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七話 守る為の一歩
しおりを挟む翌朝、私は鏡に映る自分の顔を見つめていた。目は腫れぼったく、疲れた表情が隠しきれない。昨夜のセレナの言葉が頭を離れない。けれど、いつまでも泣いているわけにはいかない。ルカを苦しめているこの状況を、何とかしなければ。
「まずは話を聞かなきゃ……」
私は決意を胸に、カフェへ向かった。
その日もカフェは朝から忙しかった。ルカは相変わらず私との会話を避け、最低限の言葉しか交わしてくれない。それでも、私は仕事終わりのタイミングを見計らい、彼を捕まえることにした。
閉店後、カフェの裏口で待ち伏せしていた私に、ルカは驚いた顔を見せた。
「エリザベート?何してるんだ、こんなところで」
「話がしたいの。逃げないで」
ルカは少し迷うような仕草を見せたが、私の真剣な目を見て観念したのか、静かにうなずいた。私は彼を近くのベンチに誘導し、話を切り出した。
「セレナに何かされたのね?」
ルカの表情が一瞬で強張った。それが答えだと分かった私は、言葉を続けた。
「セレナが言ってたの。あなたの家族のことを人質にしてるって。だから、私を遠ざけなきゃいけないんでしょ?」
「……あいつ、本当にお前に話したのか」
ルカは低い声で呟き、苦々しい顔をした。
「ルカ、全部話して。私は何が起きているのか知りたいの」
彼はしばらく黙っていたが、やがて意を決したように語り始めた。
ルカの弟は、難病を患っていた。治療には莫大な費用が必要で、彼の家族はその負担に苦しんでいたという。セレナはその状況を調べ上げ、治療費を肩代わりする代わりに「エリザベートを遠ざけろ」と条件を突きつけたのだ。
「俺には、断る余裕なんてなかった。家族を見捨てるわけにはいかないから……」
ルカの声は苦しげで、悔しさがにじんでいた。私は彼の横に座り、そっと手を握った。
「それでも、私を守ろうとしてくれたんでしょ?」
「エリザベート……」
「ありがとう、ルカ。でも、もう一人で抱えないで。私たちで何とかしよう」
その夜、私はルカと作戦を練った。セレナの支配に屈するわけにはいかない。幸い、私の家が没落する前の人脈の中に、彼女の背後関係を調べるのに使えそうな人物がいた。彼女の弱みを握る必要がある。
翌日、私はかつての知人に連絡を取り、セレナの財務状況や取引先について調査を依頼した。その結果、驚くべき事実が判明した。セレナは、ある不正取引に関与しているという噂があったのだ。私はこれを利用することに決めた。
数日後、セレナがいつもの取り巻きを連れてカフェに現れた。私は意を決して彼女に近づき、冷静な声で話しかけた。
「セレナ、少し話があるの」
彼女は不機嫌そうに眉をひそめた。
「何の用?まだ何か言い訳するつもり?」
「言い訳なんてしない。ただ、あなたがどれだけのリスクを抱えているか、話しておきたいだけ」
私が意味深な笑みを浮かべると、セレナはわずかに動揺した様子を見せた。
「何を言ってるの?」
「あなたの取引について、少し調べさせてもらったの。どうやら、不正が絡んでいるみたいね。これが公になるとどうなるか、想像できる?」
その瞬間、セレナの顔が青ざめた。
「嘘よ……そんなこと、できるはずがない」
「嘘かどうか、試してみる?私が知っていることを全部明らかにすれば、あなたの評判も地位も、一瞬で崩れると思うけど」
セレナは明らかに追い詰められた表情になり、何か反論しようとしたが言葉が出てこなかった。
「もう一つ。ルカの家族を巻き込むのはやめて。もしこれ以上彼を脅すようなことをしたら、あなたの不正取引についても遠慮なく公表するから」
私は毅然とした態度で言い放った。セレナは歯ぎしりをしながらも、何も言い返せなかった。
「……分かったわ。でも、覚えておきなさい。私を敵に回したことを後悔する日が来るかもしれないわよ」
セレナはそう言い残して店を出ていった。その背中は、これまで見たことのないほど小さく見えた。
セレナが去った後、ルカが心配そうな顔で近づいてきた。
「本当に大丈夫なのか?」
「ええ、大丈夫よ。これで少しは落ち着けるはず」
私は微笑み、彼を安心させるように肩に手を置いた。セレナに一泡吹かせることができたのは確かだが、これで終わりではない。彼女が再び何か仕掛けてくる可能性は十分にある。それでも、私はもう怖くなかった。今はルカと共に立ち向かう覚悟があるからだ。
「ありがとう、エリザベート。本当に助かった」
ルカの感謝の言葉を聞き、私は心から微笑んだ。
「これからも一緒に頑張りましょう。何があっても、私たちは負けないわ」
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