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第一章•帝国編
15話◆囚われの女神ディアーナ。囚われの聖女リリー。
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ロージアにレオンハルト皇帝と結婚すると宣言してから数日。
バクスガハーツ帝国には特に何の動きも無く、ディアーナはジャンセンの教会のある村に居た。
レオンハルトは他に用があるからと村から離れており、ディアーナはレオンハルト先代皇帝と二人で村の様子を見て回っている。
「この村は、バクスガハーツ帝国ではないから瘴気も及んで無いのよね…土地を広げたら、何とかなるかしら…。」
「瘴気?ロージアが出す、あの黒い嫌な感じの霧か?」
先代皇帝がディアーナに尋ねる。
瘴気が発生すれば、土地や生物、人間も影響を受け魔獣化したり魔物が発生したりする。
そうはならない為に、この世にたった一人、瘴気を浄化出来る修復人と言われるレオンハルトが居る。
各国の頂点に在る者だけが存在を知っているのだが、バクスガハーツ帝国の頂点はそれを知らなかったようだ。
「そう、あなたは知らないかも知れないけど、あれが国を覆っているわ。
…浄化は間に合わない…多くの人が、もう手遅れかも知れない。」
「俺の…せいか………」
「もう、数代前から伝えられてなかったのでしょう?
修復人の存在を。あなただけのせいではないわ。」
言葉を交わすディアーナと先代皇帝の前に突如黒い霧が現れる。
二人は警戒し身構えた。
「ロージア!!」
不意に現れたロージアに、レオンハルト皇帝がディアーナを庇う様に背に隠した。
「何だよ、ナイト気取り?…本当に腹立つ。
お前もリリーも。さぁディアーナ、助けに来たよ!」
「助けにって何だ!お前はディアーナ様をどうする気だ!」
ロージアにはレオンハルト皇帝の声が耳に入っていない。
その目には、数日ぶりに目にした愛しい女の姿しか。
「ロージア!わたくしはあなたに応えてあげられないと言ったでしょう!」
「そんな風に思い込まされているんだね、可哀想なディアーナ。
…君は魔力は無いけど、黒い男やリリーの影響で魔法に対する抵抗力だけは強いみたいだね。」
ディアーナの身体がフワリと宙に浮かぶ。
「きゃ…!ロージア!!やめなさい!!」
「だから、ちょっと強い魔法を使わせて貰うよ?
痛く無いから我慢してね?」
ロージアは宙に浮かぶディアーナに、深い眠りを与える。
宙に浮いたまま意識を手放したディアーナは、そのままロージアの腕に落ちた。
「ああ……ああ!ディアーナ!僕のディアーナ!」
腕に抱いたディアーナに歓喜するロージアの様は病的で、レオンハルト皇帝はゾクリと鳥肌が立つ。
「兄上を殺して行くつもりだったけど、今日はいいや。
僕の妻を連れ帰るよ。
ああ…僕の妻、ディアーナ…」
「ま、待てロージア!」
ロージアは意識を失ったディアーナを抱いたまま姿を消した。
「な、何て事を…!早く知らせないと!」
狼狽えた先代皇帝は、教会に向かって走った。
▼
▼
▼
バクスガハーツ帝国の城にある豪奢な寝室、大きなベッドにディアーナは寝かせられた。
ベッドの縁に腰掛けたロージアがディアーナの寝顔を見詰め、その美しい頬や髪に手の平を何度も行き来させる。
「ロージア様、おめでとうございます。
これで、奥方様はロージア様の元にお戻りになられましたな。」
「教皇…僕は今、すごく幸せだよ…でも、まだだ…。」
「奥方様と…契りを交わさないので?
私なら、すぐ退散致しますが。」
ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべ教皇が言えば、ロージアは苦笑する。
「ディアーナを身も心も僕の妻にするには、ディアーナのままでないと。
意識を失った状態じゃ駄目だよ。
僕以外、誰も頼る人が居ないと分かって貰わないと。」
「愛がありますな…私も恋をする身、お気持ち解りますぞ。
私も、愛するリリー殿とひとつになりたい…」
教皇の目が黒く落ち窪み、その奥に禍々しい獣の目が光る。喉元から下腹部に向け縦に大きく裂けた裂け目には小さな棘のように牙が生え、口のようだ。
「誰かに見られたらどうすんの、興奮して正体出さないでよ…。ま、妹のリリーは教皇に任せたよ。好きにして。」
「はい、では私も妻を迎えに…」
教皇は姿を消し、寝室にはディアーナとロージアだけが残った。
「妻?よく言うよ、教皇…食べてしまうクセに。ふふ…」
ロージアはディアーナの寝顔を見詰め続け、寄り添うように隣に横たわる。
「早く君を…僕だけのものにしたい…
リリーが教皇に食べられてしまえば、後は兄上を殺して…
後はあの、黒い男…。」
黒い男の正体だけがロージアには分からない。
リリーが、リリアーナ皇太后から自分が奪った魔力の僅かな残滓から生まれたのだとは分かったが、そんなリリーに転移魔法や男の姿になる幻覚魔法など使える筈がない。
だとしたら、あの底知れぬ力を持つ黒い男。
あの男から何らかの力を与えられている?
