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130話◆見てくれだけは巨乳の可愛い妹。
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剣を手にした黒衣の貴婦人は、狭い部屋の中をメイを含む障害物を物ともせず美しく軽やかな剣舞を魅せる。
流れる様に空間を走る彼女の白銀の剣先を追うかの如く細いリボンの様な赤い線が走る。
黒い薔薇が咲く様に、部屋の中央で翻る黒いドレスに白く光る剣の軌跡と赤く細い朱の糸が流線を描き一枚の絵の様に美しく、メイはしばしボンヤリと眺めていたのだがハッと我に返る。
「ま、待って!アセレーナさん!殺さないで!
全員殺っちゃ駄目ですって!ちょ!待って!
殺人狂だっけ!?この人!!」
アセレーナに手足を斬られ、武装も抵抗も出来なくなった者がメイの見ている前でバタバタと倒れていった。
メイは死んでいる者が居ない事を確認したのち安堵し、目の前に倒れた男の身体を足で蹴って押した。
「白い光の先に続く赤いリボンが綺麗とか思って見惚れていたけど、ゲスい野郎どもの血じゃないすかぁ。
きったねぇ。
アセレーナさん容赦ないんだから、もぉ。
おいソコのー私の縄を解きやがれ。さっさとしろ。」
目の前で横たわったまま呻く男の身体を、メイは何度も足で蹴る様にして揺さぶった。
腕を斬られた男は身体が揺らされる度に痛みが増すようで、時折呻き声が大きくなったが、メイは構わずに足で蹴り続ける。
アセレーナよりもメイの方が容赦が無いかも知れない。
「ううっ…ぅあ…イテぇ…イテぇよ…血が…」
「うあぁ血がーじゃねーわ、アホ。
自業自得っつーんだよ。
お前ら、騎士一族のあのヒールナー伯爵家に喧嘩売ったんだぞ。
どんだけ命知らずなんだよ。ほら、早くほどけ。」
「メイさん、ご無事のようで何よりですわ。」
ビュッと振って血を払った剣を鞘に納めたアセレーナがメイに近付いた。
呻く男の身体に容赦無くゲシゲシと蹴りを入れていたメイの縄をアセレーナが小さなナイフで切って解く。
縛られたまま座りっぱなしで強張った身体をほぐす様に、メイは立ち上がって手首や足首を回し始めた。
「いいタイミングでアセレーナさんが来てくれたから、私は無事ですね。
スファイのアホは、こいつらに唆されて奥様を犯っちゃうとか言って出てったけど、今頃サイモン様にぶった斬られてたりして。
で、コイツらどうします?」
「髪飾りを通じてグレイスが今の状況を把握しているから、街を巡回中の兵士を呼びに人を向かわせてるはずよ。」
アセレーナは乱れた髪を耳に掛け、髪に挿した薔薇を指差した。
植物を通じて遠方の状況を知る能力は、植物魔法を使える者でもサイモンの母親のグレイスだけが持つ特殊なアビリティだ。
「なら兵隊さん達が来たらコイツら引き渡して、邸に先に戻ったスファイがサイモン様に殺されてない事を祈りつつ、私達ももう邸に戻ればいいのですかね。」
メイは床に倒れたまま呻き声をあげる男を、容赦無く足で小突いた。
「スファイさんなんだけど…
まだ邸には戻ってないようなの。」
「……邸に戻ってない?
