転移した世界がクソだったんで魔王を作る事にした。

DAKUNちょめ

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第一章

2―双子の狼の兄弟。

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「真神君、本当にみんなと一緒にお城に行かないの?」


俺は、召喚の儀式が行われた場所である神殿の様な造りの旧びた巨大な建造物の門の前にミチルと共に立っていた。


厳かな様で何処か禍々しささえ感じさせるその神殿の表には、多くの兵士や馬がおり、馬車も何台もある。


異世界から勇者を喚ぶ為の神殿に、国王自らが多くの兵や魔導師を率いてここまで遠征してきたのだろう。
実にご苦労な事だ。

そうやって手に入れた勇者という駒を、保護という理由をつけて飼うつもりで王城に招くようだ。

魔導師が乗るものよりは立派な箱馬車が用意されており、京弥や綾奈が浮足立つ様に乗り込む姿が見えた。


「ああ、俺は城には行かない。
俺は元の世界に戻れなくても構わないし、アイツらとつるむ気も無いからな。一人のが気が楽だ。
それより…ミチルさん、わざわざ俺を見送りなんてしてくれなくても良かったのに。」

「だって…真神君が勇者じゃないなんて…信じたくないもの。」

ミチルは心苦しい顔を見せ、胸に手を当て俯いた。

彼女にとって勇者でないという事は、死刑宣告に近いものだと思えているのかも知れない。






ミチルが魔法を使った後に、王の前で魔法が使えるかを確認される。
最後は俺の番だ。

召喚儀式の魔法陣の上で、俺はスゥっと腕を前にのばした。

俺がミチルと同じ様に強い魔法が使えたら、イジメの報復されるのではないかと、京弥達は固唾を呑んで俺の姿を凝視していた。

「……炎よ出ろ。水よ…雷よ………。
……やはり何も出ないな。
俺には魔法を使う事が出来ないようだ。」


ハァー………

京弥達からは安堵の、国王からは期待外れだと呆れを含んだ溜め息が漏れた。


「勇者でないならば城に連れ帰る事は出来ん。
当座の生活には困らんだけの金を渡すゆえ、何処へなりとも去るが良い。」

王の言葉に一人の兵士が、片手に収まる位の小さな巾着を俺の足元に投げてよこした。
役立たずは、這いつくばって拾えとでも?
いい性格してんな、オッサン。


「コイツ勇者じゃねーのか?
じゃあ俺もミチルがやったみたいに、コイツ殺ってみていいか?」

京弥の仲間の一人がニヤリと笑んで俺に向け手の平を伸ばした。

いや、お前の魔法ってチョロっボテッの線香花火の最期みたいなヤツだったよな?
俺の所まで火の玉飛んで来ないだろ、あの魔法。

「真神君のかわりに、私が相手をするわよ。」

ミチルが手の平の上に、小さな炎の竜巻を乗せて相手を睨みつけた。

「私…あなた達にされた事、忘れてないから。」

凄味のあるミチルの表情に相手が怯み、後ろに下がった。

ミチルは、この世界では勇者になり得るのかも知れない。
この世界での魔法を使うセンスが群を抜いており、他の3人は特訓を重ねた所で、ミチルの足元にも及ばないだろう。

まぁ俺にはどーでも良い話だ。

「じゃあ、行くから。」

俺は金の入った巾着を拾って制服のブレザーのポケットに突っ込んだ。

「待って、せめて外に出るまで見送るから…!」

京弥達は、下に見ていた俺が勇者ではないと知り、嘲る笑みを浮かべて俺に向けて中指を立てた。

そして京弥が口をパクパクと動かす。

━━死んじまえ。転校生。━━

そうだな。この世界は人の命が軽いな。
さっきまで教室で仲良くつるんでいた奴が目の前でアッサリ消し炭になったのに、お前らは随分と楽しそうじゃないか。

次は自分たちかも知れないのにな。

俺は口の端を少し上げて微笑し、パクパクと口を動かして召喚儀式の間を出た。

━━お前らは、頑張って生きていてくれよ?━━

簡単に死んだらつまらないからな。満喫しろよ、異世界を。






神殿の前ではミチル以外の同級生が皆、馬車に乗り込んでおり、他の兵士達はミチルを待っているようだ。
俺がミチルを引き止めていると思っているのか、兵士達の視線が突き刺さる。
これはサッサとこの場を離れた方が良さそうだ。


