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溺愛幼馴染③
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昨日のあれはなんだったのだろう。夢か、夢だ。
謎の告白のあと、恥ずかしそうに頬を赤く染めた高臣は陽彩の答えを待っていた。だが、なにを答えたらいいのかわからない陽彩は、「お腹空いた」と関係のないことを言ってしまった。きょとんとした高臣は口もとを緩ませて、「可愛いなあ」としみじみ呟いていた。あれが本当に新條高臣なのか。「お邪魔しました」と帰っていった姿を見て、偽物を疑う気持ちが強くなった。本当の本当にあれが高臣なのだろうか。違う人すぎる。
意地悪な高臣はいつも陽彩をからかっていた。足が遅い、食べるのが遅い、ぼけっとしてる――あげはじめたらきりがないくらいにいろいろ言われた。よく思いつくものだと感心するほどに意地悪なことを言うのだ。
意地悪をされた中でも特にショックだったのは、一緒にご飯を食べていたときに陽彩が大好きなえびフライを最後に食べようと残しておいたら食べられたことだ。あのときは一瞬なにが起きたのかわからなかった。思い返しても唖然とする。
本人が言うには意地悪をしている自覚はなかったらしいが、しっかり意地悪だった。どのあたりが「可愛いなあと思っていた」なのか。しかもその高臣から「彼氏になりたい」と立候補されて、どう答えろというのか。
「陽彩ー」
下から母が呼ぶ声が聞こえて部屋を出る。
「高臣くんがきてるわよ」
うわ、と部屋にこもりたくなるが、それができるはずがない。母は高臣に意地悪をされていたことを知らないのだ。心配をかけたくないので、覚悟を決めて階段をおりた。
「なにしてた?」
玄関には背の高いイケメン。なにを食べたらこうなれるのか。
「特にはなにも」
「じゃあ出かけようよ」
「え」
それは遠慮したい。
「いいじゃない。部屋でごろごろしてるより健康的」
母がリビングから顔を出す。
「いってらっしゃい」
もう決まりなのか、とげんなりする。こちらの意見も聞いてほしい。高臣とふたりになると、今日こそ彼の本来の姿が現れそうで怖い。そんな陽彩の考えを読んだかのように、高臣が優しく微笑んだ。
「意地悪なんてしないから、いこう?」
「……」
断ったら逆に陽彩が意地悪をしているようだ。おずおずと頷いて家を出た。
青空が広がっていて、あちこちに花が咲いている。春だ。優しい風が通りすぎると心地よくて深呼吸をしたくなる。だが今はそんなふうにリラックスしてはいけない。
「いい天気だね」
「う、うん」
なんとなく距離を置いて歩くが、不意に近づかれたので一歩離れる。
「俺、本当に意地悪だったよね」
「うん」
本人に聞かれると答えにくいが正直に頷く。
「ごめんね。もう絶対意地悪しないから」
「……」
信じがたいけれど、こんなに真剣に言われたら信じるしかない。
のんびり歩いて近所の公園についた。昔、高臣と遊んだ場所だ。高臣が自動販売機の前で足を止め、飲み物を買う。
「はい」
「ありがとう……」
陽彩の好きなミルクティーを渡され、覚えていてくれたのか、と少し驚く。
「馬鹿だな、俺」
「え?」
「陽彩が可愛いからって意地悪するなんて、信じられない。自分のことでも許せないよ」
これはなんと返すべきか。そうだよ、と同意するべきか、そんな、と恐縮するべきか。昨日から高臣への答えは悩んでばかりだ。
公園のベンチに並んで座り、咲き誇る桜を見あげる。薄ピンク色の花びらがはらはらと散る様は美しくて思わずため息が出た。
「嬉しいな」
「え?」
ぽつりと呟くような声に隣を見ると、とても幸せそうな笑顔に出会った。桜も綺麗だけれど、高臣の微笑みも美しかった。
「俺、陽彩の隣に座ってる。夢みたいだ」
そんなことを喜ばれるなんて恥ずかしくなる。ミルクティーを飲んで心を落ちつけるとほっとした。
意地悪はされないとわかった。これで急に意地悪をしてきたらすごすぎる。
暖かい陽射しが満開の桜の木々に降り注いでいる。公園の前には、通りすぎようとして桜に引き留められたり、数歩戻ってきたりする人が見られた。
「陽彩は、さ」
「なに?」
「やっぱり、俺がいなくなって嬉しかった?」
「それは……」
正直に答えるのがはばかられる質問だ。本音を言ったら傷つけてしまうかもしれない。また昔のような高臣に豹変する可能性もある。
「えっと」
「本当のこと教えて?」
一度口を噤んでから、勇気を出す。こう言われて嘘をつくわけにはいかない。
「……嬉しかった。意地悪されるの嫌だったから」
「そうだよね」
ひとつ息をついた高臣は「うん」と自分に言い聞かせるように頷いた。そんな様子を隣で見ているのが不思議だ。思い出が苦いだけで、引っ越した幼馴染が戻ってきたこと自体は嬉しい。それをうまく伝えられない。意地悪だったけれど、毎日遊んでくれたことは今でも感謝している。
「今度は俺がそばにいて嬉しいと思ってもらえるように頑張る」
