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夜の帳と共に訪れる、愛を請う時。
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俺と殿下は、いい汗をかくべく剣の訓練を始めたのだが、何しろ頭の中が後の事でいっぱいいっぱいだった俺は、それはそれは無様なへっぴり腰を披露してしまっていたと思う。
いい汗をかくどころか、変な脂汗が出てるんじゃないかと。
今日の俺からならば、殿下は何手でも攻撃を入れる事が出来たのだが……
それはフェアじゃないからと、殿下は俺の隙を突くような真似を一切しなかった。
男前だな……そんな殿下、素敵過ぎる!好きだ!
日が少し傾きかけた頃、剣の稽古を終了させた。
まぁ今日のはあまりにもグダグダで、稽古なんて言える様なモンではなかったのだが。
城に戻った殿下は、夕食の時間まで国王陛下や兄君の王太子殿下と共に、陛下の執務室にて軽食を取りながらの意見交換という名の勉強会をなさる。
この国を統治なさっている陛下の元で、王太子殿下と共に治世について学ぶとの事。
この時間だけは俺達兵士は部屋の中に入れず、国王陛下の執務室の外にて主を待つ。
国王陛下の近衛兵二人が、扉を背に門番のように部屋の前に立つ。
リヒャルト殿下の護衛騎士の俺と、俺の部下でもある王太子殿下の護衛騎士は、主を待つ間に短い休憩と早めの夕食をとる為に、共に兵舎の食堂に向かった。
「オズワルド隊長。
エルンスト王太子殿下が、なぜオズワルド隊長はリヒャルト王子殿下の専属になったのかと訊ねて来られるんですよ。」
「なぜと言われても…
リヒャルト殿下が国王陛下に、そうして欲しいと申し出た上で決まったのだと聞いたが…?」
食堂で並んで飯を食いながら、俺は話しかけて来た部下の若い兵士に返事を返した。
「エルンスト王太子殿下は、優秀な騎士である隊長ならば、第二王子より王太子の自分の警護を優先すべきではないかと言うんですよ。」
「そうは言っても、俺の一存でどうこう出来る訳ではないし、もう決まった事だしな。」
第一王子のエルンスト殿下も、小さい頃から守ってきた存在ではある。
だから、リヒャルト殿下位の歳の頃にはエルンスト殿下も俺に懐いてくれていたのは知っているが…
さすがに18歳ともなると城内で互いに顔を合わせても、昔の様に笑顔で走って来るなんて事もなく、礼をする俺に対して柔らかな笑顔で頷き、すれ違うだけだ。
エルンスト殿下は俺に、王太子に相応しい優雅な立ち居振る舞いを見せるに留まる。
その姿はもう、幼さを感じさせる事の無い立派な大人の男だ。
そんな殿下と、最近は会話もマトモにした事がない。
「エルンスト殿下が、お前にそんな愚痴をこぼすのか?