「ねぇ、真神君!私やっぱり心配だわ!
右も左も分からない、こんな世界で魔法も使えない真神君が一人で生きていくなんて無理だと思うの!」


門を出て行こうとした俺の腕をミチルが掴んだ。


「転校して来た俺がミチルさんの身代わりにイジメにあい、ミチルさんがイジメの被害に遭うのが減った。
そんな風に思ってるなら、それは間違いだ。
だから俺に罪悪感を抱いて気を遣ってくれる必要は無いよ。」

「だとしても!魔法が使えて魔王が居た世界なのよ!
どんな凶悪なモンスターが出て来るかも分からない!
真神君、すぐ死んじゃうわよ!」


心配してくれるのは有り難いし、そんな彼女の腕を強く振り払うわけにもいかず、腕を掴まれたまま俺は「どうしたもんか」と思案顔をした。
ミチルも俺の真似をするように俯き加減で思案顔をしたが、やがてパアッと明るい表情で顔を上げた。


「そうだ、京弥のアホがビッチの綾奈を奴隷にしたように、真神君が私の奴隷になればいいのよ!
そうすれば一緒にお城に行けるわ!」

「……奴隷か……なるほどな。」


俺は掴まれていたミチルの手から、スルリと俺の腕を解放させた。


「え!?え?……え?」


しっかりと掴んでいた俺の腕が、いつの間にか自分の手の中から離れている。
ミチルは脱出の手品を見せられたように、何が起こったか理解出来ていない。


「ミチルさんは間違いなく、この世界の勇者になれると思う。
そんなミチルさんの中ではもう既に俺達は同級生ではないみたいだ。
歯向かうならば倒しても良い敵、従順ならば下僕。
対等には見れない。
君の中の価値観は既に、この世界のものだ。」


俺は国王の一行が向かおうとしている方向と逆の方向に足を向けた。
痺れを切らした兵士達がミチルを迎えに来て、なだめる様にしてミチルを馬車に引き摺って行く。


「真神君!!待って!違うの!言い方を間違えただけなの!」

「君たちが立派な勇者になれるよう、祈ってるよ。」


ミチル、京弥、綾奈……あと、名前を覚える事も無かった同級生二人。

その5人を乗せた馬車が国王の馬車、魔導師を乗せた馬車、他ツラツラと何台もの馬車と連なり、多くの兵士に囲まれるようにして去っていった。

俺は神殿の裏側にある絶壁に登り、その上からその様子を眺めていた。

馬車の周りの多くの兵士達は勇者の護衛と言うよりは、勇者達が逃走しないよう見張りの役割があるんじゃないかと思えた。
何となくな勘だが。



神殿を下に見ながら更に上へと歩き、切り立った崖の様な場所から辺りを見回す。

自分が先程まで居た、現代日本の文明に見合うような建造物は見当たらない。
自然が多く、地球の歴史になぞらえるならば馬車や乗馬が移動の手段に用いられている時点で、この世界は中世に近いのかも知れない。


「異世界に転移って言えば、ある意味定番だよな。
中世ファンタジー世界。」


王族が治める国があり、魔王や魔物がいて…平和のためには勇者が必要で……
剣と魔法で戦う世界。
エルフとかドワーフとか亜人も出て来るのだろうか。


「魔法か。使えないモンは仕方がない。別に困りもしないが……。」


あの国王は、当座の生活費だと金を寄越したが、武器や防具のひとつも与えずに俺を神殿から追い出した。
綾奈も、京弥が主人になると言わなかったら同じように放り出されていたのだろうか。

それは、この魔物のはびこる世界では、死ねと言っているのと同義だ。


「で、俺が死んだかわざわざ確認に来たのか。あんたらは。」


俺は絶壁の上で、ゆっくりと振り返った。
頭をスッポリ覆う兜を付け、紋章の刻まれた鎧に身を包んだ兵士が3人、武器を構えて立っていた。


「なぜ魔法も使えぬ者がまだ生きている!」

「この場に来る迄にも、魔物に襲われたろう!武器も防具も無い者が如何様にして!」

「ええい構わん!我らで此奴を倒して、死んでいたと報告すれば良いだけの事だ!」


生死の確認…と言うよりは、死んでいないと都合が悪いと。

俺は、腰掛けるのに丁度良い高さの岩に尻を乗せ、開いた両膝の間に合わせた両手を下ろしてうなだれる様に溜め息をついた。


「やれやれ…。
喚ばれた勇者達もロクな奴らじゃないが、喚んだ奴もロクな奴じゃないって事な。
異世界から拐った人間で勇者になりえない者は殺してしまえって…お前ら一体何様なんだ。」


