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リスクィート国王に仕える使用人。
リスクィート王城の敷地内は町をひとつ取り込んだ様に広く、蜘蛛の巣の様に放射状に道が伸び、その先には王宮を囲む様に様々な建物がある。
国王陛下の妹君であるカリーナ王女殿下が居る離宮もそのひとつで、そちらの方角から来たと思われる侍女服を身に着けた女が、王宮前の広場の片隅で王宮の西の尖塔をジッと見上げて立って居た。
その女は、先日カリーナ王女殿下を西の尖塔に案内した時に連れていた、縦にも横にも身体の大きいベルゼルト人の侍女と同じ侍女の服を着ている。
女が立っていた道の先にはカリーナ王女殿下の離宮がある。
これは、この女がベルゼルトから来たカリーナ王女の侍女の1人であるのだと疑いようが無い。
「その衣装、カリーナ王女殿下の遣いか?」
途方に暮れた様な面持ちで尖塔を見上げていた女はオレに急に話し掛けられて、驚いた様にビクッと身体を強張らせた。
「は、はい…!あの……」
女はオドオドと、怯えがちに顔を伏せる。
口元に手を当て、顔を下方に向けたまま上目遣いで俺を見た。
「カリーナ様がケンヴィー皇子殿下にお会いしたいと…。」
「それは出来ないと、陛下がカリーナ王女殿下に直接言った筈だが。」
俺は、オドオドと俺を見上げる女に少し強めの語調で答えた。
女は萎縮したように再びビクッと身体を強張らせ、消え入りそうな、か細い声で答えた。
「は、はい…ですので、せめて…この火傷に効く軟膏をお渡ししたいと……。」
女は手の平に、小さな容器に入った薬を取り出して俺に見せた。
「これを渡す為に、アンタがわざわざ離れた離宮から歩いて来たのか?」
「そう、言い付けられましたので……。」
普段ならば馬車を使って移動する距離を、言い付けられたからと歩いて来たと言うのか。
見た目は柳の様にヒョロっとして色気はあまり無いが、この、従順ぶりと怯えがちな女の態度。
………悪くない。簡単に言う事をきかせられそうだ。
今、西の尖塔には死に損ないのアレ以外は誰も居ない。
そして、アレを処分しろと言われた俺だけが尖塔に自由に入れる。
俺にはアレと女を会わせてやれる権限など無いが、誰も見てないし、どうせ処分してしまうんだ。
「そうか、だったら…アンタの忠信ぶりに免じて、俺がアンタをケンヴィー皇子に会わせてやってもいい。
その薬を直接塗ってやったとカリーナ王女殿下に報告出来るだろ。」
「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!」
初めて女が、俯かせた顔を上げて笑顔を見せた。
パッと見た目では三十路前あたりかと思ったが、意外と若い。
細く儚げだが、顔つきは悪くない。
「そのかわり………俺の言う事をひとつ聞いてもらう。
なぁに、そう難しい事じゃない。」
「私に出来る事でしたら何でも致します。
ああ、ありがとうございます!」
俺は後のお愉しみを想像し、女の胸から腰、臀部へと舐める様に視線を滑らせた。
ああ……アレを見せた後、すぐに、その場でやるのもいいかも。
自分が仕える主の息子の前で犯されるなんて…どんな顔をすんのか楽しみだ。
俺は女を尖塔の中に案内した。
段差の低い螺旋階段を、一歩ずつ上がって行く。
一歩ずつ歩きながら、俺はもう自分の感情を隠さなくなっていた。
先の行為を想像し、女の身体を舐る様に執拗に見る。
女も、ここまであからさまな俺の態度を見て、俺が出した条件が何であるかを理解した様だ。
自身の身体をキュッと抱くようにし、困惑した様な表情をして俺とは目を合わせなくなった。
だがもう遅い。女は逃げる事も出来ない。
逃げ出せば、カリーナ王女殿下の侍女がケンヴィー皇子の塔に侵入したと、俺がリスクィート陛下にチクるだけだ。
実妹とはいえ、カリーナ王女殿下が陛下によって何らかの罰を与えられるだろう。
女もそれが分かっているから、逃げ出す事も抵抗する事も出来ない。
「私………アナタがカリーナ皇后殿下をお呼びに来た時から、アナタの事をずっと見てました……。」
尖塔の最上階の扉の前に立った時、女が突然、告白めいた言葉を口にした。
「へぇー、ひと月近く前から?
