裏世界の蕀姫

黒蝶

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春人ルート

第72話

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「春人さん、そろそろ諸々の数値を測っておきたいんだけど…」
遠慮がちな冬真さんの言葉にはっとして、ついいつもどおりの勢いで立ちあがってしまう。
「私、もう……」
「平気?そんな勢いよく立ちあがったら…遅かったか」
ぴりぴりと腕が痛くて、思わずしゃがみこんでしまう。
そんな私に春人がベッドから手を差し伸べてくれる。
自分の方が酷い怪我をしていて痛いはずなのに、本当に優しいし申し訳ない。
「すみません…」
「君が謝ることじゃない。…もう少しで冬真が来てくれるはずだから、少しだけ待ってて」
「は、はい」
いつも優しく頭を撫でてくれるけれど、今日はいつも以上にゆるゆるしているような気がする。
…そういえば、事件はどうなったのだろうか。
彼に直接訊くのは躊躇われるものの、誰に質問していいかも分からない。
「…ちょっとあいつと部屋に戻ってて」
春人の声に顔をあげると、そこには夏彦さんと冬真さんが立っていた。
「何ふたりでこそこそ話してるの?お兄さん嫉妬しちゃうな…」
「えっと、」
「あんたが茶化すからこの人困ってる。部屋まで丁重に運んで。…腕が使えないって意外と体のバランス取れなくなるんだから」
「分かったよ。春人、また後で。行こうか、月見ちゃん」
「はい」
ひらひらと手をふってくれた春人に一礼して、少しずつ歩いていく。
「月見ちゃん…ありがとう」
「お礼を言われるようなことなんて、何もしてないです」
「だけど、ハルが助かったのは君がいてくれたからだよ。それに、事件だってほぼ解決できたようなものだから」
「ほぼ、ですか?」
そう尋ねると、夏彦さんはどこか遠くを見るように目を細めた。
「月見ちゃんには知る権利がある。いいよ、病室でゆっくり話そうか」
ベッドに横になった後、少しして夏彦さんが話しはじめた。
あのときの男はとある場所の下っ端だったこと、上からの命令どおり殺人を隠蔽したことを認めたこと、犯人の正体まで辿り着けたこと…。
そこまで聞いただけでもとにかく大変そうだ。
ただ、ひとつだけ疑問が残った。
「あの、その犯人さんは捕まえられないんですか?」
「捕まえようとすると、権力をふりかざして逃げるタイプなんだ。
だからもう少し証拠を固める必要がある。それに…あの男は最低だけどあの男の家族には関係ないことだから、安全な場所に逃さないといけないんだ」
色々な手順があって、夏彦さんがかなり疲れていることにも納得した。
沢山やることがあるうえに、みんな普段の生活がある。
「すみません。私にも何かできればよかったんですけど…」
「月見ちゃんは充分頑張ってるよ。誰も手出しができなかった問題にやっと手が届く状態になったし、本当に助かってる。
そういえば、アッキーが調子がいいときでいいから話を聞かせてほしいって言ってたよ」
「そうなんですね。私にできることならやります」
夏彦さんはどこかほっとした様子で笑いかけてくれる。
窓の方に目をやると、もうすぐ太陽が沈むところでなんだか神秘的な景色が見られた。
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