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六話 途切れた言葉と暴かれた真実
しおりを挟むそれは突然のことだった。
いつもなら仕事中でも休憩中でも、何かと私に話しかけてくるルカが、急によそよそしくなった。話しかけても短く答えるだけで、それ以上は会話を続けようとしない。彼の無口さは日を追うごとに際立ち、気まずい沈黙が私たちの間に広がっていた。
「ルカ、最近どうしたの?何かあったの?」
ある日の休憩時間、私は思い切って問いかけた。ルカは一瞬視線をこちらに向けたが、すぐにそらして短く答えた。
「別に」
その冷たい返答に、胸が締め付けられるような思いがした。彼がこんな風に言葉を濁すのは初めてだった。何か深刻な事情があるのだろうか。それとも、私が何かしてしまったのだろうか――そんな不安が頭を巡る。
「何でもないわけないでしょ。話してくれたっていいじゃない」
さらに問い詰めると、ルカは面倒そうにため息をついた。
「エリザベート、放っておいてくれ」
それだけ言い残し、ルカは私を置いてカフェの奥へと消えていった。その背中を見つめながら、どうしてこんなことになってしまったのか、頭の中で答えを探し続けた。
その日の仕事を終え、私はアパートへ帰るために夜道を歩いていた。街灯がぼんやりと光を放つ通りを歩いていると、ふと背後に気配を感じた。振り返ると、そこにはセレナが立っていた。
「セレナ……何の用?」
その姿を見た瞬間、嫌な予感が胸をよぎる。彼女はいつもの冷たい笑みを浮かべながら、一歩私に近づいた。
「こんな夜道を一人で歩くなんて、ずいぶんと無防備ね。まあ、今のあなたにはそれくらいがお似合いかもしれないけど」
「何が言いたいの?」
私は彼女の視線を真っ直ぐに受け止めた。セレナは軽く肩をすくめながら、口元に意地の悪い笑みを浮かべた。
「ルカの様子が変わったこと、気づいてるでしょ?」
その言葉に胸がざわつく。どうしてセレナがそのことを知っているのだろう。
「……それがどうしたの?」
「教えてあげるわ。彼がどうして急にあなたを避けるようになったのかをね」
セレナはゆっくりと私の前に歩み寄ると、わざとらしくため息をついてから続けた。
「実はね、ルカの家族のことをちょっと調べさせてもらったの。彼って、お金に困っている家族がいるのよね。特に弟さん。病気で高額な治療費が必要だとか」
その言葉に、私は凍りついた。ルカの家族の話など聞いたことがなかった。彼はいつも自分のことを多く語らない。でも、セレナの言葉には嫌な説得力があった。
「それでね、その治療費を支援してあげるって話を持ちかけたの。もちろん、タダでなんて言うわけないけど」
「……何をしたの?」
私は震える声で問いかけた。セレナは満足げに微笑み、低い声で答えた。
「簡単なことよ。あの人があなたから距離を置くこと。それだけ。彼が私の言うことを聞かないなら、支援を打ち切るって言ったら、あっさりと私の条件を飲んだわ」
目の前が真っ暗になるような感覚に襲われた。ルカが冷たくなった理由は、私を嫌ったからではなく、セレナの金の力に屈していたからだった。
「どうして、そんなことを……」
私が言葉を絞り出すと、セレナは高笑いを上げた。
「どうして?そんなの簡単よ。あなたが気に食わないから。没落したのに、まだプライドだけは高いあなたを見ると、なんだかムカムカするのよね。だから、どれだけ惨めな立場か思い知らせてあげたくなったの」
セレナの言葉は鋭い刃となって、私の心に突き刺さる。
「ルカは、あなたを庇おうとしたわ。でも、私に逆らえば家族が路頭に迷う。それが分かっているから、私の言いなりになるしかなかったのよ」
セレナは満足そうに笑いながら、最後にこう言い放った。
「結局、今のあなたにはどうしようもできないのよ。あの人のために何かできる力なんて、あなたにはない」
そう言うと、セレナは背を向けて去っていった。私はその場に立ち尽くし、何も言い返すことができなかった。
アパートに戻った私は、部屋の中で膝を抱えて座り込んだ。ルカの態度の理由が分かった今、胸に込み上げるのは無力感だった。彼の家族のために、私は何もできない。自分の無力さを突きつけられ、涙が頬を伝った。
「私には……何もできないの?」
その言葉が、虚しく部屋の中に響いた。
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