【R18】さようなら、元旦那様。

あまやどんぐり

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28.相/愛(アイ)、対する〈4〉

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 ――その、まさか、だった。

 ミラがアレクシスのもとを訪れると、彼はミラの姿を見るなり、にこやかに微笑んで迎えた。
 昨日の痛ましい姿の面影はどこにも見当たらなくて、薬が効いて睡眠も十分に取れたからか、昨日よりも顔色が良くて、それが一層彼の笑顔を眩しくさせた。

 従兄の言っていた彼の様子とは、明らかに正反対の姿だった。

(……どういうこと?)

 男性嫌いなのかと疑ったが、女性の介護も断ったというから違う理由であるはずなのだが、他に思いつくものといえば、従兄とミラの住む次元が実は違うとか、本の世界の話のようなことだった。

 ミラは、戸惑いながらも、アレクシスの体を心配して食事の件について話を始めた。

「アレクさん、食事はきちんと取らないとだめよ」

 薬を飲む上でも、体の回復のためにも必要だと伝えると、アレクシスは素直にうなずいた。

「……わかっているなら、どうして――」

 なぜか、アレクシスの声が出ないのに会話をしているときのように、彼の首の動き一つで心が読めた。表情からも読み取れた。

 そのせいで、わかってしまった。

 アレクシスは、目を伏せて寂しそうな顔をしたと思ったら、今度はミラを見つめる。その瞳が揺れて、せがんでいた。

 ミラの手で食べさせてほしいと。

「……っ」

 一体、彼の頭の中はどうなっているのかと、思いがけない衝撃を与える彼にミラは翻弄された。

 この人は、本当にあの冷淡なアレクシス・ヴィガードなのかと疑ってみるが、そのワインレッドの瞳をした彼の顔を好んで眺めていたミラには、本物の彼であることは分かっていた。

 ミラが好んだ顔……正直に言えば、今でも嫌いではないその顔で、そんな眼差しで見つめられたら、ミラは彼に対しての罪悪感もあって断ることができなかった。

 今は身動きが取れないだけで元気に見える彼だけど、二、三日は熱が出る可能性があるので、今のうちに体力をつけておかないといけない。
 そんな医学的な心配もあって、ミラはアレクシスの要望を叶えてあげることにした。

(どうせ、一日に三回薬を飲ませないといけないから、ついでだし、いいけど……)



「アレクさん、嫌いな食べ物ある?」

 食事を目の前にしたアレクシスは、嬉しそうに笑みをこぼしていた。
 その理由は、食事が楽しみなわけではなくて、ミラが自分のために食事の手伝いをしてくれることが嬉しいと、声を出せない代わりに、顔で表現しているものだった。

 そこに、ミラが並べた食事の中で嫌いなものがあるかと質問をすると、アレクシスは、一つだけ、じっと見つめた。

「きのこ……嫌いなの?」

 目線を追うと、皿の上に置かれたきのこに注がれていることに気付いたミラが聞くと、アレクシスは困ったように笑った。

 アレクシスにも、苦手なものがあるのだと、初めて知る事実に、ミラは不思議な気分だった。
 彼とはこうやって会話をすることもなかったから、知らなくても当然であるのに、婚約をしていた頃、自分が彼に対して実は無関心だったのではないかと、今さら気付いたことが寂しく思えた。

「きのこは、私が食べてあげる」

 実は、アレクシス一人で食事をとるのは寂しいだろうし、ミラもその姿を眺めるだけでは、その時間がもどかしくなるだろうと思い、一緒に食事をとることにした。
 そのため、二人分の食事が用意されていた。

「その代わり、あなたはこれを食べて」

 皿の上に置かれた、野菜の盛り合わせをミラが指で差して言うと、アレクシスは不思議そうな顔をした。

「私、野菜苦手なの……だから、交換ね」

 ミラは、野菜が嫌いなわけではなかった。例えば、国王がそれを食べなさいと言えば、嫌な顔をせずに食べることができるように、アレルギーでない場合のほとんどの食べ物は、本心は嫌いでも口にできる程度に慣らす教育を受けていた。
 なので、食べることはできるけど、好んでまで食すことはなかった。

 同じ公爵家という身分で育ったアレクシスも、きっとそうなのだろうと予測することは簡単で、それならば、二人で苦手なものを交換してしまえばいいのだと、呑気な性格のミラだから提案をしたことだった。

 それを、なぜかアレクシスは目に涙を浮かべて笑い出したのだ。
 肩を震わせて顔をうつむかせるから、体調が急変したのかと心配をしていたら、顔を上げたアレクシスの顔が満面の笑みで、ミラは自分がおかしなことを言ったのかと怪訝そうな顔で見つめると、それもまた彼の笑いを誘った様子だった。
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