裏世界の蕀姫

黒蝶

文字の大きさ
338 / 385
冬真ルート

第24話

しおりを挟む
「冬真、さ、」
最後まで言い終わらないうちに、いつもよりずっと強い力で手を握られる。
その手は冷たくなっていて、かたかたと震えていた。
「無事でよかった」
どうしてこの人は怒らないんだろう。
…どうして私のことを捜してくれたのか、その理由も分からない。
上手く言葉を出せずにいると、冬真さんはぽつりぽつりと話しはじめた。
「僕は言葉にするのが下手で、それと同時に発言も躊躇することが多くて…。
助けてもらったお礼も言えず、しかもあれだけの怪我をしている君を独りで出て行かせてしまってごめん。
…蕀のことは、原理は分からなかったけどずっと知ってた」
「知っていたのに、黙っていてくれたんですか…?」
私の問いに、沈黙という肯定がかえってくる。
それはつまり、今までずっと何も訊かずにいてくれたということだ。
…なんて優しい人なんだろう。
「いつから知っていたんですか?」
「君が運ばれてきた日から。はじめは君に絡まっていたのかとも思ってたけど、それならきっとあんなふうに意思を持った動き方はしない。
…それに、もしかするとそれが暴力を受けていた原因だとしたら簡単に根掘り葉掘り訊いていいことじゃない」
冬真さんの行動ひとつひとつに思いやりがこめられていて、それを感じるとますます申し訳なくなる。
「…本当にごめんなさい」
「行く宛があって、目的の為に出ていくならいいけど、そうじゃないなら…僕は、もう少し君と過ごしたい」
「私がいても、迷惑になりませんか?」
「そもそも、誰にも迷惑をかけずに生きていくなんて無理だと思う。少なくとも、僕は色々な人たちの優しさで生きてこられた。それがなかったら、きっと今ここにいない。
君が蕀のことを知られたくないなら誰にも話すつもりはないし、言いたくないことを無理矢理話させようとは思わない。…ただ、君さえよければまたお弁当を作ってほしい」
普段あまり話す方ではない冬真さんから零れた沢山の言葉が、私の心に突き刺さる。
だんだん視界がぼやけてきて、涙が流れていることに気づいた。
「僕はやっぱり、言葉にするのが下手だけど…それでもよかったら、もう少しいてほしい」
「私がいても、いいんでしょうか?」
「寧ろいたらいけない理由が浮かばない」
冬真さんが優しく頭を撫でてくれて、それがすごく安心した。
「ありがとうございます、冬真さん」
「…でいい」
「え?」
「冬真でいい。さん、なんて付けられると、ちょっと距離が遠くなる気がするから」
「分かりました。…こんな私でよければよろしくお願いします、冬真」
冬真は手を繋いでくれて、今度こそ来た道を戻る。
手品師さん…冬香さんについては話さないでおくことにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...