じゃあ、私をほったらかして自分だけ逃げた?」
メイは自分で言った言葉に強い違和感を覚える。
メイから見たスファイはとんでも無くアホだが、メイを好きだと訴える気持ちだけは嘘が無い様に思える。
「いやーそれは…あり得ないと思います。
アイツ、あれでも私を悲しませる様な事はしない奴だと。
奥様をどうこうは出来ないだろうけど、そんなフリをして邸に戻って情報を伝える位の頭は働くかと。
多分ですけれど。」
「そうですわね。
スファイさんの方は、わたくしの主人が行く方を探しております。
わたくし達は一度、お邸に戻りましょう。」
無言で一回頷いたメイが、アセレーナを二度見した。
さり気にスチュワートの事を主人って言ったな?と。
いつの間に夫婦になっていたんだろう。
そんな疑問が頭をもたげるが、普段のアセレーナに対するスチュワートの溺愛と執着っぷりを見ていれば、絆されたか根負けしたのだろうと推測出来てしまう。
「ベッタベタに惚れた男って……厄介ですよね。
ウザいし。
スチュワート様は物静かな紳士に見えて、ガンガン行くタイプですもんね。
改めて、ご結婚おめでとうございます。」
「えっ?ええっ、そ、そうですわね……
ありがとうございます……」
血を流して呻き声を上げる男達の前で、黒いヴェールの奥の頬を赤く染める美魔女。
自分は幸せになる事も愛される資格も無いと言い続けたた剣鬼と呼ばれた女を、長い間愛し続けて半ば強引にやっと妻にしたスチュワート。
「奥様も逃げ続けたけどサイモン様に捕まっちゃったって言ってたし…
私も少し位、スファイと向き合ってやってもいいのかな……でもなぁ……
アイツ、アホなんだもん。はぁあ…。」
絆される前に、好きになってやれそうな要素が見当たらない時は、どうしたら良いのだろう。
両手で顔を覆って深い溜め息を吐くメイを駆け付けた巡回の兵士が保護し、顔を覆って泣くなんて、こんな幼い少女がさぞ怖い思いにをしたのであろうと慰める様にアジトから連れ出した。
「ではメイさん、迎えの馬車が来ておりますわ。
お邸に戻りましょう。」
先に馬車に乗ったアセレーナに続き、メイも馬車に乗り込んだ。
馬車に乗る直前まで、駆け付けた兵士達に励ましの言葉を掛けられていたメイは、首を捻りながら愛想笑いをして馬車の中から兵士達に手を振った。
「何ですかね?あれ。くじけるなとか、何とか。」
「幼い少女が恐ろしい目に遭って泣いている…と思われたのでしょう。
庇護欲を掻き立てられたと申しましょうか。
兵士の皆様は、メイさんを可愛い妹と重ねたのかも知れませんわね。」
へーそうなんだと思いつつ、幼く見えてしまう自身を知り、あえてあざとい仕草を見せたりもするメイではあるが、今はそんな事をした記憶が無い。
そもそも泣いてなどいなかったが。
「若奥様が、お二人の身を心配なさっております。
早く無事な姿をお見せ致しましょう。
スファイさんの事も気になりますし。」
馬車が邸に着くと、ヒールナー伯爵邸の門前には人だかりがあり、中にヒールナー伯爵と夫人のグレイスが邸の私兵達と共に居た。
馬車から降りたアセレーナは、すぐ伯爵夫人のグレイスの側に行き声をかける。
続いて馬車から降りたメイも、野次馬根性で人だかりの中心を見に行った。
人だかりの中心には、心臓を一突きされ息絶えた男の死体が横たわっていた。
メイは更に近付き、男の姿をじっくり観察する様に見る。
「メイは、よくそんな風に…死体をジロジロ見れるよな…」
邸に雇われている若い私兵の一人が、少し引き気味にボソッと呟く。
「好きでジロジロ見てるワケじゃないわよ。
何か見覚えがあって……
あ!こいつ、さっきのアジトに居た奴らの仲間だ!
スファイを見張るとか言って一緒にアジトを出てったけど…え?
スファイがコイツを殺ったの?」
「いいえ、違うわね。
これは剣で心臓を貫かれたの。
素人が剣を使って、背中から剣先が出る様に一突きで心臓を貫くなんて出来ないわよ。」
グレイスが男の遺体の肩を持って身体を傾けて背中に目をやった。
「嫌だわね…迷い無く肋骨の位置を避けて綺麗に刺し貫いている。
こんなの、そこらのゴロツキの仕業じゃないわ。」
唇に人差し指の背を当てて厳しい表情を見せる妻のグレイスの肩を撫でて立ち上がらせ、ヒールナー伯爵が私兵に声を掛け巡回の兵士を呼びに行かせた。
「スチュワートからの報告で、最近、邸の周りをうろつく男達が居るという話は聞いていた。
それが町のゴロツキだと分かったので、アセレーナにメイ達の護衛を任せていたのだが…。
今朝になりスチュワートが、姿を見せないが邸を探る別の気配を感じる様になったと言っていた。」
ヒールナー伯爵の言葉に頷いたグレイスは邸の2階の方に目をやり、眼鏡をクイと上げた。
「また、エリーゼみたいなのが現れてメグミンが狙われたりしたら大変だから、メグミンには邸にこもって貰ってサイモンと私兵に警戒させているわ。
スファイの行く方も気になるけど………」
「奥様、私、無事に帰れました事をミランダ若奥様に報告して来たいのですが、よろしいでしょうか。
スファイの事は、皆様にお任せ致します。」
メイはペコリと頭を下げ、邸に入った。
邸のエントランスには剣士の姿をしたカチュアが立っており、ミランダの部屋に向かうメイについて来る。
「すまないが、ミランダ様の部屋に一人では向かわせられない。
懐柔や洗脳されたかも知れないと、メイもまだ疑われている。」
「分かるよ。アホ令嬢のエリーゼみたいに人を操る魔法を使う奴もいるし何より私は前科有りだからね。
だから、それは構わないんだけどさぁ……
スファイの事、心配でしょうけどって顔で同情されんのキツいわよ。
セットにしないで欲しいわ。」
ミランダとサイモンの居る寝室前には、邸に勤める私兵が三名警護にあたっていた。
カチュアが彼らと言葉を交わし、寝室内のサイモンに了解を得て、カチュアと共にメイが寝室に入った。
ミランダはベッドに入ったまま身体を起こしており、ベッドの端に座るサイモンに背をさすられていた。
メイの姿を見たミランダが青い顔で微笑み、メイに手を伸ばす。
「メイ!良かった、無事だったのね!」
「ふわぁわわわぁ!!奥様ァァ!奥様ッ!
