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第一章•帝国編
14話◆アゴの先代皇帝、今はパシリ。
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「おい、茶!!」
「は、はい!ただいま!」
アゴの割れている方のレオンハルト、先代皇帝はジャンセンに言われて茶を淹れている。
生まれてすぐ、後の皇帝としてレオンハルトの名を与えられた彼は、自ら茶を淹れた事など有るわけもなく。
「…なぜ、こんな辺鄙な村の小さな教会で、大国の皇帝をしていた俺が茶を淹れなくてはならんのか…。」
レオンハルト皇帝が淹れた茶をテーブルに置く。
ジャンセンは茶を一口飲むと、テーブルにカップを乱暴に戻した。
「まずい!まずいわ!
ほんとにレオンハルトってヤツは茶のひとつもロクに淹れられやしないんだな!
そんなんだから、私が出ばって抱き上げたくもないオッサンを抱き上げて娘に男を抱いたとか言われるんですよ!
あーめんどくさい!」
テーブルの上に長い両足を投げ出して、苛立ちを隠さないジャンセンの脇で、先代皇帝レオンハルトはぷるぷると震えていた。
「な、何で俺が…こんな理不尽な目に…?」
言っちゃ何だが勝手に助けられ、茶を淹れさせられ文句を言われて…名前が理由で、ろくでもないとか言われても。
俺だって好きで抱き上げられたんじゃないわ!
「陛下、耐えて下さい!
創造主様は……この世の誰より力のあるお方です…。
そして…とても我が儘でめんどくさがりです。どうしようもない位に。」
レオンハルト皇帝を慰めるように傍らに来たリリーの目は、全てを諦め半分死んだようだった。
「理由なんて求めるだけ無駄です。
思うがままに動いているだけですから。」
フフフ…と力無く笑い、リリーはレオンハルトの肩をポンポンと叩いた。
「……今さら言うのも何だが……ディアーナ嬢は本当に神の娘だったのだな…本人は神では無いと言っているが…。」
茶の後片付けをしながらレオンハルト皇帝がリリーに話し掛ける。
無意識の内に、理不尽なところ親子ソックリだわと渇いた笑いと共に呟いてしまった。
「ええ…でもディアーナ様には魔力がございません。
だから、魔力の強さで相手を測るロージアには、ディアーナ様は普通の人間に見えているのでしょう。
……愚かな……兄です。」
「……兄……になるのか……」
レオンハルト皇帝とロージアは同じ母から生まれた兄弟だ。
そしてロージアとリリーは同じ人の持つ魔力を分けて生み出された兄妹だと。
「母上の魔力から生まれた…か…。母上に魔力があるなんて…俺は知らなかった…」
レオンハルトはチラリとリリーに目をやる。
見れば見る程、リリーは若かりし日の母に似ている。
思えばロージアも…。
「魔力を持つという事は…今回のように余計な心配を掛ける事になりかねないとリリアーナ様は思っておられました。
陛下に…心配をお掛けしたくないと…。リリアーナ様はいつも…。」
リリーの目から涙が一粒落ちる。
「リリー…?」
「す、すみません…リリアーナ様の陛下を想うお気持ちが、私の中に残っているのです……本当に無事で……無事で良かった…。」
レオンハルト皇帝はポロポロと涙を流し始めたリリーの顔に手の平を当て、親指で涙を拭う。
「そんな…母上の顔で…泣かれたら…俺はどうしたら良いか分からぬ…だから、泣かないでくれ…。」
「そこのバカップル。
乳繰り合ってる暇があったら村に行ってガキどもの様子を見て来て下さいよ。
無理やり城から村に戻したミンナとかバスケとかいうバカ女達が大人しくしているかもね。」
ミンナとバスケ?それはミーナとビスケの事かしら…?と口には出さずにリリーは思う。涙は引っ込んだ。
またバカップルと呼ばれてしまった…
あの姿形どころか、心まで真っ黒な男は、俺とリリーをカップル扱いせずにいられんのか?と口には出せずにレオンハルト皇帝は思う。
この世を創った神の一族、何か色々とめんどくさい。
二人は口には出さずに思考をシンクロさせていた。
▼
▼
▼
「どう思う?ディアーナ。」
「ロージアの事?アイツの私に対する執着心が、ハンパじゃないのよね…まぁ、まだ5歳の子供だと思ったら、そんなものなのかしらね…」
ロージアの執着心には、母親を独占したがる幼い子供と、どこか似た物を感じるディアーナは溜息をつく。
「ガキだからこそ、諦めも悪いよな?
