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兄から妹を守って。
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年に2回行われる王家が主催の狩猟大会は、最終日の王城での夜会も含めて一週間もの大イベントだ。
多くの貴族の方々が集まり、我こそはと狩猟の腕を競うのだが、奥方様達も集まって茶会が始まったりする。
子どもが参加する事はほぼ無く、リヒャルト殿下の専属護衛騎士になってからの俺は、ここ数年狩猟の森に来る事は無かった。
個人的にも好きではない。つまらんし。
護衛だから、自分が狩猟出来るワケでは無いし…
そもそも、弓は苦手だし。
そんな場所に連日居続けるのは退屈だったのだ。
まぁ今回は下見だけなので、明日には城に帰れ……
るのか?俺。
いや、解雇にされたとしても、その場で『どっか行け』は無いだろう。
下見には国王陛下と、陛下の専属護衛騎士の方々6人。
先ほど俺の部屋の前に立っていた騎士も居る。
そして、俺を含む騎士が6人と雑用係の兵士が8人。
野営用の荷を運ぶ馬車が一台。
王族用の馬車はおらず、国王陛下ご自身も愛馬に跨っておられる。
国王陛下も狩りをなさるので、馬上から自身の目で狩り場を確認したいとの事だそうだが………
隣には、同じく馬に跨ったエルンスト王太子殿下がいらっしゃる。
気ッまずっ!!
俺は国王陛下とエルンスト殿下から距離を置いて列の最後尾に下がった。
何なら殿を努めます的な感じで。
その際、俺の姿を目で追うエルンスト殿下と目が合った。
柔らかな笑みを浮かべられ、ますます気まずくて軽く頭を下げてから視線を逸らす。
心臓に悪い…。
俺、自分はもっと図太い神経をしていて度胸があり、多少の事じゃ動じる事は無いと思っていたが…
武人としての矜持とコレは別モンだ。
人を好きになり、それに関わる事に対して、なんつー繊細な精神を持ってるんだろうか。
エルンスト殿下と目が合っただけで、リヒャルト殿下の顔がパッと頭に浮かぶ。
ああもう!リヒャルト殿下の顔が見たい!
癒やしが欲しい!
王城の食堂では、食事を済ませたリヒャルト王子とブリュンヒルデ王女が、母親である王妃と食後の歓談を始めていた。
「お父上は、今日は随分と早いのですね。
ご挨拶も出来なかったし…。
一緒にお食事したかったわ。
お昼はご一緒出来るかしら。」
お茶を飲みながら、あどけない表情をしたブリュンヒルデが王妃の顔を見る。
リヒャルトとブリュンヒルデが食堂に着いた時、国王とエルンストは食事を終えて席を立った所だった。
「陛下は明日の夕方まで、お城にはおりませんよ。
エルンストと共に狩猟の森に向かわれたのですから。」
王妃の答えに、リヒャルトは軽く目を伏せた。
オズワルドが非番で王城内の自室にこもる日にエルンストが城に居ないと聞いただけで、僅かにだがホッと胸が軽くなる。
まだエルンストに対して警戒を解いてないリヒャルトには、エルンストがオズワルドに何かを起こす可能性が下がるだけで、安堵の表情が出るのだが…。
「や、や、や、ヤバい、ヤバいぞ!!!」
可愛らしいブリュンヒルデが、男みたいな口調でテーブルを叩いて席から立ち上がった。
茫然とするリヒャルトは、ブリュンヒルデに唐突に腕をガシッと掴まれて、食堂から連れ出された。
「ブリュンヒルデ!?いきなり、どうしたんだ!?」
可愛い妹の態度の豹変ぶりにリヒャルトは困惑したが、そのただならぬ表情を見て疑問を一度胸にしまい、ブリュンヒルデに従う事にした。
ブリュンヒルデはリヒャルトの手を引いたまま厩舎に向かい、すれ違った使用人に護衛の騎士を急ぎで数人集める様に指示した。
いつもの愛らしい妹とは全く違う顔を見せるブリュンヒルデに、リヒャルトは驚きと共に感心した顔を見せる。
「お兄様、急いでエルンスト兄様の所へ行って下さい。
おそらく、オジュワルトもそこに居ます。」
「え?なぜ、非番のオズワルドが……」
問答を繰り返す時間さえ惜しいのだと、早く行けとでも言うかのようにブリュンヒルデがリヒャルトの背中をグイグイと押した。
「リヒャルト兄様、呪いと祈りは紙一重。
わたくしの祈りは彼の呪いには多分、敵わない。
リヒャルト兄様……兄様の祈りと愛で…どうか…!
