【R18】【完結】早逝した薄幸の少女、次の人生ガチムチのオッサンだった。

DAKUNちょめ

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久しぶりに見る、疑問を抱かせる夢。

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授業を終え、図書室から出ていらしたリヒャルト殿下を迎える。
姿勢を正して礼をして迎えるのが常であるのだが、俺はそれを完全に失念していた。

頭を項垂れたまま茫然と立ち尽くしていた俺は、開いたドアから廊下にお出でになった殿下の方に、幽霊の様にゆらりと身体を向け、顔を傾けて目線を上げた。

ドアの前に立つ殿下の姿が斜めに傾いた状態で俺の視界に入る。


「……オズ?」



「……でっ……!殿下、申し訳ございません!
ぼんやりしておりました…!
私は何という不遜な態度を…。」



バッと上体を上げて姿勢を正し、改めて殿下に礼をした。

少し間を置き殿下は下げた俺の頭に手を置くと、そのまま頭を優しく撫でた。



「急に頭を下げるから驚いた。
不遜だなんて思ったりしないよ。」



不敬を咎めるどころか護衛兵の頭を王子が撫で回すなんて…こんな所を誰かに見られたならば、殿下だって面倒な追及をされたりし兼ねないじゃないか。



「殿下、この様な場を誰かに見られたら大変です。
理由を追及されて面倒な事に。」



「構わないよ、そんなのは。
それよりも顔色が悪いよオズ。
心配だから護衛騎士には代わりの者を呼ぼう。
今日はもう、部屋に帰って休んで良いよ。」



「それは嫌です…。
一時も殿下のお側を離れたくありません。」



もし俺が…王城の常駐騎士の任を外されて遠方の領地に飛ばされるのだとしたら、それまで少しでも長く殿下と過ごす時間を作りたい。

俺は頭を下げたまま、殿下の衣服の端を指先で控えめに摘んだ。

本当は抱き着きたいし、抱き締めたい。
愛してますって言いながら、離れたくないと縋って喚き散らしたい位だ。

だが、そんな姿を誰かに見られたりしたら殿下にご迷惑をお掛けしてしまう。
だから控えめに袖を摘んで離れたくないと訴える。
別れの日までは殿下と共に紡ぐ時間を僅かにでも減らしたく無い。

俺の態度はあからさま過ぎて、殿下はすぐに訝しがった。



「オズ、廊下で僕を待ってる間に何かあったの?
もしかして……兄上が来たとか……?」



「違います、何もありません!
本当に何も無いんです!」



下げた頭を上げて両手の平を殿下に向けて首を振る。
俺は何と隠し事が下手なのだろうか。
こんな絵に描いた様にあからさまな態度を取ったりなんかしたら、尚さら何かあったと言っているような物ではないか。

━━あぁあ、俺の下手くそ!!━━

隠し事もままならない上に、これでは本当は聞いて欲しいと逆にねだっているみたいじゃないか。
本当に単純に、隠し事が下手なだけなのに!



「そんな顔で…
何も無かったなんて言って僕が納得する筈が無いだろ!
何があったんだ、オズ!」



あああ、ほらな!
リヒャルト殿下が俺の手首を掴んでグイッと引っ張り、廊下を早足で歩き始めた。

俺の手を引いて歩く殿下の行く先は、殿下の私室の様だ。



「殿下、まだ授業がございます…。」



「授業より、こっちのが大事。
そんな物悲しい顔を見せるオズを放っておけないよ。」



俺は…殿下に心配をして貰いたくて、こんな下手な隠し事をしたのかも知れないなんて思ってしまう。
塞ぎ込んだ理由を、殿下には知られたくないと思う反面、殿下にこんなにも心配されて嬉しい俺が居る。



腕を引かれて殿下の部屋に連れて行かれた俺は、殿下の部屋の椅子に座らされた。
そして微笑みながらも笑っていない殿下の尋問が始まる。

心配は嬉しいのだが、何か怖い…。



「で、僕が図書室に居る短い間に何があったのかな。
兄上が関与していないのだとしたら、何がオズにそんな悲しい顔をさせるの?
言っておくけど嘘は無しだよ。すぐ分かるからね。」