それこそ、ディアーナを捕まえてどこかに閉じ込めるとか、思考を奪ってでも側に居させたいとか考えるだろうな。」
ディアーナは笑った。
二人は今、帝国と隣国との国境にある山の頂き付近、高く高く大きな木の先端近くの太い枝に腰掛けている。
そこからはバクスガハーツ帝国のほぼ全域が見渡せる。
「こうやって見たら…分かるのね…驚いたわ。」
「俺も初めて見たな…。こんな広い範囲の瘴気は…。」
王城と教会を繋ぐ広い範囲で、国のほぼ七割が黒い瘴気に覆われている。
「これを浄化って出来るの?」
「やって出来ない事は無いだろうが…何年かかるかな…かなり身体に負担かかるし、魔力の消費もハンパ無いから…毎日数回はディアーナと……なぁ」
ディアーナの顔が引き攣る。
そうだった。
レオンハルトの身体の疲れを癒し、傷を癒し、魔力を回復させるのは私と身体を重ねなきゃだった!
「私が死ぬ…。」
「いや、不老不死だから大丈夫!やってみる?」
「いや、絶対死ぬわ!3日もたんわ!足腰立たないだけで済むワケ無い!それが数年かかる?死なないワケ無いわ!」
楽しそうに笑うレオンハルトはディアーナを抱き締め、横抱きして膝に座らせる。
「だから、浄化はしないんだろう?親父が言うには。」
「浄化しないで…どうするのかしら?…師匠には、覚悟はしとけって言われたけど…」
レオンハルトの膝の上に座ったまま、ディアーナはバクスガハーツという国を見る。
黒い霧のようなモノで覆われた、その土地を浄化しないと言うならば、そこに住まう人達も見捨てると…
「私はやはり、神にはなれないわね……」
「ディアーナは、それでいい。
俺と親父が…どこまでも残酷になれるから。
…俺を嫌わないでくれたら、それでいい。」
ディアーナは自身の呟きを悔いた。
レオンハルトは、何よりディアーナを優先する。
ディアーナに小さな傷が付かないよう、自身が大きな傷を負う事を厭わない。
また私の為に心の傷を増やすつもりなの?
「駄目よ…一緒に生きていくと誓ったのよ?
苦しみも悲しみも分かち合いましょうよ…頑張るから…
一人で歩いて行かないで……
私だって、レオンの事を愛してるのよ…。」
風避けになって前を歩いて欲しいのじゃない、隣で手を繋いで二人で共に風に逆らって、同じ場所を歩いて行きたい。
ふと、父である創造神のジャンセンがリリーに言った言葉を思い出した。
『神様なんて、ところ変われば名前も扱いも変わる』
「月の女神ディアーナが、この国では悪神ディアーナと呼ばれるようになっても……私、構わないわ。」
私自身が決めたのよ。
この国をプチしたいと。
「私、守られてばかりの弱い女じゃないからね!お兄ちゃん!見くびらないでよ!」
レオンハルトの膝の上で、ディアーナはレオンハルトの両頬に手を当て正面からじっと見据える。
そのまま顔を近付け
香月として
初めてレオンハルトに口付けた。
「廉お兄ちゃん、大好きだよ!だから、一緒に頑張らせて!」
レオンハルトが手の平で隠すように目を押さえて涙を流すのを、香月、ディアーナの目線で見る。
後悔しないし、させないわ!過去の自分たちにだって申し訳ないもの。
「は、はい!ただいま!」
アゴの割れている方のレオンハルト、先代皇帝はジャンセンに言われて茶を淹れている。
生まれてすぐ、後の皇帝としてレオンハルトの名を与えられた彼は、自ら茶を淹れた事など有るわけもなく。
「…なぜ、こんな辺鄙な村の小さな教会で、大国の皇帝をしていた俺が茶を淹れなくてはならんのか…。」
レオンハルト皇帝が淹れた茶をテーブルに置く。
ジャンセンは茶を一口飲むと、テーブルにカップを乱暴に戻した。
「まずい!まずいわ!