なんだ、一目惚れでもしてくれたのかい?
だったら丁度いいじゃないか、アンタもイイ思いが出来て……。」
扉を開いて女を部屋の中に案内する。
塔の最上階、部屋の奥にあるベッドの上。
そこには死を待つばかりの不憫な男の姿は無かった。
「な、無い!!!アレが無い!居ない!!」
俺はもぬけの殻となったベッドに駆け寄り、ジュクと湿ったベッドの上を叩いたり撫でたりしてケンヴィー皇子を探した。
寝返りさえ打てなかったアレが、ベッドから落ちるなんて有り得ないが、うろたえた俺はベッドの周りを何度も行き来した。
「……ケンヴィー皇子殿下の事をアレ呼ばわりしてましたのね。」
女の冷ややかな声が俺の背に掛けられた。
だが俺は、それどころではなかった。
無くなるハズの無い物が無くなっている。
有り得ない事が起こっている。
「どこだ!アレが無いと俺は…陛下に!!」
そうだ、どうせ処分するんだから死体でも構わないんだ。
アレが見つかれば!
俺の背後で、女がスルリと着ていた服を脱ぎ始めた。
直接見てなくとも、一糸纏わぬ姿になった女が俺の背後に居るのが分かる。
普段の俺ならば喜ばしい状況ではあるが、今はこの女の行為が、頭がおかしいとしか思えない。
裸の女は俺の首に腕を掛けて、背後から抱きついて来た。
「な、何をしやがる!離せ!」
「あら…アナタが望んだ事ですのに。
ふふふ…あの日から私、アナタをずっと見てましたの。」
女の手が俺の服に掛かり、纏わりつく様な指先で俺の服を脱がしに掛かる。
まるで蛇が身体の上を這う様な感触で気味が悪い。
「それどころじゃねぇ!
お前が会いたがっていた、ケンヴィー皇子が居ないんだぞ!」
「大丈夫、すぐ新しいのが出来ますから。」
出来ます………?ッッ!!!!
女の指先が俺の口の中にいきなり深く、ズブっと入って来た。
喉の奥に無理矢理何かを飲まされた様だ。
女の手を思い切り噛んでやろうとしたが、女の手は金属製の手甲を着けており、噛む事が出来なかった。
そして俺は、クラリと目眩を起こして床に膝をついた。
「アナタには、先ほど見せた軟膏を飲んで貰いました。
アレは火傷の薬では無く、実は身体を痺れさせる薬なんですの。
まぁ痛みも緩和させるので、治療にも使われるのですけど。」
床に膝をついた俺は、そのまま床に倒れ込んだ。
床の上には布が敷かれており、全裸になった女は拡げた布の上で尚も俺の衣服を脱がせていく。
身体の自由が効かなくなった俺は、布の上に全裸で転がった状態となった。
「死んだ後に付けられた傷と、生きてる間に付けられた傷とでは差が出るの。
だからアナタには悪いけど、痛いのを我慢して貰うわね。」
女はニタァと笑むと、俺の身体に液体を塗り始めた。
場所を選び、多め少なめと確認しながら液体を塗っていく。
ああ…これは……このにおいは……!油か!
瀕死のアレと同じにおいがする!
この女…!俺に火を点けて焼き殺すつもりか!!
