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第4話
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ー***ー
「い、今...?」
どこにも逃げ場はない。
でも嫌な訳じゃない。
(お母さんが帰ってきたらどうしよう...)
どうしてルイは休んでいるのかとか、部屋に戻らないととか、言わなくちゃいけないことは沢山あるのに、私の唇から零れたのは自分でも予想していなかった言葉だった。
「...うん」
「メイ」
「ルイ...」
唇を重ねて、ルイのぬくもりを感じる。
(やっぱりルイの隣が一番安心する)
そのとき、ドアが二回ノックされる。
「ルイ、入ってもいいですか?」
「!」
私もルイもその声にはっと我にかえり、そっと体を離した。
「ルイが言っていたものを...あれ?メイもいたんですね」
「うん。物音がしたから、なんだか落ち着かなくなって確めにきたの」
「そうだったんですね」
お母さんは納得してくれたようだ。
私はほっと息をつきながら、疑問をぶつける。
「ねえ、どうしてルイはお休みしてるの?」
「朝、微熱があったんだ」
「今は大丈夫なの?」
「うん。心配してくれてありがとう」
ルイはまた柔らかく笑う。
「そういうこと、だったんですね...」
そうして話している私たちを見て、お母さんは何か呟いた。
「どうかしたの?」
「いえ、なんでもありません」
お母さんはそう言っていつものようにふわふわ笑っていたけれど、私たちにキッチンにくるように言ってそそくさと出ていってしまった。
(どうしたんだろう...)
「メイ、取り敢えず行こうか」
「うん」
このとき、私は忘れていたのだ。
お母さんだって能力を使えることを。
その能力はきっと...今の私より上だということも。
ー****ー
お母さんの態度が少し気になるものの、僕も勉強道具をまとめて下の階へ降りた。
「メイもルイも勉強しにきたの?」
「うん。お父さんはお昼休み?」
「ああ、人がこなくなったからね。それに、今夜はまた仕事があるから」
お父さんの夜の仕事についてはよく知らない。
だが、危険なものだということは僕でも分かった。
「お父さん、大変だね」
「いや、そこまででもないよ。ところで...ルイ、ここの計算間違ってる」
「ほんとだ...」
「メイは国語が苦手なんだね」
「うん。よく分からなくて好きになれない」
お父さんに他の教科も教えてもらい、復習だけでなく予習も完壁にこなすことができた。
「二人とも、毎日頑張ってるんだね」
頭を撫でられて、僕は思っていることを伝えた。
「そんなことないよ。だって勉強以外のことの方が好きだし...」
「...」
メイはずっと黙ったままだった。
(どうしたんだろう?)
ー***ー
私は頑張ってなんかいない。
だから何も言えなかった。
今日だって学校に行かなかった。
学校に行っても頑張ってるわけじゃない。
「メイ?」
「...なんでもない。ちょっと部屋に戻るね」
私はその場から逃げ出した。
明日が怖くて、何も答えられなくて。
「...」
ベッドに体を投げ出す。
どのくらい時間がたったか分からないけど、自然と枕を濡らしていた。
お母さんがご飯だと呼びにきてくれたけど、食べたくないと突っぱねてしまった。
(お母さんは何も悪くないのに...)
そのとき、ドアがノックされる。
「...はい」
私は沈んだ気持ちを無理矢理ひきあげ、ドアを開けた。
お母さんがいるものだと思っていたけれど、ドアの前にいたのはルイだった。
「どうしたの?」
「オートミール、お母さんが作ってくれたから。少しは食べないと、元気が出なくなっちゃうよ」
本当はルイの胸に飛びこみたかった。
だけど、普通の兄妹はきっとそんなことしないから、オートミールを受け取ってすぐに扉を閉めた。
「ありがとう」
「食べ終わったら食器を部屋の前に置いておいてね」
ドア越しにそれだけ会話して、私は黙ってオートミールを一口食べた。
「...美味しい」
ー****ー
「なんとか届けられたよ」
「ご苦労様、ルイ」
僕は出掛けるお父さんの背中に話しかけた。
「...ねえお父さん」
「どうしたの?」
「週末また武術を教えてほしいんだけど、いい?」
実はメイには内緒でお父さんに武術を習っている。
「いいけど、メイに見つかっちゃうんじゃない?」
「見つからないように気をつけるから...お願い」
お父さんは少し考えるような仕草をしたあと、僕の方を振り向いて笑いかけた。
「いいよ。俺でよければ相手になる」
「ありがとう」
お父さんは真剣な表情で一息に告げた。
「護る為に強くなることは、決して悪いことじゃない。だけど...自分も護れないと意味がないことは忘れないでね」
「...?分かった」
(護れればそれでいいんじゃないのか?)
僕がどうなってもメイが護れればそれでいいと、今までずっとそう思っていた。
「どうしてか分からないって顔してるね。...それじゃあ宿題にしようか」
「宿題?」
「どうして相手を護るだけじゃダメなのか、どうして自分も護らないといけないのか...今のルイの答えを聞かせて」
お父さんはそれだけ言うと、僕の頭を撫でて仕事へ行ってしまった。
(どうして自分も護らないといけないのか、か)
「い、今...?」
どこにも逃げ場はない。
でも嫌な訳じゃない。
(お母さんが帰ってきたらどうしよう...)
