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少女の名で呼ばれた中年男。
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殿下の広く大きなベッドの中、俺と殿下は全裸のまま二人で互いを抱き合うようにして朝を迎えた。
朝が弱い殿下は、朝日が窓から射し込んでも眩しげに眉間を寄せたまま目を開かない。
「まだ早朝ですからね。
もう少し寝ていていいですよ。」
朝の支度をしに侍女が部屋に来るのは、まだ二時間程後だ。
さすがに俺が全裸で殿下のベッドに居る所を侍女に見られるワケにはいかないので、俺はベッドから下りようとした。
「オズゥ……行かないで……」
「いや、そのお願いは聞けません。」
ベッドの中から手がのびて、殿下が甘えるように俺の指の先を握った。
寝癖のついた頭で、半分は目を閉じたままうつらうつらとした顔をシーツから出して切ないお願いをしてくる。
俺は困り顔をしながらも、そんな殿下の姿にクスクスと笑みがこぼれた。
可愛くも、俺の絶対君主である幼い恋人の頭を優しく撫で、ピョンと跳ねた寝癖を指に引っ掛ける。
なんだ、この可愛いの。
もう、見ているだけで愛おしい気持ちが止まらない。
俺の全てを差し出したい。
そんな想いが通じ昨夜殿下とひとつになれた事が、まるで夢の様だ。
「俺は、殿下の部屋の前に居ますよ。
殿下だけの、護衛騎士ですからね。」
殿下のこめかみにチュッと吸い付くキスをしてからベッドを下りる。
昨夜脱ぎ捨てた衣服を拾って身に着けていき、騎士の格好を整えた俺は静かに部屋の外に出た。
胸の内側が暖かい。
心と身体を繋げたドアの向こうの殿下を思うだけで、心臓の鼓動が大きくなる。
俺は今までの人生の中で、誰かを想ってこんなに強く心を動かされた事は無い。
「……だったら、夢の中に出て来た青年がリヒャルト殿下な訳は無いな。」
少女の態度が…と言うよりは、もう彼に対する少女の心が冷めている。
俺が、あの枯れ枝少女の様に余命いくばくもなくなったとして、愛する殿下の幸せを願って突き放す様な冷たい態度を演じたとしても
きっと心の中では、愛しさや切なさや悲しさや…遺して行く愛しい人の幸せを願い、自身の生命が尽きる事を悔やみ悲しみ、そんなありとあらゆる感情の嵐が吹き荒れる状態であろう。
だが、夢の枯れ枝少女の青年に向ける気持ちは……
静かな静かな水の上の様に凪いでいた。
ああいった感情を言葉にすると……なんだろう……
冷たい…嫌い…憎い…いや、そんな感情でも心は動く。
どちらかと言えば………
━━お前なんか、どうでもエーわ。━━
「………んん…青年が少女に向けていた言葉と、少女の青年に向ける感情の熱量に差が有り過ぎる。」
その冷めきった態度を見せた少女の側目線に立っている俺ではあるが、何だか青年が気の毒に思える。
今まで、数回少女の夢を見たが……
実はまだ、あれが俺の前世なのかは半信半疑な所だ。
生まれ変わりと言うならば、魂は同じなのだろうが、彼女の持つ感情と俺の思考が一致しないような気がして、全くの別人の様に感じたりするからだ。
だが、夢に見たあれ全てが俺の妄想や創作だとするならば、あまりにも俺とは縁のない世界観。
そもそもが転生神なんて聞いた事も無い……。
そんな妄想や創作が出来るほどの素地は、俺の頭には無い。
「転生神様か……夢の中で何度も聞いたな。
この国では聞いた事も無いが。」
もし、本当に転生神とやらを崇める国があるのならば、その国には前世の俺が居たという事になるのだろうか。
あの青年も……?