ほんとにレオンハルトってヤツは茶のひとつもロクに淹れられやしないんだな!
そんなんだから、私が出ばって抱き上げたくもないオッサンを抱き上げて娘に男を抱いたとか言われるんですよ!
あーめんどくさい!」
テーブルの上に長い両足を投げ出して、苛立ちを隠さないジャンセンの脇で、先代皇帝レオンハルトはぷるぷると震えていた。
「な、何で俺が…こんな理不尽な目に…?」
言っちゃ何だが勝手に助けられ、茶を淹れさせられ文句を言われて…名前が理由で、ろくでもないとか言われても。
俺だって好きで抱き上げられたんじゃないわ!
「陛下、耐えて下さい!
創造主様は……この世の誰より力のあるお方です…。
そして…とても我が儘でめんどくさがりです。どうしようもない位に。」
レオンハルト皇帝を慰めるように傍らに来たリリーの目は、全てを諦め半分死んだようだった。
「理由なんて求めるだけ無駄です。
思うがままに動いているだけですから。」
フフフ…と力無く笑い、リリーはレオンハルトの肩をポンポンと叩いた。
「……今さら言うのも何だが……ディアーナ嬢は本当に神の娘だったのだな…本人は神では無いと言っているが…。」
茶の後片付けをしながらレオンハルト皇帝がリリーに話し掛ける。
無意識の内に、理不尽なところ親子ソックリだわと渇いた笑いと共に呟いてしまった。
「ええ…でもディアーナ様には魔力がございません。
だから、魔力の強さで相手を測るロージアには、ディアーナ様は普通の人間に見えているのでしょう。
……愚かな……兄です。」
「……兄……になるのか……」
レオンハルト皇帝とロージアは同じ母から生まれた兄弟だ。
そしてロージアとリリーは同じ人の持つ魔力を分けて生み出された兄妹だと。
「母上の魔力から生まれた…か…。母上に魔力があるなんて…俺は知らなかった…」
レオンハルトはチラリとリリーに目をやる。
見れば見る程、リリーは若かりし日の母に似ている。
思えばロージアも…。
「魔力を持つという事は…今回のように余計な心配を掛ける事になりかねないとリリアーナ様は思っておられました。
陛下に…心配をお掛けしたくないと…。リリアーナ様はいつも…。」
リリーの目から涙が一粒落ちる。
「リリー…?」
「す、すみません…リリアーナ様の陛下を想うお気持ちが、私の中に残っているのです……本当に無事で……無事で良かった…。」
レオンハルト皇帝はポロポロと涙を流し始めたリリーの顔に手の平を当て、親指で涙を拭う。
「そんな…母上の顔で…泣かれたら…俺はどうしたら良いか分からぬ…だから、泣かないでくれ…。」
「そこのバカップル。
乳繰り合ってる暇があったら村に行ってガキどもの様子を見て来て下さいよ。
無理やり城から村に戻したミンナとかバスケとかいうバカ女達が大人しくしているかもね。」
ミンナとバスケ?それはミーナとビスケの事かしら…?と口には出さずにリリーは思う。涙は引っ込んだ。
またバカップルと呼ばれてしまった…
あの姿形どころか、心まで真っ黒な男は、俺とリリーをカップル扱いせずにいられんのか?と口には出せずにレオンハルト皇帝は思う。
この世を創った神の一族、何か色々とめんどくさい。
二人は口には出さずに思考をシンクロさせていた。
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「どう思う?ディアーナ。」
「ロージアの事?アイツの私に対する執着心が、ハンパじゃないのよね…まぁ、まだ5歳の子供だと思ったら、そんなものなのかしらね…」
ロージアの執着心には、母親を独占したがる幼い子供と、どこか似た物を感じるディアーナは溜息をつく。
「ガキだからこそ、諦めも悪いよな?
