普通の勇者とハーレム勇者

リョウタ

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6章 勇者と、魔族と、王女様

戦闘メイド

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♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

~マリア視点~

王宮の離れた場所。
此処で軟禁されているマリアは外が騒がしくなって来た事を不安に思っていた。
城内もそうだが特に城の外で兵士達が煩い。


「……いったい何が起きてるの?」

こんな場所からでも解るのだから、実際、とんでもない騒ぎの筈……なのに捕らえられていて身動き取れないのがマリアはもどかしくて仕方なかった。


──軟禁部屋とは考えられないほど高価そうな椅子に腰掛け、ずっとそわそわしているマリアだった。
そんな最中、何者かが入り口の鍵を開けて中へと入って来た。

姉やマリアを乱暴に扱った騎士と違い、丁寧なノックをした後、静かに入室して来たのは二人の歳若きメイドである。
更に二人は入室後マリアの側で膝を着き王礼をとる。

そんな二人にマリアは見覚えがあった。
もちろんメイドとしての見覚えではなく、二人のメイドにとっては都合の悪い印象。
少し思考し、マリアは二人の事を思い出す。


「──貴女達は、確か勇者歓迎パーティーで勇者橘様と一緒に居たメイドかしら?」

「「……ゔっ……ッ」」

失態をガッツリ覚えられてる。
二人はショックを受けた。

──何を隠そう二人は勇者歓迎パーティーの時、雄星と一緒に居たメイド。名をライラとケイト。
ミレーヌとは違い、ブローノへの無礼発言で雄星を見限っては居るものの、王族相手にこんな顔の覚えられ方をされているのだ……二人とも顔色が青く染まっていた。


──余計な事を言ってしまったわね……後悔しているのが誰の目にも見て取れるわ。だったら蒸し返すのは止めておきましょう。
だからと言って許されるものではないでしょうけど、メイドの指導は私の役割ではないですしね。被害を受けたお兄様も優しいから許すでしょうし、私が責め立てる必要はないかしら?

──それより、今は慌ててる様子なのが気になるわ。


「──先程、食事と着替えを持ってダイアナが来たばかりですし……貴女達は世話をしに来たという訳では無さそうね?……いったいどうしたの?外の騒ぎと関係あるのかしら?」

マリアに尋ねられて、二人はハッとした様に青くしていた顔を上げた。
そして王国が今どうなっているのか……今の現状をきめ細かく語り始める。


─────────


「──何ですってッッ!!?三大戦力の居ない時に、魔族が攻め入ってるのッ?!──お父様は……!?それに、アリアンは残っている筈よねっ!?」

「ふぇぇっ!!?す、すいませんですーー!!」

話を聴き終えたマリアは激昂しケイトへ詰め寄った。
詰め寄られたケイトは気まずそうにライラと顔を見合わせ、言い寄られていない方のライラが申し訳なさそうに答える。


「──それが……アリアン様はゼクス国王の指示で動いて居るらしく、ただいま音信不通だと……城に残っていたアリアン様はどうやら宮廷魔道士様が姿を変えたダミーであると……」

「……ッ!!──それで?お父様はどうしてるの……?」

これに対する答えが、マリアにとって余りに最悪なものだった。


「それが……六神剣を半数以上連れて……その……行方不明に……」


「……お父様ッッ……ふざけないでッ……」


マリアは苛立つ。話だけ聴くと国王が愚者過ぎる。
もう意図的にそうなる様に仕組んだんじゃないかと疑う位に……でもそれは流石にあり得ないだろうと首を横に振った。

ただどうあれ立ち止まっても居られない。
ライラから聴いた話では魔族が一体、既に王宮へ侵入してるとのことだ。
ならば今すぐにでも行動を開始しなくては……


「──ライラにケイト……こんな緊急事態でメイドの貴女達が護衛を連れずに来てくれたという事は『そういう風に』解釈しても宜しいかしら?」

「「はい!」」

二人は自信を持って頷く。
冷静になって二人をよく観れば、ライラは腕に甲冑を、ケイトの方は脚に甲冑を装備している。

彼女達はいわゆる戦闘メイドと呼ばれる存在で、マリアも噂でしか聞いた事が無かった。
ダイアナやミレーヌと違い、メイドとしての奉仕スキルが低い代わりに、そこら辺の騎士団の隊長格にも引けを取らない戦闘力を身に付けているメイドが王宮内には複数人雇われている。

マリアが知らなかったのは、他のメイドより贔屓されない様に、誰が戦闘メイドなのかは国王とユリウス……メイド長のダイアナ以外に情報が伏せられていたからだ。

そんな二人が安全な場所まで導いてくれる。
マリアは気合を入れ二人の後に続いた。


─────────


「──はぁあぁあぁッッッ!!」
「──せいッ!!」

王宮から外へ出ようと三人は城の裏口を目指す。
移動している最中、侵入した魔族が放ったと思われる全身に包帯を巻いた【マミー】と出会していた。魔物は数にして三体。

本当ならそれなりの脅威となりえる相手だが、ライラとケイトは簡単に蹴散らした。
戦闘メイドと呼ばれるだけあってかなり強い。

戦闘スタイルとしては──
ライラは甲冑を装備した拳の破壊力で敵を粉砕する。
ケイトは甲冑を装備した脚を屈指し、そのスピードをもって敵を翻弄する。

そんな二人の戦う姿をマリアは感心しながら見つめていた。
自身は戦闘能力が全くない素人だが、そんなマリアから観て解るほど、二人は強かったのである。


──戦闘メイド……噂には聞いていたけど、噂以上の実力者ね。
流石に六神剣程では無いけど、二人掛かりならエディに引けをとらないかも……

マリアはそう評価し賛辞を贈る。
ならばこそ尚更判らなくなった──なんでこれ程の二人が雄星なんかに肩入れしてたのか?
顔で絆されるような生半可な訓練を受けてないだろうに、と。



