【R18】【完結】早逝した薄幸の少女、次の人生ガチムチのオッサンだった。

DAKUNちょめ

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青年村人。

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リヒャルト殿下と裏庭で別れた俺は、一旦部屋に戻ったものの落ち着かず



鍛練場に行って新兵と一緒になって身体を動かした。

思い切り身体を虐め抜いてクッタクタになってから、泥のように眠りたい。

出来れば、アシュリーとしての夢も見ずに。



起きたら半分以上忘れてしまう夢と違い、アシュリーとしての視点で見る夢は彼女の記憶として俺の頭に残る。



彼女の記憶で塗り潰されて俺でなくなるなんて事は無いが、起きればアレコレ考えさせられて休んだ気がしない。


何も考えずに深く眠りたい。


昼過ぎから始めた鍛練が終わった頃には日が傾いており、兵舎の食堂から良い香りが漂い始めた。



バテバテになった兵士達と共に水場に行き、汗だくになった身体で頭から水をかぶる。

何度も水をかぶって汗を流し、濡れて絞ったシャツで全身を拭いてから、上半身は裸のままで食堂に向かった。


それぞれが好き勝手に空いた椅子に座り、夕飯を取り始める。

俺も空いた席に座り、パンをかじり始めた。


訓練を終えたばかりのどの兵士達もほとんどが上半身裸のままで、アチコチに赤やら青やらのアザを作っている。

新兵に至っては、まだヒョロくて生っちょろい体つきの上に色白な若者もおり、その肌に付いたアザは中々に痛々しくて目立つ。



俺や、王族の警護を任される俺の直属の部下くらい、騎士や兵士として鍛えた期間があると…

まぁ訓練での剣の打ち合い位では訓練用の剣の先が肌に触れる事も滅多に無いし…

仮に当たっても避けてかすらせる程度なんで、アザなんか簡単に出来ん位に肌も打たれ強くなってるし………

まだまだ鍛え方が足りてないんだろうな。



そんな事を思いながら口の中のパンを流し込もうとスープをグッと飲む。


俺の隣に、食事を持った部下の青年が腰を下ろした。




「オズワルド隊長、左胸の辺りに赤いアザ出来てますけど大丈夫ですか。
それ胸を思い切り突かれた痕ですよね?」




「ブホッ!!!」




さっき、何人もの兵士の剣の打ち合い相手をしてやったが、誰一人俺の身体に剣先をかすらせた者は居なかった。
「アザ?俺に?」
と、アザに心当たりが無い俺が自身の胸に目をやった瞬間、スープを噴き出してしまった。


急所である心臓の近くに、確かに赤いアザが出来ている。




「………で、殿下の剣の稽古中に、どこからでも掛かって来る様に言ったらな……
ちょっと、クリーンヒットした様で………」




不自然な事は言ってないよな?

口周りベタベタにして、下手な言い訳をしているようで冷や汗が流れる。

左胸の乳首の近くに赤い痕が出来ている。

これ、殿下の唇の痕………



……ちょ……殿下………

上手く顔を取り繕えません!!

恥ずかしいやら、くすぐったいやら……


俺は今、真っ赤な顔でニヤニヤしている。多分!




「それはスゴイ。
リヒャルト王子殿下が隊長に一本入れるなんて。
隊長の教え方が上手いのでしょうね。」




「そ、そうなのかな…。
いやぁ大人に近付き、立派になられたなぁと俺も思う。」




普通の事を言ってるのに、ゴニョゴニョと呟くように言ってしまう。

俺の頭の中の大人に近付いて立派な殿下と、コイツの頭の中の殿下は、きっと別モノだ。




「隊長、そんな真っ赤になって照れなくても!
謙遜なんてしなくていーじゃないですか!」



謙遜して照れているのだと、思ったままで居てくれ!





  






「兄上、お話があります。」


夜分遅くにエルンスト王太子の部屋を訪ねたリヒャルトは、二人きりで話したい事があるからと自分の警護兵とエルンストの警護兵を部屋の外に待機させた。



「僕が兄上を訪ねて来た理由、分かってらっしゃるんですよね。
兄上、僕の部屋を離れたオズワルドに何をなさったんです。」



リヒャルトが部屋に入った時、エルンストは自室の机に向かい読書中だった。

リヒャルトとは目を合わせずに、本の文字を目で追っているような仕草を見せる。




「オズワルド?
私は彼に何もしていないよ。」




リヒャルトは兄が読んでいる本に目を向けた。
少し訝しげな表情をし、エルンストが本を読む机に手を置いた。




「言い方を変えましょうか。
兄上は、アシュリーに何をしようとしました?」




本の頁をめくるエルンストの手が止まる。




「何も……。
彼はアシュリーではないからね。」




「今朝の様に強引に言い寄り、兄上が無理矢理彼を抱いた所で、オズはアシュリーにはなりませんよ。

……と言うより、抱けないでしょう?」





「そうだね、彼みたいな屈強な男を組み伏せるのは僕には難しいかな。」




そんな言葉が出るなんて……

実際に組み伏せようとしたのか、とリヒャルトの目の端がピクっと引き攣った。



リヒャルトの中のオズワルドは、愛しくて可愛い恋人過ぎて、自衛も出来る屈強な肉体の持ち主だという事を失念していた。


で、エルンストが口にした通り実際にやった所、組み伏せる事が出来なかったのだろう。




「僕が言ったのは、そういう意味では無かったのですが。
……まぁ、いいですよ。
兄上……オズワルドは僕の恋人なんです。
だから……変な事は考えないで下さいね。
言いたい事は、それだけなんです。」




