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#1
#1 ⑥
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◇◆◇◆◇
「藍流、流風…心配かけてごめんなさい」
保健室でたくさん寝て寝不足解消してお弁当もちゃんと食べた俺は、藍流と流風がふたりでいるところを見つけて頭を下げて謝罪した。
「奏、もう大丈夫なの?」
流風が聞くので頷くと、藍流も流風もほっとした顔をした。
「それで…ふたりとちゃんと話がしたくて…俺の気持ち、聞いて欲しくて」
「うん。俺も流風も、奏の気持ちが聞きたい」
藍流の言葉に、俺もほっとする。
「よかった…」
「なにが?」
「もう俺の話なんて聞きたくないって言われたらどうしようかと思ってたから…」
ちょっと涙ぐんでしまうと、ふたりがちょっと慌てる。
「俺達が奏の話を聞きたくないなんて言うわけないよ。どんな話でも聞きたい」
「流風の言う通りだよ。なんでも話して?」
「うん…ありがとう」
ゆっくり話せるようにうちにおいでって言われて、帰りに矢橋家にお邪魔する約束をして俺は教室に戻った。
◇◆◇◆◇
奏が教室に戻って行く背中を藍流と流風が見つめる。
「…別れ話だったらどうする? 流風」
「聞かなかった事にする」
「だよね」
「うん」
緊張がピリッとふたりの背筋を走った。
◇◆◇◆◇
「お邪魔します」
「親はどっちも仕事でいないから大丈夫」
「うん…」
藍流の生徒会の仕事が終わるのを待って、三人で矢橋家へ。
「なにか飲み物持っていくから、流風と先に俺の部屋行ってて」
「あ、ううん…飲み物はいいよ」
「でも」
「それより、俺の話、ふたりに聞いて欲しいから…」
俺が藍流と流風のブレザーの袖をきゅっと握ると、ふたりは優しく微笑んで頷いてくれた。
藍流の部屋に三人で入って、いつもお弁当を食べていた時と同じ、俺の左隣に流風、右隣に藍流で座る。
「もう具合悪くない?」
「うん。心配かけてごめんなさい」
「気分悪くなったらすぐ言ってね」
「ありがとう」
藍流も流風も自分の事のように俺を心配してくれる。
俺はちゃんと自分の気持ちをふたりに話さないと。
「…俺、藍流と流風がすごく好き」
「うん。ありがとう」
「でも…ふたりがいつか離れて行っちゃうんじゃないかって…すごく怖くなって」
「うん…」
俺が言葉を探しながら話すのを、ふたりは静かに聞いてくれる。
「ふたりがあんまり優しく俺を愛してくれるから、ひとりになるのがすごく怖くて…。いつか失うなら、最初から手に入れないほうがいい、これ以上ふたりを深く知らないほうがいいって思った」
「…うん」
「だからふたりから逃げました。ごめんなさい」
頭を下げる。
「奏は俺と流風が好き?」
「大好き。この一週間、ふたりがそばにいないのがすごく辛かった。でも、手遅れになる前に離れなくちゃって…捨てられた時の傷が怖くて、だから俺のほうから離れたほうがいいって思っ、て…っ」
涙が溢れてくる。
「でも、もうとっくに手遅れだった…藍流と流風がいない毎日なんて耐えられない。息もできない…。いつ捨てられてもいいから、それまではそばに置いて欲しい…」
どんどん涙が伝っていく俺の頬に、ふたりが触れる。
「奏が俺達を嫌になったわけじゃないの?」
藍流が聞くので頷く。
「嫌になんてなるはずない…」
どうやったら嫌になれるか教えてもらったって絶対嫌になれない。
大好きで、大切なふたり。
「じゃあ、これからもそばにいていい?」
流風が聞く。
俺は流風と藍流の顔を交互に見る。
「ふたりが俺に飽きるまでそばにいて…」
「俺と流風が奏に飽きたら捨てていいの?」
「……」
「教えて?」
「…やだ。飽きられてもそばにいたい。ふたりにしがみ付いて離れたくない…」
藍流と流風の手をぎゅっと握ったら、その手を握り返されてそのままふたりに抱き締められた。
「よかった…よかった…!」
「ありがとう、奏…!」
藍流と流風も泣きそうな顔で俺を抱き締める。
久しぶりのふたりの温もりと、ふたりの香りに涙がまた溢れてくる。
「藍流、流風…自分勝手な事して傷付けてごめんなさい…」
「いいよ、奏が俺達のところに帰ってきてくれたから、それだけでいい。奏がいなくなっちゃうんじゃないかって、ほんとに怖かった…」