「大丈夫、殺さないわよ。
生きていて貰わないと困るもの。
私が殺すまでは。」
女は俺の表情から、俺が口にしようとしていた言葉を読み取る様に返事をした。
そして、部屋の蝋燭を手にし、その火を俺に点けた。
「…………!!!!!!!!」
全身が炎に包まれ、俺は助けを求めて大声で叫ぶが声が出ていない。
熱い、痛い、苦しいと泣き叫ぶ声も出ない。
あまりの仕打ちに思考が恐怖から目を背けようとバカになろうとする。
まともな思考を持っているのが辛い。
手放してしまいたい……ああ、だが気になるじゃないか……
こんな事して…俺が居なくなったりしたら………
陛下はカリーナを疑うだろうよ。
どうする気だ………
「ご安心なさって。
私、作り変えるのが得意なんですよ。
アナタをケンヴィー皇子に、そして私をアナタに作り変えますわ。
ずっと見て来たアナタの事、完璧にこなせますわよ。」
それが、正気を保っていられた俺が最後に聞いた言葉だった。
▼
▼
▼
「あの花は無事に入手出来て?」
リスクィート王城の敷地内にある離宮の庭園では、カリーナが庭に咲く花を摘みながら、背後に控える年老いた侍女に話し掛けた。
「ええ、無事ですとも。
傷みやすい花ですので、急に環境が変わるのは負担となりますから、状況を見ながら徐々に新しい鉢に植え替えしましょうね」
カリーナが摘んだ花の束を受け取り、侍女が笑んだ。
「アタクシの故郷には、枯れ掛けた花を長持ちさせる者もおります。
落ちた花びらやもがれた葉は元には戻りませんが…。」
「それでも、花として咲いたのだから…愛でてあげたいのよ。
冷えて来たわね、中に入りましょう。
温かいお茶を用意して。」
カリーナと侍女は、花を抱えて邸に入った。
離宮の敷地内には、リスクィート国王に命じられた兵士達がカリーナを警護するという名目で、カリーナを監視するように配置されている。
それは邸内にも及んでいたが、カリーナ自身がベルゼルトより付き従えた者達が居るからとこれを断固として拒否した。
もし、自分の許しを得てないリスクィートの者を邸にて見た際には排除するとも強く言い放った。
上手く隠れて潜んでいたネズミ達は、数ヶ月前にセドリック率いるヴィーヴルの者達が来た事によって、寝返るか排除されるかの選択を余儀なくされ、全てカリーナ側についた。
「そうそう、西の尖塔のケンヴィーの事も気になるわね。
まだ生きているわよね。
温かいお茶を飲みながら……わたくしの胸の内を聞いて貰いたいわ。」
「承知致しました。
アタクシでよろしければ、お話をお聞き致しますわよ。
カリーナ皇后殿下。」
2人は庭に配置されたリスクィートの兵士達が目で姿を追う中、摘んだ花を抱えて静かに邸の中に入って行った。
国王陛下の妹君であるカリーナ王女殿下が居る離宮もそのひとつで、そちらの方角から来たと思われる侍女服を身に着けた女が、王宮前の広場の片隅で王宮の西の尖塔をジッと見上げて立って居た。
その女は、先日カリーナ王女殿下を西の尖塔に案内した時に連れていた、縦にも横にも身体の大きいベルゼルト人の侍女と同じ侍女の服を着ている。
女が立っていた道の先にはカリーナ王女殿下の離宮がある。
これは、この女がベルゼルトから来たカリーナ王女の侍女の1人であるのだと疑いようが無い。
「その衣装、カリーナ王女殿下の遣いか?」
途方に暮れた様な面持ちで尖塔を見上げていた女はオレに急に話し掛けられて、驚いた様にビクッと身体を強張らせた。
「は、はい…!あの……」
女はオドオドと、怯えがちに顔を伏せる。
口元に手を当て、顔を下方に向けたまま上目遣いで俺を見た。
「カリーナ様がケンヴィー皇子殿下にお会いしたいと…。」
「それは出来ないと、陛下がカリーナ王女殿下に直接言った筈だが。」
俺は、オドオドと俺を見上げる女に少し強めの語調で答えた。
女は萎縮したように再びビクッと身体を強張らせ、消え入りそうな、か細い声で答えた。
「は、はい…ですので、せめて…この火傷に効く軟膏をお渡ししたいと……。」
女は手の平に、小さな容器に入った薬を取り出して俺に見せた。
「これを渡す為に、アンタがわざわざ離れた離宮から歩いて来たのか?」
