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27.相/愛(アイ)、対する〈3〉
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時計の針の音が静かに響く中、ゆっくりと目を開けた。
眠りに落ちる前の景色が視界に広がり、相変わらず身動きの取れない体の痛みと重みを感じると、あれが夢ではなくて現実であったと実感が湧き、安堵の息を吐いた。
眠りに落ちたとき、窓から見える景色はまだ日が落ちる前だった。
今見える景色は、青々とした空が広がっている。どうやら、あのまま朝まで眠っていたようだ。
怪我のせいか、薬のおかげか、それとも――。
(ミラに、会いたい……)
目を閉じると浮かぶ、紅茶色の髪が鮮やかに映える世界。
自分の名前を彼女が呼んで、胸を震わせたあの瞬間を思い出すと、この世界で息をして生きていることがとても嬉しく思えた。
あまり好ましくなかった薬品の匂いも、心地良い香りであるとさえ思ってしまうほど、胸が弾んで仕方なかった。
またあとで、と約束をした彼女が訪れるのを待っていた。
だけど、そんなアレクシスのもとにやって来たのは、心待ちにしていた人ではなかった。
「改めてご挨拶申し上げます。院長のテイラー・バンズです」
アレクシスは、無表情のままうなずいて挨拶を返した。
ここが、ミラの従兄である彼が経営する病院であるから、彼女に会えたということを知った。
彼がアレクシスを治療してくれなければ、助からなかっただろうことも分かっている。けれど、アレクシスはミラ以外の人に感情が動くことはなかった。
感謝の気持ちはあるが、その気持ちは後日謝礼で返そうと、テイラーが体の状態と今後の治療の流れを丁寧に説明してくれている間も、アレクシスはしきりにドアに目線を送ってミラが来るのを待った。
「一日に服用する薬に関しては、のちほど薬剤師のバンズ公爵令嬢から説明があります」
テイラーの言葉に期待が高まり、アレクシスの心がそわそわして落ち着かなかった。
* * *
「……え?」
朝の入院患者に薬を処方する時間になり、病院を訪れたミラの足を止めた従兄のテイラーからアレクシスの話を振られ、ミラは戸惑った。
テイラーがアレクシスを治療した後の彼の様子は、確かに放心状態で様子がおかしかった。
その後、ミラの話によれば自分の状態に混乱していたようだけれど、今では落ち着いて薬を飲ませて眠りに就いたと……そこまではよかった。
記憶がない状態であるせいか、以前の彼とは真逆で、にこやかで穏やかな空気を漂わせていたから、ヴィガード小公爵であることを忘れてしまうと、ミラが漏らした言葉をテイラーは鵜呑みにしてアレクシスのもとを訪れた。
ところが、テイラーが挨拶をしても無表情で、説明をしていても淡々と聞いてうなずくだけで、その姿は社交界で有名な彼の姿そのままであったという。
それと、困ったことに食事を取ることを断られたと、テイラーはミラに助けを求めた。
「彼は、記憶がないんだよね?」
テイラーは、人が変わったようだと聞いたアレクシスの違う顔を見ることを楽しみにしていた。有名人の別の顔を拝めると、珍しいもの好きの従兄だった。
そんな従兄の個人的な趣向は放っておいて、ミラは、アレクシスに記憶がないことを直接聞いたし、彼の態度も以前とは違って、記憶喪失であると判断したと、もう一度説明をした。
「でも、なんで食事を断られたの?」
「それが……」
右腕を骨折していて、左腕は軽度の打撲で一週間ほどは両手を使えないため、その間の食事は女性の介護士が手伝うと説明をすると、首を横に振って断られたという。
男性の介護士もいて、食事以外の体に触れる介護は男性に任せることにしているのだけど、一日三食の補助は人手の多い女性に任せたいのだと、テイラーは吐露した。
「……私が思うに、ミラなら断られないんじゃないかな?」
「そんな、まさか……」
眠りに落ちる前の景色が視界に広がり、相変わらず身動きの取れない体の痛みと重みを感じると、あれが夢ではなくて現実であったと実感が湧き、安堵の息を吐いた。
眠りに落ちたとき、窓から見える景色はまだ日が落ちる前だった。
今見える景色は、青々とした空が広がっている。どうやら、あのまま朝まで眠っていたようだ。
怪我のせいか、薬のおかげか、それとも――。
(ミラに、会いたい……)
目を閉じると浮かぶ、紅茶色の髪が鮮やかに映える世界。
自分の名前を彼女が呼んで、胸を震わせたあの瞬間を思い出すと、この世界で息をして生きていることがとても嬉しく思えた。
あまり好ましくなかった薬品の匂いも、心地良い香りであるとさえ思ってしまうほど、胸が弾んで仕方なかった。
またあとで、と約束をした彼女が訪れるのを待っていた。
だけど、そんなアレクシスのもとにやって来たのは、心待ちにしていた人ではなかった。
「改めてご挨拶申し上げます。院長のテイラー・バンズです」
アレクシスは、無表情のままうなずいて挨拶を返した。
ここが、ミラの従兄である彼が経営する病院であるから、彼女に会えたということを知った。
彼がアレクシスを治療してくれなければ、助からなかっただろうことも分かっている。けれど、アレクシスはミラ以外の人に感情が動くことはなかった。
感謝の気持ちはあるが、その気持ちは後日謝礼で返そうと、テイラーが体の状態と今後の治療の流れを丁寧に説明してくれている間も、アレクシスはしきりにドアに目線を送ってミラが来るのを待った。
「一日に服用する薬に関しては、のちほど薬剤師のバンズ公爵令嬢から説明があります」
テイラーの言葉に期待が高まり、アレクシスの心がそわそわして落ち着かなかった。
* * *
「……え?」
朝の入院患者に薬を処方する時間になり、病院を訪れたミラの足を止めた従兄のテイラーからアレクシスの話を振られ、ミラは戸惑った。
テイラーがアレクシスを治療した後の彼の様子は、確かに放心状態で様子がおかしかった。
その後、ミラの話によれば自分の状態に混乱していたようだけれど、今では落ち着いて薬を飲ませて眠りに就いたと……そこまではよかった。
記憶がない状態であるせいか、以前の彼とは真逆で、にこやかで穏やかな空気を漂わせていたから、ヴィガード小公爵であることを忘れてしまうと、ミラが漏らした言葉をテイラーは鵜呑みにしてアレクシスのもとを訪れた。
ところが、テイラーが挨拶をしても無表情で、説明をしていても淡々と聞いてうなずくだけで、その姿は社交界で有名な彼の姿そのままであったという。
それと、困ったことに食事を取ることを断られたと、テイラーはミラに助けを求めた。
「彼は、記憶がないんだよね?」
テイラーは、人が変わったようだと聞いたアレクシスの違う顔を見ることを楽しみにしていた。有名人の別の顔を拝めると、珍しいもの好きの従兄だった。
そんな従兄の個人的な趣向は放っておいて、ミラは、アレクシスに記憶がないことを直接聞いたし、彼の態度も以前とは違って、記憶喪失であると判断したと、もう一度説明をした。
「でも、なんで食事を断られたの?」
「それが……」
右腕を骨折していて、左腕は軽度の打撲で一週間ほどは両手を使えないため、その間の食事は女性の介護士が手伝うと説明をすると、首を横に振って断られたという。
男性の介護士もいて、食事以外の体に触れる介護は男性に任せることにしているのだけど、一日三食の補助は人手の多い女性に任せたいのだと、テイラーは吐露した。
「……私が思うに、ミラなら断られないんじゃないかな?」
「そんな、まさか……」
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