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運命と運命㉔
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「なんか違う」
「こっちは?」
デパートで目当てのものがなく、ドラッグストアに移動した。
依人がしたいことのひとつめは、「篤紀から感じたにおいと同じものがほしい」だった。香水コーナーでふたりでフェロモン香水のにおいを嗅ぐ。
「甘いんだけど、こういう感じじゃなくて」
首もとに顔を近づけてくる依人に恥ずかしくなって軽く身体を引くと、腰を抱き寄せられて逃げられなくなった。
「あのときしかしなかったんだよな。あれは絶対篤紀のフェロモンだ」
「ベータの依人にも感じられたってこと?」
依人の胸に手を置いて再度身体を離そうと試みる。依人は残念そうな顔で篤紀の腰にまわした手をほどいた。
「そう。きっと神様が俺の願いを叶えてくれたんだよ」
フェロモン香水のにおいを嗅いで依人は眉をひそめる。
「こんなにおいじゃない。もっと優しくて甘くて、夢みたいなにおいだ」
「そんなのあるのかな。あ、これは?」
「似てるかも」
においを嗅いで、うん、と頷く。篤紀には依人がどんなにおいを感じたかまったくわからないので、甘くて優しいという手がかりでフェロモン香水を嗅ぐ。
「これがいい」
先ほど似ていると言った香水を手に取る依人に目を丸くしてしまう。ひとつではなく、ふたつも三つもカゴに入れている。
「そんなに買うの?」
「あるだけ買う」
さすがに買いすぎでは、と思う篤紀に、依人はまた悪戯っぽく笑んで見せる。今度はなにを思いついたのだろう、と首をかしげる。
「今夜からこれつけてくれる?」
「えっ、オメガがフェロモン香水つけるの?」
そんなのは聞いたことがない。香水のパッケージを見ると「全性向け」と書かれているから、おかしいことではないのかもしれないけれど、篤紀は考えたこともなかった。
「夜だけな。これなら俺だって篤紀のにおいがわかるだろ。このにおいが、俺にとっての篤紀のフェロモンだ」
依人が満足そうで、その表情を見ていたら、細かいことはどうでもいいか、と思えてきた。気持ちが伝染してきて、こちらまで楽しくなってくる。
「じゃあ、ちょっと頑張っちゃおうかな」
「頑張るのは俺」
耳もとで囁かれて頬が熱くなる。「馬鹿」と依人の胸を軽く叩いた。
なんだか依人が知らない人のようだ。こんなに恰好よかったかな、とどきどきする。
「それで、次のしたいことなんだけど」
「うん」
「――――」
「え?」
続けて耳もとで告げられた言葉に驚く。顔を見あげると、依人は緊張した面持ちで篤紀を見つめていた。
翌週の土曜日、昼前に出発して篤紀の実家に向かった。
依人がしたいことのふたつめは、「篤紀の実家に行きたい」ということだった。理由を聞いても教えてくれないので、篤紀は首をかしげてばかりだ。
いつもと違う彼の様子を注意して見ていると緊張しているようだけれど、依人は篤紀の両親に会うのがはじめてというわけでもない。すべてが謎だ。
家につくと、事前に連絡をしてあったので、両親が揃って出迎えてくれた。
「急にどうしたの?」
母に聞かれて、篤紀も首をかしげる。依人のふたつめのしたいことを聞いてから、ずっと首を傾けている気がする。
「うん。依人が行きたいって言うから」
篤紀が答えると、父と母の視線が依人に移った。
「依人くんが?」
篤紀も隣を見る。隣の依人は真剣な表情で篤紀の父と母をまっすぐ見ていた。
「お約束したいことがあってお邪魔しました」
「約束?」
「約束?」
篤紀と父の声が重なる。かすかに口もとを綻ばせた依人は、すぐにまた表情を引き締める。
「篤紀さんを必ず幸せにします。この世でこれ以上幸せな人はいないくらい幸せにすることをお約束します」
頭をさげる依人に、父と母だけでなく篤紀まで驚く。視界がゆらりと揺れて、最近は涙腺が緩みっぱなしだ、と篤紀は自分のことながら苦笑した。
「俺はもう幸せだよ?」
「もっと幸せにする」
依人の答えに、抱きつきたくなるのを必死でこらえた。さすがに親の前では恥ずかしい。
「とりあえず、あがって」
母に促されて靴を脱ぐ。依人はまだ緊張しているように表情が固まっているが、そんな彼を見つめる父と母の笑顔の優しさに、拓けた未来がさらに明るくなるのを感じた。
夕方、手をつないで帰路につく。たくさんの料理を用意してくれていて、いろいろと話をしていたらこんな時間になっていた。
名残惜しそうな顔で見送ってくれた両親は、「今度は泊まりでおいで」と依人に声をかけていた。行きたいと言ってくれたのは依人だけれど、篤紀も久々に両親の顔が見られて嬉しかった。でも、それ以上に篤紀を喜ばせたのは依人の決意だ。
「びっくりした」
「だよな、ごめん。でも、どうしても篤紀のご両親に伝えたかったんだ。俺が篤紀を幸せにすること」
行きと違って表情が和らいだ依人に心からの笑みを贈る。
「ありがとう」
つないだ手に力を込めると、それ以上の強さで握り返してくれた。
ふたりで寄り添いながら夕暮れの道を進んで行く。
「で、三つめな」
「なに?」
「明日はスーパーに行こう」