「何者……?」
▼
▼
▼
▼
「皆さん落ち着いて!大丈夫です!慌てないで!」
リリーはバクスガハーツの国境付近に出向いており、帝国内部から離れた場所にいる国民達を国から逃していた。
この国が戦火に見舞われると伝え、国境を越えて近隣の国に案内している。
信じない者には無理強いはしない。
だが、この国に不穏な気配を感じる者は多く、リリーに従い国を出て行こうとする者が後を絶たない。
皇帝の側近ヒューバートが、彼が信頼した兵士達を密かに王城から呼び寄せており、それらの面々とリリーとでその場を切り盛りしていた。
「リリーさん、疲れてないかい?
朝からずっと走り回ってるじゃないか!
少し休んで来たらどうだ?」
兵士の一人がリリーに声を掛ける。
「ありがとうございます、では少し…」
リリーは額の汗を拭い兵士達に頭を下げ、ひと気の無い木陰に来た。
少し休もうと腰を下ろしかけた所を、赤黒い舌のような物で両手を上げた状態で木に縫いとめられるように拘束される。
「きゃ…!な、ナニ?だ、誰!?」
急に目の前に現れた華美な祭服を身に纏った肥えた初老の男に、リリーは身を強張らせる。
「リリー殿、私は聖女ディアナンネ教の教皇ワイリーと申します。」
「その教皇様が私をどうしようと…?
私は、あなた方の思い通りにはなりません!」
木に縫いとめられたまま、リリーは教皇を強い眼差しで睨んだ。
「我が主、ロージア様がこの度妻を迎えられましてね…
私も、美しい妻を迎えたいと思いまして…」
「ロージアが妻を…?まさか、ディアーナ様を…!きゃっ…!」
リリーは赤黒い舌のような物に全身を巻かれ拘束された。
「私の美しい花嫁、ゆっくり貴女と愛を語りましょう!
最後は二人ひとつになるのです!
私の胃の中に貴女を入れる…貴女は私の中で溶けて私とひとつになる…何と美しい愛の形だろう!
さぁ、花嫁、私と共に教会へ!」
「は、離して…!」
拘束されたリリーを連れ、教皇はその場から姿を消した。
▼
▼
▼
▼
「創造神っ…!…じゃ、ジャンセン!ジャンセン神父!」
教会まで走って来たレオンハルト先代皇帝はゼェゼェ荒い呼吸を繰り返しながら、教会のテーブルについているジャンセンの前に来ると、テーブルにバン!と手の平を置く。
「大変だ!ディアーナ様がロージアに拐われた!!」
「そうですか…。」
ジャンセンから返った答えがあまりにも淡白で、レオンハルト先代皇帝は声を荒げる。
「そうですかって、あんた!
娘のディアーナ様が拐われたんだぞ!
いくら強いって言っても、あんな強い魔力を使われたら抵抗しようが無いんじゃないのか!?」
「そうですか…。」
相変わらずの淡白な返事にレオンハルト先代皇帝がギリギリと歯噛みする。
「皇帝陛下!神父様!大変です!リリーさんが居なくなりました!」
国境近くでリリーと民を避難させていた兵士から早馬に乗った兵士が知らせを持って駆け付けた。
ジャンセンはテーブルに手をついて項垂れたまま、ポソポソと覇気無く話す。
「そうですか…。私は…今、何も出来ません。何も言えません。」
「り、リリーまで拐われたかも知れないのにか!!