あの青年は……転生神様とやらに願って生まれ変わらせて貰えたのだろうか。
「まぁ…少女を追って生まれ変わらせて貰えた所で、あの少女がこんなオッサンになってるなんて思いもしねぇよな。」
俺は殿下の部屋の前で苦笑しながら呟いた。
「オズワルド。」
「ハッ!」
不意に声を掛けられてビッと姿勢を正す。
既に朝を迎えたとは言え窓の少ない廊下は薄暗く、声を掛けて来た人物の姿を確認出来たのは、その人物が暗がりから出て来て俺の目の前に立ってからだった。
「おはようございます、エルンスト王太子殿下。」
「ああ、おはよう。
弟の警護、ご苦労。」
姿を確認したのは目の前に来てからだが、声を掛けて来た瞬間に声でそれがエルンスト王太子殿下だとは分かった。
こんな早朝から、弟君の部屋をエルンスト王太子殿下が訪ねる事など初めてで、普段そこまで交流の無い弟を人の少ない時間に共も連れずに訪問。
その不自然な行動に、俺は少し警戒してしまった。
この王城での生命の優先順位は、国王陛下、王妃殿下、王太子殿下、その他のご兄弟となる。
だが俺はリヒャルト殿下の護衛騎士だ。
リヒャルト殿下に危害を及ぼすつもりならば、王太子殿下といえど斬る覚悟がある。
当然、その後は王族を手に掛けた罪で処刑される事も覚悟の上でだ。
実際、跡目を継ぐ為に兄弟で骨肉の争いをするなんて話は、国内外問わず良く聞く話なのだから。
「失礼ながら、エルンスト王太子殿下。
リヒャルト王子殿下に、どのようなご用件で参られたのでしょう。」
「………リヒャルトに用は無いんだ。
私は、オズワルドに会いに来た。」
「私に……ですか。」
昨日、兵舎の食堂で部下に言われた事を思い出した。
俺が、エルンスト王太子殿下の専属ではなくリヒャルト王子殿下の専属になった事を拗ねていると。
そんな子どもみたいな理由で、こんな早朝にわざわざ俺を訪ねて?
「なぜオズワルドは……
リヒャルトのモノになっている……?」
「へ?」
「オズワルドは、40歳を越えても独身で…
もう誰のものにもならないと思っていたから俺も諦めていたのに…
何で、リヒャルトのモノになってるんだ!」
ダン!とリヒャルト殿下の部屋のドアの前に立つ俺を追い詰める様に、エルンスト殿下がドアに手をつく。
俺は、鳩が豆鉄砲を食ったような間抜けなビックリ顔で、間近にあるエルンスト殿下の顔を見た。
「私がリヒャルト殿下の専属護衛騎士となりましたのは、国王陛下からの……。」
「護衛騎士の事なんか言ってない!!
なぜ、リヒャルトと情を交わした!
なぜ、リヒャルトなんだ!!」
ビクッと俺の身体が強張る。
エルンスト王太子殿下は、俺がリヒャルト殿下と身体を重ねた事を知ってらっしゃる。
なぜ知ってらっしゃるんだ?とも思うが、それよりも情を交わした事を、リヒャルト殿下に嫉妬しているような言い回しで責められる理由が分からない。
エルンスト殿下が、どういう理由でだか知らないが俺に執着しており、俺をリヒャルト殿下に奪われたと嫉妬なさっている。
「それは……
私がリヒャルト王子殿下をお慕いしているからです。」
だったら俺は、正直にその理由を答えねばならない。
「何で今更!?
今まで誰かに恋をしたり、されたりなんて無かったろう!
だから私だって諦めた!
オズワルドが誰のものにもならないのならばと!」
「……微妙に意味が分からないのですが。
諦めた…私が誰のものにもならないからと?
一体、どういう……」
エルンスト王太子殿下の言葉が色々と引っ掛かる。
何が言いたいんだろう。
「だったら!今からでも遅くはない!
私のものになれ、オズワルド!」
「は!?な、何を言ってらっしゃいます!?
エルンスト殿下!!」
混乱している上に、何かに焦った様に見えるエルンスト殿下が、俺の身体をドアに押し付けた状態で顔を近付けて来た。
リヒャルト殿下より上背のあるエルンスト殿下の唇は、簡単に俺の唇の近くに迫って来た。
ドアを背にした俺には逃げ場が無い。
これはマズイ、思い切り突き飛ばすべきなのか?
王太子殿下を突き飛ばす……
王族に対し、城に仕える俺がそんな不敬を?
だったらキス位、一発殴られた位に思って我慢すればいいのか?