何だか意外だな……。」
「八つ当たりみたいなモンでしょ。
殿下、自室じゃ結構何でも本音で話しますよ。
第二王子のリヒャルト殿下の方が隊長に優遇されたって、拗ねてるんですよ。」
「そんな子どもみたいな事を。」
もう成人したとは言え、エルンスト殿下と俺は親子ほど歳が離れている。
父親のような歳の俺よりは、歳の近い20代の部下の方が愚痴を話しやすいのかも知れない。
兵舎の食堂にて軽く夕食を済ませ、少し身体を休ませてから俺と部下は国王陛下の執務室に向かった。
扉が開き、部屋を出た国王陛下とエルンスト王太子殿下、リヒャルト王子殿下を我々護衛騎士が頭を下げて迎える。
エルンスト王太子殿下が俺の前を通ったが、特に何か声を掛けて来るでもなく、何の素振りも一切無い。
部下の話を「さっきのエルンスト殿下の話は本当か?」と思う。
まぁ…本当だったとしても、歳の近い部下との雑談の中で漏らした、ただの愚痴かも知れんし。
今の俺がどうこう出来る問題でもないし。
気にしないでおこう。
「ちょうど良い時間だ。
このまま食堂へと向かおう。」
国王陛下がそう言って、食堂に向かい歩き出した。
我々護衛騎士は陛下達に付き従い、共に食堂へと向かった。
夕食の時間が終わると、いつもの様に王族の方々の個々の時間が始まる。
食堂を出た王妃殿下は王女殿下と共にサロンへ向かい、甘い菓子をつまみながらのおしゃべりなど、女性だけの時間を楽しむ。
国王陛下はエルンスト殿下と共に談話室へ赴き、他の貴族の者たちと上等な酒類を嗜みながら、カードなどの遊戯をしてらっしゃったりする。
そして、リヒャルト殿下はご家族の方々とはご一緒せずに、食事が終わると食堂を出て自室にお帰りになる。
その際、俺を従えて部屋に行くまでの道を夜の庭園を通り、ぶらりと遠回りするように散歩したりするのだが………
「オズ、このままオズを抱きたい。
少しでも長い時間、オズと愛し合いたいんだ…いい?」
食堂を出て少し歩いた後、誰も居ない廊下の真ん中で、殿下が俺の手の指先をキュッと遠慮がちに握った。
ボッと火が点いた様に顔が赤くなったと思う。
一気に熱くなったからな!汗もたらっと流れたし。
だってな……
こっ!!心の準備が整ってなー!!!
お、俺の中では…夕食をお済ましになられた殿下は、湯浴みなさって…それから、お部屋にお戻りになる予定で…
感覚的に、あと二時間後に向けて俺の心の準備が整う予定だった!!
「僕も湯浴み無しで、このまま……
こんな僕は、汗臭いからイヤ?」
「何をおっしゃいます!!
殿下の、御身体を纏うかぐわしき芳香の何が臭いもんですか!
そのような、殿下御自らが放つ香りに包まれるなど、至極光栄に存じます!!」
…ただの変態のセリフじゃなかろうか。
いや、でも本当に……
殿下のナマの香りに包まれるのは、それはそれで興奮する…って、これはやはり変態の思考ではないだろうか。
幼い少年のナマの香りって……
言葉の響きだけでも充分にオカシイ事を言ってるな俺。
俺の指先を握った殿下の手が俺の手に重なり、手の平を合わせて指を交差させて手を繋ぎ直す。
汗ばんだ手の平に殿下の手の平がっ……脂汗が殿下の御手を汚しちまう!
手を洗っておけば良かった…。
「いいって事だよね?じゃあ…オズ。
今から僕のモノになって。」
言葉が詰まって声が出せない。
ただただ、何度も頷きながら殿下の小さな手を握り返す。
俺に手を握り返された殿下は、真っ赤になった俺の顔を見上げ、ニコリと微笑んだ。
その後、殿下の御部屋までの距離がえらく遠く感じた。
遠く感じるのに、心の準備の為に更に時間をかけて歩きたい自分と、早く殿下と結ばれたいと気持ちがはやる自分が居る。
足取りが重いんだか軽いんだか。
「オズ、歩くの速いね。」
足取り軽い方だった。
殿下の私室に到着した俺は部屋の扉を開き、中の様子を確認してから殿下に御部屋にお入り頂く。
今日この時に賊なんか潜んでやがったら、俺はソイツを捕える前に無言でブスーっと殺ってしまうかも知れない。
まぁ、何事もない様子なので部屋に明かりを灯して殿下に中にお入り頂いた。
さて……で?
どうすれば………?