わたくしの妹を守って下さい!」
考えるより先にリヒャルトの身体が動いた。
厩舎に向かい駆け出すリヒャルトの後を追い、護衛の為に同行する騎士が3人駆け付ける。
厩舎から馬を出し、リヒャルトと騎士達が王城の門に向かった。
門に向かう途中で、リヒャルトが王城からのアプローチに立つブリュンヒルデの姿を目の端に捉える。
両手を合わせて指を組み、祈る様にリヒャルトを見詰めるブリュンヒルデに、リヒャルトは拳を上げて声を張った。
「必ず!僕が必ずアシュリーを守ります!!」
同行する騎士や、王門付近に居る者達が不思議そうな顔をして馬を駆り去ってゆくリヒャルトを見た。
その場で祈りを捧げる様にしてリヒャルトを見送ったブリュンヒルデは、王城に戻って行った。
突然、食堂から走り出した幼い姫を心配してか、王妃をはじめ使用人達がエントランスに集まっていた。
「ブリュンヒルデ…?どうしたの…一体、何が…。」
「お父様やお兄様達が無事に帰ったら話しますわ。」
━━皆が無事に………オズワルドも。
俺を含めた国王一行は、日が傾きかけた頃に狩り場の森に到着した。
狩り場は広大な森で下調べをするには時間をかなり要する為に、明朝早くから動く事にして早々に野営の準備が始まった。
城を出てから10時間ほど、休憩を入れたとは言え皆疲れが顔に出ている。
俺なんか、昨夜からあまり寝てないからな。
今朝までリヒャルト殿下と同衾していたワケだし…少し眠ったがアシュリーになった夢を見て、何だか寝た気がしない。
それに…長時間馬に揺られると、昨夜酷使した腰と尻に負担が……とにかく早く休みたい。
兵士達によって王族用の大きく立派なテントが組み立てられ出来上がった。
俺達、騎士の寝床となるテントも、兵士と共に俺達で組み立てていく。
「いや、なんで俺1人でテント使っていーんだよ。」
「オズワルド殿は身体が大きいので、2人用テントでは相方が窮屈になるので。
オズワルド殿の代わりに、御者を兵士のテントに入れます。」
人数は奇数。
馬車の御者は、その辺でゴロ寝するからテントはいらないと言ったらしいが、夜の森はかなり冷え込む。
確かに風邪でもひかれて帰りの馬車の御者が居なくなる方が面倒だ。
「そうか。なら、お言葉に甘えて。」
テントの組み立てが済み、次は食事の準備が始まった。
味や見た目は二の次、とにかく腹を膨らませて栄養価の高い物。
そんな野趣あふれる食事を、我が国の王様は文句を言わずに兵士達に混ざる様に火を囲んで食べて下さる。
そんな国王陛下だから、国民にも好かれているんだよな。
なんて思っていたら、食後に突然、陛下のテントに喚ばれた。
え……今?食事を終えたばかりの今?