━━イヤだ……リヒャルト殿下を裏切りたくない。
俺のこの身体は、魂ごとリヒャルト殿下だけのものだ。
リヒャルト殿下以外の誰かに唇を許すなんて、そんな裏切り行為をしたくない。
「お、おやめ下さい!!エルンスト王太子殿下!
私はもう!リヒャルト殿下のだけの…!」
「今からでも遅くはない?遅いよ兄上。」
俺が押さえ付けられたドアの反対側のドアが開き、開いたドアの間から伸びたリヒャルト殿下の手が、俺の口を隠す様に押さえていた。
「リヒャルト!!」
「オズは僕のものです。
兄上のものにはなりませんし……絶対に渡しません。」
リヒャルト殿下は俺の唇をエルンスト殿下の唇からから守る様に手の平で覆ったまま、白いブラウスとトラウザーズ姿でドアの外に出て来て、エルンスト殿下と俺の間にグイッっと割って入った。
俺の胸に抱きつくような格好で、後ろのエルンスト殿下の方を向き、睨め付けるような強い眼差しを向けた。
「一度は諦めたんでしょう?
諦めれたのでしょう?
そんな安っぽい気持ちで、僕のオズワルドに手を出さないで下さい。」
リヒャルト殿下は、抱き着いた俺の身体をグイグイと押して部屋の中に入れようとした。
「で、殿下…あの…!エルンスト殿下が……」
王太子殿下を暗い廊下に一人残して、その場を去るとか…良いのだろうか
そんな疑問を浮かべつつ、俺はグイグイとリヒャルト殿下によって部屋の中に押し込まれた。
エルンスト殿下を置き去りに、リヒャルト殿下が部屋のドアを閉めようとした瞬間、エルンスト殿下が俺の方に手をのばした。
「アシュリー!!俺だ!!」
追い縋る様な悲痛な叫びだった。
そんな声でエルンスト王太子殿下に名を呼ばれた俺は……
いや、俺、アシュリーじゃねぇし。
頭の中に、瞬時に浮かんだのが、そんな言葉と
━━お前なんか、どうでもエーわ。━━
あっ、俺…冷たー………いやでもホント、それだ。
さっきまでは、夢の中の青年を気の毒だと思っていた俺だったが、今、初めて少女の本心と完全にシンクロした様な気がした。
朝が弱い殿下は、朝日が窓から射し込んでも眩しげに眉間を寄せたまま目を開かない。
「まだ早朝ですからね。
もう少し寝ていていいですよ。」
朝の支度をしに侍女が部屋に来るのは、まだ二時間程後だ。
さすがに俺が全裸で殿下のベッドに居る所を侍女に見られるワケにはいかないので、俺はベッドから下りようとした。
「オズゥ……行かないで……」
「いや、そのお願いは聞けません。」
ベッドの中から手がのびて、殿下が甘えるように俺の指の先を握った。
寝癖のついた頭で、半分は目を閉じたままうつらうつらとした顔をシーツから出して切ないお願いをしてくる。
俺は困り顔をしながらも、そんな殿下の姿にクスクスと笑みがこぼれた。
可愛くも、俺の絶対君主である幼い恋人の頭を優しく撫で、ピョンと跳ねた寝癖を指に引っ掛ける。
なんだ、この可愛いの。
もう、見ているだけで愛おしい気持ちが止まらない。
俺の全てを差し出したい。
そんな想いが通じ昨夜殿下とひとつになれた事が、まるで夢の様だ。
「俺は、殿下の部屋の前に居ますよ。
殿下だけの、護衛騎士ですからね。」
殿下のこめかみにチュッと吸い付くキスをしてからベッドを下りる。
昨夜脱ぎ捨てた衣服を拾って身に着けていき、騎士の格好を整えた俺は静かに部屋の外に出た。
胸の内側が暖かい。
心と身体を繋げたドアの向こうの殿下を思うだけで、心臓の鼓動が大きくなる。
俺は今までの人生の中で、誰かを想ってこんなに強く心を動かされた事は無い。
「……だったら、夢の中に出て来た青年がリヒャルト殿下な訳は無いな。」
少女の態度が…と言うよりは、もう彼に対する少女の心が冷めている。
俺が、あの枯れ枝少女の様に余命いくばくもなくなったとして、愛する殿下の幸せを願って突き放す様な冷たい態度を演じたとしても
