運命と運命

すずかけあおい

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運命と運命㉓

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 車の中では依人も篤紀も無言だった。帰宅して玄関に入ってすぐにまた抱きしめ合う。きちんと彼のにおいを感じるのはとても久しぶりで、また涙が滲む。心がほぐれる優しいにおいは自分がなにより求めていたものだ。
「ごめん」
 依人は篤紀の目を見て謝罪を紡いだ。
「本当に俺でいいのか自信がなくなってた」
 ゆっくりと、言葉を探しながら話す依人の声に耳を傾ける。その声がまた聞けることさえ夢のようだ。
「これまでも篤紀に運命の番が現れたら身を引くことを覚悟してつき合ってきた。そうするのが一番いいだろうから……。でも篤紀が望んでくれるならそばにいたいと思ってた」
「うん……」
 せつなく歪んだ顔に心がぎゅうっと締めつけられる。
「だけど実際に運命の番が現れたら、……篤紀が望んでくれても不安になった」
 眉を寄せる依人の手を取り、自分の頬にその手のひらを当てた。指先はまた冷たくなっている。温めてあげたくて両手で依人の手を包む。
「俺の気持ちが篤紀を縛ってるんじゃないかって考えになった。篤紀があいつのところに行ったら立ち直れないくせに、篤紀に本当の幸せを掴んでほしいと思ったんだ」
「俺の幸せは依人だよ。依人がいないと幸せになんてなれない」
 はっきり告げると依人は泣き出しそうに表情をくしゃくしゃにした。そんな表情さえ愛しくて胸が熱くなる。
「そうだよな。ごめん」
 再び謝る依人の腕に手を添える。
 たしかに依人がいて、自分は依人に触れている。もう二度と近づけないと覚悟していた篤紀にはこの瞬間は奇跡だ。
「だから『俺じゃない』なんて言ったの?」
 依人が頷く。
「冷たい俺よりあいつを選ぶと思ったんだ。どんなに否定して拒絶しても惹かれるのが運命の番だから」
 そう言ったあとに、依人は「違うな」と呟いた。苦々しい表情を浮かべ、篤紀の手をきつく握る。
 どんな表情でも、こんなにそばで見られるのが嬉しい。彼のもとに戻って来られたのだと、実感がどんどん湧いてくる。
「いろいろ言っても、結局俺は自分が傷つくのが怖かったんだ。そのときの傷を極力避けるために篤紀に冷たくした。篤紀のためじゃなくて、全部自分のためだった。ごめん。篤紀はつらかったよな」
「うん。つらかったし、それに――」
「なに?」
 言い淀むと、続きを促された。ひとつ深呼吸をしてから依人の瞳を見つめて口を開く。
「優しい光成さんにちょっと惹かれた。運命の番だからか、それ以外の感情かはわからないけど」
 事実をありのままに伝えると、依人はいくらか冴えない表情をした。それでもこのことを伝えずには前に進めない。依人が自身の中の真実を伝えてくれたのだから、自分も同じように真実を伝えるべきだ。互いに向き合わないといけない。
「そうなるように仕向けたのは俺だ」
「定められた運命には勝てないんだと思った」
 運命は当たり前を壊すのだと、すべてを諦めた。
「もう、依人とは、だめなんだって、つらくて……っ」
 視界の中の依人がゆらゆらと揺れて、溢れた涙が頬を伝った。揺らめく視界の中の依人が照明の明かりできらきらと光る。
「ごめん。本当にごめん」
 抱きしめられてその腕に身体を委ねる。懐かしい力強さに安堵して、ますます涙が込みあげる。でも、あまり泣くと依人の姿が見えなくなってしまう。ぐっと奥歯を噛み締めて、零れ落ちそうな涙をこらえた。
「俺の答えは篤紀を手放さないことだ」
 部屋を飛び出す前に篤紀が問いかけた言葉の答えがようやく返ってくる。決意を宿した瞳からは引け目や負い目などはいっさい感じられなかった。
「もう迷わない。俺は篤紀を絶対に幸せにする。ずっと悩んだけど、やっぱり俺は篤紀を誰にも渡したくない」
 これ以上泣かないようにしているのに、涙が溢れることばかり伝えてくれる依人に胸がいっぱいになった。両手で包んだままの依人の手を胸もとで抱きしめる。
 表情を緊張させた依人の視線が、まっすぐに篤紀を捕まえる。
「好きだ。篤紀しか愛せない」
 ようやく聞けた依人の気持ちに、やはり涙が滲む。どちらからともなく唇を重ねて身を寄せ合う。互いに深く求めると身体が熱くなってきた。久々の触れ合いに心が燃えて止まれない。通じた思いが相手を求める動きを性急にした。
 唇を甘噛みされてぴくりと肩が跳ねあがる。顎や歯茎を舌でなぞられると腰にどくんと快感が響く。依人に抱きあげられてベッドに運ばれ、服を脱ぐ間ももどかしいと身体をまさぐられた。
 シャツ越しに胸の突起を口に含まれ、ねっとりとねぶられる。薄い生地一枚でさえ隔てるものが邪魔で、篤紀は自分でシャツのボタンをはずしていく。露わになった突起はすでにぷくりと芯を持ち、赤く色づいていた。
 形をたしかめるように舌でなぞられ、反対側の突起も指でつままれる。捏ねて潰されると腰の奥に淡く熱が灯った。
「依人……もういいから」
「だめだ。もっと味わいたい」
 スラックスと下着を取り去られ、角度を変えて存在を主張する昂ぶりに依人の長い指が絡む。濡れそぼったそれは張り詰めていて、少し扱かれただけで簡単に白濁を吐き出した。
「……はあっ……、依人、もうきて……早く……」
 待ちきれなくて、依人のスラックスの前立てを押しあげている猛りに触れる。重く熱い劣情は篤紀を求めてこれ以上ないくらいの硬度を持っていた。
 早くほしくて篤紀は足を広げ、両手で尻を開いて自ら孔を見せつける。
「ここ……早く……」
「っ……煽るな」
 欲情をたたえた依人の瞳にぞくりとする。濡れた孔に忍び込む昂ぶりにうっとりと酔いしれると、いきなり最奥まで穿たれて篤紀の昂ぶりが再び弾けた。
「ごめん。篤紀があんまり綺麗で我慢できなかった」
「いい。もっとして……もっときて……」
 腰を揺らしてねだると依人が深くまで内壁を抉る。どこをこすられても気持ちよくて、目の前が点滅した。
「ああっ……、依人、そこ……っ」
「ここ好きだよな」
「好き、もっときて……っ、もっと……っ」
 自分でも驚くほど甘えた声が出る。せつなく表情を歪める依人に窄まりがきゅんと締まった。
 キスを交わして吐息を分け合う。本能が依人を求めるのをたしかに感じて篤紀が白濁を放つと、依人がぴたりと動きを止めた。なんとも言いがたい不思議な表情で篤紀の首もとに顔をうずめる。
「え……」
 突然冷静になったような依人は、驚きの声をあげる。
「なに……?」
 篤紀が聞くと、彼の瞳が熱を宿らせた。すん、とにおいを嗅いだ依人の頬が紅潮する。
「においがする」
「におい?」
「甘くて、すごく優しいのに興奮するにおい」
 腰を掴まれ、奥の奥まで貫かれた。身体が反るほどの勢いに、目の前がちかちかする。今までにないほど奥深くを抉られ、嬌声が溢れ出た。
「依人、だめ……激し……っ」
「ごめん……っ、止まれない」
 穿たれるたびに雷に打たれるような痺れが全身を駆け抜ける。依人の動きが速まり、篤紀もまた追い詰められていく。
「いく、いっちゃ……っ」
「ああ……。俺も」
 依人の熱い呼吸を唇に感じて瞼をおろすと、噛みつくような口づけで舌を貪られる。ひと際深いところを突かれ、何度目かわからない限界に達した。依人も追いかけるように奥をさぐり、身体を小さく震わせて欲望を放った。
 乱れたシーツの上で抱きしめ合う。甘いキスに吐息を呑み込まれて依人にしがみつくと、中に入ったままの昂ぶりが再び熱を持っていくのを感じる。
「ごめん。すぐ抜くから」
「なんで? 依人が足りないよ」
 もっとほしい、とねだると、依人の瞳の奥に情欲が燃えた。ごくり、と生唾を飲み込む音に肌が粟立ち、頬が火照る。篤紀もまた下半身に熱が集まった。
「……泣いてやめてって言っても聞けないからな」
「言わないよ。ずっと抱いていて」
 互いをさぐり、身体だけでなく心の深く、一番奥までつながる。時間を忘れて体温を伝え合った。