あんた神なんだろう!?」
「………。」
完全に黙りこんでしまったジャンセンに、ギリギリと歯ぎしりをしながら皇帝が青筋を立てる。
「俺は大教会に行く!リリーとディアーナ様を助けに行く!」
「いけません!皇帝!あなたまで捕らえられたら、私はヒューバート殿に申し訳が立ちません!」
「俺はリリーを…!」
リリーが拐われたと報告に来た兵士が皇帝を必死に止め、皇帝が二人を救いに行くと強く言い張る姿を見て、無気力なジャンセンが僅かに微笑んだ。
その日の夜、教会の食堂にはほとんど話さないジャンセンと、先代皇帝レオンハルト。
そして、ヒューバートの部下の兵士が六人程集まった。
この面子で、一番頼りになるはずのジャンセンはだんまりを決めたまま何も言わない。
戦力になりそうなリリー似の少女については
『あの方の名はレオンハルトで、オフィーリアという名でディアーナ様の夫です』
とワケの分からない投げやりな説明を皇帝はリリーから聞いていたが、その少女の姿も見えない。
「もう大教会に乗り込むしかないだろう!」
「こんな少人数でか!?無謀もいいとこだろう!」
「だが、我々は帝国の兵士だ!退くワケにはいかん!」
兵士達が互いの意見をぶつけ合う。
そんな中で一人の兵士が頭をかかえて震えだした。
「……む、無理だ…リリーさんが拐われたのを、俺、実は見ていたんだ…拐ったのは教皇だった…」
一人の兵士の告白に場が騒然となる。
「なぜ助けなかった!」「それでも兵士か!」「もっと早くに我々に知らせれば!」
責める言葉を次々に投げつけられた兵士が、号泣しながら声を上げる。
「教皇は人間じゃなかった、化け物だった!!
あんな物に向かって行けるか!!
魔獣なんて生やさしいもんじゃない!
あいつの背後にある黒い霧の中に…!たくさんの口が!目が!………リリーさんを…食うと……口々に言っていたんだ!!
あんなおぞましい…ウッ…」
兵士は嘔吐し、そのまま気を失った。
その姿を見た皇帝レオンハルトは強く拳を握る。
「あんな辛い目にあった母の想いを受け継ぐ彼女を!リリーを!
これ以上辛い目にあわせてなるか!
化け物が相手だろうが構わん!俺は行く!」
「そうですか…。」
突然のジャンセンの一言にイラっとするレオンハルトに、ジャンセンが手を差し出す。
「……何だ、これは。」
ジャンセンから渡されたのは、小さなガラスで出来たビーズのような多くの粒。
「こんな屑ガラスが何だと…………。」
ガラスのような小さな粒は受け取ったレオンハルトの手からザラザラとこぼれ落ちた。
バクスガハーツ帝国には特に何の動きも無く、ディアーナはジャンセンの教会のある村に居た。
レオンハルトは他に用があるからと村から離れており、ディアーナはレオンハルト先代皇帝と二人で村の様子を見て回っている。
「この村は、バクスガハーツ帝国ではないから瘴気も及んで無いのよね…土地を広げたら、何とかなるかしら…。」
「瘴気?ロージアが出す、あの黒い嫌な感じの霧か?」
先代皇帝がディアーナに尋ねる。
瘴気が発生すれば、土地や生物、人間も影響を受け魔獣化したり魔物が発生したりする。
そうはならない為に、この世にたった一人、瘴気を浄化出来る修復人と言われるレオンハルトが居る。
各国の頂点に在る者だけが存在を知っているのだが、バクスガハーツ帝国の頂点はそれを知らなかったようだ。
「そう、あなたは知らないかも知れないけど、あれが国を覆っているわ。
…浄化は間に合わない…多くの人が、もう手遅れかも知れない。」
「俺の…せいか………」
「もう、数代前から伝えられてなかったのでしょう?
修復人の存在を。あなただけのせいではないわ。」
言葉を交わすディアーナと先代皇帝の前に突如黒い霧が現れる。
二人は警戒し身構えた。
「ロージア!!」
不意に現れたロージアに、レオンハルト皇帝がディアーナを庇う様に背に隠した。
「何だよ、ナイト気取り?…本当に腹立つ。
お前もリリーも。さぁディアーナ、助けに来たよ!」
「助けにって何だ!お前はディアーナ様をどうする気だ!」
ロージアにはレオンハルト皇帝の声が耳に入っていない。
その目には、数日ぶりに目にした愛しい女の姿しか。
「ロージア!わたくしはあなたに応えてあげられないと言ったでしょう!」
「そんな風に思い込まされているんだね、可哀想なディアーナ。
…君は魔力は無いけど、黒い男やリリーの影響で魔法に対する抵抗力だけは強いみたいだね。」
ディアーナの身体がフワリと宙に浮かぶ。
「きゃ…!ロージア!!やめなさい!!」
「だから、ちょっと強い魔法を使わせて貰うよ?
