【R18】【完結】早逝した薄幸の少女、次の人生ガチムチのオッサンだった。

DAKUNちょめ

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いつかの為に今、出来るコト。

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リヒャルト殿下のベッドで目を覚まし、俺にピッタリ寄り添う様にして眠る殿下の瞼に口付けを落とす。


ベッドから降りた俺は身体を拭いて騎士服を纏い、護衛騎士としての身なりを整えると、ベッドの縁に座って愛しい殿下の髪をサラリと撫でた。


幼子の様にあどけない寝姿を見せる殿下が可愛らしくて堪らない。

まだ幼さの残る少年であるのに、俺を抱く時は俺の全てを包み込む様な、なんとも逞しい男らしさを見せる。

それがまた…色々ともう…堪らない。


昨夜は殿下に与えられた心地よい疲労感によってか、夢も見ずにぐっすりと眠る事が出来た。



━━誰にも渡さない。アシュリーにも━━



昨夜聞こえた、殿下のこの言葉が…気になる所ではあるが…。

今はまだ寝ていらっしゃるのに起こすのは忍びない。

殿下の方からお話し下さるまで待とう。



もうそろそろ殿下の部屋の前に立つ部下と交替の時間だ。

部下に何をしていたのかと聞かれたら、夜遅くまで戦略、戦法について論じていたとか何とか言って誤魔化そう。


俺は剣を携えて殿下の部屋を出た。








王族の方々の朝食が終わり、リヒャルト殿下は座学の為に私室に向かう。

午前中の勉強が終われば昼食、休憩を入れ、午後からは俺が殿下に剣を教える時間となる。

朝食と昼食の時間、リヒャルト殿下を食堂にお連れする際にエルンスト王太子殿下と顔を合わせたが、殿下は特にこちらを意識する素振りもなく、俺はホッと安堵の溜め息をついた。




昼食を済ませたリヒャルト殿下に休憩を取って戴いた後は、剣の授業となる。

殿下と俺は、広い裏庭に生える木の下━━いつもと同じ場所で剣の稽古を始めた。


互いに訓練用の剣を持ち、上下左右にと流れを反復するように剣先を交えながら殿下が俺に話しかけてきた。



「オズ、朝と昼に食堂に行く時、緊張していたね。」



「そりゃ、しますよ。
エルンスト殿下とは顔を合わせにくいですし。
昨日の朝、昼とあんな事があった後ですからね。」



途切れる事なく続いていた、木剣が当たるカンカンと小気味良い音がプツリと途切れた。

リヒャルト殿下が木剣を持った手を腰に当て、俺を見上げる。



「そう言えば昨夜、聞いて無かったよね。
昨日の朝、僕の部屋を離れた後に兄上と何があったの?
昨日、兄上が部屋に訪ねて来たって言っていたよね。」



そう言えば…昨日、非番の俺がぶらっと此処に居た時に殿下が来て……俺、エルンスト殿下が部屋に来たって言ってしまったんだっけ。



「昨日、この場でオズが言っていた、何とかなった気がするってのも気になるんだけど。」




「いや……だから、それは……」




殿下は笑顔のままで、正直に全部話せと俺にとんでもない圧を飛ばして来る。
隠すつもりは無いので話す事は構わないのだが…
未遂とは言え襲われかけたなんて話しにくい。

俺の話が原因で、兄弟仲が悪くなる……

いや、王族の第一王子と第二王子の仲が悪くなるなんて、国を割る様なとんでもない話だぞ!

城内に派閥ができたりしたら、どうすんだ!




「お、落ち着いて聞いて下さいね!?
エルンスト殿下を、どうにかしようとか考えたら駄目ですよ?」




「オズこそ落ち着こうよ。
僕、兄上と喧嘩しても王太子になりたいなんて思ってないからさ。
ただの兄弟喧嘩なんだからオズが気にしなくていいよ」




そうは言ってもですよ!?

なんて、言った所で話をしないわけにはいかず、俺は昨日、部屋に帰ってからの事をリヒャルト殿下に話した。


ベッドの上で、俺の上に居た事を話した時はあからさまに不愉快そうな表情をしたが、いかんせん俺のこの体躯では無理矢理なんて出来る筈もなく、子猫の様に襟首掴んでどかしたと話せば、リヒャルト殿下は激昂する事も無く俺の話を聞き終えた。



「僕のオズを奪おうとしたって下りは、メチャクチャ腹が立つんだけど……
今は嫉妬心を抑えてちょっと冷静に考えて。
僕、兄上はオズを抱けないと思っていたよ。
アシュリーの生まれ変わった姿が男ってだけで一度は諦めた位だからね。
僕に奪われた事で焦ったのかな。
執着心だけは強そうだし。
兄上……と言うより、村の若者が。」




「こう言っては何ですが…アシュリーは、その青年を好ましく思っておりませんでしたよ。
前世で同じ時を過ごしたからと言って、アシュリーには生まれ変わった先で彼と結ばれたいって意思は全く無かったようで。
アシュリーが望んだ次の人生は、健康で丈夫な身体を持つ事だけでした。」



「え、そうなの?
カッコイイ王子様と素敵な恋をしたいって、あの寝言は誰の?」




リヒャルト殿下が少し、意地悪い笑みを浮かべて俺の顔を覗き込みながら訊いてきた。




「そ、それはアシュリーのものです!
今度生まれ変わったら、そうしたいなぁって彼女が言ってました。」




「じゃあ、ずっと僕を見詰めていたのも彼女?
王子様の僕と恋をしたいと。
僕と恋をしたいのは、アシュリーなの?」




「違いますよ!!
リヒャルト殿下を愛してるのは俺です!
た、確かに…俺の中でも、アシュリーに引きずられたかなって思った事はありましたけど……。
よくよく考えたら……俺が……。」



