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第一章•帝国編

20話◆最終話 新しい国と王。

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バクスガハーツ帝国が地上から消え去り五年。



そのバクスガハーツ帝国と、隣国との国境にあった小さな辺鄙な村は今、広大な農地を持つ豊かな国となっていた。



帝国に比べると国土は狭いが、その国は豊かな自然が多く、農地も広く、国民がなに不自由無く暮らせる穏やかで争いの無い国。



王城と呼ぶには小さめの、こじんまりとした屋敷の前の農地に、金髪の身体の大きな農夫と金髪の女性が畑仕事をしている。



「アゴーン!リリー!久しぶりー!」



藍色の髪の少女は、五年前と変わらぬ姿で二人の元に駆け寄る。



「おお、ディアーナ様!お久しぶりです!」



農夫の姿の、元バクスガハーツ帝国皇帝レオンハルトは、今はこの国の王である。



王でありながら、民に混じって農地を耕す。

彼は今、そんな王となった。



「ディアーナ様、お久しぶりでございます。」



王の傍らに立つ、美しい王妃リリーは少女から美しい大人の女性へとその姿を変えていた。



オフィーリアが大人の女性になっても、こうはなるまい。

なったら何か悔しい。

負けた気がする。

だから考えるの、やーめた!





「うふふ…今日はね、ロージアを連れて来たのよ!二人に逢わせたくて!」



「「えっ!!!」」



ディアーナの言葉に、夫婦二人で同時に驚きの声を発し、慌てふためく姿を見ながらディアーナが笑う。



「あはは!やーね!今のロージアは魔王じゃないんだから、そんなにうろたえなくても何にもしないわよ!」



神に生み出されたロージアの在り方を変な会議で聞かされていたリリーは少し落ち着きを取り戻し、まだパニック状態の夫の背に身を寄せる。



「あなた、大丈夫ですよ…。兄は、そういう時期が来ないと、あのような恐ろしい世界を生まないのです。」



「あらあら、あなただって~…お熱いわね、師匠にバカップルと呼ばれるのも頷けるわね!ねえ、ロージア」



呼ばれて現れたロージアは、白いフリルが大量に付いたドレスを着ていた。

レオンハルト元皇帝とリリーが固まる。



「バッカじゃないの!?なんで兄上と妹に逢うのに、こんなピラピラなドレス着て来なきゃいけないんだよ!」



「男の子だと思われていたロージアが、僕っ娘なだけで実はほぼ女の子なんですと教える為に。」



「そんなの口で言えば済む話じゃないか!!」



ディアーナとロージアのやり取りを、レオンハルト元皇帝とリリーが驚きのあまり、呆けた状態で見ている。



「………え?ロージア?」



レオンハルト元皇帝がロージアを指差し、確認するように尋ねると、白いフリルだらけのドレスに身を包んだロージアが腕を組んでふて腐れた顔をする。



「そうだよ…兄上…。僕で悪いか」



「……いや……会ったばかりの頃のリリーのようで…何か…ょぃ。」



最期の言葉を小声で呟いた元皇帝レオンハルトに大爆笑したディアーナと、うんざりした顔をするロージア。



「兄上、キモチワルイよ…。」









二人はこじんまりとした王城の応接間に案内された。

レオンハルト元皇帝と王妃リリーの治める国について話しを聞いていく。



バクスガハーツ帝国が無くなる前に国境を越えた、元バクスガハーツ帝国の者達と、敗戦国となった自国からの保護もなく、バクスガハーツ帝国兵士の残党等により蹂躙されつつあった近隣諸国の小さな村等から逃げて来た者達、これらの者達がこの国の国民であり、今は二千人ばかり居るとの事。



リリーに扮していたオフィーリアが指揮をとって避難させた人々。



バクスガハーツ帝国の上空でディアーナがロージアとバトルを楽しんでいた頃。

国境を越えた人々の前にレオンハルト元皇帝が現れ、この場所に国を築き王になると宣言し、同じくリリーが現れ、彼の妻となり王妃となり、共に国を支えると人々に誓った事。


異を唱える者はなく、レオンハルト元皇帝はすんなりと国王となった事。





「…いきなり花嫁姿で現れてな……俺を転移魔法で大勢の人の前に放り出して……尻もちをついている俺に、王になると言えと……その内リリーもいきなり連れて来られて…ほら、バカップル、いい加減腹くくれ、めんどくせぇと……」



