裏世界の蕀姫

黒蝶

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秋久ルート

第62話

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「いつからだ?」
「3時間前に着信が入ってたんだけど、依頼人から連絡があって出られなかったんだ。…ごめん。僕のせいだ」
「それは違う。冬真が自分を責める必要はどこにもない」
秋久さんは冬真に声をかけて、その場に立ちあがった。
「探しに行ってくる」
「こんな遅い時間なのに?」
「俺たちに時間は関係ない。…そうだろ?」
彼の目は真剣で、絶対に見つけるという意志を感じる。
ただ、ひとりで行ってしまうつもりなら心配だ。
「あの…私も探していいですか?」
「駄目。君には留守番してもらう。僕は春人さんに連絡してみる」
「ああ。頼んだ」
冬真さんに止められてくじけそうになるけれど、ここで引き下がるわけにはいかない。
部屋に秋久さんとふたりきりになったところで声をかけた。
「秋久さん」
「どうした?」
「どうしても行くなら、これを持っていってください。私も夏彦さんを探してみます」
「だが、」
「大丈夫です。ちゃんとここで待っていますから」
私が外に出て迷惑をかけるわけにはいかない。
だからこそ、ここでできるせいいっぱいのことをしようと思った。
「この蔦はどう持っていればいい?」
「えっと…ポケットの中なら大丈夫だと思います」
「ありがとう」
秋久さんは私をひと撫でして、そのまま走って外へ行ってしまった。
誰にも見られないように気をつけながら、中庭に足を踏み入れる。
「──お願い、蕀さんたち」
沢山の蔦をのばして夏彦さんの気配を探す。
どこにいるか分からないから沢山使うことになると思うけれど、そんなことを気にしていられない。
「…夏彦さん」
憎い、苦しい、悲しい…そんな思いが流れこんでくる。
秋久さんが持っている蔦をイメージしながら、震える手で夏彦さんのところまで誘導した。
痛みが酷いけれど、それよりも今はふたりに会ってもらうのが先だ。
気配が限りなく近づいたのを確認して、蕀さんたちを鎮めた。
「あ、月見発見!」
「花菜…?」
暗闇から現れたのは間違いなく花菜で、私の手を見るなり駆け寄ってくる。
「大丈夫!?取り敢えず止血しないと」
「これくらいなら平気です」
「これくらいじゃないから!もし腫れたり膿んじゃったりしたら大変だよ」
彼女は私の手首を軽く掴んで、そのまま室内に向かって歩き出す。
ずきずき痛む手のひらを見つめながら、秋久さんたちがどうしているのか気になった。
「冬真、連れてきたよ」
「君、また怪我したの?」
「ごめんなさい」
「怪我はしないように気をつけて」
冬真さんの言葉が心に滲みる。
ふたりが夏彦さんを必死で探しているのはすぐに分かった。
ふたりには教えられないけれど、今は秋久さんとふたりで帰ってくることを信じよう。
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