アシュリーという枯れ枝の様な少女を知るより先に、俺は殿下に惹かれていた。
ただ、自分でも気付かないフリをしていたんだと思う。
アシュリーは関係無い。彼女が関係してるなんて思わないで欲しい。
殿下を愛してるのは俺だけの気持ちだ。
だから殿下にも、俺だけを愛してくれる殿下でいて欲しい。



「俺自身が、殿下に惹かれて殿下を好きになったのだと言い切れます!
……正直に言いますと自分でも驚きはしましたがね。」



自分より年下の少年に惚れるとは思わなかったしな。

と、言うと年下の少年が趣味かとか思われそうだが全く違うんだよな。

リヒャルト殿下だけが好きだ。

それこそ姿形が変わっても、俺はきっと貴方を愛する。




「オズは……アシュリーの記憶を持ってはいるけどアシュリーにはならないね。
オズが、女のコっぽくなったり。」




女のコっぽい俺?

え、それただの気持ち悪いオッサンじゃない?




「なりませんね…。
彼女の記憶は既に起こった過去の記録だけです。
俺の意識を上書きするようなモンじゃない。」




アシュリーの記憶を見るのは、俺が自分の過去の出来事を思い出すのと大差無い。

自分が若い頃より更に過去の子どもの頃の記憶、更に過去の幼子の記憶、その更に過去を思い出す…といった感じだ。

自分では思い出せなくなっている過去を、第三者によって思い出させられるような感覚に近い。



━━蜂に刺されて泣きながらお漏らししちゃった、あの小さなオズちゃんが立派になって…━━



そう言えば亡くなった祖母が、俺の騎士隊に入隊の際に思い出したくも無い過去を思い出させてくれたな…。

あの過去は、忘れたままでいたかった。



それはさておき、過去の自分が今の俺の意識を乗っ取るなんて有り得ない話だし……………

それは前世も同じだろう?


アシュリーと俺は人格は違えど同じ魂だと言うならば、人格は前世という過去に置いてくるもので、生まれ変わる先の未来には飛べない物ではないのか?




「意識を上書きするようなモンじゃない。
……だが兄上は、変わっていった。
兄上も最初の頃は、自分が自分で無くなる事は無いって言っていたのだけれど……。」




「確かに、エルンスト殿下は俺が剣を教えていた頃とは雰囲気が変わりましたが…。」





殿下が、不安そうな眼差しで俺を見詰める。

俺がエルンスト殿下のように、アシュリーに人格を支配されてしまうのではないかと考えてしまったのだろう。



「僕が好きなのはオズだよ?
オズの姿をしていても、中身がオズじゃなかったら…
それは僕の愛したオズではないよ。
だからオズ……絶対に居なくならないで……!」



「大丈夫ですよ、俺は消えたりしません。」




確信を持って言える。

もし、過去の人格が次の生の人格を排除して肉体を奪う。

そんな事が可能だったとしても、アシュリーはそんな事をしたりしない。
同じ魂を持つんだからな、分かるよ。

俺達はそんな事をしないよな、アシュリー。━━








それから数日━━

何事も無く日々は過ぎて行った。


俺はあれからアシュリーの夢を見ておらず、いまだ彼女が本当に病死したのか、意外にたくましく長生きしたのかも分かっていない。


リヒャルト殿下は、アシュリー達の崇拝する転生神とやらの情報を歴史書や宗教書等から探し始めた。


彼女が居たのがどこの国かも、いつの時代かも分からない。

我が国では情報が手に入らない程に遥か遠くの国かも知れない。


それでも殿下は、俺を失うかもという可能性を恐れて何かの手掛かりは無いかと調べ始めた。


図書室に行く際には俺も一緒に探すのだが……

余り役には立てなかった。

本を開いた瞬間、睡魔が襲って来るのだからな。うん。




「オズは、あれからアシュリーの夢を見てないの?
何か夢の中からヒントを得たり出来たら良いのだけれど…。」



「ここ最近は夢を見てませんし、今のところ場所や時代を示す物は見てません。
言語も俺の今の言葉に翻訳されていますので……」




真剣に、俺の前世と向き合おうとしてくれている殿下の気持ちは凄く嬉しい。

嬉しいのだが……俺はアシュリーにならないし、殿下の側を離れたりしないのにな…。

なんて思ったりして、椅子に腰掛け何冊もの分厚い本を調べてゆく殿下を後ろから抱き締めてしまった。



「殿下……殿下の御心、大変嬉しく思います。
思いますが……俺はアシュリーになりません。
いつまでも殿下のオズワルドのままです。」



殿下は最近、寝る間も惜しんでこの途方も無い調べ物をしている。
ゴールがあるかも分からない、雲をつかむ様な不明確な物を。

古く遠く交流も無いような場所の土地神のような信仰ならば、記載された文献自体が無いだろう。



「僕が調べているのは、それだけじゃないよオズ。
僕はね……諦めたくないんだ。オズとの未来も。」




未来………俺との未来って?

やめて下さいよ殿下……そんな甘い言葉を俺に植え付けないで下さい。

覚悟が揺らぎます。


殿下がそんな言い方をしたら……俺は期待してしまいます。


俺達の関係に、終わりなんて日は来ないんだって。



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