お叱りを受けるのか、俺は。
後片付けを人に任せた俺は、国王陛下とエルンスト殿下の大きなテントに向かった。
テントの中に入るとエルンスト殿下は居らず、国王陛下だけが俺を待って居られた。
「来たか、オズワルド。」
「はっ」
俺はテントの中で片膝を地につけ、胸に手を当て頭を下げた。
もう、頭の中ではリヒャルト殿下との仲を叱責される事しか浮かばない。
いや、叱責だけで済むワケが無い。
別れさせられるのは当然、王子を誑かしたと言われて厳しい処罰だってあるかも知れない。
「息子の………エルンストの事なんだが。」
「はっ!リヒャルト殿下との事につきましては!」
陛下の「息子」の言葉に反応して口を開いた俺は、陛下の言葉に被せて全く別の名前を出した。
「リヒャルト?いや、話はエルンストの事だ。」
「え、エルンスト王太子殿下の……?」
俺は少し混乱気味に頭を捻った。
陛下がエルンスト殿下の事を俺に聞くってナニ。
まさか、半年ほど前に俺を襲いに部屋に来た事を、誘惑したとか誑かしたとか言うんじゃないよな。
「エルンストの剣の師をしていたオズワルドに尋ねたい。
あれは本当に、私の息子のエルンストなのか?」
……ああ、とうとう陛下にまで……人が変わったと思われる様になってしまった。
俺が剣を教えていた頃のエルンスト殿下は、確かにこの間までいたのだ。
王太子となった責任感を持ち、立ち居振る舞いが紳士らしく立派になったと皆に言われた。
そんな声に照れ臭そうにしながらも、紳士然とした殿下は、確かにエルンスト殿下だった。
ここ一年位で、エルンスト殿下らしさが段々と薄れていき、今はもう別人の様だ。
と言うか……別人だ。
人によっては、完全に子どもらしさが消えて大人になっただけのように見えるようだが…。
俺やリヒャルト殿下から見たエルンスト殿下は、アシュリーの記憶の青年に乗っ取られたかの様になっている。
魂は同じままだから、他の霊魂に取り憑かれたワケじゃない。
リヒャルト殿下が、俺がエルンスト殿下のようにアシュリーに乗っ取られたりしないのかと心配する理由がこれだ。
俺が自分を基準にすると、頭の中にアシュリーとしての記憶はあるが、人格を奪われるなんてまず無い。
だから、俺にもエルンスト殿下の在り方が今ひとつ分からない。
そう言えば……エルンスト殿下の人格が乗っ取られたとして、そのエルンスト殿下としての人格は消えたのだろうか……
「エルンスト殿下は…エルンスト殿下です。」
国王陛下の息子である、エルンストとして生まれた魂も肉体も間違い無くエルンスト殿下である。
同じ魂であるが、前世の記憶に支配されているなんて、どう説明したら良いのか分からない。
悪い魔術師に操られているから魔術師を探して倒せば元通りなんて事も出来ない。
「私にはエルンストが人が変わった様にしか見えん。
心の病を患っているにしろ、次期国王としての器たり得ない……
私は、エルンストを廃嫡しようかと考えている。」
「!!それでは、次期国王には……」
「リヒャルトを王太子にしようかと考えている。
エルンストに隣国の姫君を妃にと考えていたが、リヒャルトにと…………………………」
途中から陛下の声が聞こえなくなっていた。
俺はその場に両膝をついて、魂が抜けた様にテントの天井をボンヤリ眺めて固まってしまった。
多くの貴族の方々が集まり、我こそはと狩猟の腕を競うのだが、奥方様達も集まって茶会が始まったりする。
子どもが参加する事はほぼ無く、リヒャルト殿下の専属護衛騎士になってからの俺は、ここ数年狩猟の森に来る事は無かった。
個人的にも好きではない。つまらんし。
護衛だから、自分が狩猟出来るワケでは無いし…
そもそも、弓は苦手だし。
そんな場所に連日居続けるのは退屈だったのだ。
まぁ今回は下見だけなので、明日には城に帰れ……
るのか?俺。
いや、解雇にされたとしても、その場で『どっか行け』は無いだろう。
下見には国王陛下と、陛下の専属護衛騎士の方々6人。
先ほど俺の部屋の前に立っていた騎士も居る。
そして、俺を含む騎士が6人と雑用係の兵士が8人。
野営用の荷を運ぶ馬車が一台。
王族用の馬車はおらず、国王陛下ご自身も愛馬に跨っておられる。
国王陛下も狩りをなさるので、馬上から自身の目で狩り場を確認したいとの事だそうだが………
隣には、同じく馬に跨ったエルンスト王太子殿下がいらっしゃる。
気ッまずっ!!
俺は国王陛下とエルンスト殿下から距離を置いて列の最後尾に下がった。
何なら殿を努めます的な感じで。
その際、俺の姿を目で追うエルンスト殿下と目が合った。
柔らかな笑みを浮かべられ、ますます気まずくて軽く頭を下げてから視線を逸らす。
心臓に悪い…。
俺、自分はもっと図太い神経をしていて度胸があり、多少の事じゃ動じる事は無いと思っていたが…
武人としての矜持とコレは別モンだ。
人を好きになり、それに関わる事に対して、なんつー繊細な精神を持ってるんだろうか。
エルンスト殿下と目が合っただけで、リヒャルト殿下の顔がパッと頭に浮かぶ。
ああもう!リヒャルト殿下の顔が見たい!
癒やしが欲しい!