「うん。俺も流風と同じ…奏が戻って来て、俺達に向き合ってくれて…もう、それだけでいい。奏が離れて行ったらどうしようってすごく怖かった」
「ふたりも怖かった…?」
「当たり前だよ。俺だって流風だって、奏に捨てられたら二度と立ち直れない」
怖いのは俺だけじゃないんだ…。
俺、自分の事ばっかりだった。
「ねえ、奏。俺達が告白した時の言葉、覚えてる?」
流風が聞くので、頷く。
「『一生大切にするから俺を選んで』でしょ?」
「そう。俺、奏を一生大切にするから、なにも心配しなくていいよ」
「俺だって奏を一生離さないし、絶対大切にする」
流風も藍流も、俺をぎゅうぎゅう抱き締めて言う。
その力強さが嬉しい。
「「だから、一生そばにいて…」」
ふたりのちょっと震える声が重なった。
怖いのはまだ消えないけど、ふたりが俺を求めてくれてる。
俺もふたりを求めている。
いつかを不安になって逃げ回ってたら藍流と流風を傷付けるだけ。
傷付けたくないなら、逃げるのをやめて、怖さにもふたりにも自分にも向き合わないと。
藍流と流風が俺から身体を離す。
ふたりとも少し瞳が潤んでる。
「ほんとはね、俺も藍流も、最初は奏の見た目を好きになった」
「見た目…」
この平凡な見た目を…。
「うん。でも前にも言ったよね? 知れば知るほど奏を好きになっていくって。毎日色んな奏を知って、気持ちがどんどん膨らんでくんだ」
「そう。俺も流風も、毎日好きが大きくなっていって、苦しいくらい奏が欲しくなる。だから…」
「だから?」
俺が聞くと、ふたりが俺の手を片方ずつ取る。
藍流が右手を、流風が左手を。
「もう二度と逃がしてあげない」
ちゅっと指先に同時にキスされて、顔が熱くなってちょっと俯いた。
「ねえ奏?」
「なに?」
「奏の初めての男はどっちがいい?」
「え?」
「俺か藍流か」
「え??」
初めてってなんの?
脈が異常に速くなって顔が更に熱くなる。
「えっと…俺の事より、俺は藍流と流風の初めてにはなれない…?」
するっとこんな言葉が出た。
ふたりとも、どんなに告白されても頷いた事がないって前に聞いたけど、そういう経験全くないって事はなさそう。
なにか、なんでもいいからふたりの初めてが欲しい。
「……ちょっと待ってて、奏」
「? うん」
藍流と流風が俺から離れて立ち上がって、部屋の隅でなにかこそこそ話してる。
なんだろう…と思ってたらまた俺の両隣に戻って来た。
「藍流、流風…心配かけてごめんなさい」
保健室でたくさん寝て寝不足解消してお弁当もちゃんと食べた俺は、藍流と流風がふたりでいるところを見つけて頭を下げて謝罪した。
「奏、もう大丈夫なの?」
流風が聞くので頷くと、藍流も流風もほっとした顔をした。
「それで…ふたりとちゃんと話がしたくて…俺の気持ち、聞いて欲しくて」
「うん。俺も流風も、奏の気持ちが聞きたい」
藍流の言葉に、俺もほっとする。
「よかった…」
「なにが?」
「もう俺の話なんて聞きたくないって言われたらどうしようかと思ってたから…」
ちょっと涙ぐんでしまうと、ふたりがちょっと慌てる。
「俺達が奏の話を聞きたくないなんて言うわけないよ。どんな話でも聞きたい」
「流風の言う通りだよ。なんでも話して?」
「うん…ありがとう」
ゆっくり話せるようにうちにおいでって言われて、帰りに矢橋家にお邪魔する約束をして俺は教室に戻った。
◇◆◇◆◇
奏が教室に戻って行く背中を藍流と流風が見つめる。
「…別れ話だったらどうする? 流風」
「聞かなかった事にする」
「だよね」
「うん」
緊張がピリッとふたりの背筋を走った。
◇◆◇◆◇
「お邪魔します」
「親はどっちも仕事でいないから大丈夫」
「うん…」
藍流の生徒会の仕事が終わるのを待って、三人で矢橋家へ。
「なにか飲み物持っていくから、流風と先に俺の部屋行ってて」
「あ、ううん…飲み物はいいよ」
「でも」
「それより、俺の話、ふたりに聞いて欲しいから…」
俺が藍流と流風のブレザーの袖をきゅっと握ると、ふたりは優しく微笑んで頷いてくれた。
藍流の部屋に三人で入って、いつもお弁当を食べていた時と同じ、俺の左隣に流風、右隣に藍流で座る。
「もう具合悪くない?」
「うん。心配かけてごめんなさい」
「気分悪くなったらすぐ言ってね」
「ありがとう」
藍流も流風も自分の事のように俺を心配してくれる。
俺はちゃんと自分の気持ちをふたりに話さないと。
「…俺、藍流と流風がすごく好き」
「うん。ありがとう」
