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7 スピナの受け継いだもの
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何だかんだと昨夜は初夜にもかかわらず、3回もしてしまった。
スピナは下半身の鈍痛を抱えながらも、それでも嬉しくてたまらなかった。
この痛みさえも、甘美なものとして受け入れられる。
困った事と言えば、ルドンの目を見るのが前以上に恥ずかしくなり
見られなくなってしまった事だ。
ルドンは目を合わせるのを好むから、目を合わせない訳にはいかなかった。
どこまでも理知的な、あの水色の瞳に見つめられるのは
心の中が筒抜けになってしまうようで少し怖い。
とはいえ、一晩中求められ、優しくされ快楽を与えられれば
愛情を持って当たり前といえる。
その上、ルドンは完璧なほど美しい。
しかし、もし、そこそこの醜男でも、昨夜の様に抱かれれば
今の様な感情を抱いていたかもしれない。
それを、あの様な顔と声で愛をささやかれれば、全てにおいて未経験な女など
木っ端微塵になる。
──私は快楽を与えてくれ、優しくしてくれる男なら誰でもいいのであろうか?
もんもんとしていると、夕刻になり、玄関でルドンの帰宅を迎える女中の声が
聞こえてきた。
ここはルドンの屋敷で、ルドンは今や王となった王子の第一側近として
王宮で働いている。
スピナの実家の屋敷は父が亡くなってすぐ、義母が売ってしまった。
義母はすばやく、遺産相続の手続きを進めた。
スピナには牧場と爵位を。
自分と、娘には屋敷を売り払って得たお金と残っていた財産全てを。
そしてそれらを手にすると、自分の国に帰って行った。
形式ばった事の多いこの国で生きていくよりは、慣れ親しんだ自国へ
大金を持って帰った方が良いという考えに至ったのだろう。
父の死後のあまりに早い決断や手続きに、悲しみに暮れていたスピナにとっては
驚きはあったもののそこまでの抵抗を感じなかった。
家は取り上げられてしまったが、代々受け継いだ爵位を
自分に引き継がせてもらうのもありがたかった。
牧場の中には人が住める程度の山小屋がついていたから
そこで暮らせるのも知っていた。
そもそも財産がどのぐらいあるのかも、スピナには分かっていなかった。
今の時代、騎士を抱え領土を守っている貴族はほとんどいない。
名ばかりの貴族ばかりだ。
スピナの家も、そうだった。
代々受け継がれた土地の前に、ローセンナ領と名前が付いているだけで
実際、管理しているのは国である。
実質的な財産としては、私的な土地や事業、美術品、宝石等が
スピナの父、ローセンナ公爵 アーサー ハウワーが残した全てのものと言えた。
──とはいえ、かなりの額と考えられる。
しかし、財産も屋敷もなくなった今の状況を父が知ったとしても
それほど怒らなかったのでは?とスピナは思う。
父はスピナの行く末を心配していて、亡くなる少し前から
「卒業パーティーに私が送り出してやれなくて、すまなく思う。
…けれど、卒業パーティーには誘い手がいなくとも、出席はして
未来の夫をみつけて幸せになるんだぞ…。」
と病室で会うたびに言われたから。
もしかして、誰かからの結婚の申し込みを父が受けているのでは?と思わせるほど。
それもあって、卒業パーティーに相手がいないのに出席し、一生分の勇気を持って
王子に話かけたのだ。
……万が一にも王子が父に話を持って来たのかと思い…。
違ったが。
けれど昨夜の営みでスピナは思ったのだった。
──もしかして、父に結婚の打診をしていたのはルドンだったのでは?
──もしかして、いつからかスピナの事を憎からず思っていたのでは?
そして、貴族の中では当たり前の正式な手順を踏んで、父親の許可を取ってから
スピナに告白をしようとしていたのではないか…?
スピナに恋をしていた…?
あのルドンが…。
でなければ、なぜスピナと結婚する必要があったのか?
ルドンは、王の側近で、女性を選べる立場にあったはずだ。
自分と結婚して得られるもの。
スピナ、牧場。
あとは…………爵位?