やっと、お顔を見る事がっ!ふわぁ!ッッたっ!」
ベッドに駆け寄り、差し延べられたミランダの手を握って頰擦りしまくり、興奮状態で言葉にならない言葉を発するメイの手の平が、サイモンによって乱暴に払われた。
「妻に触れ過ぎだ。馬鹿者。」
ギンっと冷めた目で睨み付けるサイモンを睨み返しながら、メイは改めて「なんで、こんな男に惚れてたんだろ」などと過去の自分を疑問に思う。
「ごめんね、メイ……サイモンに悪気は無いのよ。
ただ、体調の悪いわたしを心配する余り……アレなの。
あと、欲求不満もあるとゆーか……とにかく、毎度の事なんだけど、サイモンってアレだから。」
落ち着きを取り戻したメイがミランダから少し離れ、頭を下げた。
青白い顔をしたミランダは、思考が回ってない様だ。
甲斐甲斐しくミランダを看病するサイモンに羨望の眼差しを向けるメイの肩をカチュアが叩く。
「王城から邸に帰り、メイとスファイが行く方知れずとなったと聞いた後から心配なさった若奥様が体調を崩されて。
メイの顔を見て少しは御身体が楽になると良いのだが。」
「……スファイがまだ行く方知れずな事。
奥様には黙っていた方がいいね……。」
カチュアはメイに頷くと、二人共に寝室を出た。
流れる様に空間を走る彼女の白銀の剣先を追うかの如く細いリボンの様な赤い線が走る。
黒い薔薇が咲く様に、部屋の中央で翻る黒いドレスに白く光る剣の軌跡と赤く細い朱の糸が流線を描き一枚の絵の様に美しく、メイはしばしボンヤリと眺めていたのだがハッと我に返る。
「ま、待って!アセレーナさん!殺さないで!
全員殺っちゃ駄目ですって!ちょ!待って!
殺人狂だっけ!?この人!!」
アセレーナに手足を斬られ、武装も抵抗も出来なくなった者がメイの見ている前でバタバタと倒れていった。
メイは死んでいる者が居ない事を確認したのち安堵し、目の前に倒れた男の身体を足で蹴って押した。
「白い光の先に続く赤いリボンが綺麗とか思って見惚れていたけど、ゲスい野郎どもの血じゃないすかぁ。
きったねぇ。
アセレーナさん容赦ないんだから、もぉ。
おいソコのー私の縄を解きやがれ。さっさとしろ。」
目の前で横たわったまま呻く男の身体を、メイは何度も足で蹴る様にして揺さぶった。
腕を斬られた男は身体が揺らされる度に痛みが増すようで、時折呻き声が大きくなったが、メイは構わずに足で蹴り続ける。
アセレーナよりもメイの方が容赦が無いかも知れない。
「ううっ…ぅあ…イテぇ…イテぇよ…血が…」
「うあぁ血がーじゃねーわ、アホ。
自業自得っつーんだよ。
お前ら、騎士一族のあのヒールナー伯爵家に喧嘩売ったんだぞ。
どんだけ命知らずなんだよ。ほら、早くほどけ。」
「メイさん、ご無事のようで何よりですわ。」
ビュッと振って血を払った剣を鞘に納めたアセレーナがメイに近付いた。
呻く男の身体に容赦無くゲシゲシと蹴りを入れていたメイの縄をアセレーナが小さなナイフで切って解く。
縛られたまま座りっぱなしで強張った身体をほぐす様に、メイは立ち上がって手首や足首を回し始めた。
「いいタイミングでアセレーナさんが来てくれたから、私は無事ですね。
スファイのアホは、こいつらに唆されて奥様を犯っちゃうとか言って出てったけど、今頃サイモン様にぶった斬られてたりして。
で、コイツらどうします?」
「髪飾りを通じてグレイスが今の状況を把握しているから、街を巡回中の兵士を呼びに人を向かわせてるはずよ。」
アセレーナは乱れた髪を耳に掛け、髪に挿した薔薇を指差した。
植物を通じて遠方の状況を知る能力は、植物魔法を使える者でもサイモンの母親のグレイスだけが持つ特殊なアビリティだ。
「なら兵隊さん達が来たらコイツら引き渡して、邸に先に戻ったスファイがサイモン様に殺されてない事を祈りつつ、私達ももう邸に戻ればいいのですかね。」
メイは床に倒れたまま呻き声をあげる男を、容赦無く足で小突いた。
「スファイさんなんだけど…
まだ邸には戻ってないようなの。」
「……邸に戻ってない?
