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第16章『怖い帰り』
第88話
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「あの、長田さんって、私と同じなの?」
車内を歩きながら氷雨君に尋ねると、資料を渡しながら首を横にふった。
「彼女は矢田の知り合いで、一緒にいたいと頼まれたんだ。…もう死んでるけど」
「そうなの?」
「たしか事故死だったはずだけど、詳しいことは知らない。…それより、なんで今日の昼あんなに早く出たの?」
「おばさんのところに行く予定があったし、室星先生と話すことがあるのかもしれないと思って…。余計なことだった?」
「…気を遣わせてごめん」
「私がやりたくてやったことだから」
そういえば、おばさんのところに着替えを届けたとき、不思議なものを見かけた。
「あの、氷雨君」
「どうかした?」
「おばさんの施設に不思議なものがいたのを見たんだけど、ちょっとだけ話してもいい?」
氷雨君は真剣な顔で頷いた。
「氷空ちゃん、今日もありがとう」
「私にできること、これくらいしかないから」
本当はもっとおばさんに恩返ししたいけど、欲しい物や着替えを持っていくことしかできていない。
「そういえば、黒いコートの人に会わなかった?」
「会ってないけど…もしかして、知り合い?」
「いいえ。あくまで噂なんだけどね、肩をたたかれた人があの世に連れて行かれるとか、不幸になるとか…」
「そういう噂があるの?」
「前はそんな怖いのなかったんだけどね…」
おばさんは苦笑いしながら話してくれた。
それがどうしても頭から離れない。
「それで、肩はたたかれなかったけど、帰りに見かけて…」
《それ、あたシノコト?》
けたけた笑う声がして振り向くと、顔がない黒コートを着た人が笑い声をあげていた。
「…合図したら隣の車両まで走って。誰も乗ってないはずだから」
真っ黒なコートが星を拐うようにはためく。
その一瞬のすきを逃さなかった。
「……」
氷雨君に促され、そのままダッシュで隣の車両にうつる。
誰か呼んだ方がいいのか、何か必要なものはないのか…迷っている間に氷雨君が飛びこんできた。
《あケテ、ねエ、あけテヨ…》
人間よりずっと強い力でたたかれている。
このままでは扉が開けられてしまうかもしれない。
「怪我してない?」
「俺のことより自分の心配しなよ。…ところで、箒持ってる?」
「あ、うん」
できるだけ持ち歩くように言われていたので、折りたたんでいた柄の部分を組み立てる。
「それで思いきり攻撃していい。あれの狙いはお客様だから」
「どういうこと?」
「細かいことを説明している時間はない。扉を凍らせて」
がんがんと叩く音が強くなっていて、少し怖いと感じながら扉に向かって思いきり箒をふる。
扉は凍って開けづらくなっているけど、時間稼ぎにしかならない。
「大丈夫。あとは俺に任せてくれればいいから」
氷雨君はどこかに連絡して、そう小さく呟く。
その言葉がとても温かかった。
車内を歩きながら氷雨君に尋ねると、資料を渡しながら首を横にふった。
「彼女は矢田の知り合いで、一緒にいたいと頼まれたんだ。…もう死んでるけど」
「そうなの?」
「たしか事故死だったはずだけど、詳しいことは知らない。…それより、なんで今日の昼あんなに早く出たの?」
「おばさんのところに行く予定があったし、室星先生と話すことがあるのかもしれないと思って…。余計なことだった?」
「…気を遣わせてごめん」
「私がやりたくてやったことだから」
そういえば、おばさんのところに着替えを届けたとき、不思議なものを見かけた。
「あの、氷雨君」
「どうかした?」
「おばさんの施設に不思議なものがいたのを見たんだけど、ちょっとだけ話してもいい?」
氷雨君は真剣な顔で頷いた。
「氷空ちゃん、今日もありがとう」
「私にできること、これくらいしかないから」
本当はもっとおばさんに恩返ししたいけど、欲しい物や着替えを持っていくことしかできていない。
「そういえば、黒いコートの人に会わなかった?」
「会ってないけど…もしかして、知り合い?」
「いいえ。あくまで噂なんだけどね、肩をたたかれた人があの世に連れて行かれるとか、不幸になるとか…」
「そういう噂があるの?」
「前はそんな怖いのなかったんだけどね…」
おばさんは苦笑いしながら話してくれた。
それがどうしても頭から離れない。
「それで、肩はたたかれなかったけど、帰りに見かけて…」
《それ、あたシノコト?》
けたけた笑う声がして振り向くと、顔がない黒コートを着た人が笑い声をあげていた。
「…合図したら隣の車両まで走って。誰も乗ってないはずだから」
真っ黒なコートが星を拐うようにはためく。
その一瞬のすきを逃さなかった。
「……」
氷雨君に促され、そのままダッシュで隣の車両にうつる。
誰か呼んだ方がいいのか、何か必要なものはないのか…迷っている間に氷雨君が飛びこんできた。
《あケテ、ねエ、あけテヨ…》
人間よりずっと強い力でたたかれている。
このままでは扉が開けられてしまうかもしれない。
「怪我してない?」
「俺のことより自分の心配しなよ。…ところで、箒持ってる?」
「あ、うん」
できるだけ持ち歩くように言われていたので、折りたたんでいた柄の部分を組み立てる。
「それで思いきり攻撃していい。あれの狙いはお客様だから」
「どういうこと?」
「細かいことを説明している時間はない。扉を凍らせて」
がんがんと叩く音が強くなっていて、少し怖いと感じながら扉に向かって思いきり箒をふる。
扉は凍って開けづらくなっているけど、時間稼ぎにしかならない。
「大丈夫。あとは俺に任せてくれればいいから」
氷雨君はどこかに連絡して、そう小さく呟く。
その言葉がとても温かかった。
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