俺が座る椅子の前に置かれたテーブルに殿下が手の平を乗せ、身を屈めて俺の顔を覗き込む。

半年ほど前まで、わんぱくさも兼ねた少年だった殿下が随分と大人びた雰囲気を醸し出す様になったもんだと思う。

剣を教える際には隙を見てかかって来るといった、子どもらしく負けず嫌いなやんちゃぶりを見せていた殿下が、最近では真摯に剣の稽古に向き合う様になった。

俺に懐いてじゃれて来る仔犬みたいな殿下が大好きだった俺だが、最近の大人に成長しつつある少年特有の色香を纏う、佇まいの美しい駿馬の様な殿下も…好きだ……



「オズ、そんな可愛い顔をして僕の顔を無言で見詰めていても誤魔化されないよ。」



「ええッ、誤魔化そうだなんて…!」



顎先を持ち上げられ焦った。
誤魔化そうだなんて思って無かった、見惚れていただけで。

そう思った瞬間、俺の顔がボッと火が点いた様に熱くなった。
本当に隠し事が下手なんだな…俺ってヤツは。

殿下が屈めた身を更に深く屈め、俺の唇に甘く吸い付く口付けをした。

柔らかい…なんて心地よい唇の感触……じゃなくて!



「嘘も駄目だけど隠すのも無しだよ。
ちゃんと言わないと、このまま抱いちゃうからね。」



抱く!真っ昼間から?駄目でしょう!そんなの!
授業、サボって部屋に来てるんですよ!
人が呼びに来るでしょう!!

と、言いたい俺の唇は殿下の唇で塞がれており、椅子に座ったままの甘く柔い口付けが続く。

いやいや殿下…凄く嬉しい…ああ好きだ…もう好きだ。
いやいや駄目ですって…気持ちいい…キスだけでイきそう。

じゃなくて!!



「言います!言いますから、一旦止まりましょう!」



このままトロトロに甘い蜂蜜の中に浸かりそうな自分を律して殿下の唇から逃げる様に頭を引いた。

このまま流されてしまえば色々と辛抱堪らんくなって、殿下が欲しいと俺の方の抑えが効かなくなりそうだ。



「もう少し粘ってくれても良かったのに。
オズがもっとトロトロになるまで甘やかしたかったよ。」



「いや、駄目でしょう!止まれなくなりますし!
誰かに見られたら、どうするんですか!」



あっぶな!止めて良かった!

俺と殿下の関係を知られたら………いや。
既に知られているのかも知れないが。

リヒャルト殿下が名残りを惜しむ様に、俺の頬やこめかみに幾つもの啄むキスを落として身体を離した。

俺は、フウッと息を吐いてから口を開いた。



「実は…先ほど末姫様がお出でになり……
国境近くにある領地の話をなさったのです。
国境警備の話などに興味が無いであろう末姫様の口から俺に対して、そのような言葉が出るのは…もしや…。」



あ、いかん。自分で口にすると涙腺が緩む。

自分で口にした言葉から、殿下との恋が終わる事を、離れ離れになり殿下をお守りする事も姿を見る事さえ出来なくなる未来を想像した。
いつかはそうなると覚悟はしていた。
それが早かっただけで。いや、違う。