そんな疑問を思いつつも、俺はいつもの癖で部屋に入ってすぐさま扉の前で姿勢を正してその場に立ってしまった。
入室を許された場合は、この場所が警護をする者の立ち位置となる。
殿下は特に何も言わずに脱いだ上着を長椅子に掛け、薄手のブラウス姿になって袖のボタンを外しながらベッドに向かう。
ちょ…殿下のそんな姿を目で追っているだけで心臓が飛び出しそうになるんだが。
殿下はベッドの縁に腰を下ろして、ブラウスの前を開いた。
男の身体と言うには、まだ華奢で未成熟な肢体が現れる。
肌も白く、筋肉も無い訳では無いが、たくましいと言うよりは、しなやかに美しい。
いや、離れてるのにメチャクチャ見てるな、俺。
やらしいな。変態か。
「オズ、おいで。」
「は、ハイ!」
手招きされて、フラフラと殿下の方へと足が出る。
ベッドに座る殿下の前に到着した時、小さな殿下を見下ろす様な立ち姿となった。
はたから見たら、美少年を威圧する厳めしいオッサンにしか見えないかも知れない。
そんな考えが浮かび、俺は殿下の前に両膝をついて腰を落とし、俺が殿下を見上げる位置についた。
殿下のお姿を見上げる俺に、殿下の影が下りる。
今夜の殿下は、何とキレイで…神々しく見えるのだろうか。
「殿下……殿下が……好きです。
あ、愛しています……。」
今、俺は神に赦しを請うように、殿下に愛を請うているのだ。
好きだー!と思いの丈を大声で叫びながら、発散しきれない身体の疼きを落ち着かせる為に床の上をゴロゴロと転がり回りたい。
それも俺の正直な気持ちだ。
だが、今、殿下を前に膝をついて愛を請う俺は、巡礼者のような気持ちだ。
俺の恋心は、迷いながらずっとずっと旅をして、やっとこの地に辿り着いた。
辿り着いたこの地は…殿下は、俺の聖地だ。
辿り着いた巡礼の地にて祈りを捧ぐように、差し出したい俺のこの想いは、純粋で清らかに美しいものだと思える。
愛を捧げて、より神聖なる者から注がれる愛を得る。
その行いを、いやらしいなんて言葉では括れない。
「……うん。オズ……。
僕もオズを愛している。」
ベッドの縁に座った殿下が背を丸めるようにして俺のうなじを撫で、そのまま殿下を見上げる俺の唇に自身の唇を重ねた。
柔らかく、濡れた様にしっとりと重ねられた唇の隙間を開く様に、殿下の舌先が俺の唇の上をツウっと走る。
「で……殿下っ……あ…」
全身を雷が走ったよう。
ビリビリと全身を纏う様に電流が走り、過敏になった身体は殿下の僅かな舌先、指先の動きもつぶさに捉えて、その愛撫の感触を全身に駆け巡らせる。
僅かに開いた口には声ごと食む様に深く唇が重ねられ、クチュリと音を奏で舌先同士で互いを舐め合った。
ああ…脳が痺れる。
殿下の呼気が俺の口の中に入る。
熱を帯びた殿下の熱い呼吸を飲み込み、俺の身体も熱くなる。
俺のうなじに回された殿下の手が移動し、急く気持ちを抑えて慎重に、俺の衣服を脱がせ始めた。
口付けをしながらの慣れない所作はぎこちなく、それでも無様な姿は見せたくないのか殿下は手探りで俺の衣服の留め具やボタンの位置を丁寧に探し出した。
何と健気で愛らしい。
これを愛おしく思わない理由がない。
俺は、殿下の手に自分の手を重ねて導く様にボタンの位置へと殿下の手を運んだ。
自分で脱いでも良かったのだろうが……
殿下に全てを委ねたかった。
殿下も俺のそんな気持ちを察してくれたようだ。
ひとつずつ丁寧にボタンが外されていき、俺の騎士服の上着が開かれた。
肩を竦めて腕を抜くようにして、上着を下に落とした。
騎士服の下に着ていたシャツのボタンもひとつずつ順に外されていく。
互いにシャツの前が開いた状態になった時、殿下が先にブラウスを脱いでベッドの下に落とした。
ああ…
何と神々しいお姿を晒すのだろう。
まだ男の肉体になりきれてないような、どこか中性的にも見える肢体は、性別を持たない天の御遣いの様だ。
「オズ、僕のもとにおいで。」
ベッドに乗った殿下に手を差し伸べられた俺は、殿下の手に俺の手を乗せてベッドに片膝を乗せた。
いい汗をかくどころか、変な脂汗が出てるんじゃないかと。
今日の俺からならば、殿下は何手でも攻撃を入れる事が出来たのだが……
それはフェアじゃないからと、殿下は俺の隙を突くような真似を一切しなかった。
男前だな……そんな殿下、素敵過ぎる!好きだ!