それこそ、ディアーナを捕まえてどこかに閉じ込めるとか、思考を奪ってでも側に居させたいとか考えるだろうな。」
ディアーナは笑った。
二人は今、帝国と隣国との国境にある山の頂き付近、高く高く大きな木の先端近くの太い枝に腰掛けている。
そこからはバクスガハーツ帝国のほぼ全域が見渡せる。
「こうやって見たら…分かるのね…驚いたわ。」
「俺も初めて見たな…。こんな広い範囲の瘴気は…。」
王城と教会を繋ぐ広い範囲で、国のほぼ七割が黒い瘴気に覆われている。
「これを浄化って出来るの?」
「やって出来ない事は無いだろうが…何年かかるかな…かなり身体に負担かかるし、魔力の消費もハンパ無いから…毎日数回はディアーナと……なぁ」
ディアーナの顔が引き攣る。
そうだった。
レオンハルトの身体の疲れを癒し、傷を癒し、魔力を回復させるのは私と身体を重ねなきゃだった!
「私が死ぬ…。」
「いや、不老不死だから大丈夫!やってみる?」
「いや、絶対死ぬわ!3日もたんわ!足腰立たないだけで済むワケ無い!それが数年かかる?死なないワケ無いわ!」
楽しそうに笑うレオンハルトはディアーナを抱き締め、横抱きして膝に座らせる。
「だから、浄化はしないんだろう?親父が言うには。」
「浄化しないで…どうするのかしら?…師匠には、覚悟はしとけって言われたけど…」
レオンハルトの膝の上に座ったまま、ディアーナはバクスガハーツという国を見る。
黒い霧のようなモノで覆われた、その土地を浄化しないと言うならば、そこに住まう人達も見捨てると…
「私はやはり、神にはなれないわね……」
「ディアーナは、それでいい。
俺と親父が…どこまでも残酷になれるから。
…俺を嫌わないでくれたら、それでいい。」
ディアーナは自身の呟きを悔いた。
レオンハルトは、何よりディアーナを優先する。
ディアーナに小さな傷が付かないよう、自身が大きな傷を負う事を厭わない。
また私の為に心の傷を増やすつもりなの?
「駄目よ…一緒に生きていくと誓ったのよ?
苦しみも悲しみも分かち合いましょうよ…頑張るから…
一人で歩いて行かないで……
私だって、レオンの事を愛してるのよ…。」
風避けになって前を歩いて欲しいのじゃない、隣で手を繋いで二人で共に風に逆らって、同じ場所を歩いて行きたい。
ふと、父である創造神のジャンセンがリリーに言った言葉を思い出した。
『神様なんて、ところ変われば名前も扱いも変わる』
「月の女神ディアーナが、この国では悪神ディアーナと呼ばれるようになっても……私、構わないわ。」
私自身が決めたのよ。
この国をプチしたいと。
「私、守られてばかりの弱い女じゃないからね!お兄ちゃん!見くびらないでよ!」
レオンハルトの膝の上で、ディアーナはレオンハルトの両頬に手を当て正面からじっと見据える。
そのまま顔を近付け
香月として
初めてレオンハルトに口付けた。
「廉お兄ちゃん、大好きだよ!だから、一緒に頑張らせて!」
レオンハルトが手の平で隠すように目を押さえて涙を流すのを、香月、ディアーナの目線で見る。
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