どうしてルイは休んでいるのかとか、部屋に戻らないととか、言わなくちゃいけないことは沢山あるのに、私の唇から零れたのは自分でも予想していなかった言葉だった。
「...うん」
「メイ」
「ルイ...」
唇を重ねて、ルイのぬくもりを感じる。
(やっぱりルイの隣が一番安心する)
そのとき、ドアが二回ノックされる。
「ルイ、入ってもいいですか?」
「!」
私もルイもその声にはっと我にかえり、そっと体を離した。
「ルイが言っていたものを...あれ?メイもいたんですね」
「うん。物音がしたから、なんだか落ち着かなくなって確めにきたの」
「そうだったんですね」
お母さんは納得してくれたようだ。
私はほっと息をつきながら、疑問をぶつける。
「ねえ、どうしてルイはお休みしてるの?」
「朝、微熱があったんだ」
「今は大丈夫なの?」
「うん。心配してくれてありがとう」
ルイはまた柔らかく笑う。
「そういうこと、だったんですね...」
そうして話している私たちを見て、お母さんは何か呟いた。
「どうかしたの?」
「いえ、なんでもありません」
お母さんはそう言っていつものようにふわふわ笑っていたけれど、私たちにキッチンにくるように言ってそそくさと出ていってしまった。
(どうしたんだろう...)
「メイ、取り敢えず行こうか」
「うん」
このとき、私は忘れていたのだ。
お母さんだって能力を使えることを。
その能力はきっと...今の私より上だということも。
ー****ー
お母さんの態度が少し気になるものの、僕も勉強道具をまとめて下の階へ降りた。
「メイもルイも勉強しにきたの?」
「うん。お父さんはお昼休み?」
「ああ、人がこなくなったからね。それに、今夜はまた仕事があるから」
お父さんの夜の仕事についてはよく知らない。
だが、危険なものだということは僕でも分かった。
「お父さん、大変だね」
「いや、そこまででもないよ。ところで...ルイ、ここの計算間違ってる」
「ほんとだ...」
「メイは国語が苦手なんだね」
「うん。よく分からなくて好きになれない」
お父さんに他の教科も教えてもらい、復習だけでなく予習も完壁にこなすことができた。
「二人とも、毎日頑張ってるんだね」
頭を撫でられて、僕は思っていることを伝えた。
「そんなことないよ。だって勉強以外のことの方が好きだし...」
「...」
メイはずっと黙ったままだった。
(どうしたんだろう?)
ー***ー
私は頑張ってなんかいない。
だから何も言えなかった。
今日だって学校に行かなかった。
学校に行っても頑張ってるわけじゃない。
「メイ?」
「...なんでもない。ちょっと部屋に戻るね」
私はその場から逃げ出した。
明日が怖くて、何も答えられなくて。
「...」
ベッドに体を投げ出す。
どのくらい時間がたったか分からないけど、自然と枕を濡らしていた。
お母さんがご飯だと呼びにきてくれたけど、食べたくないと突っぱねてしまった。
(お母さんは何も悪くないのに...)
そのとき、ドアがノックされる。
「...はい」
私は沈んだ気持ちを無理矢理ひきあげ、ドアを開けた。
お母さんがいるものだと思っていたけれど、ドアの前にいたのはルイだった。
「どうしたの?」
「オートミール、お母さんが作ってくれたから。少しは食べないと、元気が出なくなっちゃうよ」
本当はルイの胸に飛びこみたかった。
だけど、普通の兄妹はきっとそんなことしないから、オートミールを受け取ってすぐに扉を閉めた。
「ありがとう」
「食べ終わったら食器を部屋の前に置いておいてね」
ドア越しにそれだけ会話して、私は黙ってオートミールを一口食べた。
「...美味しい」
ー****ー
「なんとか届けられたよ」
「ご苦労様、ルイ」
僕は出掛けるお父さんの背中に話しかけた。
「...ねえお父さん」
「どうしたの?」
「週末また武術を教えてほしいんだけど、いい?」
実はメイには内緒でお父さんに武術を習っている。
「いいけど、メイに見つかっちゃうんじゃない?」
「見つからないように気をつけるから...お願い」
お父さんは少し考えるような仕草をしたあと、僕の方を振り向いて笑いかけた。
「いいよ。俺でよければ相手になる」
「ありがとう」
お父さんは真剣な表情で一息に告げた。
「護る為に強くなることは、決して悪いことじゃない。だけど...自分も護れないと意味がないことは忘れないでね」
「...?分かった」
(護れればそれでいいんじゃないのか?)
僕がどうなってもメイが護れればそれでいいと、今までずっとそう思っていた。
「どうしてか分からないって顔してるね。...それじゃあ宿題にしようか」
「宿題?」
「どうして相手を護るだけじゃダメなのか、どうして自分も護らないといけないのか...今のルイの答えを聞かせて」
お父さんはそれだけ言うと、僕の頭を撫でて仕事へ行ってしまった。
(どうして自分も護らないといけないのか、か)
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