王城の食堂では、食事を済ませたリヒャルト王子とブリュンヒルデ王女が、母親である王妃と食後の歓談を始めていた。
「お父上は、今日は随分と早いのですね。
ご挨拶も出来なかったし…。
一緒にお食事したかったわ。
お昼はご一緒出来るかしら。」
お茶を飲みながら、あどけない表情をしたブリュンヒルデが王妃の顔を見る。
リヒャルトとブリュンヒルデが食堂に着いた時、国王とエルンストは食事を終えて席を立った所だった。
「陛下は明日の夕方まで、お城にはおりませんよ。
エルンストと共に狩猟の森に向かわれたのですから。」
王妃の答えに、リヒャルトは軽く目を伏せた。
オズワルドが非番で王城内の自室にこもる日にエルンストが城に居ないと聞いただけで、僅かにだがホッと胸が軽くなる。
まだエルンストに対して警戒を解いてないリヒャルトには、エルンストがオズワルドに何かを起こす可能性が下がるだけで、安堵の表情が出るのだが…。
「や、や、や、ヤバい、ヤバいぞ!!!」
可愛らしいブリュンヒルデが、男みたいな口調でテーブルを叩いて席から立ち上がった。
茫然とするリヒャルトは、ブリュンヒルデに唐突に腕をガシッと掴まれて、食堂から連れ出された。
「ブリュンヒルデ!?いきなり、どうしたんだ!?」
可愛い妹の態度の豹変ぶりにリヒャルトは困惑したが、そのただならぬ表情を見て疑問を一度胸にしまい、ブリュンヒルデに従う事にした。
ブリュンヒルデはリヒャルトの手を引いたまま厩舎に向かい、すれ違った使用人に護衛の騎士を急ぎで数人集める様に指示した。
いつもの愛らしい妹とは全く違う顔を見せるブリュンヒルデに、リヒャルトは驚きと共に感心した顔を見せる。
「お兄様、急いでエルンスト兄様の所へ行って下さい。
おそらく、オジュワルトもそこに居ます。」
「え?なぜ、非番のオズワルドが……」
問答を繰り返す時間さえ惜しいのだと、早く行けとでも言うかのようにブリュンヒルデがリヒャルトの背中をグイグイと押した。
「リヒャルト兄様、呪いと祈りは紙一重。
わたくしの祈りは彼の呪いには多分、敵わない。
リヒャルト兄様……兄様の祈りと愛で…どうか…!
わたくしの妹を守って下さい!」
考えるより先にリヒャルトの身体が動いた。
厩舎に向かい駆け出すリヒャルトの後を追い、護衛の為に同行する騎士が3人駆け付ける。
厩舎から馬を出し、リヒャルトと騎士達が王城の門に向かった。
門に向かう途中で、リヒャルトが王城からのアプローチに立つブリュンヒルデの姿を目の端に捉える。
両手を合わせて指を組み、祈る様にリヒャルトを見詰めるブリュンヒルデに、リヒャルトは拳を上げて声を張った。
「必ず!僕が必ずアシュリーを守ります!!」
同行する騎士や、王門付近に居る者達が不思議そうな顔をして馬を駆り去ってゆくリヒャルトを見た。
その場で祈りを捧げる様にしてリヒャルトを見送ったブリュンヒルデは、王城に戻って行った。
突然、食堂から走り出した幼い姫を心配してか、王妃をはじめ使用人達がエントランスに集まっていた。
「ブリュンヒルデ…?どうしたの…一体、何が…。」
「お父様やお兄様達が無事に帰ったら話しますわ。」
━━皆が無事に………オズワルドも。
俺を含めた国王一行は、日が傾きかけた頃に狩り場の森に到着した。
狩り場は広大な森で下調べをするには時間をかなり要する為に、明朝早くから動く事にして早々に野営の準備が始まった。
城を出てから10時間ほど、休憩を入れたとは言え皆疲れが顔に出ている。
俺なんか、昨夜からあまり寝てないからな。
今朝までリヒャルト殿下と同衾していたワケだし…少し眠ったがアシュリーになった夢を見て、何だか寝た気がしない。
それに…長時間馬に揺られると、昨夜酷使した腰と尻に負担が……とにかく早く休みたい。
兵士達によって王族用の大きく立派なテントが組み立てられ出来上がった。
俺達、騎士の寝床となるテントも、兵士と共に俺達で組み立てていく。
「いや、なんで俺1人でテント使っていーんだよ。」
「オズワルド殿は身体が大きいので、2人用テントでは相方が窮屈になるので。
オズワルド殿の代わりに、御者を兵士のテントに入れます。」
人数は奇数。
馬車の御者は、その辺でゴロ寝するからテントはいらないと言ったらしいが、夜の森はかなり冷え込む。
確かに風邪でもひかれて帰りの馬車の御者が居なくなる方が面倒だ。
「そうか。なら、お言葉に甘えて。」
テントの組み立てが済み、次は食事の準備が始まった。
味や見た目は二の次、とにかく腹を膨らませて栄養価の高い物。
そんな野趣あふれる食事を、我が国の王様は文句を言わずに兵士達に混ざる様に火を囲んで食べて下さる。
そんな国王陛下だから、国民にも好かれているんだよな。
なんて思っていたら、食後に突然、陛下のテントに喚ばれた。
え……今?食事を終えたばかりの今?