「そう、言い付けられましたので……。」
普段ならば馬車を使って移動する距離を、言い付けられたからと歩いて来たと言うのか。
見た目は柳の様にヒョロっとして色気はあまり無いが、この、従順ぶりと怯えがちな女の態度。
………悪くない。簡単に言う事をきかせられそうだ。
今、西の尖塔には死に損ないのアレ以外は誰も居ない。
そして、アレを処分しろと言われた俺だけが尖塔に自由に入れる。
俺にはアレと女を会わせてやれる権限など無いが、誰も見てないし、どうせ処分してしまうんだ。
「そうか、だったら…アンタの忠信ぶりに免じて、俺がアンタをケンヴィー皇子に会わせてやってもいい。
その薬を直接塗ってやったとカリーナ王女殿下に報告出来るだろ。」
「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!」
初めて女が、俯かせた顔を上げて笑顔を見せた。
パッと見た目では三十路前あたりかと思ったが、意外と若い。
細く儚げだが、顔つきは悪くない。
「そのかわり………俺の言う事をひとつ聞いてもらう。
なぁに、そう難しい事じゃない。」
「私に出来る事でしたら何でも致します。
ああ、ありがとうございます!」
俺は後のお愉しみを想像し、女の胸から腰、臀部へと舐める様に視線を滑らせた。
ああ……アレを見せた後、すぐに、その場でやるのもいいかも。
自分が仕える主の息子の前で犯されるなんて…どんな顔をすんのか楽しみだ。
俺は女を尖塔の中に案内した。
段差の低い螺旋階段を、一歩ずつ上がって行く。
一歩ずつ歩きながら、俺はもう自分の感情を隠さなくなっていた。
先の行為を想像し、女の身体を舐る様に執拗に見る。
女も、ここまであからさまな俺の態度を見て、俺が出した条件が何であるかを理解した様だ。
自身の身体をキュッと抱くようにし、困惑した様な表情をして俺とは目を合わせなくなった。
だがもう遅い。女は逃げる事も出来ない。
逃げ出せば、カリーナ王女殿下の侍女がケンヴィー皇子の塔に侵入したと、俺がリスクィート陛下にチクるだけだ。
実妹とはいえ、カリーナ王女殿下が陛下によって何らかの罰を与えられるだろう。
女もそれが分かっているから、逃げ出す事も抵抗する事も出来ない。
「私………アナタがカリーナ皇后殿下をお呼びに来た時から、アナタの事をずっと見てました……。」
尖塔の最上階の扉の前に立った時、女が突然、告白めいた言葉を口にした。
「へぇー、ひと月近く前から?
なんだ、一目惚れでもしてくれたのかい?
だったら丁度いいじゃないか、アンタもイイ思いが出来て……。」
扉を開いて女を部屋の中に案内する。
塔の最上階、部屋の奥にあるベッドの上。
そこには死を待つばかりの不憫な男の姿は無かった。
「な、無い!!!アレが無い!居ない!!」
俺はもぬけの殻となったベッドに駆け寄り、ジュクと湿ったベッドの上を叩いたり撫でたりしてケンヴィー皇子を探した。
寝返りさえ打てなかったアレが、ベッドから落ちるなんて有り得ないが、うろたえた俺はベッドの周りを何度も行き来した。
「……ケンヴィー皇子殿下の事をアレ呼ばわりしてましたのね。」
女の冷ややかな声が俺の背に掛けられた。
だが俺は、それどころではなかった。
無くなるハズの無い物が無くなっている。
有り得ない事が起こっている。
「どこだ!アレが無いと俺は…陛下に!!」
そうだ、どうせ処分するんだから死体でも構わないんだ。
アレが見つかれば!
俺の背後で、女がスルリと着ていた服を脱ぎ始めた。
直接見てなくとも、一糸纏わぬ姿になった女が俺の背後に居るのが分かる。
普段の俺ならば喜ばしい状況ではあるが、今はこの女の行為が、頭がおかしいとしか思えない。
裸の女は俺の首に腕を掛けて、背後から抱きついて来た。
「な、何をしやがる!離せ!」
「あら…アナタが望んだ事ですのに。
ふふふ…あの日から私、アナタをずっと見てましたの。」
女の手が俺の服に掛かり、纏わりつく様な指先で俺の服を脱がしに掛かる。
まるで蛇が身体の上を這う様な感触で気味が悪い。
「それどころじゃねぇ!