じゃあ、私をほったらかして自分だけ逃げた?」
メイは自分で言った言葉に強い違和感を覚える。
メイから見たスファイはとんでも無くアホだが、メイを好きだと訴える気持ちだけは嘘が無い様に思える。
「いやーそれは…あり得ないと思います。
アイツ、あれでも私を悲しませる様な事はしない奴だと。
奥様をどうこうは出来ないだろうけど、そんなフリをして邸に戻って情報を伝える位の頭は働くかと。
多分ですけれど。」
「そうですわね。
スファイさんの方は、わたくしの主人が行く方を探しております。
わたくし達は一度、お邸に戻りましょう。」
無言で一回頷いたメイが、アセレーナを二度見した。
さり気にスチュワートの事を主人って言ったな?と。
いつの間に夫婦になっていたんだろう。
そんな疑問が頭をもたげるが、普段のアセレーナに対するスチュワートの溺愛と執着っぷりを見ていれば、絆されたか根負けしたのだろうと推測出来てしまう。
「ベッタベタに惚れた男って……厄介ですよね。
ウザいし。
スチュワート様は物静かな紳士に見えて、ガンガン行くタイプですもんね。
改めて、ご結婚おめでとうございます。」
「えっ?ええっ、そ、そうですわね……
ありがとうございます……」
血を流して呻き声を上げる男達の前で、黒いヴェールの奥の頬を赤く染める美魔女。
自分は幸せになる事も愛される資格も無いと言い続けたた剣鬼と呼ばれた女を、長い間愛し続けて半ば強引にやっと妻にしたスチュワート。
「奥様も逃げ続けたけどサイモン様に捕まっちゃったって言ってたし…
私も少し位、スファイと向き合ってやってもいいのかな……でもなぁ……
アイツ、アホなんだもん。はぁあ…。」
絆される前に、好きになってやれそうな要素が見当たらない時は、どうしたら良いのだろう。
両手で顔を覆って深い溜め息を吐くメイを駆け付けた巡回の兵士が保護し、顔を覆って泣くなんて、こんな幼い少女がさぞ怖い思いにをしたのであろうと慰める様にアジトから連れ出した。
「ではメイさん、迎えの馬車が来ておりますわ。
お邸に戻りましょう。」
先に馬車に乗ったアセレーナに続き、メイも馬車に乗り込んだ。
馬車に乗る直前まで、駆け付けた兵士達に励ましの言葉を掛けられていたメイは、首を捻りながら愛想笑いをして馬車の中から兵士達に手を振った。
「何ですかね?あれ。くじけるなとか、何とか。」
「幼い少女が恐ろしい目に遭って泣いている…と思われたのでしょう。
庇護欲を掻き立てられたと申しましょうか。
兵士の皆様は、メイさんを可愛い妹と重ねたのかも知れませんわね。」
へーそうなんだと思いつつ、幼く見えてしまう自身を知り、あえてあざとい仕草を見せたりもするメイではあるが、今はそんな事をした記憶が無い。
そもそも泣いてなどいなかったが。
「若奥様が、お二人の身を心配なさっております。
早く無事な姿をお見せ致しましょう。
スファイさんの事も気になりますし。」
馬車が邸に着くと、ヒールナー伯爵邸の門前には人だかりがあり、中にヒールナー伯爵と夫人のグレイスが邸の私兵達と共に居た。
馬車から降りたアセレーナは、すぐ伯爵夫人のグレイスの側に行き声をかける。
続いて馬車から降りたメイも、野次馬根性で人だかりの中心を見に行った。
人だかりの中心には、心臓を一突きされ息絶えた男の死体が横たわっていた。
メイは更に近付き、男の姿をじっくり観察する様に見る。
「メイは、よくそんな風に…死体をジロジロ見れるよな…」
邸に雇われている若い私兵の一人が、少し引き気味にボソッと呟く。
「好きでジロジロ見てるワケじゃないわよ。
何か見覚えがあって……
あ!こいつ、さっきのアジトに居た奴らの仲間だ!
