裏世界の蕀姫

黒蝶

文字の大きさ
174 / 385
夏彦ルート

第47話

しおりを挟む
「お疲れ様!ちょっと休憩にしようか」
「は、はい…」
思ったよりも生地が固くて、いつもよりゆっくりペースでしか仕上げることができなかった。
「先にリビングで待っててくれる?」
「分かりました」
カップをふたつ用意してどんな飲み物を淹れようか考えていると、突然腕を掴まれる。
あまりに急なことに驚いてよろけてしまった。
「ごめん!驚かせるつもりじゃなかったんだけど…大丈夫だった?」
「はい、平気です」
「それじゃあまずは指先だけ手当てさせてね」
「え?」
自分の指先をよく見ると、針でひっかいてしまったからか血が滲んでいる。
「ごめんなさい。全然気づいてなくて、カップを…」
「いやいや、それはいいんだよ。ついたものはふけば落とせるから。
だけど、傷は処置を間違えると傷痕になって残ることもあるから…気をつけてね」
「ありがとうございます」
絆創膏を巻いてもらったおかげか、痛みが少し和らいだような気がする。
夏彦は笑って、私がよく飲んでいる紅茶を淹れてくれた。
「この花のにおい、いいよね。俺も好きなんだ」
「そう、だったんですね…」
花の香りが好きでよく飲むけれど、まさか夏彦が好きだとは知らなかった。
いつも珈琲ばかり飲んでいるような気がしていたから、紅茶を飲むイメージがあまりない。
「月見ちゃん、クッキーも食べる?」
「あ、えっと…いただきます」
少し戸惑いながら、カボチャのクッキーに手を伸ばす。
一口食べるとふんわりとした甘みが広がった。
「美味しい…」
「喜んでもらえたならよかった。失敗しちゃったかと思ってたから、その反応を見ているとすごく安心する」
「夏彦が焼いたんですか?」
「うん。ちょっと時間があるときに材料をねかせておいたから、作ってみたかったんだ。毎日のお礼も兼ねてね!」
どうしよう、すごく嬉しい。
こんなによくしてもらって、迷惑をかけているのは私なはずなのに…どうして夏彦は、いつも優しさで包みこんでくれるんだろう。
私にできることなんてほとんどないのに、いつだって感謝しているのは私も同じだ。
「私の方こそ、ありがとうございます。
色々な道具を用意してもらったり、温かくて過ごしやすい場所にいさせてもらったり…いつも本当に感謝しています」
「俺、誰かがご飯をつくって待っててくれる場所に帰ることなんてもう二度とないと思ってたんだ。
だから、俺にとってはそれだけで充分なんだよ」
優しく頭を撫でられて、少しだけ心臓がばくばく音をたてる。
夏彦の側にずっといたいけれど、それは赦されることなのだろうか。
……いつまでも続くといいな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...