リヒャルトは多くを語らず、一つの確信を持ってエルンストの部屋を出た。


賢く聡明だった兄は、一度読んだ本の中身は全て頭に入っていると言っていた。




━━王族の歴史本を再び読み漁るなんて

兄上ではない。アイツ……━━




リヒャルトの中にあったエルンストの面影が、最近のエルンストからは段々と消えつつある。

王太子としての体面を取り繕っているためか、周りは余り気付いてない様子。

たが、兄弟として弟の立場から見ていた兄としてのエルンストの面影が上書きされたように無くなっていく。



前世の記憶とやらが強いと、そうなっていくのだろうか。

どこの誰かも知らぬ青年の、アシュリーに対する気味の悪い独占欲と執着心。

その強い欲望が兄の人格を消し去り肉体を支配したのか。

彼はアシュリーが女でなかった事に不満を持っている。

魂がアシュリーでも男の身体を持つ者と結ばれる覚悟はない。

だが、アシュリーであるオズワルドを自分以外の者に奪われるのは許せない。





「兄上…ではないな。
…仮で、青年村人としておくか。
彼は多分、オズを抱けない。
アシュリーが女性でなければ、青年村人の希望は叶えられないだろうし。」




オズワルドの中に、アシュリーという少女の魂があるのだとしたら…

いつか兄上のように、アシュリーの人格にオズも上書きされてしまうのだろうか。

………にしても、色々と腑に落ちないと言うか……。












「オズワルド様、リヒャルト第二王子殿下がお呼びでございます。」




「……………はい。」




夕食が終わり自室に帰った俺は、明日の朝に向けて着替えを揃え、濡れたシャツを紐に吊るして部屋干しした所で何となく部屋の掃除を始めてしまい、気が付けば上半身裸のままで数時間、忙しなく動き回っている所だった。



この、リヒャルト殿下お付きの侍女は鉄面皮というか…

仕事は出来るらしいが感情を出さない。

淡々と言われた仕事を完璧にこなす。


いきなり部屋に来て上半身裸の俺を見ても、眉一つ動かしゃしない。




「それ相応に遅い時間なんですが……」




俺、今からベッドに入っても明日の勤務開始時間まで4時間程しか寝れんのだが。





「明日の支度も持参なされば良いかと思います。
お優しい殿下の事です。
オズワルド様が明朝までお部屋でお休みになられる事をお許し下さるでしょう。」




無表情に淡々と、何気に凄い事をおっしゃってませんか?貴女。

も、もしや……俺と殿下の関係を知ってる…!?




「………そ、そうですかね……。」




「ええ、お早く。
お待たせする方が失礼にあたります。」




無表情過ぎて何を考えてるのか分からん……
苦手なタイプだ。

言われた通りにするのが賢明か。




俺は、騎士服や剣等をゴッソリと抱えて部屋を出る支度をした。
急かされた俺は、上半身裸のままで荷物を抱えて王族の方々の居城の方に向かっているワケだが…。

これ、不敬ではないだろうか。




「誰も見てはおりません。堂々となさいませ。」




俺を案内するように前を歩く侍女が、俺の考えを見透かした様に言う。こっわ。



リヒャルト殿下の部屋の前に着いた。

明朝、俺と交替する護衛騎士が上半身裸の俺を見て一瞬「え?」なんて表情をしたが、そこは勤務時間中。

スッと冷静な騎士の顔に戻り、俺に軽く頭を下げた。


侍女は俺に頭を下げ、殿下とは顔を合わさずにそのまま去って行った。

暗い廊下に飲み込まれるように消えた侍女の背を見送り、俺の部下である騎士が殿下の部屋の扉を叩いた。




「殿下、オズワルド隊長が参りました。」




「ああ、入って貰って。」




護衛騎士が扉を開き、俺が中に入る。

非番の俺は一応、警戒対象となる。

だから本当は、護衛騎士も一緒に部屋に入るべきなんだが………




「オズワルドと二人きりで話がしたい。
部屋の外に居るように。」




まぁ、騎士隊長の俺が殿下に何かするなんて思っちゃいないだろうし、部下の騎士はあっさりと部屋の外に出た。





部屋には殿下と俺、二人きりとなる。

明朝からの勤務だった俺は、勤務時間から数時間前に呼び出された理由が分からない。

エルンスト殿下との事で説明を…と言うにしても、たった数時間の我慢……

が、出来なかった……ンですよね?


それは嫉妬もあるのだろうか。

少しばかり嬉しくて、何だかこそばゆい。




「オズ、急に呼び出してごめんね。
話が聞きたくて呼んだのだけど……何で裸なの?」




「こっこれは!!夕方まで鍛練しており、汗をかいて…
汗を流してそのまま…………。」




殿下は少し考え事をするかのように口元に手を当て、何も無い場所に視線を落とした。

何かを見てらっしゃるワケではなく、何も目に映してない状態で何かを思案中の模様。



やがて殿下が両手を合わせパンッと手を叩いた。




「うん、決めた。
話も聞きたいんだけど、それよりもオズを抱きたい。
抱いていい?」




「………ッ!!………はい。」




断われるワケが無かろう。

例え寝不足になったとしても、愛する殿下と肌を重ねる事を優先するに決まっている。


例えぶっ倒れたとしてもだ。


俺は真っ赤な顔で頷き、殿下の方に向かった。




「ドアの前に居る彼にはバレないようにしなければだね。
大丈夫?」




あああ!そうだった!奴が居る!

だが中止はイヤだ。

ならば頑張るしか、なかろう!




「頑張りますので…抱いて下さい。」




「オズ……たくさん可愛がってあげる。」




抱えた荷物をドサッと床に落とす。

差し延べた俺の手と自分の手を繋いだ殿下が、柔らかな笑顔で俺をベッドへといざなった。


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