岩に腰掛けた状態でダラリと両手を下げた無抵抗の俺に対し、王国の騎士3人が剣を振り下ろして来た。

俺は膝の間に下げた両手をスウッと上げ、向かって来た兵士達の頭に━━


手にした2つの銃の銃口を向けた。


「お前らが王の所に戻らなければ、俺が生きているって報告になるだろ。
だから、ここでそのまま死んでくれ。」


銃口を向けられた兵士は、自分の頭部に向けられた初めて見る物体が何かが分からない。
だが、それが自分の命を奪う物である事を、銃口の向こう側に居る口角を上げた俺の顔を見た途端に悟ったようだ。


この世界に初めての銃声が鳴り響く。

死を悟った瞬間、兵士二人の頭には風穴が開いていた。
頭に開いた穴から血がビュルっと飛び、二人の兵士は地面に崩れ落ちた。


「うわ、うわぁあ!!」


もう一人、生き残りの兵士が俺に背を向けて逃走をはかった。
見慣れぬ異形の武器は、魔法の様に見えたかも知れない。
あるいは、俺自身が魔に属する者に見えたかも知れない。

そんな事、どうだっていいが逃がすわけには行かない。
殺すと決めたんだ。だから、死んでもらうだけ。


無言で立ったまま、逃げる兵士の背を見ている俺の背後から、フワリとメイド服を着た黒髪の少女と、メイド服を着た銀髪の少女が現れる。
少し幼さの残る小柄な美少女メイドの二人は、舞う様に宙を飛んで逃げた兵士に追いついた。


「ぎゃんっっ!!!」


鈍い声がした後、離れた場所で血しぶきが飛ぶのが見えた。

黒髪のメイドの手には切り離された兵士の頭が入った兜が抱かれており、血を滴らせている。
銀髪のメイドは、兵士の首無し遺体の襟首部分を掴んで立っていた。

二人揃って無表情なまま俺の言葉を持ち、金色の瞳で俺の方を見ている。


「……あー…久しぶりだな。……スコル、ハティ……。
よく、やったなと褒めたい所だが……
久しぶりに姿を見たと思ったら、なぜメイド服なんて着てんだ…。」


俺は、不意に現れた双子の美少女メイドに大きな溜め息を漏らした。

チクショウ。可愛いじゃねぇか。
可愛過ぎて、一瞬誰か分からなかった位だ。

双子の美少女がメイド服とか、お約束過ぎて逆にハマるわ。


「いや!その前に!なんで、お前達は人間の姿なんだ!!
よりによって美少女って!メイドって!!
そもそもがだ、お前らって双子のオスの狼だったろ!!
あざとくて、逆に色々と不安になるわ!!」


二人は互いの手の平を合わせて指を絡ませて組み、鏡合わせの様な状態で二人シンクロした様に答えた。


「「お母様が、こうすればテイトが喜ぶと。」」


「オヤジがな!!お母様じゃないだろ!
フェンリルはお前らのオヤジだろうが!
俺の男心をくすぐってくれんのは有り難いが、もうお前ら男の娘にしか見えんからな!」


俺は両手に持ったコルトガバメントを手から消した。


「まぁ、こっちの世界でも銃を取り出せた時点で、お前らとも繋がってるだろうとは思っていたが……
だけどな、俺が喚ぶ前に勝手に現れるとは思わなかったぞ。」

「ワタシ達、テイトの殺気……久しぶりで……」
「ボク達、テイトの殺気が嬉しくて、ガマン出来なかった。」


あああ、黒髪のスコルはボク呼びか。何なんだ。
何かが、ツボるからヤメてくれ。


「……スコルとハティ、お前ら以外の皆も、まだ居るのか?」


スコルとハティは互いの両手を合わせて指先を絡ませ組んだままクスクスと笑った。


「多分いる。みんなテイトが好き。」
「そう。いつか食べたいと思ってる。」


可愛らしい少女達に食べたいなんて言われて、やらしい事を想像して思わず嬉しくなる…
なんて事は無い。

コイツラの言う食べたいは性的な行為の比喩表現ではない。

妖獣、魔獣、幻獣、その辺りに属する「みんな」は、いつか俺を飯にしたいと、本当に食いたいと思っているらしい。


「勘弁してくれと皆に会ったら伝えといてくれ。
それより……この世界で俺は何をするかな。」


ここが、どんな世界かがまだ分からない。
とりあえず、俺達を召喚した国がクソだってのは分かったが。


「テイト。さっきの兵士の他に、もう一人兵士が居た。」
「ソイツ、テイトが生きていると報告する。
また、テイトを狙う奴が来る。きっと来る。」


そうか、俺の死を確認しに来た兵士は3人ではなく4人居たのか。
俺が生きている事だけではなく、スコルとハティの事も報告されるのかもな。
まぁ、別に構わないが……
4人目の兵士の気配に気付かないとは、俺も感覚鈍ってんな。


