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第三章
19.心優しくも強大な古代の神獣②
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魔王は呼ばれ方こそ放り投げたが、メイベルの世話は細やかなものだった。
メイベルに帰る場所がないと知れば住処を与え、着る服も食事も用意する。森の中に、その日のうちに立派な家が建った時など、けた違いの魔法にメイベルは心底おどろいた。
毎日の服も肌触りがよく、意匠もメイベルの好きに合わせてくれるという手厚さ。
当然ながら、生活に不自由はなかった。
このように人の生活に慣れているようで、人の姿になれるのもそのためか、とメイベルが尋ねると、魔王は昔を思い出すような目をしながら頷いた。
そんなことを思い出しながら、魔王から種を受け取って、メイベルは改めて彼を見る。
「出発の予定は明後日にしました。しかし、本当に遺跡に入ってもよろしいのですか?」
「ここを管理している覚えはない」
「では改めて。勝手にお邪魔しますね。……ああ。ヨルノスの遺跡に入れるなんて、なんて幸運なんでしょう!」
緊急使用だったが、転移石はメイベルの望み通りの場所へ運んでいた。
メイベルの目的は、当初の通り遺跡である。神君竜王と出会うのにもっとも可能性がある場所。
そこはアヴァルランド王国の国境を越えた北にあり、ヨルノス遺跡という名で知られている。
近くにコルート家が治める領地があり、メイベルにとって最も親しみのある国外だった。もともと、このヨルノス遺跡のために、メイベルは遺跡探検が趣味になったのだ。
そんなメイベルを、魔王は静かに見つめる。
「……以前に神君竜王の壁画を見たんだってな。だったら、呼ばれているのかもしれないな」
それを聞いて、メイベルは勢いよく振りむく。
「そのお話が本当であるならば、とても光栄なことです」
それでいて別人のように、貴族然とした姿で答える。
魔王は軽くうなずいた。
「お前が先祖返りだとしても、本来ならここまで来れるものではない。本当の故国を目にすることになるだろう」
「今から楽しみにします」
メイベルは目を細めた。
先祖返りの外見のせいで心ない言葉を浴びせられ、軽んじられてきたのだ。魔王の言葉には、胸がいっぱいにならないわけがなかった。
しかし、メイベルはふいに畏まり、真剣な眼差しで竜を見た。
「魔王陛下」
魔王が見下ろす。少女の手は微かに震えていていた。
メイベルは深く息を吸って口を開いた。
「御無礼を承知でお伺いします。――魔王陛下は、本当に魔王であらせられますか? 私は、本当は魔王で、だから遺跡に来れたのでしょうか? ――陛下はなぜ、私に良くしてくださるのですか?」
ずっと訪ねる機会を窺っていたのだろう。メイベルの言う通りその疑問は無礼でもあり、しかし当然の疑問とも言えた。特にこれだけの世話をしてもらう理由が、メイベルの中にはない。
「お前の正体が本当のところ、何者であるかは僕も知らん。少なくとも、僕の知っている魔王ではない」
尋ねられた黒竜は、どこか遠い場所を思い出すように視線をやった。
「かつて魔王は二柱いた。お互いの民が、相手の神をそう罵り合った」
メイベルは軽く目を瞠る。
「そんな歴史が……。初耳です」
「争い自体は知っているだろう。どこまで語られているのかは知らんが、お前も言っていただろう、お前がアヴァルの民が来るより前から居た民の末裔なのは、火を見るより明らかだ」
「ええ……。しかし外見の血は薄れ、いまは魔女の証です」
それがこの地の先住民の末路だった。
魔王は彼らのことを昨日のことのように思い出せるが、人間の時間では遥かに遠い、遠すぎる昔の出来事である。
メイベルに帰る場所がないと知れば住処を与え、着る服も食事も用意する。森の中に、その日のうちに立派な家が建った時など、けた違いの魔法にメイベルは心底おどろいた。
毎日の服も肌触りがよく、意匠もメイベルの好きに合わせてくれるという手厚さ。
当然ながら、生活に不自由はなかった。
このように人の生活に慣れているようで、人の姿になれるのもそのためか、とメイベルが尋ねると、魔王は昔を思い出すような目をしながら頷いた。
そんなことを思い出しながら、魔王から種を受け取って、メイベルは改めて彼を見る。
「出発の予定は明後日にしました。しかし、本当に遺跡に入ってもよろしいのですか?」
「ここを管理している覚えはない」
「では改めて。勝手にお邪魔しますね。……ああ。ヨルノスの遺跡に入れるなんて、なんて幸運なんでしょう!」
緊急使用だったが、転移石はメイベルの望み通りの場所へ運んでいた。
メイベルの目的は、当初の通り遺跡である。神君竜王と出会うのにもっとも可能性がある場所。
そこはアヴァルランド王国の国境を越えた北にあり、ヨルノス遺跡という名で知られている。
近くにコルート家が治める領地があり、メイベルにとって最も親しみのある国外だった。もともと、このヨルノス遺跡のために、メイベルは遺跡探検が趣味になったのだ。
そんなメイベルを、魔王は静かに見つめる。
「……以前に神君竜王の壁画を見たんだってな。だったら、呼ばれているのかもしれないな」
それを聞いて、メイベルは勢いよく振りむく。
「そのお話が本当であるならば、とても光栄なことです」
それでいて別人のように、貴族然とした姿で答える。
魔王は軽くうなずいた。
「お前が先祖返りだとしても、本来ならここまで来れるものではない。本当の故国を目にすることになるだろう」
「今から楽しみにします」
メイベルは目を細めた。
先祖返りの外見のせいで心ない言葉を浴びせられ、軽んじられてきたのだ。魔王の言葉には、胸がいっぱいにならないわけがなかった。
しかし、メイベルはふいに畏まり、真剣な眼差しで竜を見た。
「魔王陛下」
魔王が見下ろす。少女の手は微かに震えていていた。
メイベルは深く息を吸って口を開いた。
「御無礼を承知でお伺いします。――魔王陛下は、本当に魔王であらせられますか? 私は、本当は魔王で、だから遺跡に来れたのでしょうか? ――陛下はなぜ、私に良くしてくださるのですか?」
ずっと訪ねる機会を窺っていたのだろう。メイベルの言う通りその疑問は無礼でもあり、しかし当然の疑問とも言えた。特にこれだけの世話をしてもらう理由が、メイベルの中にはない。
「お前の正体が本当のところ、何者であるかは僕も知らん。少なくとも、僕の知っている魔王ではない」
尋ねられた黒竜は、どこか遠い場所を思い出すように視線をやった。
「かつて魔王は二柱いた。お互いの民が、相手の神をそう罵り合った」
メイベルは軽く目を瞠る。
「そんな歴史が……。初耳です」
「争い自体は知っているだろう。どこまで語られているのかは知らんが、お前も言っていただろう、お前がアヴァルの民が来るより前から居た民の末裔なのは、火を見るより明らかだ」
「ええ……。しかし外見の血は薄れ、いまは魔女の証です」
それがこの地の先住民の末路だった。
魔王は彼らのことを昨日のことのように思い出せるが、人間の時間では遥かに遠い、遠すぎる昔の出来事である。
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