一年経ってようが十年経ってようが、殿下と離れ離れになるこの悲しみが和らぐなんて無い。



「ブリュンヒルデが、そんな事をオズに…?
他には何か…?」



鼻をグズっと鳴かせながら、俺はテーブルに置かれたリヒャルト殿下の手に自分の手を重ね、顔を上げた。



「エルンスト王太子殿下の事が心配だと……
それから、今話した事はリヒャルト殿下にナイショだと…
……あ。」



そうだ、ナイショだと言われていた。
全部話しちまったぞ。

だって隠し切れなかったからな。



「兄上の事は、僕も心配している。
この先オズに対して、本当に何事も起こさないのかと。」



えー…と…末姫様の仰言った心配とは、純粋にエルンスト殿下の御身体を心配なさっており、リヒャルト殿下の言う心配とは別モンではないかと…。



「そんな今更もう…何もなさらないと思いますが…。
エルンスト殿下も王太子としてお忙しい身ですから、俺にかまけている時間なんか無いと思いますよ。」



「だと良いのだけれど━━。」



部屋の扉がノックされ、次の授業の講師からの言付けを持った使用人が部屋に来た。

殿下に代わって俺が部屋から廊下に出て、言付けを預かった使用人と言葉を交わす。



「オズ、遅れたが今すぐ授業に向かうと返答を。」



「では、私も殿下と共に参ります。」



殿下の部屋を出た俺達は、先を行く使用人の後を追って次の授業を受ける部屋に向かった。

なんか…俺が少し泣いて、そのまま話が流れたような気がする。

結局、末姫様が遠方にある領地の事を俺に告げた理由が謎のまま、この話は終わってしまった。


俺としては……

俺と殿下の関係がバレたのであれば、陛下に呼び出されて何らかのお叱りがあるかと思って覚悟をしていたのだが、あの日以降も何事も無く俺と殿下の関係は続いている。





幾度、殿下と肌を重ねる夜を過ごしただろう。

俺が殿下の警護を担当する夜は、殿下の私室にて同じベッドで夜を明かすのが常となった。

剣はベッドの脇に立ててあり、賊に押し入られるなど不測の事態が起きれば、殿下をお守りするため直ぐに臨戦態勢を取る事が出来る様にしてある。

全裸で立ち向かう事とはなるが。



非番の日は王城内に与えられた自室にて身体を休ませる。

兵士や下級騎士等は兵舎にて生活をしているが、俺を始め騎士の中でも長を任されている数名の者は城内に部屋を与えられている。

だからこそ、エルンスト殿下が簡単に俺の部屋まで来れたりしたのだろうが…。

それも、あの一度だけの事。



「オズ、明日の非番の日もちゃんと警戒していてね。
部屋にも鍵を掛けるように。」



ベッドに潜ったまま向かい合った殿下に頬を撫でられて言いつけられる。

子ども扱いされているようで、何と言うか擽ったい。



「大丈夫ですよ、そんなに心配なさらなくとも。
俺より御身を大事になさらないといけないのは殿下の方でしょう。」



王族であらせられる殿下はその身を賊に狙われる可能性が常にあるが、警護中で無い限りは俺なんかが誰かに命を狙われる事なんてまず無い。

殿下が危惧するようにエルンスト殿下が部屋に押し入った所で…………

まぁ命が危険に晒されるワケではないし、貞操の危機なんてモンもそうそう無いと思うんだよな。


いきなり部屋に来たアレだってもう、かなり前の話だし……

それでも俺の身を案じてくれる殿下に悪い気などする筈も無く、俺は頬を撫でる殿下の手に自分の手を重ねて「はい」と頷いた。


数時間後、朝が来れば殿下が朝食を取りに食堂に向かう前に俺は警護を交替して非番となる。

非番になれば、一日寝て過ごす事だって出来るのだから……

朝が来るまで愛しい殿下の寝顔を眺めていよう。





『そう言えば、お兄ちゃんは転生神様にどんな来世をお願いするの?』


お前が、お兄ちゃんてツラかよ!!
俺の目の前に、ゴロツキ風の熊みたいなムッさいオッサンが居る。

ああ、俺は久しぶりにアシュリーになった夢を見ている。
何だ俺、結局寝てしまったのかよ。

愛しい殿下の顔を朝まで見ているつもりが、なんでこんなムッさいオッサンを見てなきゃならんのだ。


とは言え病弱なゆえ控えめながらも、僅かに弾むアシュリーの声音に、アシュリーがこのオッサンを慕っているのが良く分かる。

どう見ても親父っ位の歳の差なんだが、お兄ちゃんらしいし。

一夫多妻婚のあるような場所ならば母が違えば、そういう事も無くはないのか。

アシュリーの父親は相当なジジイかも知れん。



『ワシの来世か。
そうだな、来世は王様になりたい。』



オッサンは笑いながら冗談を言う様に答えて俺……いや、アシュリーに、スープの入った器を渡した。



『生まれた時から王様なんて無いでしょー。
最初は王子様からよ。』



『そりゃそうか。じゃあまずは王子様か。』



オッサンとアシュリーが、楽しそうに互いの顔を見て笑った。

……ちょっと待て。まずは王子様かじゃないだろ………。

まさか、このオッサンがリヒャルト殿下とか言うなよ?


いくら今生では血の繋がりは無いとは言え何かが嫌だ。

前世と今生は別モノだと分かっちゃいるが、オッサンお兄ちゃんと、アシュリーが来世で結ばれるとか……
あまり考えたくはない。
互いに恋愛感情があるようにも見えないしな。



『まぁ、王子様でも王様でも何だっていいが。
大事な家族の幸せを見届けてやれるのであればな。』



オッサンの手がアシュリーの頭に置かれた。

ゴッツイ手の平だが、とても優しく頭を撫でられたアシュリーの嬉しさが俺にも伝わる。

この大きな力強く優しい手が好きだと、憧れるような気持ちも伝わる。

俺の手は、彼女の憧れを体現しているのかも知れない。

俺の大きく力強い手は、愛する人を守る為に戦う手なのだから。



『今のお兄ちゃんと変わらないね。』



二人は来世も家族になりたいとか、近しい存在になりたいとは言わなかった。

彼らの中での来世とは、今生のしがらみや業を次代へ持って行く事ではないらしい。

その辺が、あの青年とはやはり違う。



で……俺がこんな夢を見せられてるのは何でなんだか。
お兄ちゃん自慢か?

それとも本当にオッサンが殿下……それはヤメてくれ。



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