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34 100人の愛人
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スピナはそう言われ、前にまわされていた
王の手を乱暴にほどき、這いずり出て
王から離れた。
まるで、ちゃんと愛されて抱かれた訳ではない
……と見透かされたような気がしたからだ…。
「……そんな事は…ない…です。
男の人が女の人の中に入れて…そして…出す…
そういう事、ちゃんとしてもらいました…。」
スピナは、そこまで話すと王から遠ざかろうと
這いずっていた手を止め亀のように縮こまった。
言っている事の情けなさに、耐えきれなくなったからだ…。
……本当に…自分は王に向かって何を言っているんだろう……。
そんなスピナの姿を見て、王は珍しく反省した。
「──分かった。
非処女だという事は、理解した。
そなたが処女だろうが、処女じゃなかろうが
確かめようもない事を、興味本位で無駄に
聞いてしまった…。
スピナ…調子に乗り過ぎた。すまない。
首にキスまでして…。
ルドンに見られたら、殺されるな。」
王は言っていて、自問自答するように呟いた。
「…ん?殺されはしないか…。
そなたはもうじき捨てられる身だった…よな?」
そう言われ、スピナは地面に頭を着けたまま
思わず「ぐっ…。」と小さくうめいた。
スピナは気になっていた事を、思い切って王に聞いてみる事にした。
「──昨夜、ルドン様が愛人の方を連れて帰って来たのです。」
「…愛人?ルドンが?」
王の当惑したような声が、聞こえてくる。
スピナは、ガバッと身を起こし王の方へ振り返った。
「…王、男の方というのは討伐に行くたびに、愛人を連れ帰るのですか?!」
スピナは、偉大な師匠に教えを乞う弟子のような口調で王に尋ねた。
王は、そのバカバカしい質問に思わず噴き出した。
「スピッ…。スピナ夫人……!
討伐のたびに、連れて帰って来たら
年間100人の愛人を抱える事になるぞ!」
「…ひゃ、100人…?!」
スピナは驚いて声を上げた。
そして、瞬時に顔が青ざめる。
ローセンナ家は傾くどころか、地に埋もれるであろう…。
王は真剣に悩んでいるスピナを見て、笑いが止まらなかった。
ひとしきり笑って落ち着いた王は、スピナに聞いた。
「…そなた、相当ルドンに嫌われているのではないか?
爵位譲渡書も、ルドンは手に入れてしまったのだろう?
あいつが愛人を連れ込むなんて
そんな面倒な事をするとは想像もつかない。
……そこまでしても
そなたを追い出したいのではないか?」
王がスピナの心のもやもやを、するりと解いた。
その通りだと思った。
胸はズキズキと痛んだが、最近ではこの痛みも
体の一部となりつつあった。
蒼白な顔のまま、生気の抜けた抜け殻のように
固まってしまったスピナに、王は静かに言った。
「……スピナ。
ルドンに捨てられたら、私の所に来るか?」
スピナは、驚いて顔を上げる。
「おそらく…、もうそろそろ話を切り出されるのだろう?
たとえ慰謝料を貰ったとしても、その若さで離縁されての独り身はよくない…。
お父上のローセンナ公…アーサーは、すでに亡くなられているし…。」
王は、スピナを憐れに思った。
「ルドンは爵位狙いにしろ、そなたを憐れに思って妻にしたのだろう?
私もそなたを憐れに思うから、今度は私が拾ってやる…。
あいつは、自分の邪魔になる女を昔から横には置かない。
しつこくする女は、いつも私によこす…。
私と過ごせば、女が私になびく事を知っているから…。」
スピナは、その言葉にうつむいた。
邪魔になる女とは、まさに今の自分の事ではないのか…。
黙ったままのスピナに、王は言った。
「今から、ルドンに談判に行こうか?
そなたを譲り受けると。
愛人のいる家になど、そなたも帰りたくはないだろう?」
王の手を乱暴にほどき、這いずり出て
王から離れた。
まるで、ちゃんと愛されて抱かれた訳ではない
……と見透かされたような気がしたからだ…。
「……そんな事は…ない…です。
男の人が女の人の中に入れて…そして…出す…
そういう事、ちゃんとしてもらいました…。」
スピナは、そこまで話すと王から遠ざかろうと
這いずっていた手を止め亀のように縮こまった。
言っている事の情けなさに、耐えきれなくなったからだ…。
……本当に…自分は王に向かって何を言っているんだろう……。
そんなスピナの姿を見て、王は珍しく反省した。
「──分かった。
非処女だという事は、理解した。
そなたが処女だろうが、処女じゃなかろうが
確かめようもない事を、興味本位で無駄に
聞いてしまった…。
スピナ…調子に乗り過ぎた。すまない。
首にキスまでして…。
ルドンに見られたら、殺されるな。」
王は言っていて、自問自答するように呟いた。
「…ん?殺されはしないか…。
そなたはもうじき捨てられる身だった…よな?」
そう言われ、スピナは地面に頭を着けたまま
思わず「ぐっ…。」と小さくうめいた。
スピナは気になっていた事を、思い切って王に聞いてみる事にした。
「──昨夜、ルドン様が愛人の方を連れて帰って来たのです。」
「…愛人?ルドンが?」
王の当惑したような声が、聞こえてくる。
スピナは、ガバッと身を起こし王の方へ振り返った。
「…王、男の方というのは討伐に行くたびに、愛人を連れ帰るのですか?!」
スピナは、偉大な師匠に教えを乞う弟子のような口調で王に尋ねた。
王は、そのバカバカしい質問に思わず噴き出した。
「スピッ…。スピナ夫人……!
討伐のたびに、連れて帰って来たら
年間100人の愛人を抱える事になるぞ!」
「…ひゃ、100人…?!」
スピナは驚いて声を上げた。
そして、瞬時に顔が青ざめる。
ローセンナ家は傾くどころか、地に埋もれるであろう…。
王は真剣に悩んでいるスピナを見て、笑いが止まらなかった。
ひとしきり笑って落ち着いた王は、スピナに聞いた。
「…そなた、相当ルドンに嫌われているのではないか?
爵位譲渡書も、ルドンは手に入れてしまったのだろう?
あいつが愛人を連れ込むなんて
そんな面倒な事をするとは想像もつかない。
……そこまでしても
そなたを追い出したいのではないか?」
王がスピナの心のもやもやを、するりと解いた。
その通りだと思った。
胸はズキズキと痛んだが、最近ではこの痛みも
体の一部となりつつあった。
蒼白な顔のまま、生気の抜けた抜け殻のように
固まってしまったスピナに、王は静かに言った。
「……スピナ。
ルドンに捨てられたら、私の所に来るか?」
スピナは、驚いて顔を上げる。
「おそらく…、もうそろそろ話を切り出されるのだろう?
たとえ慰謝料を貰ったとしても、その若さで離縁されての独り身はよくない…。
お父上のローセンナ公…アーサーは、すでに亡くなられているし…。」
王は、スピナを憐れに思った。
「ルドンは爵位狙いにしろ、そなたを憐れに思って妻にしたのだろう?
私もそなたを憐れに思うから、今度は私が拾ってやる…。
あいつは、自分の邪魔になる女を昔から横には置かない。
しつこくする女は、いつも私によこす…。
私と過ごせば、女が私になびく事を知っているから…。」
スピナは、その言葉にうつむいた。
邪魔になる女とは、まさに今の自分の事ではないのか…。
黙ったままのスピナに、王は言った。
「今から、ルドンに談判に行こうか?
そなたを譲り受けると。
愛人のいる家になど、そなたも帰りたくはないだろう?」
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