王子と内緒の人魚姫

黒蝶

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赤城玲音 篇

第32話

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◆「黒羽、今日は行きたいところがある」
「行きたいところ...?」
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■「久しいな、黒羽」
「魔王!?」
魔王と会うのは海を出て以来だった。
■「元気にしてたか?」
「一応は、元気です」
■「...すまないな」
「え?」
■「玲音から、苦労していると聞いた。それに...」
◆「用があるから黒羽も連れてこいと呼び出したのはあんただろ。その用とやらを早く言えよ」
(玲音...?)
玲音は無表情で告げた。
真剣な表情とはまた違ったものだった。
■「魔女が、海からいなくなった。...狙いはおまえらしい」
魔王の言葉の意味が理解できなかった。
■「あいつは人の不幸を好む。きっと何か仕掛けてくるはずだ...」
◆「...あんた」
次の瞬間、玲音は首を掴んで魔王を殴ろうとした。
「玲音、やめて!」
◆「俺の母さんの時もそうだった!あんたは『大丈夫だ、私が海から逃がさないから』なんて言っておきながら、あの時も逃がして俺の母さんは死んだ!なあ、なんでだよ、なんで俺から大事な人を奪っていくんだよ...」
玲音は肩を震わせ泣いていた。
(そうか、玲音が自分のお母さんの死について触れないのは...)
海の事情に巻き込まれたから。
■「今度こそ、あの女を止めてみせる。だから...協力してほしい」
頼む、と魔王はその場で膝をおって頭を下げた。
◆「あんた...」
「...何をすればいいの?」
◆「!黒羽!」
「だって、こんなに頼んでるんだよ...?それに、私に関係することだし...玲音のお母さんの分もお仕置きしなくちゃね」
◆「...嫌だ」
「え?」
玲音の目からは新しい涙が落ちる。
◆「黒羽までいなくなるのは嫌なんだよ...」
黒羽は玲音を抱きしめる。
「私は絶対に、いなくならない。玲音は私を離さないでいてくれるんでしょう...?」
◆「黒羽...」
泣いている玲音を見ると、放っておけなくて。
少しでも元気になってほしくて。
黒羽は玲音が泣き止むまでずっと身体を離さなかった。
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その日は、取り敢えず解散した。
『特に特別なことをする必要はない』と言われて帰ってきた。
(私たち、これからどうなるんだろう)
隣で寝ている玲音の頭をそっと撫で、黒羽も眠りに落ちていった。
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