日が少し傾きかけた頃、剣の稽古を終了させた。
まぁ今日のはあまりにもグダグダで、稽古なんて言える様なモンではなかったのだが。
城に戻った殿下は、夕食の時間まで国王陛下や兄君の王太子殿下と共に、陛下の執務室にて軽食を取りながらの意見交換という名の勉強会をなさる。
この国を統治なさっている陛下の元で、王太子殿下と共に治世について学ぶとの事。
この時間だけは俺達兵士は部屋の中に入れず、国王陛下の執務室の外にて主を待つ。
国王陛下の近衛兵二人が、扉を背に門番のように部屋の前に立つ。
リヒャルト殿下の護衛騎士の俺と、俺の部下でもある王太子殿下の護衛騎士は、主を待つ間に短い休憩と早めの夕食をとる為に、共に兵舎の食堂に向かった。
「オズワルド隊長。
エルンスト王太子殿下が、なぜオズワルド隊長はリヒャルト王子殿下の専属になったのかと訊ねて来られるんですよ。」
「なぜと言われても…
リヒャルト殿下が国王陛下に、そうして欲しいと申し出た上で決まったのだと聞いたが…?」
食堂で並んで飯を食いながら、俺は話しかけて来た部下の若い兵士に返事を返した。
「エルンスト王太子殿下は、優秀な騎士である隊長ならば、第二王子より王太子の自分の警護を優先すべきではないかと言うんですよ。」
「そうは言っても、俺の一存でどうこう出来る訳ではないし、もう決まった事だしな。」
第一王子のエルンスト殿下も、小さい頃から守ってきた存在ではある。
だから、リヒャルト殿下位の歳の頃にはエルンスト殿下も俺に懐いてくれていたのは知っているが…
さすがに18歳ともなると城内で互いに顔を合わせても、昔の様に笑顔で走って来るなんて事もなく、礼をする俺に対して柔らかな笑顔で頷き、すれ違うだけだ。
エルンスト殿下は俺に、王太子に相応しい優雅な立ち居振る舞いを見せるに留まる。
その姿はもう、幼さを感じさせる事の無い立派な大人の男だ。
そんな殿下と、最近は会話もマトモにした事がない。
「エルンスト殿下が、お前にそんな愚痴をこぼすのか?