楽しそうな依人には、もうせつなさの陰がない。ほっとしながら篤紀も胸を弾ませた。
「こっちは?」
デパートで目当てのものがなく、ドラッグストアに移動した。
依人がしたいことのひとつめは、「篤紀から感じたにおいと同じものがほしい」だった。香水コーナーでふたりでフェロモン香水のにおいを嗅ぐ。
「甘いんだけど、こういう感じじゃなくて」
首もとに顔を近づけてくる依人に恥ずかしくなって軽く身体を引くと、腰を抱き寄せられて逃げられなくなった。
「あのときしかしなかったんだよな。あれは絶対篤紀のフェロモンだ」
「ベータの依人にも感じられたってこと?」
依人の胸に手を置いて再度身体を離そうと試みる。依人は残念そうな顔で篤紀の腰にまわした手をほどいた。
「そう。きっと神様が俺の願いを叶えてくれたんだよ」
フェロモン香水のにおいを嗅いで依人は眉をひそめる。
「こんなにおいじゃない。もっと優しくて甘くて、夢みたいなにおいだ」
「そんなのあるのかな。あ、これは?」
「似てるかも」
においを嗅いで、うん、と頷く。篤紀には依人がどんなにおいを感じたかまったくわからないので、甘くて優しいという手がかりでフェロモン香水を嗅ぐ。
「これがいい」
先ほど似ていると言った香水を手に取る依人に目を丸くしてしまう。ひとつではなく、ふたつも三つもカゴに入れている。
「そんなに買うの?」
「あるだけ買う」
さすがに買いすぎでは、と思う篤紀に、依人はまた悪戯っぽく笑んで見せる。今度はなにを思いついたのだろう、と首をかしげる。
「今夜からこれつけてくれる?」
「えっ、オメガがフェロモン香水つけるの?」
そんなのは聞いたことがない。香水のパッケージを見ると「全性向け」と書かれているから、おかしいことではないのかもしれないけれど、篤紀は考えたこともなかった。
「夜だけな。これなら俺だって篤紀のにおいがわかるだろ。このにおいが、俺にとっての篤紀のフェロモンだ」
依人が満足そうで、その表情を見ていたら、細かいことはどうでもいいか、と思えてきた。気持ちが伝染してきて、こちらまで楽しくなってくる。
「じゃあ、ちょっと頑張っちゃおうかな」
「頑張るのは俺」
耳もとで囁かれて頬が熱くなる。「馬鹿」と依人の胸を軽く叩いた。
なんだか依人が知らない人のようだ。こんなに恰好よかったかな、とどきどきする。
「それで、次のしたいことなんだけど」
「うん」
「――――」
「え?」
続けて耳もとで告げられた言葉に驚く。顔を見あげると、依人は緊張した面持ちで篤紀を見つめていた。
翌週の土曜日、昼前に出発して篤紀の実家に向かった。
依人がしたいことのふたつめは、「篤紀の実家に行きたい」ということだった。理由を聞いても教えてくれないので、篤紀は首をかしげてばかりだ。
いつもと違う彼の様子を注意して見ていると緊張しているようだけれど、依人は篤紀の両親に会うのがはじめてというわけでもない。すべてが謎だ。
家につくと、事前に連絡をしてあったので、両親が揃って出迎えてくれた。
「急にどうしたの?」
母に聞かれて、篤紀も首をかしげる。依人のふたつめのしたいことを聞いてから、ずっと首を傾けている気がする。
「うん。依人が行きたいって言うから」
篤紀が答えると、父と母の視線が依人に移った。
「依人くんが?」
篤紀も隣を見る。隣の依人は真剣な表情で篤紀の父と母をまっすぐ見ていた。
「お約束したいことがあってお邪魔しました」
「約束?」
「約束?」
篤紀と父の声が重なる。かすかに口もとを綻ばせた依人は、すぐにまた表情を引き締める。
「篤紀さんを必ず幸せにします。この世でこれ以上幸せな人はいないくらい幸せにすることをお約束します」
頭をさげる依人に、父と母だけでなく篤紀まで驚く。視界がゆらりと揺れて、最近は涙腺が緩みっぱなしだ、と篤紀は自分のことながら苦笑した。
「俺はもう幸せだよ?」
「もっと幸せにする」
依人の答えに、抱きつきたくなるのを必死でこらえた。さすがに親の前では恥ずかしい。
「とりあえず、あがって」
母に促されて靴を脱ぐ。依人はまだ緊張しているように表情が固まっているが、そんな彼を見つめる父と母の笑顔の優しさに、拓けた未来がさらに明るくなるのを感じた。
夕方、手をつないで帰路につく。たくさんの料理を用意してくれていて、いろいろと話をしていたらこんな時間になっていた。
名残惜しそうな顔で見送ってくれた両親は、「今度は泊まりでおいで」と依人に声をかけていた。行きたいと言ってくれたのは依人だけれど、篤紀も久々に両親の顔が見られて嬉しかった。でも、それ以上に篤紀を喜ばせたのは依人の決意だ。
「びっくりした」
「だよな、ごめん。でも、どうしても篤紀のご両親に伝えたかったんだ。俺が篤紀を幸せにすること」
行きと違って表情が和らいだ依人に心からの笑みを贈る。
「ありがとう」
つないだ手に力を込めると、それ以上の強さで握り返してくれた。
ふたりで寄り添いながら夕暮れの道を進んで行く。
「で、三つめな」
「なに?」
「明日はスーパーに行こう」
楽しそうな依人には、もうせつなさの陰がない。ほっとしながら篤紀も胸を弾ませた。
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