きっと心の中では、愛しさや切なさや悲しさや…遺して行く愛しい人の幸せを願い、自身の生命が尽きる事を悔やみ悲しみ、そんなありとあらゆる感情の嵐が吹き荒れる状態であろう。
だが、夢の枯れ枝少女の青年に向ける気持ちは……
静かな静かな水の上の様に凪いでいた。
ああいった感情を言葉にすると……なんだろう……
冷たい…嫌い…憎い…いや、そんな感情でも心は動く。
どちらかと言えば………
━━お前なんか、どうでもエーわ。━━
「………んん…青年が少女に向けていた言葉と、少女の青年に向ける感情の熱量に差が有り過ぎる。」
その冷めきった態度を見せた少女の側目線に立っている俺ではあるが、何だか青年が気の毒に思える。
今まで、数回少女の夢を見たが……
実はまだ、あれが俺の前世なのかは半信半疑な所だ。
生まれ変わりと言うならば、魂は同じなのだろうが、彼女の持つ感情と俺の思考が一致しないような気がして、全くの別人の様に感じたりするからだ。
だが、夢に見たあれ全てが俺の妄想や創作だとするならば、あまりにも俺とは縁のない世界観。
そもそもが転生神なんて聞いた事も無い……。
そんな妄想や創作が出来るほどの素地は、俺の頭には無い。
「転生神様か……夢の中で何度も聞いたな。
この国では聞いた事も無いが。」
もし、本当に転生神とやらを崇める国があるのならば、その国には前世の俺が居たという事になるのだろうか。
あの青年も……?
あの青年は……転生神様とやらに願って生まれ変わらせて貰えたのだろうか。
「まぁ…少女を追って生まれ変わらせて貰えた所で、あの少女がこんなオッサンになってるなんて思いもしねぇよな。」
俺は殿下の部屋の前で苦笑しながら呟いた。
「オズワルド。」
「ハッ!」
不意に声を掛けられてビッと姿勢を正す。
既に朝を迎えたとは言え窓の少ない廊下は薄暗く、声を掛けて来た人物の姿を確認出来たのは、その人物が暗がりから出て来て俺の目の前に立ってからだった。
「おはようございます、エルンスト王太子殿下。」
「ああ、おはよう。
弟の警護、ご苦労。」
姿を確認したのは目の前に来てからだが、声を掛けて来た瞬間に声でそれがエルンスト王太子殿下だとは分かった。
こんな早朝から、弟君の部屋をエルンスト王太子殿下が訪ねる事など初めてで、普段そこまで交流の無い弟を人の少ない時間に共も連れずに訪問。
その不自然な行動に、俺は少し警戒してしまった。
この王城での生命の優先順位は、国王陛下、王妃殿下、王太子殿下、その他のご兄弟となる。
だが俺はリヒャルト殿下の護衛騎士だ。
リヒャルト殿下に危害を及ぼすつもりならば、王太子殿下といえど斬る覚悟がある。
当然、その後は王族を手に掛けた罪で処刑される事も覚悟の上でだ。
実際、跡目を継ぐ為に兄弟で骨肉の争いをするなんて話は、国内外問わず良く聞く話なのだから。
「失礼ながら、エルンスト王太子殿下。
リヒャルト王子殿下に、どのようなご用件で参られたのでしょう。」
「………リヒャルトに用は無いんだ。
私は、オズワルドに会いに来た。」
「私に……ですか。」
昨日、兵舎の食堂で部下に言われた事を思い出した。
俺が、エルンスト王太子殿下の専属ではなくリヒャルト王子殿下の専属になった事を拗ねていると。
そんな子どもみたいな理由で、こんな早朝にわざわざ俺を訪ねて?
「なぜオズワルドは……
リヒャルトのモノになっている……?」
「へ?」
「オズワルドは、40歳を越えても独身で…
もう誰のものにもならないと思っていたから俺も諦めていたのに…
何で、リヒャルトのモノになってるんだ!」
ダン!とリヒャルト殿下の部屋のドアの前に立つ俺を追い詰める様に、エルンスト殿下がドアに手をつく。
俺は、鳩が豆鉄砲を食ったような間抜けなビックリ顔で、間近にあるエルンスト殿下の顔を見た。
「私がリヒャルト殿下の専属護衛騎士となりましたのは、国王陛下からの……。」
「護衛騎士の事なんか言ってない!!