何だか意外だな……。」
「八つ当たりみたいなモンでしょ。
殿下、自室じゃ結構何でも本音で話しますよ。
第二王子のリヒャルト殿下の方が隊長に優遇されたって、拗ねてるんですよ。」
「そんな子どもみたいな事を。」
もう成人したとは言え、エルンスト殿下と俺は親子ほど歳が離れている。
父親のような歳の俺よりは、歳の近い20代の部下の方が愚痴を話しやすいのかも知れない。
兵舎の食堂にて軽く夕食を済ませ、少し身体を休ませてから俺と部下は国王陛下の執務室に向かった。
扉が開き、部屋を出た国王陛下とエルンスト王太子殿下、リヒャルト王子殿下を我々護衛騎士が頭を下げて迎える。
エルンスト王太子殿下が俺の前を通ったが、特に何か声を掛けて来るでもなく、何の素振りも一切無い。
部下の話を「さっきのエルンスト殿下の話は本当か?」と思う。
まぁ…本当だったとしても、歳の近い部下との雑談の中で漏らした、ただの愚痴かも知れんし。
今の俺がどうこう出来る問題でもないし。
気にしないでおこう。
「ちょうど良い時間だ。
このまま食堂へと向かおう。」
国王陛下がそう言って、食堂に向かい歩き出した。
我々護衛騎士は陛下達に付き従い、共に食堂へと向かった。
夕食の時間が終わると、いつもの様に王族の方々の個々の時間が始まる。
食堂を出た王妃殿下は王女殿下と共にサロンへ向かい、甘い菓子をつまみながらのおしゃべりなど、女性だけの時間を楽しむ。
国王陛下はエルンスト殿下と共に談話室へ赴き、他の貴族の者たちと上等な酒類を嗜みながら、カードなどの遊戯をしてらっしゃったりする。
そして、リヒャルト殿下はご家族の方々とはご一緒せずに、食事が終わると食堂を出て自室にお帰りになる。
その際、俺を従えて部屋に行くまでの道を夜の庭園を通り、ぶらりと遠回りするように散歩したりするのだが………
「オズ、このままオズを抱きたい。
少しでも長い時間、オズと愛し合いたいんだ…いい?」
食堂を出て少し歩いた後、誰も居ない廊下の真ん中で、殿下が俺の手の指先をキュッと遠慮がちに握った。
ボッと火が点いた様に顔が赤くなったと思う。
一気に熱くなったからな!汗もたらっと流れたし。
だってな……
こっ!!心の準備が整ってなー!!!
お、俺の中では…夕食をお済ましになられた殿下は、湯浴みなさって…それから、お部屋にお戻りになる予定で…
感覚的に、あと二時間後に向けて俺の心の準備が整う予定だった!!
「僕も湯浴み無しで、このまま……
こんな僕は、汗臭いからイヤ?」
「何をおっしゃいます!!
殿下の、御身体を纏うかぐわしき芳香の何が臭いもんですか!
そのような、殿下御自らが放つ香りに包まれるなど、至極光栄に存じます!!」
…ただの変態のセリフじゃなかろうか。
いや、でも本当に……
殿下のナマの香りに包まれるのは、それはそれで興奮する…って、これはやはり変態の思考ではないだろうか。
幼い少年のナマの香りって……
言葉の響きだけでも充分にオカシイ事を言ってるな俺。
俺の指先を握った殿下の手が俺の手に重なり、手の平を合わせて指を交差させて手を繋ぎ直す。
汗ばんだ手の平に殿下の手の平がっ……脂汗が殿下の御手を汚しちまう!
手を洗っておけば良かった…。
「いいって事だよね?じゃあ…オズ。
今から僕のモノになって。」
言葉が詰まって声が出せない。
ただただ、何度も頷きながら殿下の小さな手を握り返す。
俺に手を握り返された殿下は、真っ赤になった俺の顔を見上げ、ニコリと微笑んだ。
その後、殿下の御部屋までの距離がえらく遠く感じた。
遠く感じるのに、心の準備の為に更に時間をかけて歩きたい自分と、早く殿下と結ばれたいと気持ちがはやる自分が居る。
足取りが重いんだか軽いんだか。
「オズ、歩くの速いね。」
足取り軽い方だった。
殿下の私室に到着した俺は部屋の扉を開き、中の様子を確認してから殿下に御部屋にお入り頂く。
今日この時に賊なんか潜んでやがったら、俺はソイツを捕える前に無言でブスーっと殺ってしまうかも知れない。
まぁ、何事もない様子なので部屋に明かりを灯して殿下に中にお入り頂いた。
さて……で?
どうすれば………?