スファイを見張るとか言って一緒にアジトを出てったけど…え?
スファイがコイツを殺ったの?」
「いいえ、違うわね。
これは剣で心臓を貫かれたの。
素人が剣を使って、背中から剣先が出る様に一突きで心臓を貫くなんて出来ないわよ。」
グレイスが男の遺体の肩を持って身体を傾けて背中に目をやった。
「嫌だわね…迷い無く肋骨の位置を避けて綺麗に刺し貫いている。
こんなの、そこらのゴロツキの仕業じゃないわ。」
唇に人差し指の背を当てて厳しい表情を見せる妻のグレイスの肩を撫でて立ち上がらせ、ヒールナー伯爵が私兵に声を掛け巡回の兵士を呼びに行かせた。
「スチュワートからの報告で、最近、邸の周りをうろつく男達が居るという話は聞いていた。
それが町のゴロツキだと分かったので、アセレーナにメイ達の護衛を任せていたのだが…。
今朝になりスチュワートが、姿を見せないが邸を探る別の気配を感じる様になったと言っていた。」
ヒールナー伯爵の言葉に頷いたグレイスは邸の2階の方に目をやり、眼鏡をクイと上げた。
「また、エリーゼみたいなのが現れてメグミンが狙われたりしたら大変だから、メグミンには邸にこもって貰ってサイモンと私兵に警戒させているわ。
スファイの行く方も気になるけど………」
「奥様、私、無事に帰れました事をミランダ若奥様に報告して来たいのですが、よろしいでしょうか。
スファイの事は、皆様にお任せ致します。」
メイはペコリと頭を下げ、邸に入った。
邸のエントランスには剣士の姿をしたカチュアが立っており、ミランダの部屋に向かうメイについて来る。
「すまないが、ミランダ様の部屋に一人では向かわせられない。
懐柔や洗脳されたかも知れないと、メイもまだ疑われている。」
「分かるよ。アホ令嬢のエリーゼみたいに人を操る魔法を使う奴もいるし何より私は前科有りだからね。
だから、それは構わないんだけどさぁ……
スファイの事、心配でしょうけどって顔で同情されんのキツいわよ。
セットにしないで欲しいわ。」
ミランダとサイモンの居る寝室前には、邸に勤める私兵が三名警護にあたっていた。
カチュアが彼らと言葉を交わし、寝室内のサイモンに了解を得て、カチュアと共にメイが寝室に入った。
ミランダはベッドに入ったまま身体を起こしており、ベッドの端に座るサイモンに背をさすられていた。
メイの姿を見たミランダが青い顔で微笑み、メイに手を伸ばす。
「メイ!良かった、無事だったのね!」
「ふわぁわわわぁ!!奥様ァァ!奥様ッ!
やっと、お顔を見る事がっ!ふわぁ!ッッたっ!」
ベッドに駆け寄り、差し延べられたミランダの手を握って頰擦りしまくり、興奮状態で言葉にならない言葉を発するメイの手の平が、サイモンによって乱暴に払われた。
「妻に触れ過ぎだ。馬鹿者。」
ギンっと冷めた目で睨み付けるサイモンを睨み返しながら、メイは改めて「なんで、こんな男に惚れてたんだろ」などと過去の自分を疑問に思う。
「ごめんね、メイ……サイモンに悪気は無いのよ。
ただ、体調の悪いわたしを心配する余り……アレなの。
あと、欲求不満もあるとゆーか……とにかく、毎度の事なんだけど、サイモンってアレだから。」
落ち着きを取り戻したメイがミランダから少し離れ、頭を下げた。
青白い顔をしたミランダは、思考が回ってない様だ。
甲斐甲斐しくミランダを看病するサイモンに羨望の眼差しを向けるメイの肩をカチュアが叩く。
「王城から邸に帰り、メイとスファイが行く方知れずとなったと聞いた後から心配なさった若奥様が体調を崩されて。
メイの顔を見て少しは御身体が楽になると良いのだが。」
「……スファイがまだ行く方知れずな事。
奥様には黙っていた方がいいね……。」
カチュアはメイに頷くと、二人共に寝室を出た。
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