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泣けないver.
大雨 優翔side
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その日の空は泣いていたのをよく覚えている。
いつも通りに学校での勤務を終えた後、マンションの扉を開く。
「ただいま...」
ひとつだけ違ったことといえば、詩音が自力で帰ってしまっていたことだ。
今日は何か急ぎの用でもあったのだろうか。
「...?」
荷物をある程度片づけているとインターホンが鳴る。
今日は誰かが来る予定はなかったはずなのだが...そんなことを考えながら、ゆっくり扉を開ける。
──そこには、にわかに信じがたい光景が広がっていた。
「大変!風邪引いちゃうからお風呂入って」
「...うん」
立っていたのは詩音で、それだけなら少し驚いてもここまでにはならない。
だが、朝は傘を持っていたはずなのに全身びしょ濡れだ。
それに何か痣のようなものができている。
もしかすると、それが早く帰った理由なのかもしれない。
本当は今の関係なら追い返さないといけなかったのだろうが、あくまで『恋人』としてできることをしたかった。
「もっとゆっくり入ってきてよかったのに...。温まれた?」
「...充分」
「こっちおいで。髪乾かしてあげる」
柔らかいさらさらな髪にドライヤーを近づけながら、どうやって話を切り出そうか考えている自分がいる。
僕は大翔のように器用ではない。
だからこそ、ストレートに訊いて傷つけてしまわないか考えこんでしまう。
「何か温かい飲み物でも淹れようか。何がいい?」
「...ココア」
「分かった、淹れるからそこに座ってて」
やはり詩音にはいつもの元気がない。
緊張した様子で沢山話を聞かせてくれるはずなのに、今日は短い返事しかなく...それもずっと浮かない表情のままだ。
...僕にできることは何だろう。
「はい、どうぞ」
「美味しい...」
「それならよかった」
少しだけ話してくれたことに安心しながら様子を窺うと、ほろりと詩音の瞳から何かが零れ落ちる。
「...何があったのか、少しずつでいいから話してくれる?」
「私、私ね...」
放課後、詩音は今日も保健室で僕のことを待ってくれていたらしい。
だが、お手洗いに行く為に1歩外に出てみると嫌がらせをしてきた人間たちが集団で行動していたようだ。
彼女はなんとか見つからないうちに逃げようとしたが失敗、それから逃げるように保健室を後にした...。
「一旦休憩を挟もうか」
「ごめんなさい...」
「気にしないで。君に辛いことを思い出させてしまっている訳だし...」
震えているのを見ていると、これ以上続けて話してもらおうとは思えなかった。
休み休み聞いた方がよさそうだ。
「実はケーキがあるんだ。僕、うっかりふたり分注文しちゃったから一緒に食べない?」
「...ありがとう」
大体想像はつくが、全容を訊くまではただの想像でしかない。
ケーキの用意をしながら、どれだけ辛かっただろうと思うと息が苦しくなってくる。
果たしてどんなことをされたのだろうか。
いつも通りに学校での勤務を終えた後、マンションの扉を開く。
「ただいま...」
ひとつだけ違ったことといえば、詩音が自力で帰ってしまっていたことだ。
今日は何か急ぎの用でもあったのだろうか。
「...?」
荷物をある程度片づけているとインターホンが鳴る。
今日は誰かが来る予定はなかったはずなのだが...そんなことを考えながら、ゆっくり扉を開ける。
──そこには、にわかに信じがたい光景が広がっていた。
「大変!風邪引いちゃうからお風呂入って」
「...うん」
立っていたのは詩音で、それだけなら少し驚いてもここまでにはならない。
だが、朝は傘を持っていたはずなのに全身びしょ濡れだ。
それに何か痣のようなものができている。
もしかすると、それが早く帰った理由なのかもしれない。
本当は今の関係なら追い返さないといけなかったのだろうが、あくまで『恋人』としてできることをしたかった。
「もっとゆっくり入ってきてよかったのに...。温まれた?」
「...充分」
「こっちおいで。髪乾かしてあげる」
柔らかいさらさらな髪にドライヤーを近づけながら、どうやって話を切り出そうか考えている自分がいる。
僕は大翔のように器用ではない。
だからこそ、ストレートに訊いて傷つけてしまわないか考えこんでしまう。
「何か温かい飲み物でも淹れようか。何がいい?」
「...ココア」
「分かった、淹れるからそこに座ってて」
やはり詩音にはいつもの元気がない。
緊張した様子で沢山話を聞かせてくれるはずなのに、今日は短い返事しかなく...それもずっと浮かない表情のままだ。
...僕にできることは何だろう。
「はい、どうぞ」
「美味しい...」
「それならよかった」
少しだけ話してくれたことに安心しながら様子を窺うと、ほろりと詩音の瞳から何かが零れ落ちる。
「...何があったのか、少しずつでいいから話してくれる?」
「私、私ね...」
放課後、詩音は今日も保健室で僕のことを待ってくれていたらしい。
だが、お手洗いに行く為に1歩外に出てみると嫌がらせをしてきた人間たちが集団で行動していたようだ。
彼女はなんとか見つからないうちに逃げようとしたが失敗、それから逃げるように保健室を後にした...。
「一旦休憩を挟もうか」
「ごめんなさい...」
「気にしないで。君に辛いことを思い出させてしまっている訳だし...」
震えているのを見ていると、これ以上続けて話してもらおうとは思えなかった。
休み休み聞いた方がよさそうだ。
「実はケーキがあるんだ。僕、うっかりふたり分注文しちゃったから一緒に食べない?」
「...ありがとう」
大体想像はつくが、全容を訊くまではただの想像でしかない。
ケーキの用意をしながら、どれだけ辛かっただろうと思うと息が苦しくなってくる。
果たしてどんなことをされたのだろうか。
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