皓皓、天翔ける

黒蝶

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第23章『凍えそうな季節から』

第130話

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「お客様のお席はこちらになります」
至るところに雪がついた姿でやってきた少年は、戸惑った様子で席につく。
「こちらにある備品はご自由にお使いください」
一旦落ち着く時間があった方がいいのかもしれない…そう思って離れようとすると、声をかけられた。
《あ、あの…どこ行きの列車ですか?》
「…大丈夫です。そのうち分かります。ところでお客様、何かお召しあがりになりませんか?」
直球で投げかけられた問いに、ありきたりな答えを返すことしかできない。
《温かいものなら、なんでも。あ、でも飲み物は温かいカフェオレがいいです》
「かしこまりました」
すぐに飲み物を作って、食事はもう少し話をしてから注文するものを決めることにした。
「空調はこちらのリモコンで変えられますので、ご自由にお使いください」
《ありがとうございます》
少年は指がかじかんでいるのか、上手く動かせないみたいだった。
「あの…ご迷惑でなければ操作しましょうか?」
《ごめんなさい。もう少し温度を上げてほしくて…》
「かしこまりました」
少しずつ温度を上げていくと、緊張しているのかちらちら私を見ている。
相手の反応が気になる気持ちは分かるから、お客様の要望を叶えることに集中した。
「ひとまずこの温度に設定しておきますね。ま、また何かあれば遠慮なく仰ってください」
《ありがとうございます。それから、えっと…ビーフカレーってありますか?》
「食堂車の方へ連絡しておきます」
やっぱり温かいものを食べてほっとしたいのかもしれない。
急いで連絡すると、すぐに用意してくれるとのことだった。
《あ、あの…食べに行くシステムなんですか?》
「いえ。完成次第こちらにお持ちします」
《そうなんですね。よかった…》
やっぱり人が多い場所が苦手なのかもしれない。
「もしよろしければ、お客様の話を聞かせていただけませんか?」
《俺の話、ですか?》
「どんな些細なことでもかまいませんので…。お客様のことを知りたいんです」
困惑すると思うし、迷惑だと思われるかもしれない。
緊張している相手にこんなことを言えば負担になるだろう。
それでも、どうしてこの人が死んでしまったのか原因を探らないことには行動をおこせない。
それでも、お客様は少しずつ話してくれた。
《俺は、昔から人とは違った部分が多いんです。普通の人はそんなこと気にしないとか、そこまで見ていると気味が悪いとか…。
だけど、それでも相手が考えていることを分析する自分を止められませんでした。…対応を間違えて、相手を傷つけたくないから》
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