「………そいつは…うちのおとんが…すんませんね……そういや、途中いなくなっていたな…」



反対出来る者もいねーわ。

師匠が決めた事に反対意見出すような奴は、プルプル子鹿になるか、お漏らしするしかない。



「そうだ、ミーナやビスケはどうしているの?」



ジャンセンの話でその場が気まずくなったので、ディアーナは強引に話をすり替えた。



「ミーナはヒューバートさんが信頼して呼び寄せた兵士の一人と結婚したわ。」



ニッコリと報告するリリーにディアーナの顔がパァっと明るくなる。



「あら、おめでとうね!その、側近ジジイはどうしているの?ジジイだったし死んだ?」



「ディアーナって、本当に遠慮無いよね…容赦も無いけど。ヒューバートって、50そこそこだよ?」



呆れたようにロージアが言うと、複雑そうな顔をしたレオンハルト元皇帝が口を開く。



「俺も驚いたんだが…ヒューバートはビスケと結婚した。ビスケの方が強引にヒューバートをモノにした感じだな…」



「マジで!?ジジイすごいわね!あっはっは!」



大爆笑するディアーナを無視して、ロージアがレオンハルト元皇帝の前に行く。



「兄上、僕は…僕のした事を謝らないよ。…僕は、そういう者なのだから…。」



「……ああ……リリーから話を聞いている……」



ロージアは、何も無い空間から、美しい一振りの剣を取り出す。



「百年以上のちの世に、兄上とリリーの血を引く僕を倒す勇者とやらが生まれる…この剣は代々伝えて、その子に渡るようにしてあげて。…唯一、僕を倒せる剣だよ。」



ロージアは兄であるレオンハルト元皇帝の手に剣を渡し、微笑む。



人として、短い人生を兄と共に生きる道を進んだ妹のリリーにも微笑むと、ロージアはディアーナの腕を掴んだ。



「もう、帰ろう!恥ずかしいよ!こんなピラピラな格好見られてんの!」



「……そうね、お別れは済んだのね?」



レオンハルト元皇帝とリリーに背を向けたロージアの、スッキリと晴れやかな笑顔に流れる涙を見てディアーナがロージアの頭を撫でる。





二人は歩いて、国の境目に来た。



出来たばかりの国を囲う高い壁と大きな門。

おとんが造ったよな?これ。装飾こまけぇな…



その入り口でディアーナの夫であるレオンハルトが二人を待っていた。



「おかえり、話は済んだんだな?ロージア。」



ロージアがレオンハルトに頷くと、レオンハルトが親指を立て、門を指差す。



「新しい国の名前だってよ。結局残っちまったな。」



門には、美しい女性達ののレリーフが刻まれている。



『神に祈りを捧げる聖女リリアーナ』

『聖女リリアーナより生まれし、光と闇の双子の姉妹』

『破壊神変態女神ディアーナ』



…………え?



『聖女と女神に守護されし国ディアナンネ』



「ちょっと!なんでソコに私の名前が刻まれてるの!しかも、変態女神って何だ!そのレリーフも、一見剣を持って戦っている風だけど、よく見たら剣でなくてタコの足串持っとるわ!」



「あはは!いいんじゃない?後世には正しく伝えないとトラブルの元になるからね!僕はいいと思うよ!」



「俺も賛成だな、今度こそ正しく後世に伝わる!これ作ったの親父だろ?文句言っても無駄だぞ?」



「……お前ら、まとめて鼻の穴にブドウ詰め込んでやるわ!」






ディアナンネ国王レオンハルトと、その王妃リリー。



二人が治めたこの国は、争いもなく豊かで穏やかな国。



多くの少女達の魂に守られた王と、神に魅入られた聖女リリアーナの魔力を宿した王妃。



ディアナンネ━━平和で美しい国。

その国を治めるべく、二人の間に生まれた王子。





二人の血を引く王子がロージアに逢ってしまうのはもう少し先の話。







━━━終わり━━━









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