裏世界の蕀姫

黒蝶

文字の大きさ
180 / 385
夏彦ルート

第53話

しおりを挟む
「それじゃあ月見ちゃん。今日もよろしくね」
「は、はい…」
次の日、いつものようにお店で作業する。
沢山の紫陽花を作りながら、時折聞こえるお客さんや店員さんの声に耳を傾ける。
そのときに聞こえたのが、季節の花のアクセサリーがほしいというものだった。
「…秋桜」
「秋桜がどうかしたの?」
ほんやりしていたせいか、夏彦がいることに全く気づいていなかった。
「えっと、その…」
私が意見していいのか分からなくてしどろもどろになっていると、きゅっと手を掴まれた。
「…もしかして、傷痛む?」
「いえ、そうではなくて…新しいものを、作ってみたんです。
出すぎたことをしたと自覚はあるんですけど…」
怒られてしまうか、呆れられてしまうか…そう思っていたのに、かえってきた反応は喜びだった。
「秋桜のワンポイントアクセ!?花びらがすごく細かくて、本当に咲いてるみたいだね。
従業員から意見が出てたからどうしようとは思ってたけど、まさか月見ちゃんがもう作ってくれてるとは思わなかった」
「え…?」
「これ、商品にしちゃってもいいかな?」
「本当に、いいんですか?」
「勿論。だけど、これは君が作ったものなんだから嫌だと思ったらそう言って?」
「私のもので、よければ…」
そう答えるのでせいいっぱいだったけれど、夏彦が笑ってくれたからそれでいい。
「他の従業員たちもきっと喜ぶよ。いつもありがとう、月見ちゃん」
「わ、私で役にたてるなら嬉しいです」
「もう少ししたらお昼にしよう。それから、休憩はちゃんととること」
その言葉に頷くと、店長と呼ぶ声がした。
「また後でね!」
「わっ…」
取りやすいように投げてくれたペットボトルを抱えながら、もう少し作業をすすめることにする。
あれから危ない人たちは来ていないけれど、彼の心にある表現しづらい感情はあの人たちに向けられているのかもしれない。
「月見ちゃん、お待たせ!」
「い、いえ…」
ソルトと毛糸でじゃれていると、夏彦はいつもどおりの笑顔で接してくれた。
昨日あんなことがあったのに、それでも変わらずいてもらえることはありがたい。
「ごめん、今日はちょっと予約のお客さんが来るからお弁当を買ってきたんだ。
唐揚げととんかつ、どっちがいい?」
「か、唐揚げで…」
「了解!じゃあ俺はとんかつで…いただきます」
隣り合って座り、一口囓る。
自分で作るときにこの味が出せないからいつも研究しているつもりだけど、残念なことにまだまだこの味には届かないだろう。
それに、その前に秋久さんに教えてもらったものを作りたい。
「月見ちゃん、ひとつお願いしてもいい?」
「私に、できることなら」
なんだろうと首を傾げていると、綺麗な洋服が手渡される。
「それを着てみてほしいんだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...