「じゃあ当面の目的は、俺を殺しに来る奴を迎撃する事にする。
俺も暫く動いてなかったから身体をなまらせてるしな。
向かって来る奴は討つ。だが、尻尾を巻いて逃げる奴は追わない。楽しみが減るからな。」


「テイト、みんなに会いに来ない?」
「みんな待ってる。お母様も。」


だから、お前らの言うお母様とやらは、オヤジだからな。

姿形を自由に変化させられるのは、神話の住人の常だろうから突っ込んだ所でどうしようもないだろうが。


「ま、そのうちな。お前らは?戻らないのか?」

「「退屈だから、テイトと遊ぶ。」」


スコルとハティはご主人に遊んでもらいたい飼い犬のように金色の目を輝かせて言うが、俺は今、目立ちたくはない。

美少女メイドを二人連れて歩くなんて、どれだけ注目を集める事やら。


「じゃあ戻らなくてもいいが、俺からは距離を置いて姿を見せないようにしといてくれ。
俺は、国王に見限られてから一人きりで居ると思われていたい。」


気が付くと、スコルとハティが俺の顔を見上げてジイイっとガン見している。


「……なんだよ。食いたいとか言うなよ。」


「テイト、前より落ち着いてる?」
「前はいつも、あっぷあっぷしていた。今はヨユー?」


あっぷあっぷって……なんつう言い方をされてんだ俺は。
と言うか、以前はそんなに切羽詰まって見えていたのか。


「そうだな、余裕と言うよりは……元の世界に戻れない事が分かっているから、そのために必死になれないと言うか……。」



以前は━━

元の世界に、いつも通りの日常に戻る為に必死だった。

だから頑張れた。
そのために、自分を変えた。
いつも通りの自分を捨てた。

いつも通りの自分が俺の中から居なくなってしまった様に

俺の求めていた「いつも通り」に戻る事は出来ないのだと知った。


「ヨユーで人を殺した。」
「ボク達が殺すのもヨユーで見てた。」


「向けられた殺意に遠慮はしなくなっただけだ。
それに、あいつらは人間だが俺を殺そうとする俺の敵だ。
それにしても、お前らの言う前の俺って、どれ位前の話だよ。」


銀髪のメイドのハティが俺の制服の袖を摘んだ。
金色の目で俺を見上げ、小さな唇を開く。
何かヤベー。チラリと見える犬歯が妙にそそられるのだが。

めちゃくちゃ可愛いが、男だし…そもそも人間でないし…
ときめいてはイカン。ここは冷静になろう。


「どうしました。ハティ君…。」


「テイトをさんどばっぐにしていた人間。
ワタシが殺して食べても怒らない?」


ハティは、主である俺がいたぶられていた事が許せなくて聞いてるのではない。
コイツラは、俺が京弥達の暴力によるダメージを一切受けて無い事を知っているし、俺が暴力を受けたからと言って報復する事も無い。

ただ……食欲や、強い者には逆らわないといった本能には忠実だ。


「……まだ、たいした魔力持ってないぞ。アイツら。
せめてもう少し育って美味しくなるまで待ちなさい。」


スコルとハティがシュンと俯いた。
いや、マジで京弥たちを食いたかったのか?


「二人は俺が呼ぶまで現れるんじゃないぞ?
俺一人だと思わせときたいからな。」


二人はコクンと頷いて姿を消した。


俺はこの世界に喚ばれ、武器も防具も与えられずに僅かな金を持たされて追い出されるという理不尽極まりない扱いを受けた。
その上、勇者になる素養の無い者は元々生かしておくつもりはないらしく、命まで狙われる始末。

死亡確認に来た兵士達が、渡した金も回収するつもりだったのだろうな。
生きて町まで辿り着かせる気はハナから無いらしい。

どこまでも性根が腐ってやがる。

今回の召喚儀式が初めてだったとは限らない。
今まで他にも犠牲になった者がいた可能性が高い。
上手く逃げおおせた奴は居ないのだろうか。


「色々と知りたい事が出来たな。
とりあえずは旅人として、この世界を歩いてみるか。」


旅人に扮して歩き回るつもりの俺は護身用の武器として、とりあえずお気に入りのラブレスナイフを持ち歩く事にした。

旅人らしいポーズを取るため、見せかけで護身用武器のナイフを持ち歩く。
実際には、手ぶらでも平気なんだが。


「さて、まずは町か村でも探すか。」


    
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