟を決めている、では......」


 そう言うと、午頭は術式を唱えた。


「霊獣召来、牛鬼《うしおに》!」


 午頭の前に、長い首の先に鬼のような顔があり、体が牛、尾が剣の獣が現れると、尻尾の大きな剣が振り下ろされる。 鍊はそれをかわすが、更にその二本の角が伸びて自在に変化して鋭く伸びてきた。 それを鉄の刃、鋼牙刀で受ける。


「くっ、重い! これは金属か」


「ああ、元々牛鬼は金属の神と言われていた霊獣......体も金属でできている、並みの攻撃では傷一つつかん」


「ならば」


 高速で伸びてくる二本の角をかわしながら、鍊は術式を唱える。


「金木行、鎖錠垂《さじょうすい》!」

 
 八本の左右の腕の鎖が角をかわしながら、午頭を狙い伸びていった。 すると牛鬼は体を拡げて鍊の鎖を弾く。


 ギィン!!


 金属音が響く、


「自在に体も変化させるのか!」


「金属の鉄壁の防御と自在な攻撃を持つそれが牛鬼」


 鍊の驚きに午頭が答える。


「確かに厄介だが」


 鍊はそう言うと術式を唱えた。


「金火行、赤銅具足《あかがねぐそく》!」


 赤い金属の甲冑を着た鍊は高速で午頭に迫るが、牛鬼はその姿を牛頭の人型になり両手を鎌のような刃にして切りかかった。 鍊は甲冑でそれを受け止めるが、角も鎌のようになり、


 ギィン ギィン!!


「くっ!」


 連続で切りつけられた鍊は術式を唱える。


「火金行、烈火爆《れっかばく》!」

 
 爆発が起こり舞台に黒煙に包まれるが、吹き飛ばされた牛鬼は無傷だった。


「その程度の爆破や熱量ではこの牛鬼は倒せん!」

 
 午頭はそう言うと、甲冑を見つけた午頭は牛鬼を操り鍊を攻め立てた。 


「打つ手がないか」


「大丈夫、鍊なら」


 麟に僕はそう言った。 牛鬼から飛び退いて距離を取っていたが、牛鬼は鍊を両手と角で攻め続けていた。 


「黒煙でもそこにいるのはわかっている! もう終わらせろ 牛鬼!」


 午頭がそう言うと、牛鬼は両手と角を合わせて大きな刃を作り、振り下ろした。


 ズシャアア!

 
 牛鬼が兜を両断した瞬間、


「なんだ!? これは!!」


 と 午頭が声をあげた。 午頭の体が動かなくなって、舞台に倒れた。


「......これは、私の体に細い金属の糸が巻ついて......だが奴は死んで......」


「死んではいない」


 黒煙が晴れると午頭の前に鍊がふいに姿を現した。


「どこから現れた......爆発の間に......何をした」


「鏡だ......爆発で牛鬼を吹き飛ばして霊力を感じさせなくしてから、甲冑を脱いで操り、周囲に黒煙を映す鏡を作った。 」


「くっ......そういえば金形代家は傀儡師の家系......迂闊だった」


 午頭はうなだれると審判は鍊の勝利を宣言した。  


「副将戦、甲 蕈留、対、 土光薙 揺谺《ようか》前へ」


 審判が呼ぶ。


「僕の番か」


「頼みました、蕈留さん」


 僕が言うと手を上げて答え蕈留さんが舞台に上がる。


 相手の髪の長い女性が、


「私は揺谺、悪いがここは勝たせてもらう、主の大蜘様の為、いえ私達の為に」


「それはこちらも同じことだ。 信頼できない奴に、五行家当主にするわけにはいかない」


 二人は同時に術式を唱える。


「霊獣召来、木霊《こだま》!」


「五行、木行、樹棍《じゅこん》!」


 揺谺の前に人型の樹木が現れる、そして蕈留さんは棍を手にした。


 人型の木霊は樹の間を走り、蕈留さんに腕の先の枝を尖らせて伸ばしてくる。 蕈留さんは高速で迫る枝をかろうじてかわし棍を振るう。 木霊はかわすが、棍から全方向に針のように、枝が伸びていき木霊を貫いた。 


「それでは木霊は倒せない」


 揺谺がそう言うと、貫いたはずの棍が木霊に飲み込まれていく。 


「これは!?」


「木霊は霊力を吸収する......そして山彦《やまびこ》!」


 木霊の体から棍が蕈留さんに向かって伸びていき、針のような枝が飛び出した。


「くっ! これは僕の術式を反射した!?」


 傷を負いながら飛び退いた。


「そうだ、この木霊は受けた術式を反射する。 あなたの術式は効きわしない」


「......やってみるさ」


 蕈留さんは術式を唱える。


「木土水行、硬樹陣《こうじゅじん》!」


 地面から巨木が生えていき舞台を覆う。 木霊は近づくと、腕を伸ばしてしならせ連続で蕈留さんを狙って叩きつける。


 ドオン!! ドオン!! ドオン!!
 

 蕈留さんは巨木をたてに攻撃を防ぎ、そして術式を唱える。


「木金行、刃舞葉《じんぶよう》!」

 
 巨木の葉っぱが刃のように大量に舞い揺谺を襲う。


「くっ!」


 傷だらけになった揺谺に、


「負けを認めろ......」
  

 蕈留さんがそう言うと、


「出来ない......私は、私達は......必ず大蜘様を当主にせねばならない......例え死んでも! 木霊!」


 揺谺が、そう叫ぶと木霊は巨木を飲み込み始めた。


「バカな陣ごと飲み込むつもりか! 止めろ! 木霊がいくら霊力を吸収できるからといって、そんなことをしたらお前の体が持たないぞ!」


「ぐううううううう!」


 揺谺は体から血を吹き出しながら、巨木を飲み込んでゆく。 蕈留さんはこちらをみた。 僕が頷くと、


「僕の負けだ」


 蕈留さんはそう宣言した。

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