お前が会いたがっていた、ケンヴィー皇子が居ないんだぞ!」
「大丈夫、すぐ新しいのが出来ますから。」
出来ます………?ッッ!!!!
女の指先が俺の口の中にいきなり深く、ズブっと入って来た。
喉の奥に無理矢理何かを飲まされた様だ。
女の手を思い切り噛んでやろうとしたが、女の手は金属製の手甲を着けており、噛む事が出来なかった。
そして俺は、クラリと目眩を起こして床に膝をついた。
「アナタには、先ほど見せた軟膏を飲んで貰いました。
アレは火傷の薬では無く、実は身体を痺れさせる薬なんですの。
まぁ痛みも緩和させるので、治療にも使われるのですけど。」
床に膝をついた俺は、そのまま床に倒れ込んだ。
床の上には布が敷かれており、全裸になった女は拡げた布の上で尚も俺の衣服を脱がせていく。
身体の自由が効かなくなった俺は、布の上に全裸で転がった状態となった。
「死んだ後に付けられた傷と、生きてる間に付けられた傷とでは差が出るの。
だからアナタには悪いけど、痛いのを我慢して貰うわね。」
女はニタァと笑むと、俺の身体に液体を塗り始めた。
場所を選び、多め少なめと確認しながら液体を塗っていく。
ああ…これは……このにおいは……!油か!
瀕死のアレと同じにおいがする!
この女…!俺に火を点けて焼き殺すつもりか!!
「大丈夫、殺さないわよ。
生きていて貰わないと困るもの。
私が殺すまでは。」
女は俺の表情から、俺が口にしようとしていた言葉を読み取る様に返事をした。
そして、部屋の蝋燭を手にし、その火を俺に点けた。
「…………!!!!!!!!」
全身が炎に包まれ、俺は助けを求めて大声で叫ぶが声が出ていない。
熱い、痛い、苦しいと泣き叫ぶ声も出ない。
あまりの仕打ちに思考が恐怖から目を背けようとバカになろうとする。
まともな思考を持っているのが辛い。
手放してしまいたい……ああ、だが気になるじゃないか……
こんな事して…俺が居なくなったりしたら………
陛下はカリーナを疑うだろうよ。
どうする気だ………
「ご安心なさって。
私、作り変えるのが得意なんですよ。
アナタをケンヴィー皇子に、そして私をアナタに作り変えますわ。
ずっと見て来たアナタの事、完璧にこなせますわよ。」
それが、正気を保っていられた俺が最後に聞いた言葉だった。
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「あの花は無事に入手出来て?」
リスクィート王城の敷地内にある離宮の庭園では、カリーナが庭に咲く花を摘みながら、背後に控える年老いた侍女に話し掛けた。
「ええ、無事ですとも。
傷みやすい花ですので、急に環境が変わるのは負担となりますから、状況を見ながら徐々に新しい鉢に植え替えしましょうね」
カリーナが摘んだ花の束を受け取り、侍女が笑んだ。
「アタクシの故郷には、枯れ掛けた花を長持ちさせる者もおります。
落ちた花びらやもがれた葉は元には戻りませんが…。」
「それでも、花として咲いたのだから…愛でてあげたいのよ。
冷えて来たわね、中に入りましょう。
温かいお茶を用意して。」
カリーナと侍女は、花を抱えて邸に入った。
離宮の敷地内には、リスクィート国王に命じられた兵士達がカリーナを警護するという名目で、カリーナを監視するように配置されている。
それは邸内にも及んでいたが、カリーナ自身がベルゼルトより付き従えた者達が居るからとこれを断固として拒否した。
もし、自分の許しを得てないリスクィートの者を邸にて見た際には排除するとも強く言い放った。
上手く隠れて潜んでいたネズミ達は、数ヶ月前にセドリック率いるヴィーヴルの者達が来た事によって、寝返るか排除されるかの選択を余儀なくされ、全てカリーナ側についた。
「そうそう、西の尖塔のケンヴィーの事も気になるわね。
まだ生きているわよね。
温かいお茶を飲みながら……わたくしの胸の内を聞いて貰いたいわ。」
「承知致しました。
アタクシでよろしければ、お話をお聞き致しますわよ。
カリーナ皇后殿下。」
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