マリアは想像もしてなかった──


ライラは雄星とイケメン騎士のBL的絡みを期待し、ケイトは雄星がやらかして刺激的な展開が起こるのを楽しみにしていた。
そんな事を考えていたなんて、割とまともなマリアにイカれた人間の考えなどわかる筈がなかった──

因みにケイトは予想以上に雄星が低脳過ぎて刺激どころでは無かったそうだ。




──それ以降も二人は幾度と無く迫りくるマミーを容易く蹴散らしながら、マリアと共に裏の出入り口を目指し進み続けるのであった。


そして目的地まで間も無くといったところに差し掛かったところで、初めて脅威と言える相手と出会した。


「──ドラゴンナイツかしら?」

「ええ……私も流石に初めて観ました」
「うぅ~ん……厄介かなぁ~」

ここに辿り着くまで一切の苦戦なく突き進んで来た二人の進撃が止まった。
マミーを遥かに上回る相手を発見したからだ。

今まで蹴散らして来たマミー程度なら、そこそこの実力のある冒険者3~4人が推奨レベル。

それに比べて新たに出現したドラゴンナイツと呼ばれる魔物は、2メートルに及ぶ大きな二足歩行型の龍で、剣と盾を装備している。
そして見た目の強悪さも去ることながら、実力もマミーとは桁違い。熟練の冒険者が10人掛かりでようやく倒せる強さを誇るのだ。

幸い、ドラゴンナイツは三人に気付いていない。
ライラとケイトは様子を伺いながら、隙を突いて奇襲を仕掛ける事にした。


「…………」
「…………行くわよ!ライラ!」

「…………ッッ!!──ぎじゃぁぁッッッ!!!」

殺気を感じ取ったドラゴンナイツは、突進する二人の方を向く。

だがケイトの方が速い。
彼女は高い敏捷性で上手く敵を翻弄し、彼女に気を取られた隙にライラが攻撃する事で二人の奇襲は見事成功するのだった。

ライラの鉄の拳はドラゴンナイツの腹を完璧に捉える。

「ーーッッ……ーーッッッ!!」

潰れた奇声を上げるドラゴンナイツ。
しかし耐久力が高く、重い攻撃をまともに喰らってもまだ倒れない。よって二人は休む事なく攻撃を畳み掛けた。

ケイトの脚を屈指した動きに惑わされ、その隙にライラが骨を砕く様な重い一撃を命中させる。
これがドラゴンナイツにとって堪らない連携となり徐々に体力を奪われてゆく。


「──ライラッ」
「ええ、いけますケイト」

倒すまでに時間は掛かりそうだが、このまま行けば確実に倒せるだろうと頷きながら二人は互いに目線を配らせた。


…………


愚かにも失念していた。
二人揃ってドラゴンナイツを相手にするという事は、つまり……

……その間、マリアを守る者が一人も居なくなってしまうのだ──



「きゃぁぁぁッッ!!」

「「……!!!」」

マリアの悲鳴が響き渡った。
このままいけば確実に倒せる相手を無視し、二人は急いでマリアの元へ向かう。

マリアに襲い掛かるのは二人が戦っているのと同じドラゴンナイツ。しかも数が二体。
一体でもギリギリなのに……それが更に二体も増えては絶望的だ。


「「──マリア様っ!!」」

離れ過ぎてどうしても間に合わない。


「ッッ……!!」

敵はマリアを亡き者にしようと剣を振り上げた。戦闘経験のないマリアに躱す事は絶対に出来ないだろう。
それでもマリアは目を閉じるなんて事はぜず、両手を強く握り締めて相手を睨み付けた──


…………


…………


「…………え?」

けど何故か魔物は剣を振り下ろして来ない。
一瞬、死ぬ間際で止まって見えてるんだと思ったがそれも違う。本当に動かなくなっていた。

この間にライラとケイトが側までたどり着く。


「──マリア様っ!!申し訳ないです、お側を離れ危険に晒してしまいました……!!」

「いえ……アレが相手では仕方ないわ……けど──」

どうして動かなくなってしまったか、三人には見当もつかなかった。


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


~シャルロッテ視点~

「ふぅ~……」

「主、これでよかったのか?」

ティタノマキアの魔法で動けなくなったドラゴンナイツを観て、シャルロッテは安堵の溜息を漏らす。

ほんの少し前に見えてしまった、マリアの【死】のビジョン。
それを察知し、シャルロッテは慌てて駆け付けた。

本当に間一髪のタイミング。急がなければ間に合わなかったことだろう。
確かに、魔族達を王国へ手引きしたのはシャルロッテに他ならない。全知全能の効果を受けない孝志が、どう動くのかシャルロッテは魔族を利用して見極めたかったのだ。

しかし、彼にこだわり過ぎたあまり、身内の護りを疎かにしてしまった。お陰で姉が死んでしまうところだったとシャルロッテは肝を冷やす。

助けられたマリア達は何が起こったのか解って居ない。
だが、ここにシャルロッテが駆け付けて居なければ、マリアは命を落として居たのである。


「勇者孝志は何をやってるのッ!!もう少しでわたくしのマリアおねぇさまが死んじゃう所だったじゃないッ!!」


──ネリーは……大丈夫そうね。
相変わらず運の良い。でも無事ならそれで良いわね。


「なぁ、主よ……其方の言う松本孝志とは、アレのことであるまいか?」

「……えっ……ああっ!」

ティタノマキアに促された場所へ視線を向ける。
マリアの近くに時空の歪みが発生しており、そこから三人の人物が姿を現していた。


一人見覚えがある。


それこそシャルロッテが最も警戒する松本孝志だった。



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