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第43話 魂継の儀⑦ 塒《ねぐら》

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 舞台から降りるうずめがフラッとしたので僕は支えた。


「今のは青龍と融合だよね! そんな術を産み出しているなんてすごいよ。うずめ!」


「はあ、はあ......でも、まだこの術は一分ぐらいしか使えないんだ......」


 僕がそう言うとうずめは照れた。 それを笑みを浮かべ見ていた鍊が、


「俺の番か」


 そういって舞台に上がる。 対戦相手は全身にタトゥーを入れた若い女だった。


「坊やがあいてなのかい、 お姉さんを少しは楽しませておくれよ」


「悪いが好みじゃない、早く終わらせる」


「フッ、言うじゃない」


「では、中堅戦、金形代 鍊、対、土光薙 司紋《しもん》始め!」


 鍊が即座に術式を唱える。

 
「金土行、黒鉄具足《くろがねぐそく》」


 鍊は黒い甲冑で司紋に一瞬で近づきを打撃を与える。 


 ドガガッ!!


 打撃を与えたが、司紋は口から血を流すもニヤリと笑うと術式を唱えた。


「黒重鎖紋《こくじゅうさもん》」


「なに!?」


 突然、鍊の体が止まった。 先程殴った腕に司紋のような紋様がありそれが黒くなっている。


「これは......」


「そう......あたしの紋様、坊やが殴った時に仕込んだのよ」


「最初からその紋様に術式を仕込んでいるのか......」


 甲冑を脱ぎ捨て、鍊が言った。


「ご明察、かなり高度な術式も最初に仕込んでおけば、後は発動するだけ」


 こんな風にね! と司紋は即座に術式を唱える。


「土火木金行、落流星群《らくりゅうせいぐん》!」


「金土行、黒鉄具足!!」 


 上空に大量の岩の塊が現れると舞台にに向かい降り注いだ。
 

「ぐわああ!」


 鍊と司紋が吹き飛ばされる。膝をつきゆっくり立ち上がると、


「......術でダメージ減らしたのね、でもいつまで持つかしら」


「......俺よりダメージを受けているはずなのに......そうか、お前には痛覚がないのか」


 ええ、と司紋は体から血を流しながら笑みを浮かべた。


「......だが、それほどの術式を発動すれば霊力も体力もすぐ尽きる......」


「そう、だから終わらせてもらうわ......私の命と共にね!」


 そう言うと司紋は術式を唱える。


「土金木水行、終生鎗葬《しゅうせいそうそう》」


 司紋の体にあるタトゥーが空中に集まりの空一面の鎗が現れた。 そして司紋が腕を振り下ろすと全ての鎗が舞台目掛けて落ちてくる。 


 司紋に走りより鍊は術式を唱える。


「金火木土行、白銀天蓋《はくぎんてんがい》!!」


「無駄よ! 私ごと串刺しにおなりなさい!」


 雨のように降り注いだ鎗で舞台が噴煙に包まれる。 煙が晴れるとそこには金属の盾状の天蓋を持った鍊が、鎗を受けながら司紋に覆い被さっていた。


「なぜ!? 私を庇った!」


「......俺の友がそれを望まないからだ......」


 司紋の問いかけにそう答えると鍊は意識を失ったようだった。 審判が司紋の勝利を宣言すると、僕達は鍊に駆け寄り、灰が抱えて治療室に向かった。


「次は僕か勝たねばならないな」


 そう蕈留さんは舞台に上がる。 相手は目のあたりに黒い布を巻いている男だった。


「盲目か......だが手加減はできない」


「無論、そのようなことなど期待してはいない......」


「では副将戦、甲 蕈留、対、土光薙 影全《えいぜん》始め!」


 影全は術式を唱える。


「土水木行、影沼《かげぬま》」


 影全は自分の影に吸い込まれるように消えた。 周囲を警戒する蕈留さんの影が鋭利になり突き刺そうとする。 すんででかわした蕈留さんは術式を唱える。


「木火金水行、霊知根陣《れいちこんじん》」


 一本の巨木が生えそこから舞台全体に根が張っていった。 


「そこか!」


 巨木から太い尖った枝が伸び舞台を貫いた。


「ぐっ!」


 影から血の滲む肩を押さえながら影全が現れた。


「......なるほど、霊力を探知する樹ですか......」


「そうだ、もう逃げ場はない」


「そうでもありませんよ、これほどの術式そう何度も使えはしない......」


 そう言うと影全は術式を唱える。


「土水木行、影法師《かげほうし》」


 影全の影が分かれると立ち上がり舞台に九つの影が現れる。


「幻覚!? だが!」


 巨木から枝が九つの影に襲いかかるが、影達は影の中に消える。 


「無駄だ!」


 蕈留さんが言うも枝が止まってしまった。


「なっ! どういうことだ......攻撃できない、まさか!?」


「そうです......これらの影は全て実体、霊力も持っています」


 影全は影の中から攻撃してくる。 


「ならば全てを攻撃すればいいだけ!」


 蕈留さんは術式を唱える。


「木金水土行、霊果実弾《れいかじつだん》!」


 巨木の実が弾丸となって舞台に降り注ぐ。 


「かかりましたね!」


 影全がそう言うと術式を唱える声がし、降り注ぐ弾丸の影からまた影が現れ出た。


「これは!?」


「私は影の分だけ分身を作り出すことが出きるのですよ」


 蕈留さんは術式を唱える。


「この数を止めるのは無理です!」


 影全がそう言うと、舞台上にワラワラと現れた影は蕈留さんに迫る。
 が、次の瞬間影は動きを止めた。


「なっ! 動かない! あれは......」


 動きを止めた影からつるが伸びてくる。 


「いつの間に......あれか!」


「そうだ......霊果実弾の実を撃ち込んだ。 その種が発芽した。 もはや動かすこともできない。 その術もかなりの霊力を消費するのだろう、負けを認めろ」


「......残念ですが、それはできない。 我々は負けられないのですよ、例え死んでもね」


 影全はそう言い放つと術式を唱える。
 

「土水火木行、漆黒大烏賊《クラーケン》!!」 


 多くいた影が消え、影全の影が大きくなり巨大な烏賊《いか》のような姿となった。 そして烏賊は触腕を振り下ろした。


 ドガガガガガ!!


 打撃により地面がえぐれる。


「こんな強大な霊力を実体化し続ければ、お前は死ぬぞ!」
 

「さっきも言ったでしょう......我々には勝つしかないと......」


「何故だ......何故そこまでする必要がある......」 


「我らねぐらは障害を持つ者で構成されているのです。 ただでさえ異能者として排除される上、この障害で認められる場所がないのですよ。 我々はここを失うのは死ぬのも同じ......ゆえにどんなことをしてでもここを守らねばならないのです!」


 複数の触腕が蕈留さんに襲いかかり、術式を唱える蕈留さんをつかみ縛り上げた。
 

「無駄です......あなたと私では覚悟がちがうのです」
 

「......木火金行、爆咒菌......」


「その術は!?」

  
 地面に落ちた巨木の実が爆発していき、影全の烏賊の触腕も連続して爆発が起こっていく。


「こんなことをすればあなたも!!」


「僕にも覚悟はある......必ず五行家、いやこの術士の世界を変える......」


 舞台全体が爆炎に包まれ、二人とも場外に投げ飛ばされた。


「大丈夫ですか! 蕈留さん!」


 僕が駆け寄ると、体に火傷を負いながら、


「......すまない、あとは頼む......」


 そう僕の手を握ると蕈留さんは意識を失う。


 うずめに医療室に運んでもらい、僕は蕈留さんの想いを胸に舞台に上がった。
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