なぜ、リヒャルトと情を交わした!
なぜ、リヒャルトなんだ!!」
ビクッと俺の身体が強張る。
エルンスト王太子殿下は、俺がリヒャルト殿下と身体を重ねた事を知ってらっしゃる。
なぜ知ってらっしゃるんだ?とも思うが、それよりも情を交わした事を、リヒャルト殿下に嫉妬しているような言い回しで責められる理由が分からない。
エルンスト殿下が、どういう理由でだか知らないが俺に執着しており、俺をリヒャルト殿下に奪われたと嫉妬なさっている。
「それは……
私がリヒャルト王子殿下をお慕いしているからです。」
だったら俺は、正直にその理由を答えねばならない。
「何で今更!?
今まで誰かに恋をしたり、されたりなんて無かったろう!
だから私だって諦めた!
オズワルドが誰のものにもならないのならばと!」
「……微妙に意味が分からないのですが。
諦めた…私が誰のものにもならないからと?
一体、どういう……」
エルンスト王太子殿下の言葉が色々と引っ掛かる。
何が言いたいんだろう。
「だったら!今からでも遅くはない!
私のものになれ、オズワルド!」
「は!?な、何を言ってらっしゃいます!?
エルンスト殿下!!」
混乱している上に、何かに焦った様に見えるエルンスト殿下が、俺の身体をドアに押し付けた状態で顔を近付けて来た。
リヒャルト殿下より上背のあるエルンスト殿下の唇は、簡単に俺の唇の近くに迫って来た。
ドアを背にした俺には逃げ場が無い。
これはマズイ、思い切り突き飛ばすべきなのか?
王太子殿下を突き飛ばす……
王族に対し、城に仕える俺がそんな不敬を?
だったらキス位、一発殴られた位に思って我慢すればいいのか?
━━イヤだ……リヒャルト殿下を裏切りたくない。
俺のこの身体は、魂ごとリヒャルト殿下だけのものだ。
リヒャルト殿下以外の誰かに唇を許すなんて、そんな裏切り行為をしたくない。
「お、おやめ下さい!!エルンスト王太子殿下!
私はもう!リヒャルト殿下のだけの…!」
「今からでも遅くはない?遅いよ兄上。」
俺が押さえ付けられたドアの反対側のドアが開き、開いたドアの間から伸びたリヒャルト殿下の手が、俺の口を隠す様に押さえていた。
「リヒャルト!!」
「オズは僕のものです。
兄上のものにはなりませんし……絶対に渡しません。」
リヒャルト殿下は俺の唇をエルンスト殿下の唇からから守る様に手の平で覆ったまま、白いブラウスとトラウザーズ姿でドアの外に出て来て、エルンスト殿下と俺の間にグイッっと割って入った。
俺の胸に抱きつくような格好で、後ろのエルンスト殿下の方を向き、睨め付けるような強い眼差しを向けた。
「一度は諦めたんでしょう?
諦めれたのでしょう?
そんな安っぽい気持ちで、僕のオズワルドに手を出さないで下さい。」
リヒャルト殿下は、抱き着いた俺の身体をグイグイと押して部屋の中に入れようとした。
「で、殿下…あの…!エルンスト殿下が……」
王太子殿下を暗い廊下に一人残して、その場を去るとか…良いのだろうか
そんな疑問を浮かべつつ、俺はグイグイとリヒャルト殿下によって部屋の中に押し込まれた。
エルンスト殿下を置き去りに、リヒャルト殿下が部屋のドアを閉めようとした瞬間、エルンスト殿下が俺の方に手をのばした。
「アシュリー!!俺だ!!」
追い縋る様な悲痛な叫びだった。
そんな声でエルンスト王太子殿下に名を呼ばれた俺は……
いや、俺、アシュリーじゃねぇし。
頭の中に、瞬時に浮かんだのが、そんな言葉と
━━お前なんか、どうでもエーわ。━━
あっ、俺…冷たー………いやでもホント、それだ。
さっきまでは、夢の中の青年を気の毒だと思っていた俺だったが、今、初めて少女の本心と完全にシンクロした様な気がした。
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