痛く無いから我慢してね?」
ロージアは宙に浮かぶディアーナに、深い眠りを与える。
宙に浮いたまま意識を手放したディアーナは、そのままロージアの腕に落ちた。
「ああ……ああ!ディアーナ!僕のディアーナ!」
腕に抱いたディアーナに歓喜するロージアの様は病的で、レオンハルト皇帝はゾクリと鳥肌が立つ。
「兄上を殺して行くつもりだったけど、今日はいいや。
僕の妻を連れ帰るよ。
ああ…僕の妻、ディアーナ…」
「ま、待てロージア!」
ロージアは意識を失ったディアーナを抱いたまま姿を消した。
「な、何て事を…!早く知らせないと!」
狼狽えた先代皇帝は、教会に向かって走った。
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バクスガハーツ帝国の城にある豪奢な寝室、大きなベッドにディアーナは寝かせられた。
ベッドの縁に腰掛けたロージアがディアーナの寝顔を見詰め、その美しい頬や髪に手の平を何度も行き来させる。
「ロージア様、おめでとうございます。
これで、奥方様はロージア様の元にお戻りになられましたな。」
「教皇…僕は今、すごく幸せだよ…でも、まだだ…。」
「奥方様と…契りを交わさないので?
私なら、すぐ退散致しますが。」
ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべ教皇が言えば、ロージアは苦笑する。
「ディアーナを身も心も僕の妻にするには、ディアーナのままでないと。
意識を失った状態じゃ駄目だよ。
僕以外、誰も頼る人が居ないと分かって貰わないと。」
「愛がありますな…私も恋をする身、お気持ち解りますぞ。
私も、愛するリリー殿とひとつになりたい…」
教皇の目が黒く落ち窪み、その奥に禍々しい獣の目が光る。喉元から下腹部に向け縦に大きく裂けた裂け目には小さな棘のように牙が生え、口のようだ。
「誰かに見られたらどうすんの、興奮して正体出さないでよ…。ま、妹のリリーは教皇に任せたよ。好きにして。」
「はい、では私も妻を迎えに…」
教皇は姿を消し、寝室にはディアーナとロージアだけが残った。
「妻?よく言うよ、教皇…食べてしまうクセに。ふふ…」
ロージアはディアーナの寝顔を見詰め続け、寄り添うように隣に横たわる。
「早く君を…僕だけのものにしたい…
リリーが教皇に食べられてしまえば、後は兄上を殺して…
後はあの、黒い男…。」
黒い男の正体だけがロージアには分からない。
リリーが、リリアーナ皇太后から自分が奪った魔力の僅かな残滓から生まれたのだとは分かったが、そんなリリーに転移魔法や男の姿になる幻覚魔法など使える筈がない。
だとしたら、あの底知れぬ力を持つ黒い男。
あの男から何らかの力を与えられている?
「何者……?」
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「皆さん落ち着いて!大丈夫です!慌てないで!」
リリーはバクスガハーツの国境付近に出向いており、帝国内部から離れた場所にいる国民達を国から逃していた。
この国が戦火に見舞われると伝え、国境を越えて近隣の国に案内している。
信じない者には無理強いはしない。
だが、この国に不穏な気配を感じる者は多く、リリーに従い国を出て行こうとする者が後を絶たない。
皇帝の側近ヒューバートが、彼が信頼した兵士達を密かに王城から呼び寄せており、それらの面々とリリーとでその場を切り盛りしていた。
「リリーさん、疲れてないかい?
朝からずっと走り回ってるじゃないか!
少し休んで来たらどうだ?」
兵士の一人がリリーに声を掛ける。
「ありがとうございます、では少し…」
リリーは額の汗を拭い兵士達に頭を下げ、ひと気の無い木陰に来た。
少し休もうと腰を下ろしかけた所を、赤黒い舌のような物で両手を上げた状態で木に縫いとめられるように拘束される。
「きゃ…!な、ナニ?だ、誰!?」
急に目の前に現れた華美な祭服を身に纏った肥えた初老の男に、リリーは身を強張らせる。
「リリー殿、私は聖女ディアナンネ教の教皇ワイリーと申します。」
「その教皇様が私をどうしようと…?