そんな疑問を思いつつも、俺はいつもの癖で部屋に入ってすぐさま扉の前で姿勢を正してその場に立ってしまった。
入室を許された場合は、この場所が警護をする者の立ち位置となる。
殿下は特に何も言わずに脱いだ上着を長椅子に掛け、薄手のブラウス姿になって袖のボタンを外しながらベッドに向かう。
ちょ…殿下のそんな姿を目で追っているだけで心臓が飛び出しそうになるんだが。
殿下はベッドの縁に腰を下ろして、ブラウスの前を開いた。
男の身体と言うには、まだ華奢で未成熟な肢体が現れる。
肌も白く、筋肉も無い訳では無いが、たくましいと言うよりは、しなやかに美しい。
いや、離れてるのにメチャクチャ見てるな、俺。
やらしいな。変態か。
「オズ、おいで。」
「は、ハイ!」
手招きされて、フラフラと殿下の方へと足が出る。
ベッドに座る殿下の前に到着した時、小さな殿下を見下ろす様な立ち姿となった。
はたから見たら、美少年を威圧する厳めしいオッサンにしか見えないかも知れない。
そんな考えが浮かび、俺は殿下の前に両膝をついて腰を落とし、俺が殿下を見上げる位置についた。
殿下のお姿を見上げる俺に、殿下の影が下りる。
今夜の殿下は、何とキレイで…神々しく見えるのだろうか。
「殿下……殿下が……好きです。
あ、愛しています……。」
今、俺は神に赦しを請うように、殿下に愛を請うているのだ。
好きだー!と思いの丈を大声で叫びながら、発散しきれない身体の疼きを落ち着かせる為に床の上をゴロゴロと転がり回りたい。
それも俺の正直な気持ちだ。
だが、今、殿下を前に膝をついて愛を請う俺は、巡礼者のような気持ちだ。
俺の恋心は、迷いながらずっとずっと旅をして、やっとこの地に辿り着いた。
辿り着いたこの地は…殿下は、俺の聖地だ。
辿り着いた巡礼の地にて祈りを捧ぐように、差し出したい俺のこの想いは、純粋で清らかに美しいものだと思える。
愛を捧げて、より神聖なる者から注がれる愛を得る。
その行いを、いやらしいなんて言葉では括れない。
「……うん。オズ……。
僕もオズを愛している。」
ベッドの縁に座った殿下が背を丸めるようにして俺のうなじを撫で、そのまま殿下を見上げる俺の唇に自身の唇を重ねた。
柔らかく、濡れた様にしっとりと重ねられた唇の隙間を開く様に、殿下の舌先が俺の唇の上をツウっと走る。
「で……殿下っ……あ…」
全身を雷が走ったよう。
ビリビリと全身を纏う様に電流が走り、過敏になった身体は殿下の僅かな舌先、指先の動きもつぶさに捉えて、その愛撫の感触を全身に駆け巡らせる。
僅かに開いた口には声ごと食む様に深く唇が重ねられ、クチュリと音を奏で舌先同士で互いを舐め合った。
ああ…脳が痺れる。
殿下の呼気が俺の口の中に入る。
熱を帯びた殿下の熱い呼吸を飲み込み、俺の身体も熱くなる。
俺のうなじに回された殿下の手が移動し、急く気持ちを抑えて慎重に、俺の衣服を脱がせ始めた。
口付けをしながらの慣れない所作はぎこちなく、それでも無様な姿は見せたくないのか殿下は手探りで俺の衣服の留め具やボタンの位置を丁寧に探し出した。
何と健気で愛らしい。
これを愛おしく思わない理由がない。
俺は、殿下の手に自分の手を重ねて導く様にボタンの位置へと殿下の手を運んだ。
自分で脱いでも良かったのだろうが……
殿下に全てを委ねたかった。
殿下も俺のそんな気持ちを察してくれたようだ。
ひとつずつ丁寧にボタンが外されていき、俺の騎士服の上着が開かれた。
肩を竦めて腕を抜くようにして、上着を下に落とした。
騎士服の下に着ていたシャツのボタンもひとつずつ順に外されていく。
互いにシャツの前が開いた状態になった時、殿下が先にブラウスを脱いでベッドの下に落とした。
ああ…
何と神々しいお姿を晒すのだろう。
まだ男の肉体になりきれてないような、どこか中性的にも見える肢体は、性別を持たない天の御遣いの様だ。
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