 肌の火照りが醒めてきた頃、依人が篤紀のにおいを嗅いで首をかしげた。
「もうあのにおいがしない」
「においってフェロモン?」
「わからない。今までに嗅いだことがないにおいだった」
 ベータの依人には篤紀のフェロモンは感じ取れないはずだ。ふたりで首をかしげる。
「なんだろうな。でも篤紀のフェロモンだったらいいな」
 依人が嬉しそうに頬を緩ませる。それがとても愛しくて篤紀はひとつキスを贈った。
「……あいつ、仕事ではまだ篤紀とかかわるんだよな」
 依人がぽつりと呟く。今度はその表情も声も不満を露わにしている。
「もう光成さんにとって俺は興味の対象じゃないよ」
「それでも気に入らないし、本当に諦めるかも疑わしい」
 腰を抱き寄せられてキスをもらう。何度も降ってくるキスがくすぐったい。
 たしかに篤紀も不安があるが、別れ際の様子から、あの人はもう篤紀に固執しないのではないかと思う。なぜだかわからないけれど、光成の篤紀への感情が薄くなったように感じたのだ。
 篤紀の額にキスをした依人が強い瞳を見せる。
「なにがあっても俺が守るけどな。俺はもう絶対に篤紀を手放そうとなんてしない。どんなことを仕掛けられたとしても引かないよ」
 胸が甘く締めつけられて嬉しさに微笑むと、依人もまた表情を緩めた。
「あのさ」
「なに?」
「明日出かけないか?」
「いいけど?」
 やりたいことが三つあるんだ、と依人は悪戯っぽく微笑んだ。
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