頭から爵位が抜けていた事に気がついた。
そうだ。
スピナは公爵令嬢だったのだ。
スピナは下半身の鈍痛を抱えながらも、それでも嬉しくてたまらなかった。
この痛みさえも、甘美なものとして受け入れられる。
困った事と言えば、ルドンの目を見るのが前以上に恥ずかしくなり
見られなくなってしまった事だ。
ルドンは目を合わせるのを好むから、目を合わせない訳にはいかなかった。
どこまでも理知的な、あの水色の瞳に見つめられるのは
心の中が筒抜けになってしまうようで少し怖い。
とはいえ、一晩中求められ、優しくされ快楽を与えられれば
愛情を持って当たり前といえる。
その上、ルドンは完璧なほど美しい。
しかし、もし、そこそこの醜男でも、昨夜の様に抱かれれば
今の様な感情を抱いていたかもしれない。
それを、あの様な顔と声で愛をささやかれれば、全てにおいて未経験な女など
木っ端微塵になる。
──私は快楽を与えてくれ、優しくしてくれる男なら誰でもいいのであろうか?
もんもんとしていると、夕刻になり、玄関でルドンの帰宅を迎える女中の声が
聞こえてきた。
ここはルドンの屋敷で、ルドンは今や王となった王子の第一側近として
王宮で働いている。
スピナの実家の屋敷は父が亡くなってすぐ、義母が売ってしまった。
義母はすばやく、遺産相続の手続きを進めた。
スピナには牧場と爵位を。
自分と、娘には屋敷を売り払って得たお金と残っていた財産全てを。
そしてそれらを手にすると、自分の国に帰って行った。
形式ばった事の多いこの国で生きていくよりは、慣れ親しんだ自国へ
大金を持って帰った方が良いという考えに至ったのだろう。
父の死後のあまりに早い決断や手続きに、悲しみに暮れていたスピナにとっては
驚きはあったもののそこまでの抵抗を感じなかった。
家は取り上げられてしまったが、代々受け継いだ爵位を
自分に引き継がせてもらうのもありがたかった。
牧場の中には人が住める程度の山小屋がついていたから
そこで暮らせるのも知っていた。
そもそも財産がどのぐらいあるのかも、スピナには分かっていなかった。
今の時代、騎士を抱え領土を守っている貴族はほとんどいない。
名ばかりの貴族ばかりだ。
スピナの家も、そうだった。
代々受け継がれた土地の前に、ローセンナ領と名前が付いているだけで
実際、管理しているのは国である。
実質的な財産としては、私的な土地や事業、美術品、宝石等が
スピナの父、ローセンナ公爵 アーサー ハウワーが残した全てのものと言えた。
──とはいえ、かなりの額と考えられる。
しかし、財産も屋敷もなくなった今の状況を父が知ったとしても
それほど怒らなかったのでは?とスピナは思う。
父はスピナの行く末を心配していて、亡くなる少し前から
「卒業パーティーに私が送り出してやれなくて、すまなく思う。
…けれど、卒業パーティーには誘い手がいなくとも、出席はして
未来の夫をみつけて幸せになるんだぞ…。」
と病室で会うたびに言われたから。
もしかして、誰かからの結婚の申し込みを父が受けているのでは?と思わせるほど。
それもあって、卒業パーティーに相手がいないのに出席し、一生分の勇気を持って
王子に話かけたのだ。
……万が一にも王子が父に話を持って来たのかと思い…。
違ったが。
けれど昨夜の営みでスピナは思ったのだった。
──もしかして、父に結婚の打診をしていたのはルドンだったのでは?
──もしかして、いつからかスピナの事を憎からず思っていたのでは?
そして、貴族の中では当たり前の正式な手順を踏んで、父親の許可を取ってから
スピナに告白をしようとしていたのではないか…?
スピナに恋をしていた…?
あのルドンが…。
でなければ、なぜスピナと結婚する必要があったのか?
ルドンは、王の側近で、女性を選べる立場にあったはずだ。
自分と結婚して得られるもの。
スピナ、牧場。
あとは…………爵位?
頭から爵位が抜けていた事に気がついた。
そうだ。
スピナは公爵令嬢だったのだ。
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