お叱りを受けるのか、俺は。
後片付けを人に任せた俺は、国王陛下とエルンスト殿下の大きなテントに向かった。
テントの中に入るとエルンスト殿下は居らず、国王陛下だけが俺を待って居られた。
「来たか、オズワルド。」
「はっ」
俺はテントの中で片膝を地につけ、胸に手を当て頭を下げた。
もう、頭の中ではリヒャルト殿下との仲を叱責される事しか浮かばない。
いや、叱責だけで済むワケが無い。
別れさせられるのは当然、王子を誑かしたと言われて厳しい処罰だってあるかも知れない。
「息子の………エルンストの事なんだが。」
「はっ!リヒャルト殿下との事につきましては!」
陛下の「息子」の言葉に反応して口を開いた俺は、陛下の言葉に被せて全く別の名前を出した。
「リヒャルト?いや、話はエルンストの事だ。」
「え、エルンスト王太子殿下の……?」
俺は少し混乱気味に頭を捻った。
陛下がエルンスト殿下の事を俺に聞くってナニ。
まさか、半年ほど前に俺を襲いに部屋に来た事を、誘惑したとか誑かしたとか言うんじゃないよな。
「エルンストの剣の師をしていたオズワルドに尋ねたい。
あれは本当に、私の息子のエルンストなのか?」
……ああ、とうとう陛下にまで……人が変わったと思われる様になってしまった。
俺が剣を教えていた頃のエルンスト殿下は、確かにこの間までいたのだ。
王太子となった責任感を持ち、立ち居振る舞いが紳士らしく立派になったと皆に言われた。
そんな声に照れ臭そうにしながらも、紳士然とした殿下は、確かにエルンスト殿下だった。
ここ一年位で、エルンスト殿下らしさが段々と薄れていき、今はもう別人の様だ。
と言うか……別人だ。
人によっては、完全に子どもらしさが消えて大人になっただけのように見えるようだが…。
俺やリヒャルト殿下から見たエルンスト殿下は、アシュリーの記憶の青年に乗っ取られたかの様になっている。
魂は同じままだから、他の霊魂に取り憑かれたワケじゃない。
リヒャルト殿下が、俺がエルンスト殿下のようにアシュリーに乗っ取られたりしないのかと心配する理由がこれだ。
俺が自分を基準にすると、頭の中にアシュリーとしての記憶はあるが、人格を奪われるなんてまず無い。
だから、俺にもエルンスト殿下の在り方が今ひとつ分からない。
そう言えば……エルンスト殿下の人格が乗っ取られたとして、そのエルンスト殿下としての人格は消えたのだろうか……
「エルンスト殿下は…エルンスト殿下です。」
国王陛下の息子である、エルンストとして生まれた魂も肉体も間違い無くエルンスト殿下である。
同じ魂であるが、前世の記憶に支配されているなんて、どう説明したら良いのか分からない。
悪い魔術師に操られているから魔術師を探して倒せば元通りなんて事も出来ない。
「私にはエルンストが人が変わった様にしか見えん。
心の病を患っているにしろ、次期国王としての器たり得ない……
私は、エルンストを廃嫡しようかと考えている。」
「!!それでは、次期国王には……」
「リヒャルトを王太子にしようかと考えている。
エルンストに隣国の姫君を妃にと考えていたが、リヒャルトにと…………………………」
途中から陛下の声が聞こえなくなっていた。
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