「でも…ふたりがいつか離れて行っちゃうんじゃないかって…すごく怖くなって」
「うん…」
俺が言葉を探しながら話すのを、ふたりは静かに聞いてくれる。
「ふたりがあんまり優しく俺を愛してくれるから、ひとりになるのがすごく怖くて…。いつか失うなら、最初から手に入れないほうがいい、これ以上ふたりを深く知らないほうがいいって思った」
「…うん」
「だからふたりから逃げました。ごめんなさい」
頭を下げる。
「奏は俺と流風が好き?」
「大好き。この一週間、ふたりがそばにいないのがすごく辛かった。でも、手遅れになる前に離れなくちゃって…捨てられた時の傷が怖くて、だから俺のほうから離れたほうがいいって思っ、て…っ」
涙が溢れてくる。
「でも、もうとっくに手遅れだった…藍流と流風がいない毎日なんて耐えられない。息もできない…。いつ捨てられてもいいから、それまではそばに置いて欲しい…」
どんどん涙が伝っていく俺の頬に、ふたりが触れる。
「奏が俺達を嫌になったわけじゃないの?」
藍流が聞くので頷く。
「嫌になんてなるはずない…」
どうやったら嫌になれるか教えてもらったって絶対嫌になれない。
大好きで、大切なふたり。
「じゃあ、これからもそばにいていい?」
流風が聞く。
俺は流風と藍流の顔を交互に見る。
「ふたりが俺に飽きるまでそばにいて…」
「俺と流風が奏に飽きたら捨てていいの?」
「……」
「教えて?」
「…やだ。飽きられてもそばにいたい。ふたりにしがみ付いて離れたくない…」
藍流と流風の手をぎゅっと握ったら、その手を握り返されてそのままふたりに抱き締められた。
「よかった…よかった…!」
「ありがとう、奏…!」
藍流と流風も泣きそうな顔で俺を抱き締める。
久しぶりのふたりの温もりと、ふたりの香りに涙がまた溢れてくる。
「藍流、流風…自分勝手な事して傷付けてごめんなさい…」
「いいよ、奏が俺達のところに帰ってきてくれたから、それだけでいい。奏がいなくなっちゃうんじゃないかって、ほんとに怖かった…」
「うん。俺も流風と同じ…奏が戻って来て、俺達に向き合ってくれて…もう、それだけでいい。奏が離れて行ったらどうしようってすごく怖かった」
「ふたりも怖かった…?」
「当たり前だよ。俺だって流風だって、奏に捨てられたら二度と立ち直れない」
怖いのは俺だけじゃないんだ…。
俺、自分の事ばっかりだった。
「ねえ、奏。俺達が告白した時の言葉、覚えてる?」
流風が聞くので、頷く。
「『一生大切にするから俺を選んで』でしょ?」
「そう。俺、奏を一生大切にするから、なにも心配しなくていいよ」
「俺だって奏を一生離さないし、絶対大切にする」
流風も藍流も、俺をぎゅうぎゅう抱き締めて言う。
その力強さが嬉しい。
「「だから、一生そばにいて…」」
ふたりのちょっと震える声が重なった。
怖いのはまだ消えないけど、ふたりが俺を求めてくれてる。
俺もふたりを求めている。
いつかを不安になって逃げ回ってたら藍流と流風を傷付けるだけ。
傷付けたくないなら、逃げるのをやめて、怖さにもふたりにも自分にも向き合わないと。
藍流と流風が俺から身体を離す。
ふたりとも少し瞳が潤んでる。
「ほんとはね、俺も藍流も、最初は奏の見た目を好きになった」
「見た目…」
この平凡な見た目を…。
「うん。でも前にも言ったよね? 知れば知るほど奏を好きになっていくって。毎日色んな奏を知って、気持ちがどんどん膨らんでくんだ」
「そう。俺も流風も、毎日好きが大きくなっていって、苦しいくらい奏が欲しくなる。だから…」
「だから?」
俺が聞くと、ふたりが俺の手を片方ずつ取る。
藍流が右手を、流風が左手を。
「もう二度と逃がしてあげない」
ちゅっと指先に同時にキスされて、顔が熱くなってちょっと俯いた。
「ねえ奏?」
「なに?」
「奏の初めての男はどっちがいい?」
「え?」
「俺か藍流か」
「え??」
初めてってなんの?
脈が異常に速くなって顔が更に熱くなる。
「えっと…俺の事より、俺は藍流と流風の初めてにはなれない…?」
するっとこんな言葉が出た。
ふたりとも、どんなに告白されても頷いた事がないって前に聞いたけど、そういう経験全くないって事はなさそう。
なにか、なんでもいいからふたりの初めてが欲しい。
「……ちょっと待ってて、奏」
「? うん」
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