私は、あなた方の思い通りにはなりません!」
木に縫いとめられたまま、リリーは教皇を強い眼差しで睨んだ。
「我が主、ロージア様がこの度妻を迎えられましてね…
私も、美しい妻を迎えたいと思いまして…」
「ロージアが妻を…?まさか、ディアーナ様を…!きゃっ…!」
リリーは赤黒い舌のような物に全身を巻かれ拘束された。
「私の美しい花嫁、ゆっくり貴女と愛を語りましょう!
最後は二人ひとつになるのです!
私の胃の中に貴女を入れる…貴女は私の中で溶けて私とひとつになる…何と美しい愛の形だろう!
さぁ、花嫁、私と共に教会へ!」
「は、離して…!」
拘束されたリリーを連れ、教皇はその場から姿を消した。
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「創造神っ…!…じゃ、ジャンセン!ジャンセン神父!」
教会まで走って来たレオンハルト先代皇帝はゼェゼェ荒い呼吸を繰り返しながら、教会のテーブルについているジャンセンの前に来ると、テーブルにバン!と手の平を置く。
「大変だ!ディアーナ様がロージアに拐われた!!」
「そうですか…。」
ジャンセンから返った答えがあまりにも淡白で、レオンハルト先代皇帝は声を荒げる。
「そうですかって、あんた!
娘のディアーナ様が拐われたんだぞ!
いくら強いって言っても、あんな強い魔力を使われたら抵抗しようが無いんじゃないのか!?」
「そうですか…。」
相変わらずの淡白な返事にレオンハルト先代皇帝がギリギリと歯噛みする。
「皇帝陛下!神父様!大変です!リリーさんが居なくなりました!」
国境近くでリリーと民を避難させていた兵士から早馬に乗った兵士が知らせを持って駆け付けた。
ジャンセンはテーブルに手をついて項垂れたまま、ポソポソと覇気無く話す。
「そうですか…。私は…今、何も出来ません。何も言えません。」
「り、リリーまで拐われたかも知れないのにか!!
あんた神なんだろう!?」
「………。」
完全に黙りこんでしまったジャンセンに、ギリギリと歯ぎしりをしながら皇帝が青筋を立てる。
「俺は大教会に行く!リリーとディアーナ様を助けに行く!」
「いけません!皇帝!あなたまで捕らえられたら、私はヒューバート殿に申し訳が立ちません!」
「俺はリリーを…!」
リリーが拐われたと報告に来た兵士が皇帝を必死に止め、皇帝が二人を救いに行くと強く言い張る姿を見て、無気力なジャンセンが僅かに微笑んだ。
その日の夜、教会の食堂にはほとんど話さないジャンセンと、先代皇帝レオンハルト。
そして、ヒューバートの部下の兵士が六人程集まった。
この面子で、一番頼りになるはずのジャンセンはだんまりを決めたまま何も言わない。
戦力になりそうなリリー似の少女については
『あの方の名はレオンハルトで、オフィーリアという名でディアーナ様の夫です』
とワケの分からない投げやりな説明を皇帝はリリーから聞いていたが、その少女の姿も見えない。
「もう大教会に乗り込むしかないだろう!」
「こんな少人数でか!?無謀もいいとこだろう!」
「だが、我々は帝国の兵士だ!退くワケにはいかん!」
兵士達が互いの意見をぶつけ合う。
そんな中で一人の兵士が頭をかかえて震えだした。
「……む、無理だ…リリーさんが拐われたのを、俺、実は見ていたんだ…拐ったのは教皇だった…」
一人の兵士の告白に場が騒然となる。
「なぜ助けなかった!」「それでも兵士か!」「もっと早くに我々に知らせれば!」
責める言葉を次々に投げつけられた兵士が、号泣しながら声を上げる。
「教皇は人間じゃなかった、化け物だった!!
あんな物に向かって行けるか!!
魔獣なんて生やさしいもんじゃない!
あいつの背後にある黒い霧の中に…!たくさんの口が!目が!………リリーさんを…食うと……口々に言っていたんだ!!
あんなおぞましい…ウッ…」
兵士は嘔吐し、そのまま気を失った。
その姿を見た皇帝レオンハルトは強く拳を握る。
「あんな辛い目にあった母の想いを受け継ぐ彼女を!リリーを!
これ以上辛い目にあわせてなるか!
化け物が相手だろうが構わん!俺は行く!」
「そうですか…。」
突然のジャンセンの一言にイラっとするレオンハルトに、ジャンセンが手を差し出す。
「……何だ、これは。」
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