王子と内緒の人魚姫

黒蝶

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黄乃本 遥 続篇

プロローグ

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「遥、起きて」
☆「...」
「遥...?」
☆「...」
遥の無防備な寝顔を見て、黒羽はもう少し寝かせてあげたいと考えた。
ここのところずっと無休で働いていた遥に、少しでも休んでほしかった。
黒羽はそっと遥の部屋を出て、朝食を作りはじめた。
(遥は、甘めのだし巻き玉子が好きだからな...)
黒羽は着々と準備を終え、一人席に座る。
「また一人、か...。いただきます」
そのまま一人で食べようとしたとき、突然腕が伸びてきて、箸でつかんでいた玉子焼きを食べられた。
☆「...美味い」
「遥!お、おはよう!」
☆「起こせばいいだろう。何故起こさず一人で食べている?孤食が好きなのか?」
「遥、疲れてるでしょう...?だから、ゆっくり休んでほしかったの」
(言うつもり、なかったのに)
遥ははあっとため息をついた。
「なんでため息⁉」
☆「いや、心配してくれる人間がいるというのは、こんなに幸福なことなのかと思ってな」
「え...?」
遥から聞いた話を思い出す。
親族の人たちからもよく思われていなかったこと、子どもの頃から孤独だったこと...。
黒羽は思い出しながら、申し訳ないと思っていた。
☆「何故おまえがそれほどまでに落ちこむ?」
黒羽のさらさらの黒髪を撫でながら、遥が問う。
「...」
☆「怒らないから、ちゃんと言え」
「...だから」
☆「は?」
「遥が傷つくことだから。それに、好きな人に傷ついてほしくなくて...」
☆「俺は、傷ついてなどいない」
遥は優しくそう告げる。
☆「おまえのおかげで色々なものが言い方向へ変わった。...ありがとう」
「遥...」
この日は、しとしとと降り注ぐような雨。
あれから季節は二つすぎ、ぬくもり恋しい冬になっていた。
☆「このまま、離したくない」
「遥...ありがとう」
ふわり。
☆「礼を言うのはこちらだ。おまえのおかげだ。禊のことも、ちゃんと理解しようと思った。全部おまえのおかげなんだ」
遥は黒羽の顎を持ち上げ、そっと口づけをおとした。
☆「おまえの問題も、全て片づいたしな」
「そうだね」
一応、あれからは魔女から攻撃されたりはしていない。
「...ご飯、冷めちゃうよ?」
☆「それは困る。久しぶりの二人での食事だからな」
「もう...」
黒羽は照れながらも、とても嬉しそうだ。
また、遥も幸せそうに微笑んでいる。
これが、二人の日常だ。
(なんだか嵐の前の静けさみたい)
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