「えっ」
「陽彩の一番になりたい」
無邪気な笑顔は昔と変わらないが、性格はまったくの別人だ。そんな彼に振りまわされる予感がした。
謎の告白のあと、恥ずかしそうに頬を赤く染めた高臣は陽彩の答えを待っていた。だが、なにを答えたらいいのかわからない陽彩は、「お腹空いた」と関係のないことを言ってしまった。きょとんとした高臣は口もとを緩ませて、「可愛いなあ」としみじみ呟いていた。あれが本当に新條高臣なのか。「お邪魔しました」と帰っていった姿を見て、偽物を疑う気持ちが強くなった。本当の本当にあれが高臣なのだろうか。違う人すぎる。
意地悪な高臣はいつも陽彩をからかっていた。足が遅い、食べるのが遅い、ぼけっとしてる――あげはじめたらきりがないくらいにいろいろ言われた。よく思いつくものだと感心するほどに意地悪なことを言うのだ。
意地悪をされた中でも特にショックだったのは、一緒にご飯を食べていたときに陽彩が大好きなえびフライを最後に食べようと残しておいたら食べられたことだ。あのときは一瞬なにが起きたのかわからなかった。思い返しても唖然とする。
本人が言うには意地悪をしている自覚はなかったらしいが、しっかり意地悪だった。どのあたりが「可愛いなあと思っていた」なのか。しかもその高臣から「彼氏になりたい」と立候補されて、どう答えろというのか。
「陽彩ー」
下から母が呼ぶ声が聞こえて部屋を出る。
「高臣くんがきてるわよ」
うわ、と部屋にこもりたくなるが、それができるはずがない。母は高臣に意地悪をされていたことを知らないのだ。心配をかけたくないので、覚悟を決めて階段をおりた。
「なにしてた?」
玄関には背の高いイケメン。なにを食べたらこうなれるのか。
「特にはなにも」
「じゃあ出かけようよ」
「え」
それは遠慮したい。
「いいじゃない。部屋でごろごろしてるより健康的」
母がリビングから顔を出す。
「いってらっしゃい」
もう決まりなのか、とげんなりする。こちらの意見も聞いてほしい。高臣とふたりになると、今日こそ彼の本来の姿が現れそうで怖い。そんな陽彩の考えを読んだかのように、高臣が優しく微笑んだ。
「意地悪なんてしないから、いこう?」
「……」
断ったら逆に陽彩が意地悪をしているようだ。おずおずと頷いて家を出た。
青空が広がっていて、あちこちに花が咲いている。春だ。優しい風が通りすぎると心地よくて深呼吸をしたくなる。だが今はそんなふうにリラックスしてはいけない。
「いい天気だね」
「う、うん」
なんとなく距離を置いて歩くが、不意に近づかれたので一歩離れる。
「俺、本当に意地悪だったよね」
「うん」
本人に聞かれると答えにくいが正直に頷く。
「ごめんね。もう絶対意地悪しないから」
「……」
信じがたいけれど、こんなに真剣に言われたら信じるしかない。
のんびり歩いて近所の公園についた。昔、高臣と遊んだ場所だ。高臣が自動販売機の前で足を止め、飲み物を買う。
「はい」
「ありがとう……」
陽彩の好きなミルクティーを渡され、覚えていてくれたのか、と少し驚く。
「馬鹿だな、俺」
「え?」
「陽彩が可愛いからって意地悪するなんて、信じられない。自分のことでも許せないよ」
これはなんと返すべきか。そうだよ、と同意するべきか、そんな、と恐縮するべきか。昨日から高臣への答えは悩んでばかりだ。
公園のベンチに並んで座り、咲き誇る桜を見あげる。薄ピンク色の花びらがはらはらと散る様は美しくて思わずため息が出た。
「嬉しいな」
「え?」
ぽつりと呟くような声に隣を見ると、とても幸せそうな笑顔に出会った。桜も綺麗だけれど、高臣の微笑みも美しかった。
「俺、陽彩の隣に座ってる。夢みたいだ」
そんなことを喜ばれるなんて恥ずかしくなる。ミルクティーを飲んで心を落ちつけるとほっとした。
意地悪はされないとわかった。これで急に意地悪をしてきたらすごすぎる。
暖かい陽射しが満開の桜の木々に降り注いでいる。公園の前には、通りすぎようとして桜に引き留められたり、数歩戻ってきたりする人が見られた。
「陽彩は、さ」
「なに?」
「やっぱり、俺がいなくなって嬉しかった?」
「それは……」
正直に答えるのがはばかられる質問だ。本音を言ったら傷つけてしまうかもしれない。また昔のような高臣に豹変する可能性もある。
「えっと」
「本当のこと教えて?」
一度口を噤んでから、勇気を出す。こう言われて嘘をつくわけにはいかない。
「……嬉しかった。意地悪されるの嫌だったから」
「そうだよね」
ひとつ息をついた高臣は「うん」と自分に言い聞かせるように頷いた。そんな様子を隣で見ているのが不思議だ。思い出が苦いだけで、引っ越した幼馴染が戻ってきたこと自体は嬉しい。それをうまく伝えられない。意地悪だったけれど、毎日遊んでくれたことは今でも感謝している。
「今度は俺がそばにいて嬉しいと思ってもらえるように頑張る」
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